艦砲と装甲 ビッグセブン編
2015年1月15日完成 長門の水平装甲は結局wikipediaの記事に乗ってる数字であってるっぽい。(石橋氏の本の出典が付いている方。ドイツ語の図面もあるが、こちらは装甲厚と材質に誤りが見られる)
※注意 このページは管理人の趣味と妄想でできています。前のページの注意書きを読んでから閲覧することをお勧めします。
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というわけで、このページから実際に比較を始めていきたい。
記念すべき?第一回は、戦間期の最強戦艦ということで、所謂ビッグセブンの呼び名で知られる3クラス7隻をテーマとする。
冒頭では最強の戦艦云々言っておいて、旧式戦艦から扱うのか......という声が聞こえてきそうだが。
説明する必要もないかもしれないが、ビッグセブンとは第一次大戦後の軍縮条約下で保有が許された、口径16インチ(40.6cm)付近の主砲を搭載する3クラス7隻の戦艦のことである。
(なおこの言葉自体は知名度の割に出典があやふやな単語なのだが、海外ではほとんど使われないようなので、おそらく日本の新聞社あたりが考えた言葉なんじゃないだろうか)
当時最も強力な艦砲を搭載する戦艦であり、航空機が未発達だった戦間期では最強の戦力を有する艦艇でもあったと言えるだろう。
ただし今回はこれらの艦が就役し、艦歴の大半を過ごした戦間期ではなく、実戦に投入された第二次大戦時の装備や装甲での比較とする(理由は後述)。
とりあえず注意と補足
・・・といっても書ききれないことだらけなので、まず補足のページも読んでいただければ。参考資料もそちらで
・トップにある通り、このページでは各艦艇の主砲貫通力と重要区画を守る装甲を比較、艦の持つ「安全距離」を基準に優劣について考える不毛なページである
・もちろん重要区画の防御だけで戦闘時の優劣が決まるとは言い切れない。ここで扱う弾薬庫や機関部が無事でも、被弾時には何らかの被害が発生して戦闘能力に影響を及ぼした例は数多く確認されている
・基本的に重要区画を守る装甲や隔壁、一部構造材のみを防御構造として計算し、それ以外の燃料や機材などは除外する
・表に使用した部位以外から重要区画へ達する砲弾のルートも存在する。そのすべては扱う事は出来ないが、補足のページにて触れた物に関しては解説内でもなるべく扱う事とする
・垂直装甲は実戦では横方向の角度が付いた状態で被弾しやすい為、表よりも広い安全距離を持つ可能性が高い
・同じくピッチングやローリング、浸水による傾斜でも撃角は変わり、安全距離にも影響するが、これらも無視
・バーベットは円筒形の形状により、通常の装甲よりも対弾性能は高い。本ページでは日本海軍の記録より1.1倍相当で計算している (カッコ内は元の数字)
・下でも触れるように信管の性能についても無視、砲弾の変形破損などによる不発化や貫通力減少も考慮せず
・表の安全距離は0.5km刻みで記載。文字色は垂直装甲で18.5km以下青字、23km以上赤字、水平装甲は30.5km以上青字、25km未満赤字とする
・有りえないとは思うけれども、話のネタにして電波扱いされるなどしても、こちらの与り知らない所だし責任もとれない。どこまで本気にするかは自己責任で
ここまで面倒な文章を読んでくれた物好きな方は、下の本題へどうぞ
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まずは各艦の紹介から
※主砲貫通力は第一次大戦期の表面硬化装甲(日本だとVC鋼に相当)と均質装甲(KNC鋼)に対する推定値
装甲厚は1インチ=40ポンドとするか40.8ポンドとするかにより少し表記にずれがでている。
長門型戦艦(改装後)
一番艦長門 1920年竣工 1934~36年改装
全長224.5m 最大幅33.9m
基準排水量 3万9千トン
9万1千馬力 25ノット
搭載主砲 45口径三年式41cm砲 使用砲弾 九一式(もしくは一式)
砲弾重量1024kg 初速806m/s 最大仰角43度 最大射程38km
貫通力
18.3km 垂直480mm 水平89mm
27.5km 垂直360mm 水平130mm
装甲厚(傾斜角は一部推定)
垂直装甲(弾薬庫1) 224mmVC傾斜14度 → 274mmVC+25mmHT×3 傾斜45度内傾
垂直装甲(弾薬庫2) 299mmVC → 274~125mmVC+25mmHT×3 傾斜45度内傾
垂直装甲(機関部) 299mmVC → 25mmHT×3傾斜45度内傾
砲塔前楯1 299mmVC+161mmVC 傾斜45度内傾
砲塔前盾2 299mmVC+208mmVC 傾斜45度内傾
バーベット 299mmVC+122mmNVNC
水平装甲(弾薬庫) 13mmHT×2 → 25mmHT×2+19mmHT → 125mmNVNC+25mmHT×2 ≒ 186mmNVNC
水平装甲(機関部) 25mmHT+13mmHT×2 ~ 13mmHT×2 → 25mmHT×2+19mmHT → 25mmDS+25mmHT×2 ~ 25mmHT×2 ≒ 124~96/71mmHT
砲塔天蓋 230mmVC ~250mmVC傾斜7度/横傾斜4~9度
上部装甲帯→甲板 あり
上部装甲帯→傾斜部 あり
船体 長船首楼型
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コメント
ご存知戦艦長門。
長門型は八四艦隊計画(後に国防方針での目標とされた八八艦隊へ拡張)における主力艦の第一号であり、後続艦がワシントン条約において廃棄もしくは空母として完成した為、同計画の中で唯一戦艦として就役した艦型になる。
世界初の16インチ(実際は41cm)砲艦である事以外の特徴はその速力で、英クイーンエリザベス級の影響などもあり、当時の主力戦艦を2.5~5.5ノット上回る26.5ノットを発揮可能である。
防御面では扶桑、伊勢といった以前の戦艦に比べ、垂直装甲最厚部の範囲拡大が行われた他、設計途中にユトランド海戦の情報が入ってきたこともあり、水平装甲の強化を含む装甲配置の一部変更が行われた。
ただし今回の比較対象である他の2クラスに比べると装甲厚では劣り、さらに計画の遅延を防ぐために十分な装甲配置の改正を行えず、一部部位には弱点を残す形となっている。
戦間期には徹甲弾自体も大幅に性能を増していったため、30年代の改装時には弾薬庫を中心に大幅な防御力の向上が図られている。
改装時に日本はワシントン条約からの脱退を宣言しており、改装終了時には条約失効が見込まれる為、その内容は条約に縛られない(3000tを超える排水量増加、砲塔装甲の垂直部強化など)他艦を上回る大規模なものとなった。
(なお排水量はともかく、砲塔の垂直装甲強化は外観でばれてしまうので、40年以降に改めて実施された)
それにしても改装で垂直装甲の強化が禁止されていたからとはいえ、傾斜部の厚さは正直言って異常である。この点なども下の解説で詳しく述べたい。
ただし機関部周辺は殆ど強化されていない。特に水平装甲は均質装甲規格の鋼材を持たないが、これで16インチ砲弾に耐えられるのだろうか。
主砲の41cm砲は撃ち出す砲弾の初速、砲弾重量、射程などで他の2クラスの16インチ砲を上回る。
砲弾自体は(特に強度が要求される)斜撃にそこまで強くはないが、それでも撃角を深くとれる状況での垂直装甲に対する貫通力は最も高い。
一方で(ちょっと初速をいじったせいで)落角が浅めで、水平装甲への貫通力はあまり高くないという一面もあるようだ。
また九一式徹甲弾と言えば水中弾やその効果を確実にするための大遅動信管でも知られるが、信管の作動タイミングや水中弾に対する防御についてもこのページでは触れないのでご了承願いたい。
(水中弾に対する防御もこの3クラスでは長門型の弾薬庫のみが有しているが、これも扱わず。この部分は他のページにまとめてあるので、そちらを参照)
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ネルソン級戦艦
一番艦ネルソン 1927年竣工
全長 216.4m 最大幅32.3m
基準排水量 3万4千トン
4万5千馬力 23ノット
搭載主砲 BL 45口径16インチ マーク1 使用砲弾 マーク1B
砲弾重量929kg 初速797m/s 最大仰角40度 射程35km
貫通力
18.3km 垂直460mm 水平 84mm
27.5km 垂直345mm 水平 142mm
装甲厚
垂直装甲(弾薬庫) 13mmDS → 356mmKC 傾斜18度 → 19mmDS傾斜10度
垂直装甲(機関部) 13mmDS → 330mmKC 傾斜18度 → 19mmDS傾斜10度
砲塔前楯 406mmKC 傾斜約20度内傾 推定、写真を見る限りかなり傾斜は浅い
バーベット 381mmKC
水平装甲(弾薬庫) 19mmDS → 158mmKNC+13mmDS ≒ 170mmKNC
水平装甲(機関部) 19mmDS → 95mmKNC+13mmDS ≒ 109mmKNC
砲塔天蓋 184mmKNC
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型
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コメント
ワシントン会議で日本が陸奥の保有にこだわった結果、イギリスに認められた2隻の建造枠を使い建造されたのがネルソン級戦艦である。
本級は同条約にて定められた、排水量35,000トン主砲16インチまで、という新造艦の制限に基づいて建造された世界初の戦艦になる。
設計時には軍縮条約により廃案となった戦艦案で用いられる予定だった新機軸を大幅に盛り込んだ他、建造年代自体が他の2クラスよりも新しい事もあり、先進的な要素を数多く持つ艦として完成している。
それは最大の特徴である主砲塔の前部集中配置以外にも、重要区画の短縮とそれに伴う集中防御の徹底、舷側の内装式傾斜装甲と均質装甲一枚板の水平装甲、一体型の射撃指揮塔を頂部に設けた塔型艦橋の採用などが挙げられる。
また船体の大部分に新型の軽量高張力鋼であるデュコール鋼(D鋼とも)を使用している点や、弩級艦以降廃れていた砲塔式の副砲を復活させたのも本級からか。
しかし竣工してみると、三番砲塔の爆風で艦橋が損傷する、主砲の集中配置の結果変な艦橋配置のせいで運動性悪化、という風に艦隊からの評判は悪かった。
ただしその悪評や欠陥というものは、しばらく新型艦が建造できない事から過剰に厳しく評価された物や、いざ実戦となると問題にならなかった物がある点には注意しなければならない。
前者は砲塔を前に集中したのにかかわらず後方への射角も欲張りすぎたことが原因で、射角制限を設けて対策。後者は確かに低速時の運動性は悪いのだが、実はそれ以外はそれ程問題となるレベルではない。訓練不足の初期において、今までに無い艦橋の位置に乗員が対応できなかったというのが悪評の原因となっていたそうだ。
そして「限られた排水量の中で最大限の攻撃力と防御力を手に入れる」という本級の設計思想は、結果として大和型を含む後の戦艦に大きな影響を与えている。
第二次大戦時までに大きな改装は受けられなかったが、上で示すようにスペック上はかなり優秀な装甲を持っている。ただし装甲範囲の狭さがネックである。
主砲は近距離砲撃を重視した軽量高初速砲弾を使用し、問題だらけで初速が下げられた結果、15インチ砲と大差ない威力になったと言う逸話が有名である。
上の貫通力も微妙な数字だが、ネット上で調べると出てくる試算※と比べても、他の16インチ砲にそこまで劣るものではない結果である。
なお第二次大戦期の英15インチ砲には貫通力で結構迫られているが、ネルソン級が竣工した頃の15インチ砲に対しては大幅に勝っており、上記の逸話とは一致しない結果となった。
※同じく18.3kmで垂直装甲を310mm貫通という物。
ここまで差があるのは、対象となる装甲の性能差もあるが、どうやら英国製徹甲弾は1940年代になってから性能を大きく伸ばしている様だ。
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コロラド級戦艦4番艦 ウェスト・ヴァージニア(真珠湾復帰後)
1923年竣工 1942~44年大改装
全長190.2mm 最大幅 34.7m
基準排水量 3万5千トン
2万7千馬力 20.5ノット
搭載主砲 45口径16インチマーク5 使用砲弾 マーク5
砲弾重量1016kg 初速768m/s 最大仰角30度 射程32km
貫通力
18.3km 垂直 472mm 水平 89mm
27.5km 垂直 358mm 水平 147mm
装甲厚
垂直装甲 343mm classA+25mmMS
砲塔前楯 457mm classA 傾斜45度内傾
バーベット 330mm classA
水平装甲(弾薬庫) 76mmSTS+44mmSTS+44mmNS → 25mmSTS+13mmMS ≒148/138mmSTS
水平装甲(機関部) 51mmSTS+44mmSTS+44mmNS → 25mmSTS+13mmMS ≒126/115mmSTS
砲塔天蓋 178mmSTS水平~傾斜4度
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 長船首楼型
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コメント
籠マストが嫌いなのでコロラドではなくウェストヴァージニアで。
他の米戦艦の改装時に籠マストが撤去される中、よりによってコロラド級は改装後も中途半端に籠マストが残っており、見るに堪えない。
一方この艦は真珠湾から引き揚げられた後、テネシー級と同じく新型戦艦に準じた艦影に生まれ変わっている。
幅があるにもかかわらずシャープさを感じさせる艦首も相まって非常に魅力的である(感想には個人差があります、というか米戦艦ファンの皆さんごめんなさい)。
というわけでなぜ戦間期の最新鋭戦艦を第二次大戦時で比較しているかと言うと、籠マスト戦艦が嫌いだからという非常にどうでもいい理由も一因になる。
戦間期の砲弾(5号徹甲弾など)に未対応で計算できないのが実際の理由なのだが。
(このページを作るためにコロラドの画像を集めてたら、普通にかっこいいと思ってしまったのは内緒だ)
どうでもいい話は置いておいて、米海軍はこれまでの建造計画の遅れを取り戻す為、1916年に大規模な海軍拡張計画を提出、議会に承認されている。
(日本では時の海軍長官の名前からダニエルズプランと呼ばれる事が多いが、こちらも英語圏ではあまり用いられない単語のようだ)
3年の間に16隻もの戦艦・巡洋戦艦を起工すると言う同計画の中で、最初の四隻として計画されたのがコロラド級戦艦である。
建造は第一次大戦の影響により遅れ、ワシントン会議時には二番艦のメリーランドのみが竣工。残りの三隻は廃艦となる予定だったが、先述の陸奥の件で本艦を含む2隻が加えて完成している。
米海軍は後に各国戦艦の間でスタンダードとなる集中防御(All or Nothing)を取り入れたネヴァダ級を1916年に竣工させており、本級を含む後続の艦も同級をベースにしている。
標準型戦艦と呼ばれるこれらの艦の中で、コロラド級の最大の特徴となるのは、やはり米海軍の戦艦として初めて16インチ砲を搭載した点だろう。
採用の理由には長門型への対抗という面がよく挙げられるが、これはやや日本視点に偏った説明であり、どちらかと言うと日本を含む列強海軍の多くが15インチ以上の艦の計画を進めている事が決め手となったようだ。
(なお米海軍は以前より16インチ砲搭載艦の計画を進めていたが、コロラドの様に8門のみでは不安があり、10門以上を搭載した艦についても設計や予算の問題もあり実現していなかった)
この16インチ砲は30年代に新設計の物に改められており、第二次大戦後期の最新式の砲弾を使用した場合、長門型戦艦にも劣らない貫通力を持つという結果が出た。
防御面はネヴァダ級の一部を変更したもの、具体的には前級テネシー級と同一の装甲となる。
建造時の基準では14インチ砲防御としてもかなりの重装甲と言えるが、徹甲弾の進歩や交戦距離の変化が激しい第二次大戦期に於いてはやや心もとない数字でもある。
しかしウエストヴァージニアは先述の改装で、艦橋だけでなく水平装甲や水中防御についてもノースカロライナ級に匹敵する物へと強化されており、同型艦2隻とは一線を画している。
艦歴を見ても、スリガオ海峡で他の米旧式戦艦がロクに砲撃ができない中で、本艦は西村艦隊に有効な射撃を加えたりと、レーダー設備や対空能力を含めた総合力は旧式戦艦中最強の一角ではないだろうか。
改装により元から鈍足だった速力はさらに低下しているのが難点か。
もっともこのページは装甲と艦砲について比較するページなのだから、現実的な話は置いておくべきだろうか。紹介が済んだらさっそく結果の方に移ろう。
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表の結果と解説
装甲部位\艦砲 | 三年式41cm砲 | BL16インチマーク1 | 16インチマーク5 |
垂直装甲(弾薬庫1) | 3km以遠 | 1km以遠 | 1km以遠 |
垂直装甲(弾薬庫2) | 貫通不能 ~21km以遠 |
貫通不能 ~17km以遠 |
貫通不能 ~18km以遠 |
垂直装甲(機関部) | 34.5km以遠 | 31km以遠 | 32km以遠 |
砲塔前盾1 | 29.5kmまで | 27kmまで | 16.5km以遠 25.5kmまで |
砲塔前盾2 | 35kmまで | 32kmまで | 5km以遠 32kmまで |
バーベット | 21.5(25)km以遠 | 20(24)km以遠 | 21(25)km以遠 |
水平装甲(弾薬庫) | 31.5kmまで | 29.5km以遠 | 29.5kmまで |
水平装甲(機関部) | 24km ~11.5kmまで |
23.5km ~11.5kmまで |
23km |
砲塔天蓋 | 27km ~25kmまで |
27km ~25kmまで |
28km ~25.5kmまで |
装甲部位\艦砲 | 三年式41cm砲 | BL16インチマーク1 | 16インチマーク5 |
垂直装甲(弾薬庫1) | 貫通不能 |
貫通不能 | 貫通不能 |
垂直装甲(弾薬庫2) | 貫通不能 ~15km以遠 |
貫通不能 ~12km以遠 |
貫通不能 ~12.5km以遠 |
垂直装甲(機関部) | 25km以遠 | 23km以遠 | 24.5km以遠 |
コメント
長門の装甲について、まず垂直装甲から見ていくと、舷側には主装甲帯299mm、上部装甲帯224mmの表面硬化装甲(VC鋼)が一番から四番砲塔までの範囲に貼られており、これは改装後も変化はない。
(厚さは12インチと9インチなのだがら305mmと229mmでは、と思われるかもしれないが、上でも断ったようにこれはポンド表記によるズレが発生した結果である。詳しくは補足のページを参照)
前級伊勢型と比較すると最も厚い299mm部分の範囲こそ拡大しているが、厚さ自体は変わらず。同時期の英米独戦艦と比べる劣るものである。(未完成の伊仏戦艦とは同等)
さらに本級の装甲配置の問題として、上部装甲帯を貫通した砲弾が重要区画に達してしまう可能性がある。
その為竣工時のこの部位は、他の2クラスと比べて数字以上に弱体なものと評価せざるを得ない。
一応これでも、設計時に各国が使用していた砲弾の性能を考えれば(戦艦砲弾に関するメモを参照)、欠陥がある程とは言えないものであったが、戦間期以降の進歩した砲弾への不足は明らかである。
一方で、艦内部では甲板の水平装甲が傾斜して装甲帯の下端に接続しており、この傾斜部分は25mm高張力鋼(HT鋼)の三枚重ねとなる。
これは装甲帯を貫通した砲弾が、砕け散ったり炸裂した際に発生する弾片や、装甲の破片が重要区画に飛び込むのを防ぐために設けられた装甲で、当時の戦艦にはよく見られる構造である。
そして改装時には、条約で舷側装甲を強化する事が禁止されていた為、日本海軍は何を思ったか、ここに275mm~125mmのVC鋼を貼り足し、弾薬庫部分の垂直防御を強化している。
つまり299mm、224mmの装甲帯を貫通した砲弾が重要区画に達するには、さらにこの傾斜装甲に撃ち当たる事になる。(上部装甲帯を貫通した砲弾はバーベット基部や水平装甲の平坦部に当たる場合も)
この時代の戦艦が使用する徹甲弾は、基本的に被帽徹甲弾(実際はこれに風帽が加わる)と呼ばれるものである。
詳しくはここでは書けないので上述した砲弾メモを参照してほしいが、とりあえず同じようなサイズ・速度の砲弾でも、被帽の有無とその性能で表面硬化装甲への貫通力は大きく変化すると思ってほしい。
つまり被帽をいったん失うと、砲弾は本来の貫通力を発揮できない。改装を受けた本級の弾薬庫垂直装甲は、装甲帯で被帽を破壊し、傾斜部分で受け止めるという、強力な多重構造となっていると言えるだろう。
さらに傾斜部は45度の角度で取り付けてあるため、落角が小さくなる近距離での砲撃になればなるほど傾斜部への撃角は浅くなり、砲弾への抗力も増加する。
弾薬庫部の垂直装甲が至近距離でも貫通不能という高い防御力を持つのはこのためである。
傾斜部などを用いた多重形式の装甲は、このページではかなり強力な防御力を持つという結果が出やすい。(ビスマルク級などもそれに当てはまる)
ただ最も薄い部位でも18km程の安全距離というのは、実際の改装時に要求された安全距離よりかなり過大である。管理人の計算方法などに間違いがある可能性も高い。
また安全距離といっても弾薬庫こそ無事だが、舷側で砲弾を防ぐことが出来ずに艦内部への突入を許す事になる。その点で周辺区画の水密や浮力を失うなど、なんらかの被害が出る事は避けられないだろう。
一方機関部ではこういった改装はなく、傾斜部も竣工時の厚さのままである。
竣工時の傾斜部の効果については建造中の1918年に試験が行われている(詳しくは別ページにて)が、装甲帯を問題なく貫通した砲弾に対しては、防御力は殆ど期待できないと言う結論が出ている。
そのため実質防御力は装甲帯単体とそこまで変わらず、進歩した16インチ砲に対して射程ほぼ全域で貫通を許す事になる。
さらに表には含めなかった224mm部分は当然これよりも防御力に劣り、第二次大戦期では14インチ砲にも耐えられない。
横方向の角度によってはある程度マシになるものの、機関部についてはかなり脆弱な装甲といっていい。
長門型の装甲は伊達じゃない(機関部は除く)
ユトランド海戦以降の戦艦では弾薬庫防御を重視したものは珍しくないが、改装後の本級は少々やりすぎた感のある防御力の差が生まれている。
妄想になるが、ここでまで割り切った装甲配置となったのは、日本海軍が自軍の勢力内での決戦を想定していたことも影響しているのかもしれない。
続いて砲塔の防盾は、元々主装甲帯と同厚の299mm装甲が内側に40度傾斜して設けられていたが、こちらも改装で大きく強化された。
まず前盾の角度が40度から45度と深くなり、さらに装甲厚も増しているが、これは写真などを見ればわかる通り、元の装甲の上から装甲を貼り足す形の強化となる。
合計厚は18インチ説と20インチ説の二種類が存在する。
ここで昭和10年の陸奥改装時の装甲輸送記録が存在するのでこれを当たってみると、一・二番砲塔用の装甲として208mmと161mmの装甲が輸送されている事がわかる。(C05034616100「第707号 10.10.19 甲鈑輸送に関する件」)
この内前者は前盾ではなく、バーベットに同厚の装甲が使用された記録があるので、そちらである可能性は否定しきれないが、一応元の厚さ(299mm)に重ね合わせた際には、合計厚は大体20インチと18インチになる。
と言う事でここでは20インチ、18インチ説両方が正しい物として表に採用してみたい。
結果の方を見てみると、どちらも16インチ砲に十分な安全距離を持つ装甲と評価できる。
この部位は内側に傾斜している都合で、砲弾の落角が大きくなる遠距離であっても、撃角が深くなって貫通されてしまう事も多い。
ただ本級の前盾の場合、貫通されるレベルの遠距離だと被弾する可能性は殆どなく、心配する必要はないだろう
(18インチ厚の場合、米16インチに対しては近距離側で貫通される可能性がある他に、遠距離側も微妙な所かもしれないが)
バーベットも前盾と同じように、元の299mm装甲に貼り足したものであるが、こちらは新たにVC鋼ではなくNVNC(均質装甲)が使用されている。
理想的な角度、部位に当たった場合はカッコ内のように比較的遠距離からでも打ち抜かれるようだが、実際は曲線を描いているため、対弾性能は平面的な装甲の場合より高いことが予想される。
続いて水平装甲。日本海軍はアウトレンジというと語弊があるものの、遠距離砲撃を重視していたことは確かで、当然大落角の砲弾に耐えられる水平装甲を施す必要があった。
先述したように本級の水平装甲は、ユトランド後の設計変更により70mmのHT鋼を設けるなど、竣工時は当時の戦艦の中でも上位に入る装甲を持っていた。
それでも本級の後に建造される予定だった加賀型などと比べると不十分とされており、さらに交戦距離が大きく伸び、砲弾も進歩した後の時代にはとても対応できないレベルである。
そこで改装時には垂直装甲と同じく弾薬庫を重点的に強化。125mmのNVNC鋼が追加されるなどして、表の方では28kmよりも遠距離での砲撃に対応できるという結果になった。
一方で機関部も部分的に強化されたが、基本的に薄いHT鋼やD鋼を重ねた不十分なもので、水平装甲としては弱体である。
なお落角の関係上、10km台前半で放たれた砲弾が直接重要区画に到達することはそうないだろうが、それでも16インチ砲弾に対する水平防御としては無力に等しいと言っていいだろう。
最後に砲塔天蓋について、こちらは改装時元々の6インチ厚に変えて、230から250mmという非常に厚いものに貼り替えられている。
ここで注意すべきは使用された装甲が表面硬化装甲だった点である。
一般的に表面硬化装甲は、水平装甲に使用するような厚さでは、大口径砲弾の命中に耐え切れず割れてしまう事がある為、水平装甲としては向かないとされるものである。
ちなみに1945年の呉空襲では、戦艦伊勢に直撃した航空爆弾が第三砲塔の149mmVC鋼を貫通している。
この部分は1000ポンド爆弾でも、よほどの高高度爆撃でなければ防ぐのに十分な厚さがあるはずだが、こうなった原因には表面硬化装甲の使用が考えられる。
(2019年に今更追記。被害に関する推測は本ページの公開時より掲載していたものだが、戦後の米海軍報告書の記載によると、実際のところ貫通の原因には装甲材質以外の要素も絡んでいたようだ。詳細は日本戦艦編で)
日本海軍は少なくとも1929年の時点で、表面硬化装甲の使用は望ましくないと気付いていたようだが(これも詳しくは同ページで)、34年より改装が行われた本級で採用された理由は不明。
尤も長門の場合は230~250mmという、実際に就役した戦艦では大和型に次ぐ世界二位の厚さを誇るため、対16インチ砲でも大きな影響はないようだ。
(前部の250mm部分は7度程傾斜している分撃角が深くなり、ほぼ水平な後部と比べるとやや微妙な安全距離だが、そこまで致命的な不足ではない)
より威力の高い46cm砲や16インチSHSに対する防御としては均質装甲に劣る物だが、ここで扱う艦の16インチ砲に対する防御としては一応機能している。
ピーキーすぎじゃね
真面目にまとめても、とにかく部位によって極端な防御性能を持つ艦である。
弾薬庫周辺の安全距離だけを見ると3クラスの中で最も優れており、この艦を通常の砲撃戦で爆沈させるのは非常に難しいだろう。
艦隊決戦の際には、日本艦隊の中心となって矢面に立つ予定だった本級らしい性能かもしれない。
一方で、機関部の装甲は16インチ砲に対しては無いに等しいもので、この部分の損傷が戦闘の結果に影響を与える可能性もあるだろう。
(弾薬庫部分の貼り足しを減らして、その分で機関部を強化すれば・・・と言いたくなるが、224mm部分の被弾対策で余計に重量を取られたという面もあったのだろう)
追記 今見てみると最初に書いた解説だけあって、本級の下2級と比べてかなり特殊な防御様式に関する部分など抜けている部分も多い。
あくまで「改装後の」「対16インチ砲」としての解説としておきたい。
これ以上文章が長くなるのもなんなので、竣工時の長門などの防御様式については別の場所に書く予定。
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装甲部位\艦砲 | 三年式41cm砲 | BL 16インチマーク1 | 16インチマーク5 |
垂直装甲(弾薬庫) | 18.5km以遠 | 18km以遠 | 19km以遠 |
垂直装甲(機関部) | 20.5km以遠 | 19.5km以遠 | 20.5km以遠 |
砲塔前盾 | 29.5km以遠 | 26.5km以遠 | 28km以遠 |
バーベット | 20.5(23.5)km以遠 | 18.5(22)km以遠 | 20(23.5)km以遠 |
水平装甲(弾薬庫) | 31kmまで | 29kmまで | 29kmまで |
水平装甲(機関部) | 24kmまで | 23.5kmまで | 23.5kmまで |
砲塔天蓋 | 32kmまで | 30kmまで | 30kmまで |
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装甲部位\艦砲 | 三年式41cm砲 | BL16インチマーク1 | 16インチマーク5 |
垂直装甲(弾薬庫) | 12.5km以遠 | 10.5km以遠 | 14.5km以遠 |
垂直装甲(機関部) | 15km以遠 | 12.5km以遠 | 16.5km以遠 |
表を見ていくと、まず垂直(舷側)装甲は安定した防御力を持っていると言えるだろう。
本級この部位は、これまでの英戦艦に設けられていた上部装甲帯を廃している。
代わりにその重量を含めて主要部の装甲に充てる事で、弾薬庫横356mm機関部横330mmの英国製KC鋼という、大幅に強化された厚さの装甲を獲得している。
(長門でポンド表記を元にしたのだから、同じ基準を用いた英海軍の艦である本級も349mm、324mmになるはずだが、色々事情があって正インチのままになっている。変更するかは不明)
それに加えてこの部分の装甲には、18度の角度がついた傾斜装甲が採用された。
これは見かけの厚さを増したり敵弾のエネルギーを逸らす効果があり、他にはより撃角が浅くなることで砲弾の弾体を損傷させる効果を向上させるものである。
英海軍の傾斜装甲は巡戦レナウン・カレイジャスより導入が始まり、前級フッドでは12度まで傾斜を増していたが、本級は装甲帯を船体構造に内装する形で、より深い角度を付ける事に成功しているのも特徴である。
表を見ると戦艦の交戦距離では安心できる結果が出た。近距離での戦闘でも、敵艦との姿勢によってある程度は対処できるだろう。
(ちなみに上の貫通力試算では長門とほぼ変わらなかった米16インチの方が1km遠距離で貫通できるという結果になっているが、米国製砲弾の方が傾斜装甲への能力が高く設定されている為である)
しかし傾斜装甲には傾斜を持たない装甲と比べ、同じ重量で防御範囲が狭くなる欠点があり、重量の問題でネルソン級の装甲帯もかなり高さが低くなっている。
(水線下での装甲帯の範囲もかなり狭く、こちらも問題だが、今回は水中弾防御については扱わない)
また先述したように上部装甲帯を廃した本級は、主装甲帯よりも上の乾舷は非装甲となる。
そのため装甲範囲より上の乾舷に砲弾が命中した場合、船体の反対側に突き抜けない限りは、装甲帯の上端に貼られた水平装甲、もしくは艦内部のバーベットに直接命中することになる。
当然その部分に命中した砲弾は、貫通せずとも周辺の非装甲部分に多大な被害を与える事になる。
といってもこの構造自体は集中防御を採用した戦艦に共通するもので、重要区画の防御だけを考えるのなら問題があるわけではない。
舷側と比較すると、砲塔正面は防御上弱体といえるかもしれない。装甲自体は406mmと薄くはないものの、これらの16インチ砲に対する安全距離はほぼ無い。
長門の解説でも少し触れたが、この部位は内側に傾斜している為、遠距離でも撃角が深くなって貫通されやすくなる。その影響をモロに受けた結果と言える。
今回は装甲の傾斜角がわからなかったため推定で計算したが、傾斜自体はかなり浅いため少々違う傾斜角でも防御力不足だと考えられる。
バーベットは露出部、艦内部ともに381mmと厚く、理想的な角度で命中させてもある程度の距離までなら耐えることができる防御力を持っている。
次に水平防御について、先述した通り本級は舷側装甲帯の上端がやや低く、落角が小さい場合でも甲板への直撃弾が出る可能性は高い。
本級は竣工した1927年当時で考えると、(長門やコロラド級を含む)各国旧式戦艦の改装が進んでいなかったこともあり、当時最も優れた水平装甲を持っていた艦である。
特に弾薬庫上の甲板には150mmを超える厚さの均質装甲を廻らせており、遠距離砲戦でも問題ない安全距離を持っている。
しかし機関部はこの時代には若干不安であり、108mm(95mmの均質装甲と13mmD鋼)の厚さは、理論上の遠距離戦だけでなく24kmという若干現実的な交戦距離でも危険になる。
砲塔天蓋については184mmと弾薬庫を上回る厚さであり、問題はない。
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本級は設計・竣工時期が最も遅いとはいえ、改装なしに16インチ砲に対して十分な防御力を有している。
(ちなみにネルソンのみになるが、重要区画外の艦首部分の甲板に水平装甲を貼り足したりはしている)
装甲範囲が水線付近の僅かな範囲しかないことが欠点の一つであるが、少なくともその装甲部位は16インチ砲艦として恥じない強力な物だと言える。
ただし装甲範囲の中でも砲塔は破壊されやすく、3クラスの中では火力を失いやすいのが欠点か。
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装甲部位\艦砲 | 三年式41cm砲 | BL 16インチマーク1 | 16インチマーク5 |
垂直装甲 | 27km以遠 | 25.5km以遠 | 26.5km以遠 |
砲塔前楯 | 34kmまで | 34kmまで | 3km以遠 |
バーベット | 24.5(29)km以遠 | 23(27.5)km以遠 | 24.5(28.5)km以遠 |
水平装甲(弾薬庫) | 30kmまで | 28kmまで | 28kmまで |
水平装甲(機関部) | 27kmまで | 26kmまで | 26kmまで |
砲塔天蓋 | 33km ~30kmまで |
31km ~29kmまで |
31km ~28.5kmまで |
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装甲部位\艦砲 | 三年式41cm砲 | BL16インチマーク1 | 16インチマーク5 |
垂直装甲 | 20.5km以遠 | 20.5km以遠 | 20.5km以遠 |
まず垂直装甲から見ていくと、ウエストヴァージニアも上部装甲帯を持たずに、厚さ343mmのクラスAアーマー(表面硬化装甲)からなる主装甲帯のみを重要区画間に配置している。
これは長門型を上回り、ネルソン級の装甲帯に匹敵する厚さである。しかしネルソンのように傾斜装甲を採用しているわけでも、改装後の長門弾薬庫の様に分厚い貼り足しがあるわけでもない。
一応装甲範囲では勝っている点はあるが、16インチ砲に対しては遠距離でも貫通を許すなど、横方向の角度がつかない限りは心もとない防御力である。
基本的には第一次大戦期の14インチ砲艦であるネヴァダ級をベースとした装甲であり、(同級がいくら竣工時に優秀な防御力を持っていたと言っても)改装時に強化もなされていないのだから、相応な防御力だと思われる。
バーベット部分も330mmとこの中では薄く、当たり所によってはかなり遠距離からでも貫通される。
一方で格段の防御力を持つのが砲塔正面の装甲である。竣工時から457mmという重装甲を傾斜約45度で配置している。
砲塔は他国戦艦と比べるとかなりコンパクトに収められている為、竣工時から重装甲を施すことが出来ているのは米旧式戦艦の特徴といえる。
第二次大戦期の新型戦艦や計画艦と比較しても、砲塔にここまでの装甲を持つ艦はそういない。
もちろん貼り合わせである長門の18インチ部分や角度が浅いネルソンの物を上回る防御力を持ち、その2クラスとの戦闘でも想定される交戦距離で貫通されることはまずないだろう。
次に水平防御について、米旧式戦艦の多くは20年半ばから30年代初頭にかけて水平装甲の強化を行っている。
コロラド級も30年代前半に水平装甲の強化を含む改装を行う計画が立てられるものの、丁度大恐慌時代に突入したため工事は中止に。
その後の改装も他の旧式戦艦と比べ小規模なものに留められた結果、第二次大戦開戦時におけるコロラド級の水平装甲は、竣工時のまま(中甲板が合計厚が88mm)の時代遅れな物であった。
その中でウエストヴァージニアは真珠湾での損傷修復時に、中甲板に弾薬庫76mm、機関部51mmのSTS(均質装甲)が貼りたされ水平装甲を強化している。
元の88mm部分と合わせると装甲板を三枚重ねた形となり、合計厚程の防御力ではないが、機関部を含め主要な交戦距離での安全距離を確保している。
(一段下にある弾片防御甲板は16インチ砲弾の炸裂に耐えられず、実質防御力は一枚板で弾薬庫138mm、機関部115mmとなったが、それでもよほどのことがない限りは大丈夫だろう)
砲塔天蓋についても127mmから178mmに強化され、遠距離戦闘における防御力に問題はない。
まとめると垂直装甲に不安が残る結果となった。しかし同クラスの他の二隻とは違い、少なくとも遠距離砲撃で有効な水平装甲を手に入れたことは大きいと思う。
最も足の遅い本級が遠距離砲撃を維持できるかは怪しいので、他艦との戦闘はやや苦しい面もあるかもしれないが。
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ちなみに改装前(とコロラド級の他二隻)の水平装甲は
中甲板44mmSTS+44mmNS と下甲板25mmSTS+13mmMS。STS一枚板換算で93/78mmとなる。
改装後と比べて薄い事はもちろん、使用されているSTSはより古く、改装時に貼られた物よりも品質に劣る。
こちらでも弾片防御甲板が16インチ砲弾の炸裂に耐えられない事もあり、安全距離は非常に狭いものとなる。
実は竣工時だと最も優れた水平装甲を持つ艦の一つだったが、長門型と同じく時代の進歩には勝てないようだ。
.水平装甲(改装前) | 15kmまで | 16kmまで | 15kmまで |
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おわりに
結果として、長門に限らずピーキーというか、部位ごとの長所短所がはっきりした結果になった。この分だと、どれが最も強いかなんて結論は出せないだろう。
機関部に損傷を受けたらどうなるのか、砲塔が一基旋回できなくなったらどうなるのか、そういった別の問題に関わってくるからだ。
自分はそこまで深く考えてこのページを作っているわけではないし、そういうことを無視して無理に結論を出そうとすると、いい場所に当てた艦が勝つ、という身も蓋もない結論しか出せない。
(命中率はある程度改善できるとはいえ、狙った部位に当てるのは不可能だし、こちらは運に頼るしかない。長門は運30、いや32だから不幸そうな他より運高いだろうし、最強は決まったようなものだ。陸奥?知らん)
ビッグセブンの七隻は、どれも本命となるはずの艦(日米は後続艦、英は条約前に計画していた新型戦艦)が条約により廃棄された中で最新鋭艦として保持された、ある意味で不完全な16インチ砲艦である。
その防御力も、海軍休日中の技術進歩の中で、条約や予算、改装期間などの制約を受けながらも、最大限の戦力を獲得するために各海軍が努力した結果と言える。
長門型は数で英米に負ける中、個艦の戦闘力を追及した結果、機関部を捨て弾薬庫周辺をガチガチに固める事になり、ネルソン級は最初から条約内の排水量で最大限の攻撃力と防御力を両立させるために、あのような防御となったのだろう。
ウエストヴァージニアも開戦後になるが、標準的なアメリカ戦艦の防御様式を残しつつ、改装で砲弾に対する防御はもちろん、爆弾や航空魚雷といった攻撃に対する防御を強化している。
どれも環境の変化に伴う生物の進化のようで、こういったことを考察することは軍事趣味(というより兵器趣味)の魅力の一つであると思う。
話が逸れてしまったが、この結果ではやはり真の対16インチ砲防御となると、海軍休日後の新戦艦の登場を待たなければならないか。
という訳で新戦艦編に無理繋げたところで終了。本当に拙い文章と妄想の塊であったと思われるが、ここまで見て頂いた事に感謝申し上げたい。何か引っかかる点があれば幸いである。
読み足りない人はこちらもどうぞ 新戦艦編へ
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おまけ
アドミラル級巡洋戦艦(フッド)
装甲厚
垂直装甲 305mmKC+19mmHT×2傾斜12度 → 32mmHT+18mmHT傾斜30度内傾
砲塔前盾 381mmKC 傾斜30度内傾(推定)
バーベット 305mmKC
水平装甲(弾薬庫) 32mmHT+19mmHT → 25mmHT+32mmHT+19mmHT → 25mmHT +25mmHT ≒116/93mmHT
水平装甲(機関部) 32mmHT+19mmHT → 25mmHT → 32mmHT+19mmHT ≒ 86/60mmHT
砲塔天蓋 127mmKNC傾斜0~3度/横傾斜数度
装甲部位\艦砲 | 三年式41cm砲 | BL 16インチマーク1 | 16インチマーク5 |
垂直装甲 | 25km以遠 | 24km以遠 | 25km以遠 |
砲塔前盾 | 安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし |
バーベット | 27(34)km以遠 | 25(32)km以遠 | 26.5(32)km以遠 |
水平装甲(弾薬庫) | 15kmまで | 16kmまで | 15kmまで |
水平装甲(機関部) | 9kmまで | 10kmまで | 9.5kmまで |
砲塔天蓋 | 27km ~25kmまで |
26km ~24.5kmまで |
25.5km ~24kmまで |
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装甲部位\艦砲 | 三年式41cm砲 | BL16インチマーク1 | 16インチマーク5 |
垂直装甲 | 19.5km以遠 | 18km以遠 | 20.5km以遠 |
まあ上の三クラスと違って30ノット出るし...
ただし主装甲帯は長門とほぼ同じ厚さ(バッキングを含めるとこちらがやや厚)にも関わらず、傾斜装甲の採用でより広い安全距離を持っていることは注目。
なお本級も長門型の9インチ部分の様に主装甲帯よりも薄い部分があり、それを含めた実際の防御力は表の部位よりも低い。
対16インチ防御としては役に立たないものの、数字の上では竣工時のQE級よりも重装甲である。それに加え速力や火力もあるのだから、大戦初期に引っ張りだこだったのもやむなしか。
追記 ビッグセブンと同じく戦間期を代表する戦艦としておまけに持ってきたが、詳しい解説などはイギリス戦艦編を作成した際に行う予定。
→ フッドの解説を書き終えたので興味がある方はどうぞ 英国戦編編
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追記 何故かは分からないが、ある日「伊勢型 装甲範囲」で検索したところ、自分のpcではこのサイトが結構上の方にヒットした。
こんなワードで検索している人が他にいるかわからないが、何か申し訳なさを感じないわけでもないので、伊勢型の垂直装甲について(学研伊勢型戦艦付属の資料より)。
舷側装甲帯は最厚部(299mm)が二番砲塔から機関部を挟んで五番砲塔までを覆い、範囲外の一番砲塔が199mm、六番砲塔が224mmとなっている。
これは前級の扶桑型が船体中央部(機関部並びに三、四番砲塔)のみにしか299mm装甲帯を施せなかったのに比べ大きな進歩と言えるだろう。
また大改装時に水中弾対策を兼ね、弾薬庫側面にかなり厚さの装甲を貼り足している点も扶桑型と違う点である。(その割には二隻とも装甲重量は大して変わらないのはなぜだろうか)
少なくとも伊勢型は改装に結構な量の装甲を撤去しており、その分の重量差もあるか。
伊勢型の詳しい装甲配置や安全距離は日本戦艦編で扱っているのでそちらもどうぞ。
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