おまけ4 艦砲と(略)米国戦艦編
2015年9月公開
※注意 相変わらずこのページでは管理人の趣味と妄想が垂れ流されています。前のページの注意書きを読んでから閲覧することをお勧めします
はじめに
このページでも日英海軍と同じく、装甲艦時代の初期の主力艦から一通り見ておきたい。
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・南北戦争とモニターの時代
強大な国力を背景に第二次大戦を経て世界一の海軍国へと成長する米国だが、建国から100年あまりの間、孤立主義が強かった19世紀後半までの海軍は小規模なものに抑えられていた。
その戦力は沿岸防衛と通商破壊という受け身な戦略を基本とするもので、他国海軍と比べると敵主力と正面から戦う為の大型の主力艦を保有しなかったのも特徴である。
ただし有事となると戦力自体の強化は盛んに行われ、南北戦争にて双方の海軍は登場間もない装甲艦に着目、4年の間に大小数十隻の艦が整備されている。
当時の欧州で誕生した初期の装甲艦(舷側砲列艦)と言うものは、見た目だけなら砲甲板一層の蒸気フリゲートとそこまで違いはなく、既存の艦から受け継いだ点が大きかった。
一方で南北戦争では、南部諸港の封鎖やミシシッピ川流域の争奪戦が非常に重要な役割を担っていたこともあり、そこで必要なのは外洋ではなく沿岸や河川での行動を主軸とした艦であった。
そこで建造された装甲艦は、低乾舷・浅喫水でしかも帆を持たないという、ヨーロッパにない新たな艦が誕生する事になる。
これらの艦艇は武装の形式により主に2種類に分けられる。
一つは南軍のヴァージニアに代表されるケースメイト艦。船体の上に三角か台形の屋根のような装甲区画を設け、この中に砲を並べる形である。主に南軍装甲艦がこの形になる他、北軍でも小型の河川砲艦や両軍中最大の装甲艦(戦中は未成)ダンダーバーグで採用している。
一方で北軍のみが用いたのが、モニターに代表されるモニター艦。固定式の装甲区画ではなく、装甲化された旋回砲塔に兵装を設けた最初期の砲塔艦である。
(なお舷側砲列艦も存在しなかったわけではなく、北軍のニューアイアンサイズとガリーナの二隻はこれに該当する。ただ両艦も欧州艦と比べると速力がやや遅く、装甲浮き砲台的な要素も強い)
そして1862年3月、ハンプトンローズ海戦にてモニターとヴァージニアが史上初となる装甲艦同士の戦闘を行ったのを始めとして、両軍の装甲艦は多くの実戦を経験。そこで得られた戦訓は今後の装甲艦の発展に大きな影響を及ぼしていく事になる。
特に注目を浴びたのはモニターの方で、より大型のヴァージニアと互角以上に戦った事で、砲塔艦という新艦種の有効性が認められた形になる。
当時の艦砲は30年前と比較するとかなり大口径化し、さらにライフル砲の導入も始まっていたが、実戦となると装甲に対して不利は否めなかった。
つまり必要とされるのは、砲門数よりも個々の威力を確保するための大口径化である。
旋回砲塔は舷側砲の半分の門数で同等の片舷火力を確保でき、砲を守る装甲範囲も小型化する事が出来る。その分の重量を節約できると言う事なので、大口径化がしやすかった。
(一応欠点としては砲塔一基では両舷戦闘が出来ないのと、上構が射界を遮ることなど。またモニター艦が搭載したエリクソン式の砲塔は、船体との隙間からの漏水が酷く、ここに楔を打ち込まれれば旋回不能になる弱点を持つ。さらに欧州海軍で採用された砲塔よりも被弾時の衝撃に弱い面もあった)
やや脱線するが、装甲配置的にもう一つ重要な要素として、水平装甲の導入がいち早く確認できるのもモニター艦からである。
英国戦艦編でも述べたが、低乾舷艦はいくら交戦距離が短くとも、甲板に被弾して破口が開いた場合にはここから激しく浸水して危険である。また同じく低乾舷のケースメイト艦に比べ、モニターは艦上がすっきりしている分上甲板が露出し、被弾面積が大きかった。
そこでモニターの時点で上甲板には、付近で炸裂もしくは極めて浅い角度で命中した砲弾を防ぐよう1インチの装甲を設けている。
こういったモニターの利点から、北軍は同系統の艦艇を主力とし、装甲艦の発祥地である仏英など欧州海軍にもこれに倣った艦艇が逆輸入された。
そして前回述べたように、英海軍は外洋航行可能な乾舷を持つ大型モニターの研究を進め、後の近代戦艦への姿に繋がる形へと発展していくのである。
その一方で、南北戦争が終結した米国にとって敵のいなくなった大艦隊は邪魔でしかない。
結果として戦争を生き残った艦の多くが処分されたほか(南米諸国の他、幕末の日本や普仏戦争前のフランスへも売却されている)、英仏のように新型艦への更新も行う事もなく、70年代に入っても停滞したままであった。
この時期に保有されたモニターを代表して1クラスを紹介しておくと、ミアントノモー級の4隻は南北戦争末期から戦後の64~65年にかけて竣工している。
同級は排水量3400tと1000t強の初代モニターより大型で、航洋性能を向上させている。(驚くべきことに大西洋横断に成功した艦も存在する。砲門やハッチ類を締め切って航行したので、この状態での戦闘はできないが)
そして防御面を見ると各部位の装甲厚は、垂直最大4.5インチ、砲塔11インチ、水平装甲1.5インチ。材質はすべて錬鉄。
垂直装甲はかなり心もとない厚さだが、低い乾舷により被弾面積は極めて狭く、より命中しやすい砲塔にはそこそこの厚みがあるので、決して弱体とは言えなかった。また水平装甲を有するのも良い点である。
武装は連装砲塔2基を艦の前後部に搭載し、モニターに比べ門数を2倍にしただけでなく、砲自体もより大型の15インチダールグレン砲を搭載している。
しかし大口径とは言え球体弾を用いる滑腔砲が劣る面は多く、実戦では比較的小型な南軍装甲艦を叩きのめした例も複数あるが、より大型で装甲もはるかに厚くなったこの時期に通用するかは難しいと考えられる。
同時期の別のモニターには、ライフル砲である150ポンド(8インチ)パロット砲を持つ艦もいたが、やはりこちらも他国装甲艦の主砲に比べると性能は正直劣っていた。
70年代前半の戦力としてみると、装甲の方はともかく攻撃面で力不足が予想される上に、どの艦も老朽化が進行していたのが大きな問題である。
この状況が一応進展を見せるのは1874年で、新たに5隻のモニターの建造を開始。
前年にはヴァージニアス号事件があり、対スペイン関係が急速に悪化していた中、旧式艦しか持たない事を憂慮する声が高まった事が理由とされる。
(なお当時の議会が新造艦の建造を渋ったため、ミアントノモー級と未成艦ピューリタンの再建を名目に獲得した予算が使われている)
久々の新型艦となる予定だった新ミアントノモー級(アンフィトライテ級)と新ピューリタンだが、その建造は80年代まで凍結されるなどした結果、フランス海軍もびっくりするほどの時間を要している。
正直当時のスペイン海軍も旧式艦が多く、そこまで恐れられたとは思えないのもあるが、対外的な緊張の中でさえ、当時の米国で海軍の重要度が低かった事を証明する出来事かもしれない。
結局5隻の完成は91年から96年までずれ込んでおり、80年代の再設計で新しい要素を取り入れ、70年代に計画された艦とは実質別物となっている。
主砲は長砲身を持つ後装砲(当然ライフル砲)を連装2基4門搭載。砲塔はバーベットが組み合わさり、水線からの高さが増して外洋で使用できる確率が増している。
装甲配置はモニター特有の低乾舷の船体に、広い範囲に装甲を貼る方式だが、使用される材質がアンフィトライテ級では一部に軟鋼を、ピューリタンに至ってはハーヴェイ鋼が使用された。
完成当時の米海軍はすでに外洋海軍への脱皮を図る時期に突入しており、その中では真の主力とはならないが、海防戦艦としては中々強力な艦として完成している。
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・新海軍と近代戦艦(前弩級戦艦)の整備(米西戦争までの主力艦)
先述したモニター建造の凍結により、米海軍は80年代に入っても新型主力艦を有していなかったが、この時期にはチリ、アルゼンチン、ブラジルといった南米諸国が海軍拡張に努めていた。
三国は英国製の新型装甲艦を整備し、特に砲塔艦リアチュエロを擁するブラジルは、老朽化が進む現行の米海軍にとっても大きな脅威となっていた。
欧州はともかく新大陸内での地位が下がるのはモンロー主義にも反する重大な問題であり、海軍増強の必要性が再び認識される事になる。
これを受けて1883年にはまず防護巡洋艦3隻の建造を承認、これを皮切りに海軍増強が盛んにおこなわれた、いわゆる新海軍(ニューネイビー)の時代に突入していく。
この新海軍時代には先述したモニターの建造再開並びに新規計画、装甲衝角艦カターディンの建造など沿岸戦力の整備も続けられるが、これに加えて規模を増した主力艦の計画・建造が行われる。
その第一弾であるメインとテキサスの2隻は両艦とも1889年より建造開始、1895年に就役している。
ここからもう少し詳しく見ていくとして、まず謎の爆沈で米西戦争の一因となった事で知られるメインから。
同艦は装甲(帯)巡洋艦として計画されるも、艦の性質的には欧州海軍が植民地防衛用に建造した二等戦艦・装甲艦に近い艦である。
排水量6千トン台の船体に、主砲は30口径10インチ砲4門を連装砲塔2基に収め、中心線を外した梯形配置にしている。これは上構を切り欠くことで舷側方向だけでなく艦首尾にも全門が指向可能であり、衝角戦法が未だに有効と考えられた80年代において、艦首を向けた戦闘を行う際に適した配置である。
また英インフレキシブルなどの代表的な梯形配置艦とは違い、本艦の砲塔は船体の前後に1基ずつ置かれている。これは先述したブラジルの装甲艦とも共通するもので、関連が指摘される。
この他には副兵装として30口径6インチ砲を、単装で前後部と船体中央の上構に2門ずつ計6門搭載。
装甲配置を見ていくと、まず船体形状は平甲板型で重要区画上の甲板は上中の二層のみ。(上甲板の上にも主砲射界の為に途切れた部分を除いて、上構が広い範囲にあり)
垂直装甲は重要区画間のみに存在し、中甲板の高さまでに12インチのニッケル鋼からなる主装甲帯を設けている。艦首尾やそれよりも上部は非装甲。
水平装甲は主装甲帯の上端に接続する中甲板に2インチの軟鋼を有し、こちらは3インチに増厚して艦首尾も防御。砲塔の防御は円筒状の砲室正面が8インチ天蓋不明、バーベットは12~10インチ、副砲への防御はなし。
続いてテキサスは海軍内の艦船造修局で設計されたメインとは違い、コンペで選ばれた英バロー造船所(後にヴィッカースが買収)の案をもとにした艦である。
本艦も排水量は6千トン台ながら、主砲は一段階上の35口径12インチ砲を採用。配置は梯形で、船体中央に2基を集中するインフレキシブルなどに近い形を採用している。また砲塔は各自バーベットを持つのではなく、両砲塔の直下を囲う菱型のような装甲区画(リダウト)の上に載るのも特徴である。また6インチ砲の内、6門中2門が35口径砲となった点も相違点である。
装甲配置も基本はメインに似るが相違点がある物である。
船体は平甲板型で甲板は上中下の三層。垂直装甲は重要区画間で下甲板の高さまでに12インチの主装甲帯。
水平装甲は下甲板に2インチ、艦首尾では3インチ。またリダウトの内部に限り上甲板にも2インチ。砲塔は砲室側面12インチ、天蓋1インチ。バーべットは持たないが先述したリダウトが12インチ。副砲防御はなし。
また材質は垂直装甲の一部に進歩したハーヴェイ鋼を使用した。
この2隻はこれまでの装甲艦と比較して、大きな進歩を見せているのは間違いない。ただし英国ではロイヤルサブリン級が登場する90年代半ばに完成した主力艦としては、時代遅れな部分がある事も否めない。
両艦の防御思想は砲塔配置と同じく、衝角攻撃を狙って接近する間、敵主砲による致命傷を避ける為に最も重要な部位のみを防御した物である。よって艦首尾や船体上部、副兵装といった場所に装甲を持たず、この時代大きく発展していた速射砲に対する防御範囲が極めて狭い点が問題である。(またテキサスは主装甲帯とリダウトの間が非装甲であり、ここに主砲に関連する設備が一部露出しているのも弱点になる)
重ねて言うように2隻は米主力艦の発展史において非常に重要な存在であるが、艦そのものは後の艦とは違い、80年代の設計思想に基づいた装甲艦という面が強いだろう。
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80年末以降の海軍ではマハンの海権論が支持され、外洋海軍を目指す動きが高まっていた。
海軍内の委員会は長距離作戦用、近海用合わせて数十隻からなる外洋航行可能な主力艦整備を計画し、この中でまずは近海用3隻の建造が承認される。これが続くインディアナ級である。
95年から96年に竣工した本級は、当初8500t級として計画されるも、最終的には常備排水量10,300tと1万トンを超えるまで大型化。そして以前の艦と比較して近代戦艦(前弩級戦艦)的な要素が多く確認できる。
後に与えられたハルナンバーもBB-1から3と、分類上も米海軍初の近代戦艦(当時既にテキサスメインは除籍済みだったので当たり前かもだが)であると同時に、戦艦としての完成度には課題を残した艦である。
主砲は35口径13インチ砲を連装砲塔で中心線上に2基4門搭載。加えて副兵装は特徴的で、まず35口径8インチ砲の連装砲塔を片舷に2基ずつ計8門、加えて40口径6インチ砲を上甲板上のケースメイト内に1門ずつ収め計4門搭載した。
計画段階では副砲は5インチ速射砲一種類に統一される予定だったが、他国のような中口径速射砲をこの段階では開発する事が出来ず、この形になったとされる。
本級を含め、初期の段階で中間砲的な大型副砲を搭載する艦が多いのがこの時期の米戦艦の特徴である。なお中間砲的な砲と言っても、単一巨砲への移行段階的に登場した艦を指す事が多い「準弩級戦艦」とは異なる流れで生まれた艦であるので、これらの艦を準弩級戦艦と呼ぶのは慎重になった方がいいだろう。
防御面も見ていくと、基本的な装甲配置は英ロイヤルサブリン級に似た物に変化している。
船体は平甲板型で甲板は上中の2層に中央部のみ中央楼が加わる。垂直装甲は重要区画間で中甲板の高さまでに18インチの主装甲帯、加えてこの上には上甲板まで5インチの上部装甲帯を設ける。上構の一部も6インチ砲ケースメイト部のみ5インチあり。
水平装甲は重要区画内の中甲板に2.75インチ、艦首尾では3インチ。主砲塔は砲室とバーべット17インチ、天蓋2インチ。副砲塔は砲室6インチ、天蓋2インチ、バーべット8インチ。
英サブリン級に似た物と述べたように、本級は以前の艦のような厚いが高さの無い主装甲帯だけを持つのではなく、その上に薄い上部装甲帯を設けている。つまり「分散的」な配置へと最初の一歩を進めた物で、当時の環境においては速射砲への防御範囲の拡大は大きな進歩と言える。
一方で本級は重量増加に伴う吃水の増加で、満載時には主装甲帯が完全に水没するほどに乾舷を減らしている。予備浮力や大口径弾への防御範囲といった点から生存性の面で大きなマイナスである。
以上のように本級はテキサスより大きく強化されつつも、重量増加は主装甲帯の水没以外に、航洋性の低下を引き起こしている点が近代戦艦にとって重要な問題で、他には船体中央部を占拠した8インチ砲の爆風問題も不評だったとされる。
一方でその8インチ砲の採用もあって火力面は強力である。同砲は波浪の影響が少ない搭載位置に加え、発射速度と威力のバランスが取れた優れた物として、実戦で大きく賞賛されている(速射砲を搭載できなかった事を正当化する為に出された評価という指摘もあるが)。
排水量を考えると他国の近代戦艦にも負けない面を持つ一方で色々な問題を抱える艦というのは、他国で言えばロシアのシソイ・ヴェリーキィや英ロイヤルサブリン級のフッドに近い立ち位置の戦艦だと思われる。
また三番艦オレゴンに付いた「ブルドッグ」というあだ名もふさわしいと個人的には思える艦である。
その次のアイオワ(BB-4)は、97年に1隻のみ竣工。本艦は各種インディアナ級から受け継いた面を持ちつつ、同級で見られた問題の改善を試みた改良版である。
具体的には船体を長船首楼型として前級より一層分高い艦首乾舷を持ち、排水量は11,410tと大型化。加えて武装や装甲の重量を削減し、前級で重量増加の原因となった搭載燃料に充てる重量を捻出している。
これによって近代戦艦と言える航洋性を獲得し、主装甲帯の高さも未だに高いとは言えないが、水線上の範囲を防御出来るまでに改善した。
その他の要素として主砲は35口径12インチ砲に小型化。8インチ砲はそのままだが6インチ砲に代わって(厳密には速射砲ではないが)より発射速度の速い40口径4インチを6門搭載する。
装甲配置は前級と同じで一部装甲厚に変化があり、主装甲帯が14インチ、主砲塔の砲室とバーベットが15インチに減厚した。なお少なくともかなり減厚した主装甲帯については、材質が前級のニッケル鋼からハーヴェイ鋼となった事で防御力の低下はないとされる。
米海軍は爆沈したメインを除く以上5隻の主力艦で米西戦争に臨み、これらの艦はキューバのスペイン艦隊を壊滅させたサンチャゴ・デ・キューバ海戦にも参加している。
中でもオレゴンは西海岸からホーン岬を通る大航海をしてきた上に、戦闘では速力に勝る(スペック上では)スペインの装甲巡を味方の装甲巡と共に追い回して擱座に追い込むという活躍で知られている。
この戦争の勝利によってアメリカは新大陸からスペインの勢力を排除しただけでなく、スペイン領であったグアムやフィリピン等を獲得。同時期にはハワイ併合などもあり、太平洋やアジアに版図を広げた帝国の一つとなった。
当然その領土を守る為の外洋海軍の建設も加速していく事になる。
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・以降の米前弩級艦
まずは戦前に計画された戦艦として、最初にキアサージ級の2隻が1900年に竣工している。同級は独特な砲塔の採用で知られる一方で、防御面の変化もあるのでそれも見ておきたい。
本級は11.500トン程度と前級と大差ない排水量で、船体は乾舷の低い平甲板型に。その前後には13インチ連装砲と8インチ連装砲の砲室を重ねた、世にも珍しい二階建て砲塔を2基搭載した。
採用に至った原因の一つにはもう一つの副兵装である40口径5インチ砲の存在が挙げられ、上甲板上に設けた中央砲郭内に(ようやく実用化出来た速射砲である)同砲を片舷7門ずつ計14門を搭載している。
これに伴い、今まで8インチ砲塔を置いていた船体中央部のスペースが失われ、新たな搭載場所を求めた結果が主砲塔の上という訳である。実はこの時点で主砲との背負い配置とする案も既に提案されていたが、爆風の影響などが未知数で採用されてない。
二階建て砲塔の採用によって、8インチ砲は半数で以前の艦と同等の片舷4門を確保。また以前の配置では爆風の影響が大きかった艦首尾方向への射撃にも適した物とされている。
その一方で揚弾機構などが複雑化する点、被害時には両方が使用不能になる可能性が高い点、また共に旋回するので、副兵装の役割の一つである主砲とは別目標への攻撃が難しくなる点などは弊害と言える。
なお後者については、当時の主砲は1発5分程度と発射速度がかなり遅く、主砲の装填中に別目標へ旋回して8インチ砲を使えば良いという認識であった。
そして実際に本級が竣工した後の環境では、米海軍の艦砲が計画時より発射速度を急速に伸ばしていた点が、二階建て砲塔にとって致命的な影響を与えている。
この環境では主砲装填中に一々別目標へ旋回する暇はないし、加えて8インチ砲を全速で発射すれば、それに伴う砲煙と激動が常に主砲の射撃に干渉してしまう。つまりお互いの性能を十分に出せない、問題のある配置になってしまった。
続いて防御面では装甲配置の改正が行われている。
見ていくと平甲板型船体で甲板は上中の2層に一部中央楼。垂直装甲はまず後部主砲から艦橋横の範囲のみに、中甲板の高さまでに最大16.5インチ(上端から下端へ向けてテーパーする)の主装甲帯を設ける。
その前方(前部主砲横を含む)では、高さはそのままで艦首に至るまでに厚さ4インチまでテーパーする装甲帯が続いている。そして舷側上部では、重要区画間で上甲板までに5インチ、副砲砲郭を兼ねる範囲は中央楼甲板まで6インチの装甲帯を持つ。
水平装甲は中甲板に装甲を設けている。同甲板は機関部横では主装甲帯上端に接続するが、弾薬庫横と艦首尾では傾斜部を持つ形である。ただし装甲厚は同じ資料の文章と図面で異なる数字が見られる。
前者の記述では水平部が基本2.75インチ、傾斜部は弾薬庫と艦首3インチ、艦尾5インチ。後者では水平部が基本1.75インチ。傾斜部が弾薬庫と艦首2インチ、艦尾4インチ。という風に1インチのズレが見られる。
砲塔防御は13インチ砲室が正面17インチ天蓋3.5インチ、8インチ砲室が正面11インチ天蓋2インチ。そしてバーベットは15インチ。
装甲配置の主な変更点は3つあり。第一に艦首の水線部にも薄めの装甲帯を設け、重要区画外の防御範囲を拡大した点。二つ目に副砲をまとめて置いてその砲郭全体を装甲化した事で、上構の装甲範囲も拡大している点。
そして最後に弾薬庫横の水平装甲は傾斜部を伴い装甲帯の下端に接続し、未だに重要区画全体ではないとはいえ、米戦艦で初めて装甲帯と亀甲甲板による多重防御を獲得している点である。(なおフリードマン本に普通に書いてあるのに、管理人はちゃんと読んでなくて長年知らなかった)
以上のように特異な二階建て砲塔ばかりが取り沙汰される本級だが、装甲配置の面では速射砲への防御範囲の拡大、重要区画の多重防御と言った、他国でも見られる要素を順調に取り込んでいる物と言えるだろう。
続くイリノイ級も戦前に計画された戦艦で、3隻が1900年から01年に竣工している。本級は計画時期的にまだ運用実績のない二階建て砲塔こそ一旦取りやめつつも、前2級の様々な要素を取り入れた艦である。
排水量は沿岸行動の為の吃水制限もあって前2級とほぼ同じ。そしてアイオワ(BB4)のような長船首楼型の船体を持ち、主砲も通常の連装砲塔を前後に2基置く形に。ただし搭載したのは35口径13インチ砲である。
そして副砲は8インチ砲を搭載せずに、40口径6インチ砲のみを船体中央の砲郭二段と艦首に搭載。砲郭は上甲板上に片舷4門、船首楼甲板上に2門、加えて艦首は上甲板上に1門ずつと、計14門を搭載する。
6インチ砲も他の艦砲と同じく、20世紀以降は無煙火薬の採用などで発射速度を伸ばしている。その点から本級の兵装は、連装主砲2基4門と単装の中口径速射砲という、前弩級艦のスタンダードな組み合わせになったとも言えるだろう。
一方で装甲配置はキアサージ級の物を大部分で継承している。
変更点としては船首楼までの高さの上部装甲帯が5.5インチ厚に。またその上に追加された6インチ砲郭上段の防御として、中央楼の高さまでにその範囲で6インチの装甲を設けている。
また主砲塔の砲室はモニターの時代から続く円筒形に代わって、傾斜した前盾を持つ形となった。計画自体はインディアナの頃からあったが実行されたのは本級が初めである。
これは重量軽減と傾斜による(落角の低い弾道の砲弾に対する)対弾性能の向上に加えて、砲耳と前盾の間隔が狭くなり、その分砲眼孔を小さく出来たのも防御上の進歩とされる。
なお砲塔の厚さは前盾14インチ天蓋3インチ、バーベット15インチに。
続いては名前が示す通り開戦後に計画されたメイン級が02年から04年に竣工。本級は前級に似た艦形と兵装配置を引き継ぎつつも、攻防走すべてに新たな要素が見られる艦である。
まず長船首楼型の船体は排水量1万3千トン弱まで大型化。加えて今まで触れてこなかった部分だが、機関に水管ボイラーを採用し計画速力は18ノットと、この時代の標準的な速力を初めて確保している。
この点は本級の建造にも携わっているクランプ社がロシア向けに設計建造を担当していた戦艦レトヴィザンの情報が影響したとされる。
次に兵装は主砲として新たに40口径12インチ砲を採用。口径こそ減少したが、無煙火薬と長砲身を用いた高初速化により性能を増す方向へと進んだ物である。
副砲も引き続き6インチ砲を前級と同じような配置で片舷8門の計16門搭載。ただしこちらも50口径砲と砲身長が増加。それ以外には対水雷艇用の速射砲が以前の6ポンド(57mm)から3インチ砲に大型化した点も変化である。
装甲配置は前級に似た物だが、一部の材質にクルップ鋼を採用した事でこれに伴う変化も確認出来る。
少なくとも使用したと思われる主装甲帯は中甲板の高さまでに11インチ厚に。当時のクルップ鋼採用艦は9インチ程度が多い中ではかなり厚めである。(相変わらず高さはないのと、本級も前部砲塔横はテーパーして8.5インチになるが)
他の変更点では上部装甲帯は全体的に6インチに。水平装甲は重要区画上の中甲板が1インチの軟鋼と約1.5インチのニッケル鋼の重ね合わせ合計約2.5インチ。前後では艦首水平部2.5インチ傾斜部2.75インチ、艦尾水平部2.75インチ傾斜部4インチに(重ね合わせ等は不明)。
そして主砲塔は前盾とバーベット12インチ、天蓋は不明。
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ここからが戦後に計画された戦艦として、まずヴァージニア級は06年から07年に5隻が竣工。同級は再度かつ最後の採用となった二階建て砲塔の採用艦である。
本級で主砲40口径12インチ砲の上に載るのは長砲身化した45口径8インチ砲に。8インチ砲自体は直近の2クラスでは搭載されなかったが、サンチャゴ・デ・キューバ海戦の情報が入ると一転して再評価(同海戦では競合する中口径速射砲を持つ艦はいないにも関わらず)されたのと、重要区画外を防御する薄い装甲帯を貫通する上での威力が必要という準弩級艦的な思想が背景にあった。
その配置についても、未だに評価が定まっていなかった二階建て砲塔を取り入れるか、それ以前の片舷に2基ずつ配置する形か意見が分かれ計画を遅延させつつも、最終的には前者の二階建て砲塔の2基と船体中央に1基ずつ、計4基で6門指向可能な菱型配置的な物が選ばれた。
この配置で本級は目的通り以前の米戦艦を上回る8インチ砲の火力を確保したが、竣工時期はキアサージの項で先述した、発射速度の向上に伴う二階建て砲塔の問題が明らかな時期になってしまった。
他には中央部にも8インチ砲を置いた都合で数を減らしつつも、50口径6インチ砲を中甲板上の砲郭に片舷6門計12門搭載。
一方で防御面はさらなる進歩が見られる物なので、少し詳しく見ていきたい。
船体は平甲板型で、甲板は主に上中下の三層に。垂直装甲は主装甲帯が機関部横の範囲で下甲板の高さまでに厚さ11インチ。この前後には弾薬庫横を含め、艦首尾の両端に至るまで4インチまでテーパーする装甲帯を同じ高さで続く。
この他に重要区画間の舷側上部には、上甲板の高さまでに副砲砲郭を兼ねる6インチの上部装甲帯あり。
水平装甲は下甲板を装甲化し、重要区画全体を含め外側が傾斜部となって装甲帯の下端に接続する形に。厚さは重要区画上水平部1.5インチ傾斜部3インチ、艦首尾はどちらも3インチ厚。
二階建て砲塔は前盾12インチ天蓋2インチバーベット10インチ。船体中央の8インチ砲塔は前盾6.5インチ天蓋2インチバーベット6インチ。この他にも一部の3インチ砲郭に2インチの装甲が施される。
変更点を見ていくと、まず垂直装甲は高さの基準となる甲板が以前より一段分低い物になっているが、これは船体形状の変化に伴う物で、実際の防御範囲の高さ等に大きな変化はない。
そして主装甲帯は後部弾薬庫横でもテーパーして減厚する一方で、これまで非装甲であった艦尾の水線部にも装甲帯を設けている。本級の垂直装甲は船体中央の舷側上部と艦首尾の水線部を防御した、より「分散的な」配置となり、速射砲や主砲の榴弾等へ広い防御範囲を獲得した事になる。
加えて甲板傾斜部が機関部にも導入された点もあり、艦尾装甲帯の追加を含めると本級は水線部の全周で背後に傾斜部を持つ多重防御を獲得した事になる。これは当時の徹甲弾の性能からして、特に重要区画への有効弾を大きく減らす効果があったと考えられる。
以上のように本級は、未だに部分的だった防御範囲と多重防御を拡大させた配置を持ち、これを以て米前弩級艦の中では完成系と言える装甲配置が誕生している。
また他の部分では、二階建て砲塔はキアサージとは違い傾斜した前盾を持つ形で、そこでは12インチ、8インチ砲室共に同じ厚さなのも変更点である。
このような防御面の進歩に加え、説明する順番がおかしくなったが本級は米西戦争後で外洋艦としての戦艦の役割が強調された事もあり、排水量は1万5千トンまで大型化。船体形状はキアサージ以来の平甲板型ながら高い乾舷を持ち、加えて19ノットと当時の艦としては高速である。
二階建て砲塔の問題さえ無視すれば、前弩級艦としての完成度はかなり高い物と言えるだろう。ただし完成がドレッドノートと同時期になってしまったのは、この時期の多くの戦艦と同じく不幸な点である。
続くコネチカット級は06年から08年に6隻が竣工。一部改良された後期4隻はヴァーモント級と呼ばれる事も。
本級もドレッドノート登場の煽りを受けた時期の艦だが、同時に速力が18ノットに戻った点以外は(次級が規模を落とした艦なのもあって)米前弩級艦の到達点と言える性能を持つ艦である。
船体は引き続き高い乾舷を持つ平甲板型で排水量は1万6千トンに増加。主砲は45口径12インチ砲を採用し、通常の連装砲塔で2基搭載。加えて副砲として44口径7インチ砲を採用している。
同砲は人力で素早く運用が可能な物の中では最も大型とされた砲であり、当初は副砲をこれに統一する動きもあったものの、威力面で8インチ砲を推す声もやはり強く併用に。
7インチ砲は中甲板上の砲郭に片舷6門計12門を、8インチ砲は以前の片舷に連装砲塔を2基ずつ置く形に回帰し4基8門を搭載。結果としてかなり強力な副砲火力を獲得している。
単純な斉射時の片舷への投射重量を計算してみると、典型的な前弩級艦の兵装を持つメイン級の約1.3倍で、ドレッドノートや薩摩、ダントンには劣るが英キングエドワード七世やロードネルソンと言った艦を上回る。
防御面を見ると、装甲配置は前級の物をほぼ受け継ぎつつ若干の変化が見られる。主装甲帯は最初の2隻では機関部横11インチ、弾薬庫横9インチだが、後期4隻はどちらも9インチに減厚。
一方で上部装甲帯は中甲板までに6インチ、副砲砲郭を兼ねる上甲板までに7インチ厚だったが、後期艦はどちらも7インチに増厚している。背後の傾斜部を考えると当時の砲弾へは過剰気味だった主装甲帯を削減し、相対的に弱体な砲郭への防御を強化した形になる。
また艦首尾の装甲帯は全隻とも7インチ、5インチ、4インチと両端へ向けて減厚する形に。
水平装甲は前級と同等。なお最後の建造艦となったニューハンプシャーのみ「弾薬庫上の甲板が1インチから2インチに倍増した」という記述があるが正直この意味は良く理解出来ていない。
砲塔防御は主砲塔の前盾が11インチ、天蓋が2.5インチになった以外は前級と同等。
最後のミシシッピ級は海軍の上層部やマハン大佐が推し進めた、主力艦の小型化を試みた(そして失敗に終わった)艦である。
(大佐は敵艦隊を撃破し制海権を握る事の出来る強力な艦隊の保持を説く一方で、後にドレッドノートにも批判的であったように、兵器として数を確保する為にコストを重視していた)
計画は通常の戦艦と並行して進められ、前級の後期艦3隻と共に1万3千トン級戦艦として承認、08年に2隻が竣工している。(なので承認や完成時期では前級の後期艦4隻目ニューハンプシャーが米最後の前弩級艦という事になる)
3千トンの小型化を図った本級は、計画段階ではコネチカット級の小型版、メイン級の兵装と装甲配置を改正した案に加え、それらではマトモな物にはならないと高速戦艦案や10インチ砲の単一巨砲艦とする案も存在したが、結局はコネチカットの小型版でまとまってる。
船体は後部を切り欠いて長船首楼型になり、兵装は主砲45口径12インチ砲に加え8インチ砲連装4基8門、7インチ砲8門に。主砲と8インチ砲はそのままで、7インチ砲(と3インチ砲)を削減した形になる。
装甲配置は再び船体形状が変わったが、基本的な部分は前2クラスから大きな変化はない。
変更点として主装甲帯は重要区画間で9インチ、艦首尾は5~4インチに。上部装甲帯は前級前期艦と同じだが、その上には3インチ砲の一部を置いた砲郭があり、その防御に2インチを設ける。主砲塔は前盾が12インチに増厚。
水平装甲も前2級と同厚だが構成に関する記述があり、ここでは水平部1インチ傾斜部2.5インチのニッケル鋼と材質不明(おそらく軟鋼)0.5インチ板を重ね合わせ、水平部1.5インチ傾斜部3インチとなる。
こうして見ると攻防面では中々努力しているが、防御面は装甲以外にも予備浮力の減少に伴う抗堪性の低下は避けられないだろうし、それ以外では凌波性の低下に加え速力と航続距離も犠牲になった部分である。
それらの部分もあって、やはり弩級艦時代に入ると好ましい戦力とはみなされず、1914年にギリシャへと売却されている
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・全体の傾向
ここまで長々と見てきた前弩級艦について簡単にまとめておきたい。
これらの艦は19世紀末以降の米国が置かれた立場の変化もあり、初期には重武装の割に小型で低乾舷の艦であったのが、大型化した外洋戦艦へ急速に発展している。
武装面では途中に二階建て砲塔という物も挟みつつ、多くの艦が中間砲的な8インチ砲を搭載。また末期での7インチ砲採用からも副砲火力を重視していた事が伺える。
装甲配置の傾向としては、装甲材質の進歩と共に垂直装甲はより薄く広い「分散的な」配置で防御範囲を拡大していった点、加えて装甲帯の背後には甲板傾斜部を用いた多重防御を設けた点が確認できる。
これは同時期の各国戦艦でも見られる傾向であり、前者は速射砲や戦艦主砲の榴弾に対する重要区画外の防御、後者は当時の徹甲弾から重要区画内を防御する際において、当時の環境で非常に効果のあった物である。
ただし確認できる限り水平装甲は一層のみで、他国で見られる二層式の水平装甲は導入されなかった。この点も当時の米戦艦の特徴と言えるだろう。
またこの時点での米戦艦は、あくまでも19世紀末までの技術革新や米西戦争の戦訓を取り入れた艦に留まっている。
そして20世紀以降のより新しい要素、砲術や機関の進歩や日露戦争の戦訓などに影響を受けた艦が登場していくのが、以降の弩級艦時代という事になる。
グレート・ホワイト・フリート
1907年から09年にかけて米海軍は、米西戦争以降に竣工した前弩級艦の大半にあたる戦艦16隻を中心とした大艦隊(通称グレート・ホワイト・フリート)を編成し、世界一周航海を実施している。
この目的の一つは、今の米海軍は有事の際に海を渡って軍事力を行使する事が可能という、いわゆるプレゼンスを示す事であったが、その対象として特に意識されていたのは、太平洋を挟んで対立が深まっていた日本である。
つまり仮に戦争になった際に、バルチック艦隊の轍を踏まないための経験を積んでおくという意味も含まれていた。
もちろんバルチック艦隊の悲劇的なそれとは違い、行われたのは平時で航海先で実際に戦闘を行う訳でもない。だが戦艦を集中運用する形での長期の外洋任務自体これが初めてという事で、以降の主力艦整備に活かされる貴重な経験がここで得られている。
判明した事に特に注目されたのは 外洋における凌波性不足で、新型かつ大型のヴァージニア、コネチカット級含め全艦が不十分とされた。
それに伴い兵装が波浪の影響を受ける点も問題視され、特にケースメイト式の副砲は艦首部分の物は言うまでもなく、船体中央部でも使用は極めて難しく、揚弾筒まで水が入ってくる事すらある状況であった。
そして防御面でも、主装甲帯の範囲(深さ)が不十分で、荒天下以外でも装甲帯の下の非装甲部が艦の動揺と波のうねりによって海面上に露出する点が判明している。
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・弩級戦艦の時代
米海軍内での弩級艦整備に向けた動き自体は、日露戦争やドレッドノート建造以前の1902年より独自に始まっている。
背景は英海軍と同じような物で、当時は砲の弾道と指揮装置の進歩、加えて魚雷の射程外での砲戦を行う必要性から、交戦距離の延伸が現実的な物とされるようになっていた。
既存の中間砲や副砲と言った物は、遠距離では弾道威力の面で価値が下がり、大口径砲が重視される。そうして大口径砲のみを多数搭載した単一巨砲艦=弩級戦艦が求められるという論理である。
同年には単一巨砲艦に関する論文が複数登場する他、上でも触れたようにミシシッピ級の計画時には10インチ砲艦ながらもこれに主砲を統一した案が作成されている。
以降もミシシッピ級建造の背景にもあったように、大型化が避けられない弩級艦はコスト面から全体的に見た場合マイナス面がある※とする意見も存在したが、これに対しては砲術の専門家であるシムス中佐が戦術的な観点から弩級艦の持つ価値を説き、後者が認められる事になる。
※一次大戦以降の戦艦には当てはまったかもしれない指摘だが。
サウスカロライナ級
その後の計画建造にはやや時間を要しつつも、最初の弩級艦として1910年に2隻が竣工したのがサウスカロライナ級である。
本級は結局コスト面への不安から、排水量は常備1万6千トンというコネチカットと大差ない数字に制限。その中で弩級艦としてまとめ上げられた本級は、戦艦の歴史においてドレッドノートにも匹敵する革新的な要素を持つ戦艦でもある。
具体的に見ていくと、まず船体は長船首楼型で、船殻重量の節約と後部砲塔の高さを減じてトップヘビーを予防。主砲は45口径12インチ砲の連装砲塔を前後で2基ずつ背負い配置とし、4基8門すべてを中心線上に搭載している。
世界初となる主砲塔の背負い配置こそ(主砲と副砲の背負い配置であればフランスのアンリ四世が初)本級の革新的な要素である。採用は舷側砲塔が船体強度的に嫌われた点もあるが、やはりコンパクトで効率良く主砲を搭載出来る点が理由にある。
この配置によって本級は厳しい排水量制限の中でも、初期の弩級艦として平均的な12インチ4基8門の片舷門数確保に成功している。
なお背負い配置は当時の英海軍等では、下側の砲塔が爆風の影響を受けると懸念され、上側の砲塔は艦首尾方向への射撃を避ける傾向にあった。
それに対して米海軍では、そもそも水上戦闘で戦艦が主に想定すべきなのは舷側方向への砲戦だとして、特にこの懸念は存在しなかったようである。また後にモニター改造の実物大実験にて、爆風の影響自体も問題がない物としている。
それ以外には砲塔自体にも変更点があり、揚弾薬機構が砲室まで直通していた以前の物に対し、本級より安全性や速度面で優れる上下二段に分かれる方式を採用。なお以降の米戦艦はここからさらに複雑な揚弾方法を追究していく事になる。
また副兵装では中間砲だけでなく中口径副砲も全廃。対水雷艇用の3インチ砲のみを上甲板上の砲郭や上構甲板上に計22門搭載する形となった。
次に防御面については、ヴァージニア級以来採用されてきた装甲配置を再び改正し、ニューヨーク級まで受け継がれる配置の基礎がこの時点で確認出来る。
これは単一巨砲や背負い配置の導入と言った要素と比べるとそこまで目立たない物かもしれないが、米戦艦の系譜における一つ重要な変化と言える。
最初から詳しく見ていくと、船体は長船首楼型で、甲板は主に船首楼上中の三層。
まず重要区画間の垂直装甲は、中甲板の高さまで主装甲帯を設け、厚さは弾薬庫横12インチ、機関部横11インチ。この上には、下端10インチから上端8インチまでテーパーする上部装甲帯が上甲板の高さまで設けられる。
そして重要区画外の艦首尾では、第一砲塔前の僅かな範囲のみ中甲板の高さまでに10インチの装甲帯を設けるが、それ以外の範囲では艦首尾共に1.5インチ厚の外板を持つのみ。
水平装甲は基本的に中甲板を装甲化。装甲帯のある範囲では傾斜部を持たず水平なまま上端近くに接続する。厚さは重要区画上で弾薬庫2インチ(1.25NS+0.75MS) 機関部1.5インチ(0.75MS×2)。
艦首尾は艦首の前部弾薬庫前の部分のみ厚さ2.5インチ(1.75インチNS+0.75インチMS)、それ以降の艦首のみ下甲板を装甲化し厚さ1.5インチ(1インチNS+0.5インチMS)。艦尾は亀甲状で2.75インチ(2インチNS+0.75インチMS)。
主砲塔は前盾12インチ、天蓋2.5インチ、バーベット10インチ。3インチ砲は特に装甲なし。
主な変更点として、まず主装甲帯が増厚するも、高さは(以前の2.8mに対して)2.4m程と防御範囲は狭い物に。その代わりとして、前級までや同時期の他国戦艦と比較しても厚めのテーパー装甲を用いた上部装甲帯を設けている。
そして重要区画外の垂直装甲は大きく変化。艦首の一部(図面をみると主に清水タンクと錨鎖庫だが、前部弾薬庫の一部を含む部位)のみに重要区画に匹敵する厚さの装甲を設けるが、それ以外は弾片防御のみと、直撃弾に対しては大部分が実質非装甲となった。
最後に水平装甲は重要区画内で傾斜部を廃止し平坦な形になった点も変更点である。
上で見てきた通り、前級までの米戦艦はこの時期に典型的な「分散的」な配置として、艦首尾や舷側上部には7~4インチと中程度の垂直装甲を有していたが、本級は水平装甲を除く上記の改正によって、中程度の装甲を廃している。
(ほぼ)重要区画間の水線部や舷側上部のみを、12~8インチという厚めの装甲で防御するという、この時期ではかなり独特な配置を持つ事となった。
速射砲や主砲の榴弾を脅威とする今までの考えに基づく場合、艦首尾にそれらを防ぐ装甲を持たないのは相応にマイナスな点である。
その理由にはやはり排水量制限も影響していた可能性はあるが、防御思想そのものの変化も関係している。弩級艦の時代になり大口径砲が砲戦の主体となった環境では、これを防げない厚さの装甲は無駄である。そういった考えが設計陣の中に一部存在していた事が記録に残っている。
つまり既存の「分散的」ではなく、「集中的」な防御思想がこの時点で確認出来、本級の配置はそれに影響された物と考えられる。
近代戦艦における「集中防御」の元祖とされるのは後のネヴァダ級であり、その配置は(今後改稿予定だが)後述するように、水平装甲に関する部分を含め本級とはまた大きく異なる。
それでも防御範囲を一部犠牲にしつつも、必要な範囲に十分な装甲厚を確保するという意味での広義の集中防御的な思想は、米主力艦ではテキサスとメインが該当するように装甲艦の時代から存在していた。本級は環境の変化に伴いそれに回帰した物と考える事も可能である。
なおこの時期には被帽弾の普及が進むので、確かに7~4インチ程度の装甲では12インチ砲に対して厳しい物がある。その点から大口径徹甲弾の防御のみを考えた場合、それらの装甲の廃止は一理あると思われる。
ただし艦首尾で代わりに設けた1.5インチという厚さは、弾片防御になる一方で徹甲弾の信管を作動させてしまう可能性が高いので、この点はちょっと中途半端にも思える選択である。
また本級の装甲配置は上述したように、ニューヨーク級まで受け継がれる要素がある一方で、同時に「集中的」な防御思想については、以降の数クラスで割と揺らいでいる事が装甲配置の変化から確認できる。以降の解説ではこの点も見ていきたい。
そして機関はレシプロ機関のままで最大速力も19ノットと、上記二つと比べるとそこまで目立った部分は存在しない。防御面の話になってしまうが、本級より機関部の中央縦隔壁がなくなった点は一応浸水時の生存性において進歩である。
また砲塔の背負い配置とトップヘビーを警戒して復原性を高めた結果、洋上ではかなり動揺が激しい艦であったとされる。
最後に遠距離砲戦に必須な高所のプラットフォームを設ける手段として、この時期の米海軍は以降の一大特色となる籠マストを採用。その中でも本級は初期に搭載した艦という事で、この点でも後の米戦艦の基礎を築いた存在と言えるだろう。
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以降の2クラスはもう少し簡単に見ていくとして、まず後続のデラウェア級も同年に2隻が竣工している。
前級サウスカロライナ級は、上で見て来た通り排水量制限を設けつつも、優れた設計で他国弩級艦に負けない攻防力を実現していた。しかし本級の計画時には、他国では前弩級艦を含め1万6千トンを超える艦が普通に登場しているという状況を鑑みて、排水量制限を早々に撤廃。
結果として短船首楼型の船体に排水量2万トンという一気に大型化した戦艦となった。
特徴として主砲は1基追加して12インチ5基10門に増強。前部は普通に二基の背負い配置だが、残りは高い位置にある第三砲塔と、低い位置で背中合わせに置かれた第四、第五砲塔の組み合わせという独特な配置を持つ。
第三砲塔が高い理由は、重量バランスや船体強度的に高い砲塔はなるべく船体中央部に置きたいという考えに基づいている。
ただしこの配置は第四砲塔の照準器が爆風の影響を受けるので第三砲塔は真後ろへの射撃が出来ず、第四砲塔自体も真後ろには指向できないので、出来るのは残る第五砲塔1基のみに(ただし前級の解説で述べた通り舷側方向の戦闘以外は特に重要視されなかった)。
加えて第三砲塔の弾薬庫は缶室と機械室の間にある為、この間を通る蒸気管の熱で装薬が劣化しやすくなっていたなど不具合が見られた。
もう一つの変更点として副兵装は威力面で不安のあった3インチ砲から50口径5インチ砲に強化。中甲板上の中央砲郭、艦尾、艦首に計14門を搭載している。(艦首の物は波浪の影響を受けるので艦橋横に移動)
防御面は基本的に前級をベースにしつつ一部変更を加えている。船体形状が変更したのでまた基準となる甲板名称の変化もあるが、ここでは細かい配置の説明はしないので割愛。
まず主装甲帯が全体的(弾薬庫、機関部、艦首一部)に11インチ厚に統一。また本級は主砲配置のせいで船体に占める重要区画の範囲自体が長く、主装甲帯もそれに応じて水線長の4分3あまりという広い範囲に及んでいる。
そして砲塔天蓋が3インチに増厚したのに加え、最大の変更点として、5インチ副砲の砲郭を兼ねる中甲板から上甲板の間、前級でいえば上部装甲帯を設けた範囲のさらに一段上の範囲に、厚さ5インチの上部装甲帯を追加している。
やはり当時の戦闘ではまだ主砲弾以外の命中も想定されるという話と、上部装甲帯は煙路防御としての役割が期待された事から設けられた物で、上でも述べたように、早速「分散的」な要素が再度見られる箇所になる。
また速力面の強化が行われ、この時代の平均的な速力かつ以降の米戦艦でも標準となる21ノットとなった。(まあ実を言うと米海軍は公試の基準が違うので実質的な速力はもう少し速かったりもするが)。
機関は一番艦こそレシプロだが二番艦ノースダコタのみ蒸気タービンを搭載。ただし直結タービンであるので航続距離は低下し、長距離任務を重視する米海軍としては不満のある物であった。
最後のフロリダ級は1911年に2隻が完成。同級は砲塔配置などを受け継いだデラウェア級の改良版である。
船体は2万2千トン弱と大型化し復原性を改善した他、2隻とも蒸気タービンを搭載。機関や上構の配置の改正なども行われた。
それらに加えて本級は、以降の米戦艦で長年用いられる2つの要素を初めて導入した戦艦である。
一つ目は平射用副砲の定番である51口径5インチ砲の採用。配置は前級の物から艦首砲の位置を変更し、中甲板上の中央砲郭、艦尾、そして艦首の上甲板上に計16門を搭載している。
そしてもう一つは、新型の均質装甲であるSTS(special treatment steel)の導入。本級の中でも今までニッケル鋼(NS)を用いていた部位、具体的には水平装甲の一部、砲塔天蓋、上部装甲帯の上段などで新たに使用され、実質防御力を上げている。
また装甲配置は殆ど変化はないが、副砲砲郭を兼ねる上部装甲帯の上段が5インチから6.5インチに増厚している。
なお本級はロンドン条約で一線を退くも、それまでワシントン条約下で保持されていた為、20年代に水平装甲の強化を含む改装を受けている。
その内容については次級と似た物なので割愛させていただきたい。
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二次大戦期の旧式改装戦艦
続いて二次大戦時中も就役していた戦艦に入るとして、まずは改装を受けた海軍休日前の旧式戦艦について。ここからは表の計算も開始。使用する艦砲は日本戦艦編を参照。
・その前に装甲材質等の補足
米戦艦が用いた鋼材自体の解説はここを参照してもらうとして、計算に関する部分で注意点をいくつか。
一つ目は表面硬化装甲であるクラスAアーマーについて。リンク先でも述べた通り、海軍休日以前の同装甲は製造元により製造法や性能がかなり異なる物が混在していた。
そこから同じ部位の同じ厚さの装甲であっても、命中した装甲の種類によって安全距離が変動する(ミッドヴェール非浸炭表面硬化鋼の場合は特に)訳だが、生憎何社製の物が何処に使用されたのかは現時点では全く把握していない。
全種の計算結果を載せればいい気もするが、現時点では簡略化の為、クラスAアーマーはすべてカーネギー社製の物と仮定した結果を掲載している。
二つ目はフロリダ級以降が導入したSTSについて。
水平装甲などを中心に後の時代では構造材としても用いられた同鋼材だが、1910年代の登場初期と比べると、30年代の物では性能に向上が見られる。
改装艦などでは水平装甲を貼り足しで旧新のSTSが混在する例もあるが、その場合同じSTSでも計算時には別物として扱っている。
また一枚板換算の部分はどちらのSTSで計算したのか、旧新を明記する事とした。
最後に装甲厚のポンド表記について。米海軍も水平装甲を中心に厚さをポンドで表す方法が使われているが、こちらは確実に40ポンド=1インチである。
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ワイオミング級二番艦アーカンソー(改装後)
1910年起工 1912~46年就 24~25年改装 (ここで扱う米戦艦は基本的に太平洋戦争中にも改装を受けているが、装甲に関連する改装の年代のみ記載しておく)
171.3m 26,100t 50口径12インチマーク7 連装6基12門 21ノット
装甲厚
垂直装甲 279mm classA → 19mm
砲塔前楯 305mm classA 傾斜約40度内傾
バーベット(露出部) 279mm classA
バーベット(艦内部) 279~229mm classA → 114mm classA
水平装甲(弾薬庫) 44mmSTS×2 +13mmSTS×2 → 38mmSTS+13mmMS ≒ 120/98mmSTS旧 98 45
水平装甲(機関部) 32mmSTS+44mmSTS+44mmNS(機械室は19mmSTS+44mmSTS+44mmSTS+8mmMS)→ 25mmSTS+13mmMS ≒ 116/102mmSTS旧~111/97mmSTS旧 102 97
砲塔天蓋 76mmSTS+44mmSTS微傾斜 ≒ 110mmSTS旧
上部装甲帯→甲板 部分的にあり
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型
装甲部位\艦砲 | 8インチ | 28cm | 41年式36cm | 14インチマーク7 | 15インチ | 16インチ | 46cm |
垂直装甲 | 7.5km以遠 | 20km以遠 | 23.5km以遠 | 28.5km以遠 | 安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 8km以遠 | 安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし |
バーベット(露出部) |
6km以遠 (7.5km以遠) |
17.5km以遠 (20km以遠) |
21km以遠 (23.5km以遠) |
25.5km以遠 (28.5km以遠) |
29.5km以遠 (安全距離なし) |
31.5km以遠 (安全距離なし) |
38.5km以遠 (40km以遠) |
バーベット(艦内部) | 1km ~3km以遠 |
12.5km ~15.5km以遠 |
16.5km ~20km以遠 |
17.5km ~23.5km以遠 |
22.5km ~27.5km以遠 |
24.5km ~30km以遠 |
37km ~安全距離なし |
水平装甲(弾薬庫) | 貫通不能 | 32.5kmまで | 26kmまで | 25kmまで | 25kmまで | 21kmまで | 17kmまで |
水平装甲(機関部) | 貫通不能 | 31.5kmまで | 24kmまで | 23kmまで | 22kmまで | 21.5kmまで | 18kmまで |
砲塔天蓋 | 29kmまで | 31kmまで | 25kmまで | 24kmまで | 23.5kmまで | 23.5kmまで | 20.5kmまで |
垂直装甲(30度) | 3.5km以遠 | 15km以遠 | 18.5km以遠 | 22km以遠 | 25.5km以遠 | 28km以遠 | 38km以遠 |
ここで最初に扱うのはワイオミング級の二番艦アーカンソー。
一番艦ワイオミングがロンドン条約により練習艦となったため、米海軍最古参の戦艦として第二次大戦を戦い抜いた艦である。
最期はビキニ環礁で行われた核実験(クロスロード作戦)に標的艦として参加。二回目の水中爆発(ベイカー)の際には、爆心地に最も近い位置に居たため、水柱により数十メートル浮き上がりそのまま沈没している。
・竣工時の艦の概要
ワイオミング級は1912年に2隻が竣工。上で見てきたデラウェア級等の延長線上に当たる12インチ砲艦として計画設計されており、その中でも火力面の強化とそれに伴う排水量の増大が顕著である。
船体は前級とは違い平甲板型で、排水量は前級から4千トン近く増加し常備2万6千トンに。米海軍では初めて当時世界最大級の戦艦となった。
(なおこの時期の急速な排水量増加は上院のティルマン議員に衝撃を与え、最初から可能な限り大型化した戦艦を揃えた方が安上がりではと、最大戦艦研究へと繋がる事になる)
続いて兵装は新たに50口径12インチ砲を採用。連装砲塔を前部艦橋の前、後部艦橋の後ろ、さらにその後方という3か所で背負い配置にして計6基12門搭載。前級よりもまとまった配置に収めている。
計画段階では12インチから一歩踏み出して14インチ砲艦とする案も検討されていたものの、砲塔設計に掛かる時間から計画の遅延が避けられなかった。
それに対してより確実に用意出来る50口径12インチ砲は、当時想定されていた7~8km程度の交戦距離において有効な貫通能力を持つとされたのに加え、低平な弾道による想定距離での命中界の広さ、搭載可能門数を含めた投射量の多さという点から、(12門艦であれば14インチ8門艦を上回る程度の)十分な価値を持つと判断された。
そこで同砲を多数搭載する事で火力を強化したのが、本級の主兵装という事になる。
また本級の12インチ砲塔は、新たに砲弾と装薬を別々の揚弾・揚薬機構で運ぶ方式を採用。後の米砲塔に受け継がれる特徴がここで見られる。
副砲は引き続き51口径5インチでこれを計21門搭載。そして配置はグレートホワイトフリートで指摘された高さ不足が初めて意識された物になった。
当時は(近い時期の英弩級艦がそうであるように)副砲は露天甲板以上の高さに搭載すべきという提案もなされていたが、どうしても防御的には装甲砲郭に劣るという事で、部分的な採用にとどまっている。
具体的に言えば、21門中17門は中甲板上(船体形状の変更に伴い、これらの副砲も前級よりは高さを向上)の砲郭に配置(内訳は中央部に片舷5門、艦首片舷1門、艦尾は片舷2門ずつと最後端の中心線上に1門)。
そして残りの4門を前艦橋横の上構に露天で搭載した。
・竣工時の装甲配置と防御
まず船体は平甲板型で、重要区画上を通る甲板は主に上中下の三層。そして前部弾薬庫上では、中甲板と下甲板の間にもう一層ハーフデッキが設けられている。
垂直装甲を見ていくと、第六砲塔から第一砲塔前方の魚雷発射管室の範囲で、下甲板の高さまでに主装甲帯を設け、この部分は厚さ11インチ。
その上には下端11インチから上端9インチまでテーパーする上部装甲帯を設け、高さは範囲によって異なる。後端から第三砲塔横までの範囲は中甲板まで、その前方の副砲砲郭下(第二砲塔横手前まで)はそれより若干上まで高さを増し、さらに前方の魚雷発射管室までの範囲は逆にハーフデッキの高さまでに低くなる。
これに加えて中央部の副砲砲郭を兼ねる範囲では、上甲板の高さまでに6.5インチの上部装甲帯を設ける。
そして重要区画外の艦首尾では、先述した艦首第一砲塔前の一部のみ主装甲帯が延長する他、艦尾にも下甲板の高さまで5インチの装甲帯を持つ。
※水平装甲は一部不確かで改装後の数字から逆算した部分もあるのでご了承頂きたい。
この部分はまず重要区画上では下甲板を装甲化したのに加え、弾薬庫上のみは一段上の中甲板も若干装甲と言える厚さが施された。
下甲板は傾斜部を持たず水平なまま主装甲帯の上端近くに接続する形で、厚さは弾薬庫2インチ(1.5inSTS+0.5inMS)、機関部1.5インチ(1inSTS+0.5inMS)。中甲板は厚さ1インチ(0.5inSTS×2)。
艦首尾の水平装甲は、魚雷発射管室の装甲帯継続部分までは、その上端に接続するハーフデッキを装甲化し厚さはおそらく1インチ(0.5inSTS×2)。それより前方では二段下の第一船倉甲板が1.5インチ(1inSTS+0.5inMS)に。
艦尾は下甲板が舵機械室への防御も兼ねる形で亀甲状となり、厚さは2.5インチ(内訳不明、3インチとも)になる。
主砲塔は前盾12インチ、天蓋3インチ、バーベット11インチ。この他には副砲砲郭の装甲帯背後に1.5インチの縦隔壁を持つ。
用いられた材質については、垂直装甲は基本的に各種クラスA装甲。それ以外では砲塔天蓋がSTSである他に、船体の水平装甲はSTSと軟鋼との貼り合わせで複雑なので最初からカッコ内に記載している。
続いては本級の装甲配置について、前級からの変更点と防御上の特徴を改めて見ていきたい。
まず重要区画間の垂直装甲は、水線部の狭い範囲を守る主装甲帯+厚めのテーパー装甲で高さのある上部装甲帯下段+副砲防御を兼ねる上部装甲帯上段からなる構造を維持。ただし上部装甲帯下段は形状(高さ)が一部で変化している。
水平装甲は基本一層式である点、傾斜部を持たない点がこれまでの米弩級艦の特徴だったが、この内前者については、弾薬庫上のみは一応だが二層式と呼べなくもない薄い装甲が本級には追加され、一部変化がみられる。
そして前級と比較して最大の変化と言えるのは、重要区画外の艦尾に5インチ艦尾装甲帯を設けた点である。
艦首こそ未だに大部分が非装甲だが、デラウェア級での上部装甲帯上段の復活に続いて、さらに「分散的」な配置に回帰した事を示している。
最後にもう一つ変更点として、新たな煙路防御用の装甲を追加している。
これは1.5インチの縦隔壁で、直撃弾を防げる厚さではないが、上部装甲帯の上段に命中した後炸裂もしくは破砕された砲弾の弾片を受け止める、多重防御的な効果を有している。
また位置的には中央部の副砲砲郭を隔てて、反対舷への被害拡大を防止する役割もあったと思われる。
全体的な配置を同時期の各国戦艦と比較した場合、厚めのテーパー装甲からなる上部装甲帯下段、傾斜部を持たず(機関部では)未だに一層式の水平装甲、ほぼ非装甲の艦首舷側などはやや特徴的である。
しかし基本的な部分では、舷側の高い範囲までに設けられた上部装甲帯と、水線付近の位置に弾片防御程度の厚さを持つ薄い水平装甲を組み合わせた点は共通している。
これは榴弾等への広い防御範囲を確保すると共に、徹甲弾が上部装甲帯を貫通しても、重要区画に達する前に水平装甲や石炭庫が待ち受ける多重防御的な配置となる。
そして「戦艦の使用砲弾に関するメモ」等でも何度も言っているように、この時期の徹甲弾は信管や弾体強度等の性能が発展途上であり、それらに対しては十分効果的であった配置である。
・竣工時から一次大戦期の評価(一次大戦期の米砲術等についても)
竣工時の部分については不確かな事もあり正直あまり書けないのが、一次大戦期については砲術等この時期の米戦艦全般に共通する事も一緒にまとめて書いておきたい。
少なくとも防御面は上で見てきた通り、竣工当時の環境で有効な配置を持ち、かつ主な部位の厚さも同時期の艦に特に劣る物ではない。当時の12インチ砲程度には対応した物だろう。
ただし一次大戦期の遠距離砲戦を想定した場合、比較的薄い砲塔天蓋が破られ内部に被害が及ぶ可能性は十分あると思われる。
その際はユトランドの英巡戦のように最悪爆沈だが、米海軍が用いたニトロセルロース装薬は、英モニターのラグラン戦没の例からも分かるように安全性では英国系のコルダイトより上である。その可能性は幾分か低い点は救いか。
また船体の水平装甲で、一部に一層式の部分があるのは気になる点である。この時期主流であった二層式の配置は、大落角の命中弾であっても信管等が不完全な砲弾が相手であれば重要区画を守れる可能性が高い。
それに対して、一層式では健全なままの砲弾が下甲板まで達して被害が及びやすいのではと、やや不安に思う所である。
続いて攻撃面は、まずこの時期の本級が搭載した徹甲弾の詳細は把握していない。
一次大戦期の物については全体の傾向から性能を語る事は可能だが、最後の方で述べるように本級の場合は少し例外的な物だった可能性があるので、こちらも具体的な事は書けないというのが本音である。
(なので一次大戦期の米徹甲弾については、次級の解説でもう少し詳しく書く事にしたい)
一応性能としては、後述する他の米戦艦が搭載した物と同じく、実戦的な環境で厚い装甲を貫通後、奥で炸裂するという徹甲弾に求められる能力において、不完全で発展途上な物であったと考えられる。
しかし各国海軍の徹甲弾も大多数は同レベルの不完全な物であるし、基本的な部分では50口径12インチ片舷12門指向可能というのは、いわゆる超弩級艦以前の艦として上位である。
当時想定された比較的短い距離で投射量勝負をした際には、本級の主砲は大きな武器になるだろう。
砲術面も見ていくと、一次大戦期の遠距離戦闘を想定した場合、本級の最大射程は仰角15度で22kmと当時としては十分である。
それを支える各種指揮装置、大型の測距儀に目標諸元等の計算機、そして方位盤と言った物についても、竣工時はともかく大戦後半までに順次開発され、他の米弩級艦と同じく搭載されている。
(この時期の方位盤は目標の方位を測定する装置と発砲の管制を行う装置が別々にあったり、諸元計算も大戦後半にフォード射撃盤が導入される前は、プロットを見て手計算で変距率を出していたりと独特な部分も)
一方でこの時期の米戦艦の砲術を語る上で避けて通れないのは、30年代まで続く過大な散布界に悩まされた点だろう。そして本級もその例には漏れない。(平賀資料にある17年の射撃演習の記録だと、ワイオミングの散布界はアーカンソーの半分ぐらいで成績も参加艦で一番と興味深い結果だったり)
一応散布界という物は狭くて良い事ばかりという訳でもないが、広すぎるとそれは挟叉しても命中しない確率が上がるという事なので、やはり避けたい物である。
その点もあり、大戦で実戦を経験している英独と言った海軍とは砲術面で差がある事は否定できない。
実際一次大戦時に本級を含む複数の米戦艦がスカパフローに派遣され、英艦隊と行動を共にする機会があったが、その砲術は英艦隊のレベルでは無いという評価がなされている。
後述予定だが、この砲術面での差は本級だけでなく、スペック上はかなり強力なネヴァダ級以降の米戦艦にとってもネックになる点だろう。
そして本級の評価としては、同じ12インチ砲艦相手なら十分比較出来る艦だろう。上で見た通り遠距離戦では不安はあるが、比較的近距離での投射量の大きさに加え、英戦艦等に対しては爆沈のし辛さを活かしたい所だと思われる。
・その後の改装と改装後の装甲配置
条約期の本級はフロリダ級に次ぐ古参艦だった事もあり、20年代中頃と早めに大改装を受けている。
その内容は装甲の追加に機関の換装などを含む十分大規模な物で、多くは以降の艦の改装内容とも共通している。ただし主砲やその指揮装置に関する部分は殆ど手つかずだったのは異なる点である。
具体的に見ていくと、まず副砲は戦後に一部撤去され計16門としていたが、大改装では配置も未だに不十分であったとして、装甲砲郭内の10門中6門を一層上の上甲板上に張り出すように設けられた砲郭内に移設している。
加えて大戦中に搭載され始めた対空砲も増強され、その砲郭上の甲板などに3インチ高角砲を計8門搭載。また主砲の最大仰角の引き上げや指揮装置の更新は行われなかったが、航空機観測の為の航空艤装も搭載。
そして機関はボイラーを新たに重油専焼として、速力を維持しつつ航続距離を向上させている。
そして防御面の強化については、ワシントン条約で許された範囲であり、この時期の環境では特に不足している水平装甲と水中防御を強化している。
細かい内容は後述するとして、改装後の配置の特徴としてここで触れておきたいのは、重要区画上の水平装甲だろう。
この部分は他国の改装戦艦では、水線付近の高さにある甲板(本級であれば下甲板)に装甲を貼り足すのが普通である。一方本級はその一段上の甲板、つまり中甲板(機関部と後部弾薬庫上)もしくはハーフデッキ(前部弾薬庫上)に装甲を新設しているのだ。
この改装に伴い、本級は他国の改装戦艦より高い位置に主要な水平装甲を持つのが注目すべき点と言える。なおこのような配置となった理由やその長短については以降の解説で論じる予定である。
ちなみに以降の米戦艦では次級ニューヨーク級も元々同じようで配置で同じような改装を受けており、さらにネヴァダ級以降の艦は最初から一段上の高い位置に水平装甲を設け、それは改装後も変わらない。
なので結果として、旧式改装艦含め第二次大戦中の米戦艦は、全艦が高い位置の甲板に主な水平装甲を持っている、というのは豆知識として覚えておくといいかもしれない。
そして主要な水平装甲が高い位置にあるだけでなく、本級が持つ3つの垂直装甲の中の2段目、11インチから9インチにテーパーする装甲帯の上端近くに接続して 主要な装甲区画を形成している。
この区画は大口径弾レベルへの防御を想定した厚い装甲で構成された物で、その区画で防御される範囲が比較的広いという点では、ネヴァダ級以降のいわゆる集中防御を採用した米戦艦と共通する部分になる。
ただし本級の配置自体は集中防御とは言えない物である(集中防御の定義については補足のページを参照)。主要な区画より上にも副砲防御用の装甲帯を持つ点、そしてテーパー装甲も比較的厚いとは言え主装甲帯よりは薄く、主要な装甲区画内で防御力の差が生まれているという点から、補足のページでまとめた所の「舷側縦方向の集中」が不完全という形になる。
むしろ「舷側縦方向の集中」が不完全だが高い位置に水平装甲を持つという点では、竣工時の長門型に近いと言える部分もあるかもしれない(こちらも副砲防御やテーパー装甲の有無など違いも沢山あるが)。
話を改装内容に戻すと、残りの部分では砲塔天蓋に加え、重要区画外の水平装甲も強化されている。
そして水中防御としては浮力確保を兼ねたバルジを増設。また防御区画内にも縦隔壁を追加した上で、これらの内部には部分的に燃料層を設け、テネシー級以降導入していた液層防御を取り入れている。
最後にロンドン条約以降も戦艦として現役であったアーカンソーは、開戦後には大改装後も残していた前部の籠マストを三脚マストに換装。
他は対空兵装の強化に伴う副兵装の変化が主で、5インチ平射砲は上甲板上の6門のみに削減。高角砲は3インチ砲10門となったが、以降の戦艦が搭載した25口径、38口径5インチ砲は搭載されなかった。
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・表の結果と解説
最初なので書かなきゃいけない事もあって既に文字数が脹らみすぎているが、とりあえずここからは表の結果を。(標準型戦艦に入れば改稿後もそこまで文字数は増えないはずと思いたい)
まず垂直装甲の項は、主装甲帯とその背後の弾片防御からなる。
前者はワシントン条約の規定もあって改装時も手つかずで、厚さは表に合わせてミリメートル表記を用いると279mmのクラスA装甲。なお本来は背後に厚さ数十ミリから二十ミリ強程度の構造用鋼からなるバッキングが加わるが、厚さは不明で上の計算にも含めてない。
さらにその奥で弾片防御を担うのは水中防御構造で、ここは竣工時の石炭庫から改装後は液層防御になり、その際に19mmの縦隔壁が追加されている。
結果は自艦の12インチ砲程度はこの時代でも対応するかという程度。12インチより大きい艦砲が主流な第二次大戦期においては、交戦距離がさらに増したことを考えてもやや弱体な物である。
なお実戦を想定した場合、垂直装甲は横方向の角度が加わる事で撃角が浅くなり安全距離を増す。その一例としては一番下は30度の角度が着いた場合で、多少は改善を見せている。
砲塔前盾は305mm。この時期としては普通な厚さだが、形状は同時期の英砲塔など比べると直線的で傾斜が強い。一方でこれも防御力的には限界がある結果に。
バーベットは露出部が279mmで曲面形状を考慮した場合の結果は上の二つを上回る。そして艦内部で114mmまで減厚するが、改装後の部分に命中するには、その前に上部装甲帯下段もしくは装甲甲板を貫通する必要がある。
表は上部装甲帯を貫通した場合で、その中でも最厚部279mm部分への命中であれば、その安全距離は露出部を上回る。
そして水平装甲は先述したように中甲板もしくはハーフデッキに水平装甲を新設。この装甲甲板が主となり、その一段下で既存の下甲板が弾片防御を担う形になる。
装甲甲板の厚さはまず弾薬庫は元の13mmSTS二枚に44mmのSTS二枚を加えて4枚重ね合計114mm。機関部は缶室が32mmと44mmのSTSと44mmニッケル鋼の3枚重ね合計120mm、機械室が8mmの軟鋼に44mmのSTS二枚と19mmSTSで4枚重ね合計115mmとなる。
頭が痛くなる内容だが、これはボイラー等と同じくワシントン条約で建造中止になった艦の資材を流用しているからと思われる。
ともかく安全距離としては、重ね合わせなので実質防御力は合計厚から幾分か落ちるものの、装甲規格の鋼材を中心に一定の厚さを設けており、竣工時から大きく強化されたのは間違いない。
それでも下甲板が薄い機関部については、12インチより大きい艦砲に対して未だに不安のある結果となったが、以降の改装戦艦とも比較出来る程度である。
最後に砲塔天蓋は竣工時の76mmSTSに44mmSTSを追加している。こちらもそれほど強力とは言えないが、致命的に弱体とも言えないと言ったところか。
・表以外の部位の解説について
表で計算した部位は以上だが、以降はそれ以外で重要と思われる点について、後回しにした改装後の装甲配置に関する解説を交えつつ書いていきたい。
最初は上部装甲帯を貫通した砲弾が重要区画に達するルートについて。
まず範囲的には狭い物だが、165mmの上段を抜いた砲弾が、装甲甲板そして下甲板と抜くルートが存在する。これは当然ながら表で取り上げた甲板のみを貫通するルートよりも広い安全距離を持つ事になる。
その一方で面積の広さ含め重要なのが279~229mm厚の下段を貫通した場合である。この部位は装甲甲板より下なので、重要区画までに砲弾を待ち受けるのは薄い下甲板しかない。
この部分については、特に機関部の下甲板は下手をすると弾片でも突入を許しかねない程度の厚さなので、普通に主装甲帯を貫通するルートよりも防御的に劣り、弱点となりかねない部位と言える。
主な水平装甲を高い位置に設けた点が改装後の特徴と上で述べたが、仮に下甲板に同程度の装甲を回していた場合、この弱点は無かった(それどころかやや過剰防御に)だろう。
そもそも戦間期では徹甲弾の性能向上に伴い、薄い上部装甲を持つ艦全般は(甲板の)水平装甲不足だけでなく、この「上部装甲帯→甲板」というルートでの防御力不足が生じていた。
そしてそのルートへの対処というのが、他国の改装で大多数が下甲板強化を選択した理由の大きな一つだったのである。(一部の艦では主装甲帯の下端に接続する甲板傾斜部を強化し、多重防御で垂直装甲の強化を狙ったという理由も存在する。そして上で似ていると言った長門型も、この二つの理由から改装時は水線部の低い位置の甲板を装甲化し、大きく異なる防御様式の艦となる)
と言う風に本級は、一か所弱点への対処を捨ててまで一段上の甲板を強化した事になるのだが、この選択に伴う利点も当然ながら存在する。
主な効果はやはり高い防御範囲を確保している点で、それに伴い下甲板を強化していた場合に生じてしまう弱点もカバーした形になる。
なお、その中でも重要なのが射撃指揮に関する情報を扱うプロッティング・ルーム(米海軍における発令所)で、本級はこれを下甲板の上を設けていたので、この配置に至った原因の一つはその防御の為だった。という解説を本ページでは長年掲載していた。
しかし改めて配置図を確認した所、本級ならびに前級フロリダ級の発令所は普通に下甲板の下にあり、上に設けられたのは次級ニューヨーク級の話であった。この点はここで訂正しておきたい。
一応発令所の防御が本級の場合は関係なくとも、高い位置の水平装甲によって下甲板の強化には無い防御上の効果を得る部位は他にも存在する。
具体的にはバーベットの減厚部分へ直接砲弾が命中するのを防いでいる他、船体中央の下甲板上に存在し連鎖誘爆の原因にもなる部位である副砲弾薬通路の防御、そして煙路防御としても根本的な対策ではないが、下甲板の開口部に直接飛び込む砲弾の角度を限定する効果が挙げられる。
その他にも採用された背景を想像含め雑多に書き残しておくと、米海軍自体が16年竣工のネヴァダ級以降、高い位置の水平装甲を持つ艦が基本となっていた点。また「上部装甲帯→甲板」で生じる弱点にしても、本級の該当部位は比較的厚いので他国艦よりは防御力の低下が少ないと思われる点。
そして発令所が下甲板上にあるニューヨーク級は高い位置に設けるのが防御上必須で、同時期に改装された本級なども艦の性格を同級を揃えておきたかった点。といった物が関係しているのかもしれない。
続いて他の部位に移るとして、煙路防御について。
この部位は開口部周辺に施されたのは竣工時と変わらず弾片防御程度で、砲弾がそこに至るのを防ぐ装甲は、279~229mm厚の上部装甲帯と、先ほども述べた改装で追加された中甲板の水平装甲が担う形に。
防御的には8インチ以下の格下の攻撃には確実に対応している一方で、戦艦主砲相手では普通に限界もあるだろう。
次に水中弾防御については、水線下の範囲にあるのは通常の水雷防御のみで主装甲帯の深さもない。積極的な対策は皆無である。
最後は全体的な抗堪性に関する装甲について。本級は艦首舷側が非装甲である一方、重要区画上の高い位置に水平装甲を持つ点は、(特に航空爆弾等に対して)水線上の予備浮力を保護する上で効果があり、他国の旧式改装艦に対して有利な点と言える。
また改装時には重要区画外の艦首尾水平装甲へも44mmSTSを追加。それなりの厚さになったので500ポンドや250kgクラスの爆弾に対する前後部の被害局限に効果があっただろう。
他では戦時中に上甲板より下のケースメイトを全廃した点も、水上火力の低下と引き換えに浸水対策の面では改善である。あとは米海軍全般のダメージコントロールの名声は有名だが、特に書く事ではないので割愛。
まとめ(二次大戦時の攻撃面についても)
まず第二次大戦期の本級の防御面は、特に改装を受けた水平装甲はある程度の防御力を確保した一方で、それ以外の部分は(想定交戦距離の延伸を含めた場合)自艦主砲程度に留まっている部分も見受けられる。
そしてこの時期の戦艦という物は、旧式戦艦であっても12インチより口径の大きい砲を持つ物で主流であり、その中で不足している面も否めない。
なお当時は巡洋艦キラー的な要素を持つ大型巡洋艦、もしくは主砲口径を抑えた高速戦艦と言うべき艦が登場していた時期だが、これらの艦とは速力が違いすぎるので戦闘は考えづらい。
そして防御面以上に厳しい状況なのが攻撃面である。本級のこの分野は多くの問題を抱えており、一定の改装を受けた戦艦相手には大きく不利に働くだろう。
その問題というのは主砲口径が単純に12インチと小さいのに加え、以下の三点を挙げる事ができる。
一つは最大射程が22kmのままに留まっている点。いくら実戦では遠距離砲撃の命中確率は低いとはいえ、さすがに不足すると思われる。
二つ目は砲弾が(アラスカ級が搭載した12インチ砲弾とは違い)旧式である点。一応炸薬は鈍感なD爆薬、信管も他の艦と同じ有効な遅動信管である事から、装甲を抜いて重要区画に達する最低限の能力を持つと思われる物である。
しかし炸薬量が弾重の2.9%と大きくその分弾殻が薄い物であり、加えて被帽の形状は一次大戦期の他砲弾とも少し異なる形だが、とにかく先鋭で斜撃にまったく適さない形状をしている。
最後は主砲の指揮装置が二次大戦期の米戦艦としては唯一、ほぼ一次大戦後の物から更新されずに旧式のまま(レーダーの追加などはあるがこれも性能には限界が)である点。
実戦ではデータの伝達に使うステップモーターが頻繁に脱調を起こし、まともに機能しなくなると報告されており、射撃盤も老朽化で信頼性を失っている様な状態で、最後まで艦歴を終えている。
以上のように、一応大口径砲とそれなりの防御力を持つ事から、陸上砲撃艦としては一定の価値を有すると思われるが、戦艦の本分である水上戦闘では他の自国艦はもちろん、他国改装戦艦相手にも劣る面が多いと言わざるを得ない。
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レーダーと水上射撃について
英戦艦編の時点で書くべきかもしれない上にそもそも詳しくは書けない内容だが、二次大戦期の米戦艦が搭載していた主砲射撃用のレーダーの扱いついて補足したい。
この時期の米海軍が有する水上射撃に用いるレーダーには、主にマーク3、マーク8、マーク13の三種類が存在した。
最初のマーク3は主にソロモン戦時までの主力であり、この時点で精度等の性能は日本の22号等より上だが、距離並びに方位の分解能という点で弾着観測に用いるのは難しく、単体での射撃管制には向かない物である。
それに対して大戦後期に登場したマーク8とマーク13については、一応弾着観測にも使えなくはない程度の分解能を持つなど、より実用的な射撃管制が可能な物である。
ただしそれらの後期型であっても、視界良好な日中では光学射撃を完全に置き換える性能には至らないという事で、あくまで理想的な昼間の砲戦を前提とする本ページにおいて、射撃用レーダーはそこまで重要なファクターにはならないという扱いで語っていきたい。
もちろんスリガオ海峡でマーク8搭載艦以外がまともに砲撃出来なかった例のように、夜戦を含む視界不良時などより実戦的な特定の環境下では、射撃用レーダーの有無や性能で砲戦能力に差が生まれる事も普通にあるはずである。
ただし何度も言うように、その点は基本的に置いておく物として進めていきたい。(また夜戦の場合、戦術的に射撃用より重要なのは警戒レーダーの有無という事になってくるが、そういう所まで話を広げる余裕と知識もないので)
最後に終戦時までにマーク8以降の実用的な射撃レーダーを搭載したのは、新戦艦に加えて改装戦艦ではペンシルヴァニア、アイダホ、テネシー級、コロラド級(メリーランドはなぜか後部のみ)が該当する。
つまりこれ以外の艦、真珠湾で戦没した2隻は当然として、アーカンソー、ニューヨーク級、ネヴァダ、ニューメキシコとミシシッピ(この2隻は終戦時マーク27搭載)については、特定の条件下では上記の艦に対して砲戦能力に遜色がある可能性は否定できない。
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ニューヨーク級戦艦(改装後)
1911年起工 1914~46年就 25~26年改装
174.7m 26,913t 45口径14インチマーク8/9/10及び12 連装5基10門 21ノット
装甲厚
垂直装甲 305mm classA → 19mm
砲塔前楯 356mm classA 傾斜約48度内傾
バーベット(露出部) 305mm classA
バーベット(艦内部) 279~229mm classA → 127mm classA
水平装甲(弾薬庫) 44mmSTS×2 +13mmSTS×2 → 38mmSTS+13mmMS ≒ 120/98mmSTS旧
水平装甲(機関部) 44mmSTS+44mmNS+17mmSTS+8mmMS(機械室は17mmSTSなし) → 38mmSTS+13mmMS ≒ 109/94mmSTS旧~98/82mmSTS旧 94 82
砲塔天蓋 102mmSTS+44mmSTS微傾斜 ≒ 135mmSTS
上部装甲帯→甲板 部分的にあり
上部装甲帯→傾斜部 なし
装甲部位\艦砲 | 8インチ | 28cm | 41年式36cm | 14インチマーク7 | 15インチ | 16インチ | 46cm |
垂直装甲 | 6km以遠 | 18km以遠 | 21km以遠 | 26km以遠 | 29.5km以遠 | 31.5km以遠 | 38.5km以遠 |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 貫通不能 | 32.5kmまで | 26.5kmまで | 4km以遠 15kmまで |
安全距離なし | 安全距離なし |
バーベット(露出部) |
4.5km以遠 (6km以遠) |
15.5km以遠 (18km以遠) |
18.5km以遠 (21km以遠) |
22.5km以遠 (26km以遠) |
27km以遠 (29.5km以遠) |
28.5km以遠 (31.5km以遠) |
35.5km以遠 (38.5km以遠) |
バーベット(艦内部) | 1km ~貫通不能 |
11km ~14km以遠 |
15km ~18.5km以遠 |
16.5km ~20.5km以遠 |
20km ~25.5km以遠 |
23km ~27.5km以遠 |
35.5km ~安全距離なし |
水平装甲(弾薬庫) | 貫通不能 | 32kmまで | 26kmまで | 25kmまで | 25kmまで | 21kmまで | 17kmまで |
水平装甲(機関部) | 29kmまで | 30.5kmまで | 23kmまで | 21.5kmまで | 20.5kmまで | 20kmまで | 15.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 33kmまで | 27.5kmまで | 26.5kmまで | 26.5kmまで | 26.5kmまで | 25.5kmまで |
垂直装甲(30度) | 1km以遠 | 12.5km以遠 | 15.5km以遠 | 20.5km以遠 | 23km以遠 | 25.5km以遠 | 35.5km以遠 |
次のニューヨーク級は1914年に2隻が竣工。米海軍最初のいわゆる超弩級戦艦であると同時に、次級以降の標準型戦艦で大きな変革を迎える米戦艦にとっては、デラウェア級より続いた従来型戦艦の最終世代とも言える艦である。
なお各要素については前級から受け継いだ物も多く、防御面の改装内容もほぼ同じであるので、本級の解説はなるべく簡単にいきたい。
・竣工時の概要と防御面
本級は前級をベースとした平甲板型の船体を持ち、常備排水量で2万7千トンと若干大型化。主砲は一歩進んだ45口径14インチ砲を今度こそ採用している。
配置は同砲を連装砲塔に収め、前後部でそれぞれ2基ずつ背負い配置を取るのに加え、後部艦橋の後ろ(艦内部で言うと缶室後方の発電機室と機械室の間)にも1基を置き、計5基10門を搭載した。
またこの主砲塔は砲弾の収納場所に特徴を持つ物である。前級の時点で砲室内に多めの即応砲弾置き場を設ける事があったが、本級は別の場所として一部を砲塔旋回部に縦置き(それも弾頭部を下に!)で収めている。
これは後の米砲塔に受け継がれる要素であり、誘爆しにくい砲弾の一部をそこに置く事で、重要区画内での弾庫の容積を節約し、その分の重量軽減に繋げている。
また副兵装は同等だが、主砲以外でもう一つ大きな変更点は機関である。本級は最大速力こそ変わらないが、ノースダコタでの直結タービンの燃費の悪さが嫌われた為、再びレシプロ機関が採用された。
防御面については、装甲配置は特に前級と変わらない物で、その中で一部部位が増厚している。
該当箇所は主装甲帯とバーベットが12インチに、砲塔前盾が14インチ、天蓋4インチに、艦尾装甲帯が6インチなどに強化された。また図面を見ると砲塔前盾の深い傾斜角も特徴的だが、写真ではそこまで深く見えない点も。
なお計画段階では、水平装甲を二層式にしたり、主装甲帯+上部装甲帯の組み合わせではなく主装甲帯のみを設ける形であったりと、装甲配置を大きく改正する提案もこの時点でなされていた。
これらの要素は本級には反映されなかったが、次級ネヴァダ級で大きく発展していく事になる。
・一次大戦期の評価(一次大戦期の米徹甲弾についても)
まず防御面は前級の防御様式を受け継ぎつつ一部が強化され、主な部位は同時期の各国戦艦、初期の超弩級艦の中でも平均的か一部は若干上回る程度の厚さを持つ。
本級も機関部の水平装甲が一層式である点は引き続き不安な点だが、その一方で砲塔装甲が天蓋含め強化された点は、この時代の戦場において大きな改善点と思われる。
続いて攻撃面では、14インチ砲の採用で砲弾重量が1.5倍以上になったのに加え、10門という門数から投射重量でも前級を上回る。なお最大射程は21kmと若干減少しているものの、大口径化は遠距離砲戦時の弾道性能でも有利である。
一方で装甲目標への威力を左右する徹甲弾の性能については、この時期らしく戦間期以降の物と比較すると不完全な物であった。
この部分は「戦艦の使用砲弾に関するメモ」でも扱っているがここでも少し。中でも実戦的な環境で装甲を損傷せずに貫通し、重要区画内に損傷を与える際に重要な点である、斜撃性能と自爆防止という2点について見ていきたい。
まず前者について米海軍は一次大戦前の時点で必要性を認識し始めており、一次大戦期の徹甲弾は撃角10度での命中に耐える事を目標に設定。実際のところ試験の結果では15度程度までは対応可能だったともされる。
これは撃角0度の正撃を前提としていた結果ユトランド等で悲惨な成績だった英海軍の物よりは優れるが、実戦ではそれ以上の角度が付く事も珍しくはないという風に限界がある物であった。
そして自爆防止については、米徹甲弾はこの時期から鈍感なD爆薬を用いた点が特徴である。高い威力と鈍感さを両立した炸薬の使用は、自爆防止の面で重要な一歩であり、これまた英徹甲弾などピクリン酸系統の物を用いた砲弾に対して優位な点となる。
しかし当時の実験では普通に自爆防止は不完全だとされており、信管も艦の奥まで達する為の遅動信管を用いていたが、その性能も不安定な物であった。
以上のように、当時の米砲弾は徹甲弾に求められる能力において不完全な面が存在した。その一方で他国の徹甲弾も大多数がそのレベルであったので、実戦で致命的な不利という訳にもならないだろう。
最後にこの時期の本級は、元祖である英13.5インチ砲艦や、一部部位の装甲が薄いが砲門数で上回る扶桑型と言った超弩級艦、そして口径で劣るが一部の装甲が厚く徹甲弾の性能で勝る独12インチ砲艦などと比較出来る存在である。
実戦となると特に英独相手の遠距離砲戦での不利がどこまで足を引っ張るか、というのがこの時期の宿命になる。しかし比較的近距離かつ、性能的に不完全もしくは破壊効果不足の徹甲弾による削り合いになった場合、投射重量的に本級も負けてない部分があるだろう。
・それ以降の改装
本級も竣工後の副兵装改変、20年代の大改装、開戦後の対空強化等が行われていて、内容は基本的に前級に準じた物なのでその点は割愛したい。
異なる点としては、まず大改装の時点で前部艦橋も籠マストから三脚マストに換装。加えて重要な点として主砲指揮装置の更新も行われている。
他にはレシプロ機関の信頼性悪化からタービンに換装する計画も存在したが、結局最後まで実行されていない。
防御面の改装も基本的に前級に準ずる。ただし機関室上の中甲板に追加された装甲は若干こちらの方が薄い物に。
なお前級の解説で述べたように、本級は下甲板上に設けられたプロッティングルームの防御の為、一段上の甲板強化を必要とした。(ここだけボックス装甲を設けるのは垂直装甲の強化がワシントン条約で禁止されていたので不可能)
・表の結果とそれ以外の解説等
ここは本当に簡単に行くとして、竣工時に増厚した垂直装甲やバーベットと言った部位は、この時期の14インチ砲にもある程度対応した安全距離に。
そして興味深いのは砲塔前盾で、この部分は45度以上の深い傾斜の為、一定距離以遠から貫通され始めるという結果が一部の砲で見られた。
水平装甲は薄めの機関部が大改装を受けた米戦艦の中ではやや弱体か。一方で砲塔天蓋は元の厚さもあって改装後も一定の防御力を持つ結果に。
また表以外の部分の評価もほぼ前級と同じなのでそちらを参照。
・まとめと比較
まず防御面は一部不十分な部分もあるものの、この時代の14インチ砲に対してある程度対応した物となった。
この時代の装甲の追加を行った艦としては、以降の米標準型には劣るのは仕方ないとして、それでも他国の14インチ砲艦級の改装艦とは比較できる範囲である。
そして全体的な評価を考える場合に重要なのは、前級と比較した場合の攻撃面での改善だろう。
本級が用いる14インチ徹甲弾は、戦時中まで更新が続けられた最新の物を使用可能で、これは各国砲弾の中でも時に斜撃性能等が高い水準にある優れた物である。
指揮装置の面では、前級で深刻な問題を引き起こした伝達システムを大改装の時点で以降の艦と同じセルシン式に改めているのが大きい。
その他は新戦艦等が持つ最新の物と比較すると遜色が見られる(なお旧式の射撃盤は特に陸上射撃時に近距離での精度が問題とされた)ものの、最大の問題が解消された点から、水上砲戦で前級程の致命的な不利にはならないと思われる。
また当時の米戦艦は、長年の課題だった過大な散布界の問題をようやく改善する事に成功していたのも重要な点である。
ただし欠点も一つ残されており、改装時に最大仰角の引き上げを行わず最大射程は仰角15度で21kmのままである。(30度になったという説もあるが 戦時中作成された砲架カタログでは15度のまま)
ワシントン条約下での仰角の引き上げは以降の米戦艦含め各国で行われた事だが、改装に関する規定には砲架の形式も変更禁止とあり、締結後間もない時期に仰角引き上げはこれに該当するのでは、と英国の間で議論になっていた。
その為に大改装では見送られ、以降もそのままになった物と思われる。
結局結構な文字数になってしまったが、最後にこれらの点を踏まえて、仮想敵でもある扶桑型との比較を行いたい。
防御面では両者とも大きな差はなく、お互いに弱点も抱えつつ主要な部位では一部本級が勝る。そして攻撃面では主砲門数で本級は劣るが、徹甲弾の性能含めた装甲への威力ではやや勝る面が考えられる。という風に総合的に十分戦える範囲にあるだろう。
ただしこれは本級の射程を無視した場合であり、本級は速力面での不利から交戦距離を選べない点を含めて、遠距離砲戦主体になった場合は苦しい面もあるかもしれない。
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以下改稿予定
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米標準型戦艦
ネヴァダ級戦艦(改装後)
1912年起工 1916~46年就 29~30年改装
177.7m 29,000t 45口径14インチマーク8/9/10及び12 連装並びに三連装各2基10門 20ノット
装甲厚
垂直装甲 343mm classA+21mmMS → 13mmSTS+38mmSTS 傾斜45度内傾
砲塔前楯1 457mm classA 傾斜約42度内傾
砲塔前楯2 406mm classA 傾斜約42度内傾
バーベット 330mm classA
水平装甲 51mmSTS+32mmSTS+32mmNS+13mmMS → 25mmSTS+13mmMS ≒ 119/105mmSTS旧
砲塔天蓋 127mmSTS微傾斜
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 長船首楼型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲 | 4km以遠 | 14.5km以遠 | 17km以遠 |
21km以遠 | 25km以遠 | 26.5km以遠 | 33km以遠 |
砲塔前盾1 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 7km以遠 | 6.5km以遠 |
砲塔前盾2 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 30.5kmまで | 26.5kmまで | 安全距離なし | 安全距離なし |
バーベット | 3.5km以遠 (5km以遠) |
14km以遠 (16km以遠) |
16.5km以遠 (19km以遠) |
20km以遠 (23km以遠) |
24km以遠 (27.5km以遠) |
25.5km以遠 (29km以遠) |
32.5km以遠 (36km以遠) |
水平装甲 | 貫通不能 | 30kmまで | 24.5kmまで | 23.5kmまで | 23kmまで | 22.5kmまで | 18.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 32.5kmまで | 26.5kmまで | 26kmまで | 25.5kmまで | 25.5kmまで | 24.5kmまで |
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垂直装甲(30度) 貫通不能、7km以遠、10.5km以遠、15km以遠、18km以遠、20km以遠、25.5km以遠
次に扱うのは、第二次大戦期の米旧式戦艦の中心を成す標準型戦艦と呼ばれる戦艦群。
まずはその第一号であり、世界初の集中防御採用艦であるネヴァダ級について。
本級の設計は1910年頃よりスタートしている。
前級より14インチ砲を導入した米海軍は、サウスカロライナからワイオミング級の流れと同じく、14インチ砲の門数を増した戦艦の建造を予定していた。
そうして計画された初期案において、本級は14インチ砲を新開発の3連装砲塔に収め、4基12門を搭載する戦艦となる予定だった。
また装甲配置についても、既存の戦艦に指摘されていた欠陥を改めた新しい様式となっているが、これについては後述。
ところがこの案は装甲配置以前に装甲自体がやや薄く、(理論上は)50口径12インチ砲に対する防御力すら不足していた。
そこで装甲厚を増した案が複数検討されることになったが、予算の都合でニューヨーク級とあまり変わらない27,000t級が限界であり、これ以上の増加は許されない状況であった。
また、初期案の主砲配置はニューヨーク級の4番砲塔を取り除いたような形で、他国の戦艦では金剛やタイガーと同一の物になる。
デラウェアからニューヨークといった艦と同じく、3番砲塔は機関部に挟まれる形となるが、これに対する危険性が指摘された。
缶室と機械室を結ぶ蒸気管が弾薬庫近くを通る為、弾薬庫内の温度が上昇しすぎると言うものだ。
(実際デラウェア級においては装薬の品質に影響を与えるレベルでこの問題が発生していたと報告されている)
本級の主砲配置は、サウスカロライナ級と同じく艦の前後部に二基ずつ背負い配置する形が望ましいとされた。
そうして装甲厚の増強と主砲配置の変更による重量バランスの変化に気を遣いつつ、排水量27,000t台で8から12門の主砲を搭載する案が検討された結果、
最終的に砲門数を減らした10門案が選ばれ、これがネヴァダ級として建造される。
(この後も装甲に関する変更が行われるが、これについては下で)
まず本級の装甲配置については、1907年より行われた白色艦隊の世界一周航海、並びに同時期に開かれたニューポート会議での内容が影響している。
白色艦隊では舷側に並べられた副砲の配置問題(荒天時以外でもまともに使えない)や、背負い配置や二段砲塔艦の安定性不足などが指摘されるが、
既存の米戦艦は主装甲帯の深さが足りず、本来は水線下にある非装甲部分が満載時でもローリングによって露出してしまうと言う衝撃的な報告がなされている。
(他には艦首波がある分、艦首への被弾は浸水が起こりやすいから艦首の装甲範囲を増すべき、ともあったが特にネヴァダ級へは活かされていないようだ)
またニューポート会議では主装甲帯の深さ不足に加え、主装甲帯の上にある上部装甲帯も、戦艦主砲の徹甲弾に対しては信管を作動させることしかできず、 防御力は期待できないと指摘されるなど、
既存の戦艦の装甲配置そのものに批判が寄せられた。(また三番砲塔の問題もこの時点で確認されている)
これまでの戦艦の装甲配置は、水線付近への被弾は最も厚い主装甲帯で防ぎ、それよりも上への被弾は比較的薄い上部装甲帯と艦内部の水平装甲を組み合わせて防ぐと言うものである。
交戦距離の延伸と共に装甲帯ではなく甲板に直接砲弾が命中する可能性ができた事、その為水平装甲を強化する必要が生じた事は上で述べたと思う。
もう一つ本級の装甲配置につながる重要な要素は、ニューポート会議で指摘された、上部装甲帯と薄い甲板の組み合わせが徹甲弾の進歩により通用しなくなってきたと言う事だろう。
これらの対策の為、ネヴァダ級でとられた装甲配置について述べると、まず水線付近への被弾を防ぐために変わらず主装甲帯を持つが、それより上は装甲帯を設けずに非装甲とした。
そのかわり主装甲帯の高さは前級の二倍以上(2.4mから5.2mへ)に拡大し、装甲帯の範囲不足を防いでいる。
そして主装甲帯よりも上への被弾は、装甲帯の上端に接続する甲板、つまり既存の米戦艦の水平装甲よりも一段上の中甲板に、厚めの水平装甲を設けることで防ぐと言うものだ。
ニューヨーク級までの装甲配置(左)と本級・・・ではなく都合により次級ペンシルヴァニア級(右)の横断図を下に掲載しておく。
先述した通りニューヨーク級の装甲配置は改装により変化している為、図は共に竣工時のものとなる。
このネヴァダ級のように、「主装甲帯とその上端に接続する甲板に装甲を集中し、それ以外の舷側や甲板は非装甲もしくは弾片防御程度にとどめた装甲配置」を本ページでは「集中防御(様式)」と呼んでいる。
集中防御については一般的には艦首尾の装甲の有無についても判断基準となるが、これには例外が多い(各国戦艦の艦首・艦尾装甲についてはこのページを参照)
というか先述した通り、米戦艦の場合はサウスカロラナイナからニューヨーク級の時点で艦首装甲の大部分を廃しており、艦尾にはかなりの装甲が残る点を含め、本級もこの部位の配置はあまり変わらない。
その為本ページでは、あくまで重要区画の横断面の構造から集中防御を定義している事になる。
補足のページでも触れたように、この配置に似たものが80年代には存在し、米海軍では初期の戦艦であるテキサス・メインがこれにあたる。
しかし90年代以降材質の進歩と共に装甲範囲は増し、10年代には装甲帯が乾舷全体を覆う艦が一般的となる。
その中で登場したネヴァダ級は異色というか流れに逆行した配置を持つ艦であった。
(といっても、単に垂直装甲の高さが同じく中甲板までに限られる艦なら、コロッサスまでの英弩級艦やインディファティガブルまでの巡洋戦艦、フランスのリベルテ級など、本級の少し前にも一部存在した)
そんな中でユトランド海戦があり水平装甲が重要視され始めた事、さらに徹甲弾が進歩する中、より強力な装甲を限られた重量で捻出する必要から、他国でもネヴァダ級に類似した配置を採用する艦が主流となっていった。
いち早くこの装甲配置を取り入れた、もしくは再発見したと言うべき本級は、近代戦艦における装甲配置の発達を語る上で最も重要な艦の一つと言っても過言ではない。
ここまでネヴァダ級の装甲配置の素晴らしさについて語ってきたわけだが、上で触れた初期案などを見ると、実際に建造された最終案とはかなり違う点が見られる。
具体的に言うと、装甲配置は最終案に似るものの、水平装甲や主装甲帯の厚さはワイオミング級とあまり変わらずに強力とは言えない点、
また、主装甲帯は水線下の下部だけでなく上部でもテーパーしている(薄くなる)のが大きな違いである。
そして10門案においても、初期においては水平装甲が薄く、テーパー部分を残す点は変わらない。
この点については以前別ページの一部にまとめておいたので、そちらを参照してほしいが、一言で言うと前級の装甲配置からネヴァダ級へと進化する過渡期的段階にあると言える。
個人的な感想を言うと、管理人は竣工時の長門の装甲配置を見るたびに、なんでネヴァダ級みたいな完成した集中防御にならなかったんだと思っていた。しかし、これらのネヴァダ原案を見ると、米海軍でも完成した集中防御にたどり着くまでにいくつもの不完全な配置を検討していたことがわかり、妙に安心してしまった。
・・・その分フッドからL級に一気にとんだ英国が不気味に感じるようになったが。
ここからはいつも通り表の部位について
まず垂直装甲は前級よりも大幅に増し、343mmの表面硬化装甲を中甲板まで配置(バッキングは20.6mmの軟鋼)している。
上で述べたように元々は既存の戦艦の上部装甲帯のなごりか、装甲帯の上部がテーパーする構造になっていた(水線付近356mm、上部279mmまでテーパー)。
これは最厚部の防御力は上だが、上部の防御力で劣る事、そして主装甲帯とテーパーする上部装甲帯を別々に貼るのではなく、一枚板の装甲板が両端でテーパーする構造となる為、製造が難しく採用されなかった。
奥には下甲板の傾斜部が復活し、合計厚51mmの弾片防御として控える。
この垂直防御は、竣工当時の14インチ砲に対しては12km台まで耐えられるものと想定されていた。
先述したように当時の砲弾はある程度撃角が浅いと砕けやすく、横方向の角度が着く実戦において、自身の口径に匹敵するこの厚さの装甲を抜くにはもっと接近する必要があったと思われる。
同時期の戦艦と比較すると、一部のドイツ戦艦に僅かに劣るものの、最も優れていた艦の一つだと言える。
表は第二次大戦期の進歩した砲弾に対する物だが、ここでも各国の14インチ砲に対して20km付近の安全距離を持ち、交戦距離が増した状態では十分な防御力を維持している。
一方同時期の15・16インチ砲に対しては20km半ばで貫通され、流石に不足気味。
次に砲塔前盾だが、写真などを見ればわかるように、本級の砲塔は砲同士の間を狭くするなどかなり小型化が図られている。
その成果もあり、この部分の装甲は当時の戦艦の中でも飛びぬけて厚く、傾斜は何故か若干前級よりも浅くなったが、それでも42度と非常に深い。
当初は508mmにもなる予定だったらしいが、連装砲塔で406mm・三連装砲塔は457mmに抑えられた。
厚さの分装甲の品質が落ちていたことも予想されるが、それを無視して計算すると共に第二次大戦期の14インチ砲に対しては貫通されず。
それ以外の艦砲に対しても連装砲が一部艦砲に対し安全距離を持たない程度で、それでも竣工当時の14インチ砲に対しては過剰なまでの防御力といえる。
一方バーベットも330mmと順調に増厚。こちらも14インチ防御を維持していると言える。
本級のバーベット装甲は艦上にある砲塔から下甲板まで配置され、水平装甲がある中甲板より下は114mmとなっている。
表には含めなかったが、この部分に命中する為には中甲板の水平装甲か主装甲帯を貫通する必要がある為、そこまで防御力に問題はないだろう。
水平装甲については上で述べたとおり、装甲帯の上端に接続する中甲板にも水平装甲を設けている。
初期案では中甲板が合計38mm・下甲板合計38mmとなっていたが、これでは不十分と見なされた為中甲板の装甲は一気に合計76mmまで増厚した。
これは三枚重ねであるものの、均質装甲を含む事や合計厚を考えると、当時の戦艦で最も優れた物と言える。
装甲艦や初期の戦艦には76~63mm程度の甲板を持つ物もいるが、こちらは錬鉄に炭素鋼や高張力鋼、よくてニッケル鋼を複数重ね合わせたものである。
また、後にフッドや長門が本級に迫る甲板も備えているが、こちらも材質は高張力鋼の重ね合わせであり、本級が優れている。(尤も各甲板の合計厚ではフッドの弾薬庫が圧倒的)
このように優れた水平装甲を持つ本級だが、軍縮条約によって廃艦となったワシントン(コロラド級三番艦)を標的とした14インチ砲の砲撃試験により、今後の交戦距離では不十分だと見做されている。
戦間期の改装では中甲板に51mmの均質装甲が貼り足されている。表を見ると、よほどの遠距離砲撃以外なら耐えられる程度の水平装甲に強化された。
砲塔天蓋は127mmと竣工時より変わりはないが、改装後の甲板よりも防御力は上である。
まとめると、本級は装甲配置の革新性だけでなく、防御力そのものも第二次大戦期の旧式戦艦の中で優れており、多くの艦が搭載した14インチ砲に対しては、重要区画全体で有効な防御力を持っている。
14インチ砲に耐えられない部位が一部に存在する他国旧戦艦の多くに対して、本級は中距離での砲撃戦で大きな優位を持っていると言えるだろう。
(日本戦艦は垂直水平共に弾薬庫が大幅に強化されており、一部は本級を上回る艦も存在する。逆に言えば機関部のみを見ると長門型を含め本級が優位である)
尤も本級でも改装後の15インチ砲などには耐えられず、QE級やR級といった英旧式戦艦相手では火力面で不利である。同じ理由で長門型に対しても不利は免れない。
また日本の14インチ砲艦相手では速力差が影響する可能性もあるだろう。
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ペンシルヴァニア級戦艦(改装後)
1913~14年起工 1916~46年就 29~31年改装
185.4m 33,124t 45口径14インチマーク8/9/10及び12 三連装4基12門 21ノット
水平装甲 44mmSTS+32mmSTS+32mmNS+13mmMS → 25mmSTS+13mmMS ≒ 113/99mmSTS旧
水平装甲 | 29.5kmまで | 29.5kmまで | 23.5kmまで | 22.5kmまで | 21.5kmまで | 21kmまで | 17kmまで |
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ネヴァダ級の速力と防御力を受け継ぎ、より大型の船体を建造することが許されたため、今度こそ14インチ12門艦となったのがペンシルヴァニア級である。
竣工時の装甲を見ると、三連装砲のみを搭載する為、砲塔前盾はすべて457mmとなった。
改装後の防御力もネヴァダ級とほぼ同等だが、中甲板に貼り足された装甲は44mmと僅かに薄く、その分水平装甲では劣っている。
真珠湾攻撃でのアリゾナ爆沈について
同艦は真珠湾にて800kg徹甲爆弾を前部主砲塔付近に被弾、前部弾薬庫の誘爆を起こし着底している。この攻撃で着底した戦艦の中でも、損傷が激しく完全に喪われた二隻の内の一つになってしまった事で知られる。
戦中から戦後にかけて作成された各種報告書によると、最初に被害を受けたのは火薬庫内の黒色火薬庫で、主砲装薬庫に囲まれた位置にあるそこから被害が拡大した事で、火薬庫の大爆発を起こした可能性が高いとしている。
(なお黒色火薬庫はカタパルト用の黒色火薬ではなく(そもそも本級のカタパルトは無煙火薬使用)、主砲装薬に伝火薬として装着する物を別途保管する所である。また平時には礼砲用の空包もここに置かれている)
また上記でもう一つ興味深い点は、黒色火薬庫への被害発生のプロセスについて、確かな事は不明としつつも、爆弾は水平装甲を貫通しておらず、開いたままだったハッチから爆炎が黒色火薬庫に侵入した可能性を指摘している事である。
これについては事実である可能性もある一方で、喪失の責任を現場に押し付ける為に作られた結論という指摘も存在する。貫通を支持する意見には、弾薬庫のハッチは実際は平時より厳格に管理されている点に加え、やはり本級の水平装甲では800kg爆弾に耐えられない可能性が高いのが理由である。
同爆弾の貫通能力について考えると、日本側の試験では6インチの均質装甲を貫通可能としつつも、実戦での能力はこれよりも下であった可能性というのは確かに存在している。
真珠湾では他にも装甲部位ではウェストヴァージニアとテネシーの砲塔天蓋(共に5インチSTS)に命中していて、これを圧貫するも、砲室内に入った時点で弾体が損傷してしまい、不発化して本来の破壊効果を得られない結果に終わっているのがその一例である。
しかし本艦の場合は話が別で、4枚重ね合計厚4.75インチの中甲板装甲の実質防御力は、一枚板の5インチ天蓋よりもかなり下である。そこから爆弾は中甲板をある程度の形状と勢いを保ったまま貫通し、下甲板も破って重要区画内に突入するという形は十分に想定出来る。
そして砲塔とは違い、被害発生個所と指摘された黒色火薬庫は特にそうだが、火薬庫内部は高熱の弾片等が突入しただけでも引火誘爆のリスクがある場所である。
以上の点から、(弾体が完全なまま炸裂するような理想的な貫通だったかはともかく)徹甲爆弾が水平装甲を破って火薬庫内に損傷を与えた事が戦没原因であった可能性は十分あると考えるべきだろう。
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ニューメキシコ級戦艦(改装後)
1915年起工 1917~46年(56年)就 31~33年改装
190.2m 33,353t 50口径14インチマーク7及び11 三連装4基12門 22ノット
砲塔前盾 457mm classA 傾斜45度
水平装甲(弾薬庫) 51mmSTS+44mmSTS+44mmNS → 25mmSTS+13mmMS ≒ 128/115mmSTS新
水平装甲(機関部) 51mmSTS+44mmSTS+44mmNS → 32mmSTS+25mmSTS+13mmMS ≒ 141mmSTS新
砲塔天蓋 127mmSTS旧 傾斜約3度
砲塔前盾 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 3km以遠 | 1km以遠 26.5kmまで |
水平装甲(弾薬庫) | 貫通不能 | 32kmまで | 26.5kmまで | 25.5kmまで | 25.5kmまで | 26kmまで | 25kmまで |
水平装甲(機関部) | 貫通不能 | 34.5kmまで | 29kmまで | 28kmまで | 28kmまで | 28kmまで | 28.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 31kmまで | 25kmまで | 24.5kmまで | 24kmまで | 24kmまで | 22kmまで |
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続いて扱うのはニューメキシコ級。
米戦艦として初めて近代的な見た目をしたクリッパー型の艦首を備えた他、改装時には他の旧式戦艦が設けた三脚マストではなく、ネルソン風の塔型艦橋が設置されるなど外見上の特徴が多い。
その割には日本における人気は低いように(真珠湾にいなかったせいか、登場時期が中途半端だからか)思えるが、近年サービスを開始した某海戦ゲームではネヴァダやペンシルヴァニア、テネシーらを差し置いて登場。
標準型戦艦内での知名度並びに人気上昇が期待される。
個人的な感想は置いといて、本級の計画時にはすでに英国が15インチ砲艦の建造を進めているという情報もあり、当初は16インチ砲艦として設計されていた。
その際の計画案を見ると、速力21ノットで16インチ砲を10~6門搭載、多くの案で垂直装甲を中心に装甲厚を増している。
中には舷側483mm、砲塔前盾635mmというと言うものも存在するが、当時の技術で製造できたかは疑問。
それ以前に、これらの案は排水量が35,500tもしくは39,500tと前級よりもはるかに大型化し、予算の問題から採用されなかった。
また前級と同程度の船体に16インチ砲8門を搭載する案も存在したが、想定されていた交戦距離では14インチ12門で十分であるとされた点、
なにより16インチ砲の試験がまだ行われていなかった点から、こちらも見送られている。
こうして前級とあまり変わらない規模の14インチ砲艦となった本級だが、主砲は14インチ50口径砲を新たに搭載、火力面での向上を図っている。
装甲は基本的に前級と変わらないが、砲塔前盾や天蓋の角度が変化した他、水平装甲が強化されている。
中甲板は以前の戦艦が76mm(三枚重ね)だったのに対し、本級からは二枚重ねの合計88mmとなった。
当時の戦艦として頭一つ抜けた数字だが、これでも戦間期には不足とされ、改装時に強化が必要とされた。
まず中甲板にはネヴァダ級と同じく51mmのSTSを貼り足したが、元々の厚さが異なる点、改装時期的に貼り足された装甲も異なることから、こちらの方がより広い安全距離を持つ。
本級は米改装戦艦で唯一、機関部の下甲板にも32mmのSTSを貼っている。集中防御様式の艦がこの部位を改装で強化すると言うのは珍しい。
この機関部の水平装甲は弾薬庫を上回るものになった他、表では扱わないが垂直装甲→下甲板というルートの砲弾に対する防御力も上がっている。
基本的にはより優れた水平装甲により、遠距離のラッキーヒットで損傷する可能性が減った事に加え、50口径砲により垂直装甲に対する貫通力を増している。
この二つから前級よりも日本の14インチ砲艦に対する優位性は上だと思われる。
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テネシー級、ウエストヴァージニア(改装後)
テネシー 1916~17年起工 1920~47年就 42~43年改装
190.2m 34,858t 50口径14インチマーク7及び11 三連装4基12門 20.5ノット
ウェストヴァージニア 1920年起工 1923~47年就 42~43年改装
45口径16インチマーク5及び8 連装4基8門 20.5ノット
水平装甲(弾薬庫) 76mmSTS+44mmSTS+44mmNS → 25mmSTS+13mmMS ≒ 150/138mmSTS新
水平装甲(機関部) 51mmSTS+44mmSTS+44mmNS → 25mmSTS+13mmMS ≒ 128/115mmSTS新
砲塔天蓋 178mmSTS新 傾斜約4度(ウェストヴァージニアは0~4度)
水平装甲(弾薬庫) | 貫通不能 | 34kmまで | 28.5kmまで | 28kmまで | 28kmまで | 28kmまで | 28kmまで |
水平装甲(機関部) | 貫通不能 | 32kmまで | 26.5kmまで | 25.5kmまで | 25.5kmまで | 26kmまで | 25kmまで |
砲塔天蓋(テネシー) | 貫通不能 | 35kmまで | 28.5kmまで | 28.5kmまで | 28.5kmまで | 29kmまで | 29kmまで |
砲塔天蓋(WV) | 貫通不能 | 37km ~35kmまで |
31km ~28.5kmまで |
30km ~28.5kmまで |
貫通不能 ~28.5kmまで |
31km ~29kmまで |
31.5km ~29kmまで |
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次はテネシー級並びにコロラド級、共に真珠湾復帰後について
まずテネシー級は計画当初において、試作が完了した16インチ砲を8門もしくは10門搭載する戦艦が望ましいとされていた。
しかし8門艦は前級計画時と同じく、14インチ12門艦に比べそこまで優れていないと判断されたこと、10門艦は主砲配置が難航した事により実現せず。
(10門案ではニューヨーク級か、扶桑型の4番砲塔を抜いたような配置が検討されていたが、どちらも弾薬庫が機関部に挟まれる事から受けいれられず、
三連装砲塔の設計も行われていなかったので、ネヴァダ級の様に連装砲塔との混載で艦の前後部のみで10門とすることも出来なかった)
こうして基本的には前級をベースにした14インチ砲艦として建造されている。
次級コロラド級も14インチ砲艦となる計画も存在したが、日独伊など英国以外も15インチ以上の主砲を持つ艦の建造・計画を行っていること、
英国が18インチ砲(40口径)の開発に成功したとの情報から、ついにテネシー級をベースとした16インチ砲8門艦として計画される。
(砲塔天蓋の形状が微妙に変わった事以外で特に装甲に関する変化は無し)
途中ワシントン条約により3番艦ワシントンが廃棄されるも、日英を上回る3隻の保有が認められている。
(当初はメリーランドのみが保有される予定だったが、日本が陸奥の保有を主張したためコロラドとウェストヴァージニアを加えた3隻に)
テネシー並びにコロラド級の5隻は戦間期の米海軍にとって最新鋭の戦艦であり、ビッグ・ファイブの呼び名で国民に親しまれた。
またこの時期には籠マストの強度、耐荷重不足が問題となっており、この両クラスではマスト基部の下部艦橋が大型化している。
サウスカロライナ~ニューメキシコまでの籠マストは特に違和感を感じないが、なぜかこの艦橋は個人的には好きになれない。こんなと所で言っても仕方ないが。
戦間期には世界恐慌の影響により、他の旧式戦艦に比べ大規模な改装は行われなかった。(籠マストも残された)
この内テネシー級の2隻とウェスト・ヴァージニアは真珠湾での損傷より復帰する際に改装を行い、艦容を一変させている。
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ここからしばらく脱線
テネシー級の初期の計画案には全く新しい装甲配置を導入する案が存在する。
アイアンサイドやアイアンクラッド(装甲艦)式と呼ばれる装甲配置で、舷側装甲帯は水線下のわずかな範囲のみに配置、そのかわりに水平装甲として設けられた甲板の傾斜部が垂直装甲の大半を担っている。
甲板傾斜部は上にいくにつれ艦の中心線にむかって内傾する形で配置され、中甲板の水平部とともに台形上の装甲区画を艦内部におさめる形になる。
横断図から見た装甲区画の形は、モニターよりもヴァージニアなど南軍装甲艦のケースメイト部分に近い。
現代艦だとズムウォルトは傾斜が浅いので、インディペンデンスのヘリ甲板がある部分が近いか。
舷側装甲帯ではなく傾斜部を持つ甲板の装甲のみを用いた防御様式と言うものは、当時の防護巡洋艦と共通する物である。
ただし装甲が設けられる甲板の高さや傾斜部の範囲に違いがあり、こちらのほうが防御範囲は広い。
また傾斜部は厚さの違いから、装甲材質も異なる物だと予想される。
この装甲配置では装甲区画を縮小する事で重量軽減を狙っている他、45度で設けられた傾斜部は、比較的落角の浅い砲弾に対してはより薄い装甲でも効果的である。
しかしこの傾斜部は、後の戦艦が取り入れた傾斜装甲とは異なり内傾している。つまり砲弾の落角が大きくなればなるほど、逆に撃角は深くなり見かけの厚さが減ってしまうのだ。
これを防ぐためには単純に装甲厚を増せばいいわけだが、それでは重量面でのメリットは消失してしまう。
また垂直装甲を甲板傾斜部が担ったことにより、この装甲区画と船体外板の間には三角形の非装甲区画が生まれることになった。
その部位は比較的高い位置に存在する為、被弾時に浸水すると艦の安定性を著しく悪化させると判断された。
こうしてこの案は実現することはなかったが、戦艦において甲板傾斜部の装甲を強化する事で、垂直装甲の役割を持たせようとする試みは他国戦艦でも行われている。
ビスマルク級や長門型(改装後の弾薬庫)などがその例として挙げられるが、これらはあくまで舷側装甲帯を持ち、それを貫通した砲弾への防御として採用されたもので、傾斜部の範囲も異なる。
また第一次大戦期のロシアには、厚さ的に甲板傾斜部が防御の中心となる16インチ砲艦案が存在する。こちらは舷側にも薄い装甲帯を設ける点以外はアイアンサイド式との共通点も多い。
他には第一次大戦後にイギリスが計画した新型戦艦群も、甲板の傾斜部を垂直装甲として用いる形になっているが、あくまで装甲帯が垂直装甲の中心となった防御様式と言える。
この装甲配置の影響を受けたであろう金剛代艦(平賀案)や大和についても同じ。
(最初期に設計されたL・Kといった艦(L2/3やK2/3よりも一代前の物)は他の物よりも舷側装甲帯の範囲が狭く、このアイアンサイド式に似た点もある)
話を戻して、
現実の本級は前級とほぼ変わらない装甲を持つが、新しく多数の縦隔壁を設ける形の水雷防御を採用。
それによりネヴァダからニューメキシコ級にかけて設けられていた下甲板の傾斜部は廃され、同甲板は傾斜せずに装甲帯の中頃に接続している。
装甲帯の上部を貫通した砲弾は平坦な下甲板が、下部は縦隔壁群が弾片防御の代わりとなるとされ、垂直装甲はネヴァダ級と同等とみなされている。
水平装甲はニューメキシコ級に引き続き中甲板88mm(44mm2枚)下甲板38mm(25mm+13mm)の鋼材が設けられた。
本級の設計時には英国経由でユトランド海戦の情報が入ってきていたものの、特に強化されることはなかった。
それが戦間期では不足と考えられるようになったのも同じで、他の標準型戦艦と同じく改装による強化が予定されていたが大恐慌により行われず。
これにより竣工時のままの水平装甲で太平洋戦争を迎えることになった。
真珠湾後に改装を行った3隻は、中甲板に51mmもしくは76mmのSTSを貼り足し大幅に強化を行った。
共に16インチ砲に対応できる装甲だが、特に弾薬庫は標準型戦艦中最も優れた水平装甲となり、これはノースカロライナ級にも匹敵する。
テネシー級については14インチ砲艦である為、前級よりも遠距離での安全距離を増したこと以外はこのページ的にはあまり言うことはない。
一方ウェストヴァージニアは16インチ砲艦であり、その威力は14インチ砲を大きく上回るものである。
搭載主砲にくらべ垂直装甲がやや弱体だが、ネヴァダ級より変わらず14インチ砲には対応する物で、旧式戦艦相手なら十分優位に立てる。(16インチ砲艦は除く)
それでも新戦艦相手となると、KGV級の14インチ砲以外に対しては防御力不足である他、そもそもの速力差が大きく、戦うこと自体が難しいだろう。
コロラド級(除ウエストヴァージニア)
1917~19年起工 1921~47年就
190.2m 34,000t 45口径16インチマーク5及び8 連装4基8門 20ノット
水平装甲 44mmSTS+44mmNS→ 25mmSTS+13mmMS ≒ 94/78mmSTS旧
砲塔天蓋 127mmSTS旧 水平~傾斜4度
水平装甲 | 27kmまで | 26.5kmまで | 19.5kmまで | 18kmまで | 15.5kmまで | 14.5kmまで | 12.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 32.5km ~30.5kmまで |
26.5km ~24.5kmまで |
26km ~23.5kmまで |
25.5km ~23.5kmまで |
25.5km ~23kmまで |
24.5km ~21kmまで |
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ニューメキシコ~コロラド級の竣工時の水平装甲。残るコロラド級の二隻はこのままで艦歴を終えている。
この水平装甲と足の遅さではビッグセブン以外の改装戦艦相手でも不覚を取る可能性も否定できない。
ただし攻撃面では16インチ砲艦というのに加えて、指揮装置もウェストヴァージニアに近い内容の改装(マーク8レーダーの搭載は遅かったが)を受けており、改装戦艦の中ではトップクラスである。
上のレーダーの項でも述べた通り、状況によってはこの部分が重要になる事もあるだろう。
そして2隻とも戦後しばらくの間、ウェストヴァージニア、テネシー級と共にモスボール状態で予備役に留められている。この事からも水上戦闘ではなく陸上砲撃用の艦として考えた場合、ニューメキシコ以前の改装戦艦より上の戦力という見方も可能である。
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一次大戦後の未成・計画艦
サウスダコタ級(BB-49)
1920年起工 未完成
208.5m 41,400t 43,200t(常備) 50口径16インチマーク2及び3 三連装4基12門 23ノット
装甲厚
垂直装甲 343mm classA+21mmMS →10mmMS
砲塔前楯 457mm classA 傾斜約45度内傾
バーベット 343mm classA
水平装甲 44mmSTS+44mmNS→ 32mmSTS≒ 94/78mmSTS旧 78
砲塔天蓋 127mmSTS旧 水平~傾斜4度(推定)
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 長船首楼型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲 | 4km以遠 | 14.5km以遠 | 17km以遠 |
21km以遠 | 25km以遠 | 26.5km以遠 | 33km以遠 |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 3km以遠 | 1km以遠 26.5kmまで |
バーベット | 3km以遠 (4.5km以遠) |
13km以遠 (15km以遠) |
15.5km以遠 (18km以遠) |
19km以遠 (22km以遠) |
22.5km以遠 (26km以遠) |
24km以遠 (27.5km以遠) |
31km以遠 (34.5km以遠) |
水平装甲 | 27kmまで | 26.5kmまで | 19.5kmまで | 18kmまで | 15.5kmまで | 14.5kmまで | 12.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 32.5km ~30.5kmまで |
26.5km ~24.5kmまで |
26km ~23.5kmまで |
25.5km ~23.5kmまで |
25.5km ~23kmまで |
24.5km ~21kmまで |
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垂直装甲(30度) 貫通不能、7km以遠、10.5km以遠、15km以遠、18km以遠、20km以遠、25.5km以遠
1903年より米海軍は原則として、年に二隻の戦艦を起工させることを目標としていた。
これが達成された場合、1920年の時点で48隻の戦艦(既存のものを含む)を保有することになり、当時艦隊の拡張を続けていたドイツ海軍を上回る事を目標としたものである。
もちろん議会の反発も強く、このペースは維持できるものではなかった。
しかし第一次世界大戦が勃発すると、戦勝国側が戦後に勢力を増すことでアメリカの権益を巡りと対立するのでは、という懸念が広まっていく。
これに備えるために、遅れた分の戦艦建造を含めた大幅な海軍拡張計画が1916年に認められた。(日本では一般的に、当時の海軍長官の名前からダニエルズプランと呼ばれる事が多い)
この計画は3年で戦艦10隻、巡洋戦艦6隻の計16隻を起工する壮大な物で、コロラド級に続き18、19年に3隻づつ建造が認められたのがサウスダコタ級である。
結局第一次大戦は、アメリカの参戦もあり連合国が勝利。目標としていたドイツ海軍も実質消滅した。
一方で大戦中は補助艦の建造が優先された為戦艦の建造はずれ込み、本級は20年から21年に起工されている。
結果として太平洋の向こうで戦力の増強を図っていた日本海軍の計画(八八艦隊計画)と競合する事に。
新たな建艦競争による負担を危惧した各国首脳によりワシントン条約が締結され、未完成の主力艦である本級は一隻も完成することなく廃棄された。
スペックを見てみると、主砲はコロラド級の16インチ砲よりも強力な50口径16インチ砲を12門と多数装備し、速力も既存の戦艦を上回る23ノットを発揮。
一方で本級の主砲は距離18.3kmで標準型戦艦の垂直装甲を貫通可能と見積もられており、既存の交戦距離で戦うには垂直装甲の強化は必須とされた。
その内容は装甲配置を抜本的に見直すことを含め
・装甲配置はそのままに、主装甲帯を406mmに強化
・傾斜装甲の採用
・上で紹介したアイアンサイド式を採用
といった案が出されることとなったが、装甲厚を増すだけでは排水量に余裕がない点、装甲配置の改正も今後の主力となる艦に新機軸を盛り込むリスクを考慮し見送られた。
また水平装甲も、さらなる交戦距離の延伸で標準型戦艦のものでは不足するとされ、中甲板を合計127mm、砲塔天蓋を203mmに増強する提案がなされている。
しかしこちらも排水量に余裕がなく実現せず。
結局のところ本級は重要区画の防御に関してはテネシー・コロラド級と殆ど変らないものとなっている。
重要区画内ではバーベットが装甲帯と同じ343mmまで増厚したとされる他、弾片防御甲板である下甲板が二枚重ね38mmから一枚板32mmの鋼材に変更された。(後者の防御力は殆ど変らず)
表で扱う内容については既存の戦艦と同じなため特に触れることは無いが、やはり第二次大戦期の16インチ砲に対する防御としては不十分である(砲塔周辺を除く)。
重要区画外の防御は興味深い変化があり、艦尾は前級までに設けられていた装甲帯を廃し、傾斜部を持つ甲板のみに簡略化された。
一方で艦首については、半分ほどの長さで甲板一段分高さを減じた主装甲帯が続く形になり、上端には127mmの水平装甲が接続する。
船体防御としてはもちろん、主に正面を向けた状態での前部弾薬庫防御を含め、こちらは大幅に強化された。
仮想敵との比較を行うと、日本の加賀型戦艦(五号徹甲弾使用)に対しては、単純な火力では本級が有利であるが、以前の日本戦艦対標準型のような防御力の差はなく、むしろ水平装甲では劣る。
さらに速力もこちらが劣るので、遠距離戦を中心に結構難しい相手だと言える。
イギリスのN3級が相手となると、さらに厳しい戦いになるだろう。
上の垂直406mm水平127mmという装甲強化案を実行した場合の装甲厚だが、実は日本海軍はこれを本級の計画値として入手していた。
排水量的にあり得ないと冷静な判断がなされるが、一部の海軍上層部の顔を青くさせたほか、加賀型を上回る戦艦の設計に影響を与えている。
:
改サウスダコタ級
計画のみ
211.8m若しくは216.4m 45,000t若しくは50,000t(共に常備) 48口径18インチ砲8~10門 23ノット
三年計画終了後の海軍拡張計画で建造が予想されるのが、サウスダコタをベースにした新型戦艦である。
速力や装甲厚は殆どサウスダコタと変わりはないが、主砲として新開発の18インチ砲を搭載する予定だった。
搭載数は8~10門とされるが、サイズの問題で三連装砲塔が搭載できない点から、10門案はニューヨーク級や加賀型のような配置になっていただろう。
以前の16インチ砲艦案においてP砲塔を設けることに拒否感を示している所を見ると、結局8門案に落ち着いたのではと思うのだが、妄想に過ぎないのでここら辺で。
搭載主砲は砲弾重量が1315kgと18インチ砲の割に軽めだが、823m/sと高初速で運用される。
垂直装甲に対する貫通力は日英18インチ砲(こちらも大和やフューリアスよりも軽い砲弾を使用予定)に負けないものだっただろう。
火力面では互角以上の物を持つが、ネックとなるのが装甲で、砲塔周辺を除きサウスダコタ級より変化はない。
つまり重要区画を守る主要な区画はコロラドやテネシーと変わらないと言うことで(舷側装甲帯に限ればネヴァダ級より変わらず)、
イギリスのN3級はもちろん 日本の13号艦にも劣る。
そして速力も23ノットと、13号艦には大きく劣りN3級に対しても優位はない。
比較対象となるN3級や13号艦は、条約抜きにしても建造できたのかは少々怪しい面もある。
(財政的な問題の他、そもそも13号艦は詳細設計前に計画消滅、N3級も設計案として承認されたわけでない)
一方で本案は18インチ砲の試作に既に成功しており、サウスダコタの砲塔換装版としての建造は十分可能。実現性と言う意味では両者を上回る。
しかし仮に建造できたとして比較するならば、個艦における優位性と言う意味では本案は厳しい立ち位置にあったと言えるだろう。
:
レキシントン級巡洋戦艦
1920~21年起工 戦艦としては未完成
266.5m 43,500t(常) 50口径16インチマーク2及び3 連装4基8門 33ノット
装甲厚
垂直装甲 178mm classA+19mmMS 傾斜11度 → 19mm
砲塔前盾 279mm 傾斜45度内傾(推定)
バーベット(露出部) 229mm classA
バーベット(艦内部) 38mm → ?
水平装甲 38mmSTS+19mmSTS → 32mmSTS+19mmSTS ≒ 80/52mmSTS旧
砲塔天蓋 127mmSTS旧 水平~傾斜4度
上部外殻→甲板 あり
上部外殻→傾斜部 なし
船体 長船首楼型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲 | 12.5km以遠 | 26km以遠 | 29km以遠 |
30km以遠 | 安全距離なし | 安全距離なし | 39km以遠 |
砲塔前盾 | 1km以遠 | 6km以遠 35kmまで |
安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし |
バーベット | 9km以遠 (10.5km以遠) |
22.5km以遠 (25.5km以遠) |
27.5km以遠 (30km以遠) |
30.5km以遠 (32km以遠) |
安全距離なし | 安全距離なし | 40km以遠 (安全距離なし) |
水平装甲 | 26kmまで | 27kmまで | 20.5kmまで | 18.5kmまで | 17kmまで | 9.5kmまで | 8.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 32.5km ~30.5kmまで |
26.5km ~24.5kmまで |
26km ~23.5kmまで |
25.5km ~23.5kmまで |
25.5km ~23kmまで |
24.5km ~21kmまで |
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垂直装甲(30度) 10km以遠、22km以遠、27km以遠、27km以遠、29.5km以遠、31.5km以遠、37km以遠
ネヴァダ級で世界に先駆けて戦艦に集中防御を導入したアメリカ海軍だが、初の巡洋戦艦となる本級に於いてはまた異なる装甲配置がとられていたようだ。
本級の装甲配置を見て行くと、艦型は長船首楼で、甲板は船首楼から下甲板までと標準型と変わらない。
装甲帯はやや薄めの主装甲帯を中甲板までの高さに配置、それより上部の乾舷には38mmと、弾片防御程度の外殻を持つのみである。
垂直装甲はネヴァダ級などの集中防御採用艦と同じ配置であるが、水平装甲の配置が大きく異なる。
それらの艦が主装甲帯の上端(中甲板)に集中的に水平装甲を持つのに対し、本級の水平装甲は主に外殻の上端の高さにある船首楼甲板と主装甲帯の中ごろに接続する下甲板の二か所に配置されている。
つまり補足のページで言う水平装甲の集中がなく、集このページでの定義からは外れる艦となる。
このような配置になった理由については、本級に至る設計案と比較しながら考えていきたいが、まずは表の方の解説を。
いつも通り垂直装甲から見て行くと、先述した通り主装甲帯とその上の薄い外殻からなっている。この装甲配置では外殻への命中弾についても考える必要があるが、これは後回し。
主装甲帯は178mmのクラスAアーマーを傾斜11度で配置、バッキングは19mmの(恐らく)軟鋼からなる。
アメリカの戦艦・巡洋戦艦で初めて傾斜装甲を採用した艦となるが、やはり装甲の薄さが目立つ。
設計時には傾斜により厚さ9インチ相当の防御力を持つとされたが、これでも重装甲化が進んできた他国巡洋戦艦と比べると薄いことは否めない。
第一次大戦時の例から考えると、この厚さではドイツ巡戦の11・12インチ砲に対しては横方向の角度が付けばある程度耐えることが可能だが、無い場合は主要な交戦距離で貫通される恐れあり。
同時期の日英の14インチ、13.5インチ砲は撃角が浅い状態で命中した時、砲弾が砕けやすい
欠点を持つが、深い時の貫通力はドイツ11・12インチ砲以上である。
また傾斜装甲で撃角を浅く出来るといっても、13.5インチクラスの砲弾を砕くには本級の装甲厚では少々薄すぎて、有効な場面は限られるだろう。
本級の竣工時期には、ドイツでは35cmや38cm砲を搭載した新型巡洋戦艦、日英では砲弾の改正を行った他、16インチ砲艦の登場も予想される。
この部分は第一次大戦期の巡洋戦艦相手なら許容範囲と言える防御力だが、この時期では有効でないことは明らかである。
表の方を見ても、第二次大戦期の艦砲に対しては有効な安全距離を持たない。
それでも巡洋艦の8インチ砲に対しては、戦艦の交戦距離で貫通される可能性はさすがに低いだろう。
砲塔前盾は279mmと米戦艦基準では非常に薄く、こちらも第二次大戦期の艦砲に対しては無力である。
ただし垂直装甲と比べると当時の戦艦・巡洋戦艦の中ではそこまで劣っているわけではない。(米標準型が厚すぎるだけとも言える)
一方バーベットについては一次大戦期の巡戦とあまり変わらず、同時期の巡戦と比べても普通に薄いと言える。
水平装甲は先述の2層の甲板からなる。船首楼甲板が38mm+19mmの合計57mm、下甲板が32mm+19mmの合計51mmで、これまでの戦艦と違いすべてSTSを使用している。
標準型戦艦と比べて下甲板が強化されている為、下甲板が機能する15インチ砲弾までに対しては、この二層を貫通するルートでの安全距離は互角かわずかに優れる物となっている。
ただ問題となるのが外殻への命中弾である。
詳しくはドイツ戦艦編のシャルンホルストの解説なども見てほしいが、ようは外殻へ命中した砲弾が船首楼甲板を経ずに直接下甲板に命中してしまう可能性がある。
一応本級の場合その部分への被弾を想定しているのか、中甲板の外縁部にのみ32mmの装甲が配置されている。
つまり装甲は38mm(垂直)→32mm→51mmとなるのだが、この場合の安全距離は25km/24.5km/14.5km/13km/12km/6km/5.5kmと、やはりかなり悪化ししまう。
この部分を含めた場合、戦艦主砲に対する防御としては標準型戦艦に劣ることは否めない。
まとめるのは難しいが、基本的に第二次大戦期の戦艦主砲に耐えられるものではない。(一方で竣工当時の艦砲なら、砲塔前盾は大幅に安全距離が増す可能性が高い)
それでも8インチ以下の艦砲に対しては有効であり、それらの艦砲を持つ艦を上回る装甲をもっている。
一応同時期の巡洋戦艦との比較をしてみると、フッドや天城型に装甲で勝る部分は特にない。
砲塔前盾のみ天城と同程度。機関部の水平装甲ではフッドを上回るが、外殻への被弾を考えると弾薬庫の差から平均ではフッドが上だろう。
そして20年代に対日戦が勃発する場合、本級は標準型を大きく上回る速力を持つ金剛型への対応が求められる。
金剛型(改装前)と比較すると、主装甲帯の最厚部、水平装甲・砲塔装甲と主要な部位の装甲で優れるが、こちらも外殻への被弾を考えると完全に勝っているとは言い切れない。
装甲以外の面を見ると、本級は元となる偵察巡洋艦計画の様な速力の優位はなくなってしまったが、その代わりに16インチ50口径という当時最高クラスの威力を持つ艦砲を搭載している。
一対一の戦いでこれらの艦を圧倒することも不可能ではないが、同時に被弾時には(当時の14インチ砲でも)重大な損傷を負う事を覚悟しなければならないだろう。
「(米戦艦への集中防御の導入について)艦ノ設計トシテハ其先見ノ明アリタルコトヲ多トス可シ。(略)然レ共、同ク米国ノ海軍ニ在リナガラニ巡洋戦艦ニ至リテハ不可思議ノ点無シトセズ」
とは本級に対し、当時の艦としては防御にも優れた高速戦艦である天城型を設計した平賀譲の言。もう少し詳しく載せると、
「傾斜式甲鈑ヲ採用セルモ、要スルニ水線甲帯七寸ニ過ギズ、甲板防禦ハ米国本来ノ主義ニ反シテ在来ノ英国式散在主義其儘ト言可キ頗ル不徹底ナル改良ニシテ如何ナル目的ヲ以テ此防禦ヲ設ケタルヤヲ解スルコト困難ナリ」とまで言われている。中々に酷評だが反論はできない。(カッコ内は欧米視察所見より一部改変)
確かに本級の防御様式については謎を残す形となっている。と言うことで、これから少し本級に至る米巡洋戦艦案について整理しながら、この件について考えてみたいと思う。
:
・その前に装甲巡洋艦について
そもそも一次大戦までの米海軍と言えば、標準型のように固く遅い艦が中心で、速力重視の巡洋戦艦とは相性が悪いようなイメージもあるが、巡洋戦艦の前進である装甲巡洋艦はそれなりに建造していた。
まず最初期の艦は米西戦争で活躍したニューヨークとブルックリンの二隻で、主兵装である8インチ砲を前者は6門、後者が8門と多めに搭載。
それを前方火力に優れるフランス艦風の菱形配置にしているのが特徴である。
両艦は装甲巡洋艦といっても装甲帯が守るのは船体中央部の機関部横のみで、弾薬庫を含んだそれ以外の区画は防護巡洋艦と同じく傾斜部を持つ水平装甲にのみで防御する方式を採用している。
傾斜部は最大6インチとすごく厚いので、当時の交戦距離や落角を考えると戦艦主砲でも抜くのは難しそうだが、舷側で砲弾を防げないと、重要区画外をやられて浮力を失いやすいのが欠点である。
竣工時期は日清戦争もあって、まさに中小口径速射砲の全盛期ともいえる時代であり、その環境での防御としてはあまりよくない点があったと言えるだろう。
(もちろん防護巡と比べると船体中央だけでも乾舷が防御されている分優位だが)
1905年より6隻が竣工するペンシルヴァニア級にて装甲帯は最大6インチ厚のコンプリートベルトとなり、乾舷の防御範囲を大きく増加させた。
また兵装にも変化が見られ、主砲が前後部に一基づつの計4門に減少したが、代わりに空いた舷側には多数の6インチ砲を並べる、仮想敵であった日本の六六艦隊艦風の艦影に。
そして翌年より米海軍最後の装甲巡洋艦となるテネシー級が竣工。
同級は装甲配置的には特に目立った点はないが(装甲帯が5インチに減厚した代わりに砲塔防御が強化)、主砲を強化。
8インチよりも一回り大きい10インチ砲を4門搭載し、他国で言うピサ級やリューリクのような火力強化の道を進んでいる。
ここまで順調に強化されてきた米装甲巡だが、この手の艦の宿命として高速発揮のための機関重量やスペースにより船体が大型化してコストがかかってしまう。
テネシーは22ノットと当時の戦艦に比べ4ノットほど優位だったが、排水量も1万5千トン付近と、すでにヴァージニア級など同時期の戦艦と大差ないレベルまで肥大化していた。
それに対して、この程度の速力のために装甲や主砲などが戦艦に大きく劣る艦を、戦艦並みのリソースを割いて建造するのは好ましくないという評価が主流となっていく。
その結果後続が計画されることはなく、英国やドイツのように装甲巡の強化から巡洋戦艦に発展することはなかった。
・1910年代の米偵察巡洋艦・巡洋戦艦案
米海軍初の巡洋戦艦案は1912年になってから提案されたもので、排水量42,250t、14インチ砲8門、垂直10インチ水平3インチ、速力29ノットという案が存在する。
弾薬庫の装甲配置はネヴァダ級に準ずるが、同時期の水雷戦艦案の一部の様に船体中央部では装甲区画の高さが緩やかに拡大しているのが特徴である。
この案は1914年度予算での建造を提案されていたが、戦艦整備が遅れていたため認められなかった。
本格的にレキシントン級につながる艦は1915年から研究が始まった偵察巡洋艦計画だろう。
既に英独を中心に多数の巡洋戦艦が保有される時代になっており、仮想敵である日本の金剛型はこの時代でも対策が必要な脅威であった。
ここで米海軍は、それらの艦と正面から戦闘を行う同系統の艦ではなく、極めて薄い装甲しか持たない代わりに、通常の巡洋戦艦を容易に振り切ることのできる35ノットの高速艦を求めている。
(この時点での各国巡洋戦艦は25~29ノット程度)
この研究では小さい物では排水量10.500tで6インチ砲10門を搭載する案から、大きい物では32,000t14インチ砲八門搭載する150案、
他にも16インチ若しくは14インチ砲4門を搭載するポケット戦艦のような案など多岐にわたるが、高速軽装甲と言う点は共通している。
装甲配置については大きく3つに分けられる
一つは「偵察巡洋艦」らしく装甲を全く持たないもの。
二つ目は最初期の装甲巡や後のオマハ級軽巡の様に機関部横のみに装甲帯を持つもの。水平装甲も装甲帯の上端に接続する甲板に施される。砲塔防御は初期の案にはないが126案以降で見られる。
三つ目は弾薬庫横を含めた重要区画全体が装甲区画内となり、砲塔にも装甲を持つもの。案によっては艦首艦尾にも装甲を持っている。
初期の案は1か2のみだったが、後の案では2(砲塔防御あり)若しくは3となり、146案以降は3のみになる。
なお2や3に分類できる案の装甲厚は水平装甲1.5~2インチ程度、垂直装甲は厚い物でも5インチ程度である。
垂直装甲の厚さを見ると、装甲巡の方のテネシー級と同じで、この時代の巡洋戦艦と比較すると薄いことは否めない。
ただし当初予定されていた偵察巡洋艦と言うよりも、装甲巡洋艦並みの装甲に大口径砲を搭載する艦、つまり初期の巡洋戦艦に近いコンセプトの艦に変化していったと考える事もできるだろう。
(唯一の例外が14インチ砲4門、25,000tの126案で、8インチと当時の巡洋戦艦と比べる事もできる厚さ。ただし装甲配置は2に当たり、弾薬庫横は非装甲となる)
同時期には上でも紹介したアイアンサイド式に似た装甲配置を持つ5万トン台の巡洋戦艦(高速戦艦)が研究されているが、特に進展しなかったようだ。
少し脱線して同案を紹介すると、一つは5月に作成された56,500t、16インチ砲8門搭載、29ノットの案である。
この案は船体中央部のみニューメキシコ級に準じた装甲配置となっており(装甲帯は13インチと0.5インチ薄い)、砲塔防御は同等。
機関部以外の船体全体がアイアンサイド式になっているが、テネシー級設計時に検討された物とは異なり、甲板の高さが一段低い下甲板となっている。
つまりアイアンサイド式と言うよりも、より装甲厚を増した防護巡洋艦に近い配置と言えるだろうか。
装甲厚は甲板平坦部5インチ、傾斜部8インチ(傾斜角は60度程度)、傾斜部の下端から続く(水線下の)装甲帯が10インチである。
なお翌月作例された52,000t、30ノットの案は、船体全体をこの装甲で守っている。
本筋の方に戻るとして、1916年には150案をベースにレキシントン級の初期案である169案が設計されている。
排水量33,250t、14インチ砲10門(連装と三連装の混載)35ノットと、より火力を強化した案になる。
装甲配置的にも3を受け継いだものになるが、機関配置の関係で新しい問題を抱える形となっている。
今までの案は戦艦主砲へは無力とはいえ、軽巡洋艦の6インチ砲程度の攻撃には耐えられるものだった。
それがこの案よりニューメキシコなどから米戦艦に採用されていたターボエレクトリック式推進を採用した結果、機関部の容積不足を解消する為に二段重ねの機関配置をとっている。
具体的に言えば、一部缶室が下甲板から船首楼甲板の間に配置された。
本案の持つ5インチの装甲帯は中甲板の高さまでしかないので、それよりも上の外板(1.5~2インチ厚)もしくは船首楼甲板(厚さ1インチ)に砲弾が命中すれば、6インチ砲弾でも損傷を受ける可能性が高い。
ちなみに、この特異な配置は後のサウスダコタ級(新戦艦の方)の初期案で再び検討された他、同時期のイタリア戦艦(と言っても論文の中に出てくる案らしいが)の中で見られる。
どちらも本案とは異なり、水平装甲を屈曲させるなどして上段のボイラー室の防御を試みている。
このような問題があった初期案だが、議会の承認を得て1917年度予算での建造が認められている。
しかし第一次大戦への米国の参戦とそれに伴う大型艦建造の遅延が本案にとっては救いとなり、再び設計の見直しが行わることになった。
機関技術の進歩で缶室の削減が可能になり、上記問題を解決した他、主砲は50口径16インチ砲、副砲に6インチ砲を採用するなどさらに火力を強化している。
なお、既にユトランド沖海戦の情報も入り始めていたが、装甲に関する大きな改正は行われていない。
それが大きく変わるのが1918年、英海軍のスタンリー・グドール(Stanley V. Goodall 後の英海軍造船局長)がユトランド海戦や最新鋭の巡洋戦艦であるフッドの詳細な情報をもたらした事による。
ユトランドの方はともかく、米海軍は次世代の高速戦艦ともいえるフッドの性能に感銘を受け、54,500tを上限とした新たな巡洋戦艦(高速戦艦)の研究を開始した。
ここではA~Dの4案が候補に挙がっているので、少し詳しく見て行こう。
詳しく見ていくなんて言っておいていきなりアレだが、A案については良く知らない。一応参考にした本だとサウスダコタ級の速力強化版だという。
調べてみると「A」と明記されていないが、排水量47,000tで、主砲や装甲はそのままに速力を25ノットとした案(資料番号s-584-146)も確認できるが、
この案の資料は1919年2月と他の案より少し遅い時期に作成されている。(さらに言うと、A案とはサウスダコタ級そのものであるとする記述もあったり)
B案は平甲板型の船体を持ち、排水量45,000t、16インチ砲を八門搭載し33ノットを発揮する案である。
装甲配置を見ると、まず中甲板までの高さに厚さ9インチの主装甲帯を持ち、それより上は非装甲となる。
水平装甲は上甲板と下甲板に2インチ、そして中甲板の外縁部のみに1.5インチの装甲を持つ。
その他部位の装甲厚は砲塔正面12インチ、天蓋4インチ、バーベット8インチなど。
防御力としてはライオン級など一次大戦期の英巡戦に匹敵する物となったが(装甲範囲を考えると上回るか)、いまだにフッドのような高速戦艦には劣る。
どうやら米海軍は、ユトランド海戦時のライオン級の被弾事例などから、初期案の5インチはさすがに薄すぎるが、 この程度の装甲なら十分通用すると考えていたようだ。
装甲配置の特徴として、これまでの水平装甲はすべて主装甲帯の上端に接続する甲板に設けられており、装甲厚は異なれど配置的にはネヴァダ級などの既存の戦艦と共通する物であった。
(1916年の初期案では、確認できるものは上段の缶室により下甲板以外の甲板が途切れているが、一応中甲板の外縁部が1.5インチと最も厚い)
それがこのB案より水平装甲は上甲板と下甲板の二層に分かれ配置され、中甲板には集中しない。上で説明したように最終案で採用される形になる。
上の解説でも触れたとおり、この配置では上部外殻→下甲板というルートが弱点となる可能性が生まれており、ネヴァダ級のような配置に比べて重要区画の防御に不都合な部分もある配置である。
続いてC案並びにD案で、こちらもサウスダコタ級を高速戦艦化したような案になる。
実はこの案はそれぞれ二種類ある。まずは民間人のジェームズ・ベイツによるC・D案について。
C案も平甲板型の船体を持つ、排水量54,500t、16インチ砲12門を搭載、速力30ノットの高速戦艦である。
サウスダコタ級と比較すると、垂直装甲は主装甲帯とバーベットが12インチ、砲塔前盾が16インチとより薄くなるが、配置としてはほぼ同じ形である。
一方水平装甲について、まず砲塔天蓋が6インチに増強されているが、それ以上に大きな変更点としては、このベイツC案においても装甲配置はB案と同じ配置を採用している。
なお装甲厚は上甲板の一部が3インチになった他はB案と同等である。
同じくベイツによるD案は、船体形状や排水量、武装などは同等で速力29ノットの案だが、垂直装甲の配置に驚くべき点が見られる。
ネヴァダ以降の米戦艦の垂直装甲は、中甲板よりも上を非装甲とするのが基本であり、最初の方で触れた1912年の巡洋戦艦案を除き本計画案でも同じ形になる。
それがこのD案では船体中央部に限り、主装甲帯の一段上、上甲板の高さまでにも装甲帯を持っている。
このように上部装甲帯を持つ配置は謂集中防御を採用しない艦にはよく見られるが、それらの艦の上部装甲帯は主装甲帯から幾分か減厚するのに対し、
本案の場合主装甲帯12インチに対し10インチとあまり減厚しないのが特徴となる。
水平装甲についてはC案と全く同じ。本案の場合は船体中央部で垂直装甲が上甲板まであるおかげで、上部外殻への被弾が弱点となる範囲は半分程になっている。
もう一組のC・D案は誰が担当したかと言うと、驚くべきことに先ほども登場した英海軍のグドール技官によるものだと言う。
要目はベイツによるC・D案と殆ど同じだが、C案が53,000t、D案が49,500tとやや軽いのが特徴となる。
他の相違点を挙げていくと、船体形状が長船首楼型である点、籠マストではなく三脚マストである点など英国風の艦容を持つと言う違いが見られる。
また装甲配置は船体形状が変わった都合で主装甲帯が上甲板まで、上部装甲帯が船首楼甲板までの高さになり、
水平装甲を持つ部位も船首楼甲板と中甲板、そして上甲板の外縁部と言う風に一段分ずれているが、配置としてはベイツD案とあまり変わらない。
他には両案とも(特にD案)ベイツ案に比べて、重要区画が全長に占める割合が短縮されているのも特徴だろう。
最後に装甲配置の相違点について、一つは上部装甲帯の厚さであり、ベイツ案の時点で厚めだったこの部位は本案にて1インチ増厚した11インチとなっている。
バッキングを含めた合計厚は主装甲帯と0.5インチしか差がなくなっている。もはや船体中央部では乾舷全体を主装甲帯相当の装甲が守る配置と考えることが出来るだろう。
もう一つは傾斜装甲の採用で、本巡洋戦艦計画では初めての採用となる。傾斜角は6度程と浅めだが、それでも同厚のベイツ案を上回ることは確実である。
最後に中甲板の水平装甲は、他の案とは違い、ニューメキシコ級以前の艦の様に傾斜部を伴って、主装甲帯の下端に接続している。
C・D案の様に面白い案が含まれる本研究だったが、結局は建造費の高騰等を指摘され、どの案も好ましくないと評価されている。
しかし、すでに1916年時の5インチ装甲を持つ案が時代遅れであることも認識され始めており、1919年には再び巡洋戦艦案の改正が行われる。
結局最後に選ばれたのはB案の改正版のB3案であり、傾斜装甲を採用することで防御力をそのままに装甲厚を減らすなどして、排水量を42.500tに抑えた案となる。
(他には長船首楼型へ船体が変更された他、細かい装甲厚の増減も見られる。)
と言うわけでレキシントン級がネヴァダ級などと異なる配置となった経緯について明らかにする為、これまで設計案についてその装甲配置を含めまとめてきた。
一応ここからが本題で、傾斜装甲を採用する点、水平装甲が主装甲帯の上端ではなく、上と下の二層に分かれて配置される事の二点について考えていきたい。
まず傾斜装甲については、1918年のB案から1919年のB3(最終案)への改正の際に盛り込まれている事が確認できる。
米海軍はサウスダコタ級の設計段階で傾斜装甲の導入を提案しているが、最も古い例では1915年の戦艦案で傾斜装甲を取り入れていると言う。
しかし、これらの案は上でも述べたようにリスクを考慮して見送られている。
結果として、巡洋戦艦案の中でも最初に傾斜装甲を採用したのは英海軍のグドールによるC・D案(1918)であり、同時期のA、B並びにベイツ案などが傾斜を持たない中、先行する形になる。
以下の点から、本級の計画時傾斜装甲の効果は米海軍でも知られていたが、採用に踏み切れない状態であった。
そんな中で1918年案のいずれもが採用されないとなった中、フッド並びにグドール技官の情報も後押しして、傾斜装甲によるB案の重量軽減を目指したという流れが推測できる。
(実際にグドールは1918年の3月に傾斜装甲の重要性について、米海軍艦船造修局へ説いていた事が記録に残されている)
次に水平装甲の件は、1916年までの案では見られず、1918年のB~D案(グドール案含む)確認できる。
その為、1916年初期案の缶室上段を守るために水平装甲を上下に分散した、と言う可能性はまずありえない。
フッド(最終案)の機関部水平装甲を見てみると、船首楼甲板2インチ、上甲板1~0.75インチ、中甲板2インチとなる。垂直装甲の配置ではだいぶ異なるが、水平装甲の配置や厚さはおおよそ一致する。
またフッドは重要区画を守る水平装甲の内、最も下にある甲板の外縁部が傾斜して弾片防御を形成しているが、本計画案案の内これを持つのはグドール案のみである。
ただ違う点もあり、これらの案の水平装甲の内、主装甲帯の上端に接続する甲板の外縁部が外殻への被弾を想定してか、やや厚めになっているのが特徴となるが、
フッドはそもそも乾舷全体を垂直装甲が覆っているので、このような特徴は見られない。(この点に関しては1916年初期案から受けついだものだろう)
しかし他国戦艦などと比較しても、近い水平装甲の配置を持つ艦はフッドぐらいしか無いのが現状であり、わざわざ優秀なネヴァダ式の水平装甲を捨ててまで採用したとなると、
よほど影響力の強かった艦と言う事になり、断言はできないがこちらもフッドではないかと予想するしかない。
また英海軍は1919年にグドールC・D案に近いと思われる戦艦案が存在しており。少なくとも当時の英海軍で好まれた配置が本級に受け継がれている可能性が高い
なお石橋孝夫氏の『世界の大艦巨砲』(光人社、2016年)では、平賀譲が1916年に設計した高速戦艦案を紹介している。
同書に掲載されたこの案の図を見ると、垂直装甲は中甲板まで、水平装甲は上甲板3インチ下甲板2インチの二層に分かれ、傾斜装甲を用いないこと以外はレキシントン級に非常に近い装甲配置となっているように見える。
非常に興味深い発見だと思ったが、平賀アーカイブで元資料と比較したところ、この図には誤りがあると判明。
元資料では3インチの水平装甲は中甲板にあり、装甲帯の上端に接続する、一般的なネヴァダ式の配置をとっている。
元資料は画質が悪い上に、別の要目含め一般的に上甲板とされる甲板をFlying deck、その一段下の甲板(このページで言う所の中甲板)をupper deckとしているように紛らわしい記述もあるので、間違えても仕方がないとは思うが・・・
先ほどA案ではないかとした資料番号s-584-146の案はサウスダコタ式(ネヴァダ式)の水平装甲だが、
一ヶ月後に作成されたs-584-147 では二層に分ける配置に変化しており、この点からも米海軍がこの方式の水平装甲に傾倒していったことがわかる。
ここで難しいのは、ネヴァダ式に変わって採用されたと言う事は、何らかの利点があったと言うことになるのだが、重要区画への防御としてはこれが全く思いつかない点である。
考えられる事としては、一部水平装甲の位置が高くなったことにより、威力が低めの砲弾や爆弾への防御範囲は増している他、
また当時の徹甲弾なら上甲板(若しくは船首楼甲板)で信管を作動させ、下甲板で受け止める方式の方が有効とされたのかもしれない。
結局は採用されなかったベイツD案やグドール案の二つやs-584-147では、船体中央部のみとはいえ乾舷全体を垂直装甲が覆っており、 外殻→下甲板のルートは限られる。
二層式の水平装甲は実はこのような艦で効果を発揮する配置として導入されたのが、結局は重量を節約した中甲板までしか装甲帯を持たない案が選ばれてしまったと言う流れも想像できるか。
調べてみると、どうやらグドールは1918年時点で、サウスダコタ式の水平装甲の場合、3.5インチ程度の厚さでは有効な防御力は期待できず、
装甲帯の上端の高さにある為、砲弾は直接この部分に命中してしまい、被害が発生する面積が広い、と言う点を問題にしていたようだ。
一方でC・D案の配置は高い位置まで装甲帯があり、下層の水平装甲はそれよりもだいぶ低い位置で、直接命中する確率は低い。
つまり多くの砲弾は砲弾は装甲帯に命中することになり、そこで防がれるか、破砕されて下甲板に受けとめられるとしている。
と言うことで、上の想像も半分は当たっているか。
なお英国戦艦編で述べたように、その後新型徹甲弾の実用化により、英海軍はこの方式の防御に限界があると判断。19年以降サウスダコタ級と共通する集中防御艦の計画に移っている。
それを考えると、米海軍も悪い時期に英海軍の範をとってしまった感があると思わざるを得ない。
といっても元から装甲に割ける重量が限られている事から、多少配置が違っても防御力は不足しただろう。
最後に、これ以降の戦艦研究では、サウスダコタ(テネシー)級の装甲配置をベースに採用している。
その為これら巡洋戦艦案の持つ水平装甲の特徴は、後の米戦艦案には見られない。
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第二次ロンドン条約前までの条約型戦艦研究
ワシントン条約では艦齢20年を超える主力艦の代艦建造を認めており、米海軍でもフロリダ級(1911年竣工)を代替えする艦の建造計画が存在した。
結局ロンドン条約により新造艦の建造はさらに五年延期。その後第二次ロンドン条約により定められた規定内にてノースカロライナ級戦艦を建造することになる。
今回はワシントン条約締結後から第二次ロンドン条約前の1934年までに研究された案について触れておく。
ワシントン条約にて、今後建造できる主力艦は基準排水量35,000t、主砲口径16インチ砲までと規定され、米海軍も基本的にこれを守る形で研究を進めている。
まず1924年、サウスダコタ級(基準排水量41,400t)を制限内に収めた場合、どのような艦になるかを推定している。
要目を見て行くと、主砲は変わらず16インチ50口径砲だが、門数は8もしくは10門へ、速力も標準型と同じ21ノットである。
防御力は水雷防御がやや簡略化した他、主装甲帯などが279mmにまで減厚している。
コロラド級が竣工時32,000t台であったことを考えると、装甲以外は順当な物と言えるだろう。
本格的な研究は1928年より始まる。
前年のジュネーヴ会議では英国が新造艦の制限をさらに強めること提案、のちに米海軍も30,000~25,000t程度の小型戦艦案を計画することになるが、この時点では35,000t案が中心となる。
まず主砲はサウスダコタ級と同じ16インチ50口径砲で、速力は21~23ノット、防御力は搭載主砲に16.5kmから25.5kmの範囲で安全距離を持つことなどの要求がなされている。
(すでに18インチ48口径砲を基に16インチ56口径砲が試作されていたが、砲身命数や重量そして製造済みの砲を流用できるという理由で50口径砲となった)
安全距離については、この時期の50口径砲は距離16.5kmでは445mm(45口径砲は424mm)の垂直装甲を貫通可能と見積もられており、既存の装甲厚ではとても達成出来るものではなかった。
当時(と言うより大戦中から条約前にかけて)英国や日本海軍では装甲帯に傾斜装甲を採用する事で対弾性能の向上を図っている。
米海軍もレキシントン級にて傾斜装甲を採用しているが、この時期の戦艦案には一向に見られず、装甲厚についてもむしろ既存の343mm以下の物が多いなど、垂直装甲は非常に弱体なものである。
どうやらこの頃の米海軍は、実戦で砲弾は射撃試験の様に敵艦に対しに90度で命中する可能性は低く、大体30度程角度がついて着弾するものと考えていたようだ。
つまり垂直装甲へ命中した砲弾は、落角に加え横方向の角度が加わることで、貫通力はより低いものになる。
たとえばサウスダコタ級の343mm装甲は当時の50口径砲に23kmから貫通されるが、横方向の角度が30度付くとその距離は21kmまで近づくことになる。
(30度斜撃ならもっと近距離まで耐えられる気もするが・・・)
このようにやや楽観的とも言える判断や、そもそもの排水量制限もあり、この時期の戦艦案は当時の16インチ砲(50・45口径)による正撃に対しては有効な安全距離を持たないものが殆どであった。
一方水平装甲も既存の物では不足しているが、こちらは角度で何とかできる物ではないので普通に増厚した。
この時期の戦艦案は、改装後のネヴァダのような三脚マストと主砲三基の前部集中配置と言う、ある意味ミスマッチな艦容をしたものが多い。
後期の案になると砲塔の前部集中はとられないが、装甲配置では装甲帯の高さを大幅に減らし、弾片防御甲板を廃して装甲甲板の厚さを増している。
つまり傾斜装甲を用いないと言う大きな違いはあるが、ネルソン級の装甲配置に近づいたものとなっている。
一方で翌年にはより斬新な設計案が登場する。
短戦艦案と呼ばれるこれらの案は、名前の通り船体サイズを今までにないほど切り詰めることで、排水量の軽減を狙っている。
この中のG案に至っては水線長161mで、竣工時のコロラド級(193m)や長門型(201m)と比べると非常に小型の船体を持つことがわかるだろう。
主砲は16インチ50口径砲を連装1基・三連装2基の計8門搭載、サウスダコタ級には劣るが現行の米戦艦を上回る火力である。
全長が短く寸詰まりな船体とななった分、機関出力の割に速力は20.5ノットと標準型と同程度に。(やや長い船体を持つ他の案では23~22ノット発揮する案も)
その代わりに装甲は厚く、垂直381mm、水平133mm(中甲板)38m(下甲板)とサウスダコタ級を上回るものとなっている。(装甲帯の高さはやや減少)
この場合垂直装甲は自艦主砲に対し20kmほどの安全距離を持ち、30度の角度をつけた場合は16.5kmという目標も達成できると思われる。
また本案の装甲配置で特徴的なのが装甲区画の長さであり、全長の八割近くに達する。
スケッチを見ると、弾薬庫や機関部と言ったの重要区画を収めているのはもちろん、一番砲塔~艦首までの長さの6割程まで装甲区画が続いている。
金剛代艦平賀案とは対照的なこの配置は、予備浮力にハンデを持つ小型の船体ゆえにより広い防御範囲が求められたからだ。
元々ネヴァダ級以降の米戦艦は集中防御の採用で知られるが、「船体を小型化した分、全長さに占める装甲範囲の割合が大きい」という点も特徴となる。
(一見集中防御と言う概念と反しているように見えるが、「All or Nothing」の内、Allが占める割合が広いだけと解釈するとなんら矛盾しない。またこのページ的には横方向の集中は関係ない)
本級はより小型の船体を持つ分、その特徴が最も現れた装甲配置を持つといえるだろう。
この装甲配置は先述したとおり艦首への直撃弾や至近弾を防御し浮力の維持に有効な他、
装甲区画を閉じる横隔壁が一番砲塔弾薬庫よりかなり前に移動した結果、この部位を抜いた砲弾が弾薬庫に達するのを防ぐ助けにもなるだろう。
速力に劣る本級が、接近しようと艦首を向けた状態での砲撃戦において有効である。
→各国戦艦の艦首装甲についてはここのページでまとめている
余談だが、これらの案の前部艦橋は前年の案の三脚マストから、ニューメキシコ(ネルソン)式の物が採用されている。
これらの案はロンドン条約により自然消滅する。しかし31年からは代艦建造の制限が解ける37年を見越した戦艦研究が早くも始まっている。
編集予定
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ノースカロライナ級戦艦
1937~38年起工 1941~47年(60年)就
222m 36,400t 45口径16インチマーク6 三連装3基9門 28ノット
装甲厚
垂直装甲(弾薬庫) 305mm classA+19mmSTS傾斜15度 → 51mmSTS傾斜約10度
垂直装甲(機関部) 305mm classA+19mmSTS傾斜15度
砲塔前盾 406mmclassB 傾斜41度(内傾)
バーベット 406mmclassA
水平装甲(弾薬庫) 38mmSTS → 91mm classB+36mmSTS→51mmSTS ≒ 157mm classB
水平装甲(機関部) 38mmSTS → 91mm classB+36mmSTS→16mmSTS ≒ 138/134mm classB
砲塔天蓋 178mmclassB
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲(弾薬庫) | 貫通不能 | 11.5km以遠 | 13.5km以遠 |
17.5km以遠 | 19.5km以遠 | 22.5km以遠 | 27km以遠 |
垂直装甲(機関部) | 2km以遠 | 13.5km以遠 | 15km以遠 | 18.5km以遠 | 20.5km以遠 | 24km以遠 | 28.5km以遠 |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 7.5km以遠 | 8.5km以遠 | 11.5km以遠 | 15.5km以遠 | 16.5km以遠 | 安全距離なし |
バーベット | 貫通不能 | 9km以遠 (11km以遠) |
11.5km以遠 (14km以遠) |
14.5km以遠 (17km以遠) |
18.5km以遠 (21.5km以遠) |
20km以遠 (23.5km以遠) |
25.5km以遠 (29km以遠) |
水平装甲(弾薬庫) | 貫通不能 | 35.5kmまで | 30kmまで | 29.5kmまで | 29.5kmまで | 29.5kmまで | 30kmまで |
水平装甲(機関部) | 貫通不能 | 34kmまで | 28kmまで | 27.5kmまで | 27.5kmまで | 28kmまで | 27.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 37kmまで | 31kmまで | 30kmまで | 貫通不能 | 31kmまで | 31.5kmまで |
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垂直装甲(機関部30度) 貫通不能、7.5km以遠、10km以遠、10km以遠、13km以遠、19km以遠、24km以遠
ようやく米海軍にとって最初の条約明け新戦艦となるノースカロライナ級について。
本級は40を超える計画案の中から選ばれており、すべてを紹介することはできないが、途中装甲配置に関する改正が行われているので一部触れておく。
背景と計画
本級の計画は1935年より始まる。
33年から開始された研究に引き続き、当時の米海軍が想定した戦艦は、23ノット程度の従来型低速戦艦案と他国戦艦の高速化に対応した30ノットの高速戦艦案の二種類からなる。
当時は第二次ロンドン会議が列強の間で進められており、その中で英国は新型戦艦の排水量や主砲口径といった個艦制限をさらに厳しくすることを求めていた。
そのような状況で提出された計画案は、主砲口径が12インチ50口径から16インチ45口径砲、速力は22~30.5ノット、基準排水量23,000tから40,500tと多岐にわたる。
主砲は改装後のテネシーやニューメキシコと同じく新型の50口径14インチ砲を採用したものが中心で、防御もこの砲に対応したものが多い。(装甲配置はテネシー級に準ずる)
米海軍は35,000tでは速力と防御力を両立させた16インチ砲艦を建造するのは難しいと考えていたようで、16インチ砲艦案の排水量は速力23ノットでも4万トン越えとなっている。
また特徴的な艦影を持つ案が多く、9門案の多くはネルソン級の様に主砲塔を前部集中する他、4連装砲塔2基を後部のみに配置して、前部を航空甲板とした航空戦艦案も確認できる。
艦橋はネルソンやニューメキシコで採用されたコンパクトな艦橋に加え、後に米新戦艦の特徴となる高い塔型艦橋を組み合わせた物もこの頃に登場している。
米海軍は上の計画案から「K」案を新戦艦の原案として承認する予定であったという。一部要目を挙げると
排水量35,000t 主砲50口径14インチ砲三連装三基(前部集中) 速力 30.5ノット(17万馬力)
舷側381mm(傾斜なし)中甲板130mm(おそらくバッキング含む)など 自艦主砲に対し安全距離約17.5kmから27.5kmまで
と言うもので、速力や防御力には問題は無いが、火力不足と見做され採用されず。これに前後して、最終案に至るまでさらに30以上の案が作成されることになる。
1935年11月から翌年8月にまとめられた案では、16インチ砲艦案や低速戦艦案などはほぼ見られない。
(主砲配置も前部集中ではなく前後部にバランス良く配置する物が中心に、一方四連装砲塔採用艦にはダンケルク式の二基前部集中案も)
基本的に14インチ砲搭載の高速戦艦案が中心となるが、速力をやや遅めの28~27ノットとする代わりに、砲門数か装甲のどちらかを強化した中速戦艦案と言えるものも検討され始めている。
この28~27ノットという速度は、空母への随伴はできなくとも日本の金剛型(26~27ノットと推定されていた)へは対処できる速度として設定された。
注目すべきは「3」案で、ついに舷側に傾斜装甲を採用している。308mmの外装式装甲帯を10度傾斜させ、自艦主砲に対する安全距離は約19.5kmとされる。
さらに同案では今まで装甲甲板(中甲板)の一段下に設けられていた弾片防御甲板の代わりに、装甲甲板よりも上の甲板へ装甲を配置。
中小口径弾や航空爆弾への防御の他、徹甲弾や徹甲爆弾の信管を作動させることでより効果的な水平防御を狙ったものだ。
この二つの要素は以降の戦艦案にも受け継がれ、ノースカロライナ級を含む米新戦艦の特徴となっている。
(なおこの「3」案はバーベット装甲すら傾斜しているのだが、さすがにこの点は受け継がれなかった)
中速戦艦案の中から、14インチ四連装砲を三基搭載、装甲は垂直284mm(10度傾斜)中甲板 130~142mm、速力27ノット
と言った性能を持つ「16」案が提出されるも、垂直装甲が薄い事(自艦主砲に対する安全距離が20km台に)、速力が不足していることを理由に拒絶される。
代わりに好意的に評価されたのが、派生形である「16C」案で、砲門数が9門になる代わりに垂直装甲は345mm(傾斜はおそらく同じ)、速力は30ノットを発揮可能な重装甲の高速戦艦案である。
(K案と同じ火力だが、どうしてここまで反応が違うのか理解しがたいと思ったのは管理人だけだろうか)
しかし30ノットと言う速度でも空母と共同で運用するには不足しており、(中途半端な速度で)建造コストがかさむのは望ましくない、
さらに近年その効果が知られるようになってきた水中弾への対策が全くなされていない、等の批判的な意見が出される。
これに時の海軍作戦部長が同意したため、新型戦艦は「16C」案ではなく「16」案をベースに水中弾など防御力を改善したものとして設計されることになる。
その後は有名な話として、日本が第二次ロンドン条約を受け入れない事が確実となった為エスカレーター条項が発動、新型の16インチ砲を9門搭載した戦艦として建造された。
就役後は想定外の振動問題に苦しめられるも、新型戦艦の一隻として空母の護衛などに活躍。
二番艦ワシントンは第二次大戦では数少ない、水上戦闘による敵戦艦の撃沈と言う栄誉を手にしている。
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表の解説
16案からの装甲配置の変更含め表の解説に移りたい(新戦艦編も参照)
まず垂直装甲は搭載予定だった50口径14インチ砲に対し18.3kmの安全距離を持つよう再設計されている。
16案で284mmであった装甲帯は305mmに増厚し、さらに傾斜は10度から13度を経て、最終的にはより深い15度で配置されている。(バッキングは19mmのSHS)
14インチ防御と言っても、傾斜装甲の採用と装甲品質の改良により、その対弾性能は標準型戦艦の343mm装甲を上回るものとなった。
尤も第二次大戦期の16インチ砲に対しては不十分である事は認識されてり、表でもの結果にも表れている。
機関部の防御は次級サウスダコタ級はもちろん、他国新戦艦と比べてもやや劣ると評価できる(KGV除く)。
弾薬庫には水中弾防御用に95~51mmのSTSからなる縦隔壁があり、装甲帯を貫通した砲弾が重要区画に達するにはこの隔壁の上部51mm部分を貫通する必要がある。
これを含めると、まあ16インチ砲防御としてもいいかもしれない。
砲塔前盾は406mm厚だが、装甲にはクラスBアーマー(均質装甲)を使用。
クラスAアーマー(表面硬化装甲)使用したネヴァダ級の連装砲塔と安全距離が異なるのは、装甲の特性の違いによるものである。
こちらは16インチ砲にも耐えられる装甲であるが、457mmとより厚い装甲を持つ(ネヴァダの連装砲塔以外)標準型と比べると安全距離の面ではやや劣る。
バーベットは406mmで、こちらはクラスAアーマーを使用。標準型の330mmやサウスダコタ級の343mmから大幅に強化された。
水平防御は新戦艦だけあって遠距離砲撃戦に対応した装甲を最初から兼ね備えている。
装甲甲板となる中甲板は中央部で91mmと新戦艦ではやや薄目(ビスマルク級を除く)だが、実際はこれに36mmSTSのバッキングが加わるなど、均質装甲の厚さで考えるとそこまで劣るものでは無い。
(もちろん均質装甲一枚板に比べると非効率的だが)
その他には上甲板に38mm、弾片防御用の下甲板には機関部16mm、弾薬庫51mmのSTSが設けられている。
これらを総合すると、機関部含め現実での遠距離砲撃にも対応できる装甲を持つと言える。
新戦艦編でも扱ったが、主装甲帯よりも上の外殻(厚さ1インチ)を貫通して中甲板に命中する砲弾もあり、こちらは防御力に上甲板の水平装甲が加わらずに安全距離は短くなる。
それに対応する為か本級の外縁部は104mmに強化されており、これを含めると安全距離は
弾薬庫 貫通不能/35km/29.5km/29km/29km/29.5km/30km、機関部で貫通不能/33.5km/28km/27km/27km/27.5km/26.5km
と言う風にそこまで悪化するわけでない。ただ中央部まで達した砲弾に対しては以下の様に悪化する。
弾薬庫 貫通不能/34.5km/29km/28km/28km/28.5km/28.5km、機関部 貫通不能/32.5km/27km/26km/26km/26km/25.5km
砲塔天蓋は178mmと既存の米戦艦を大きく上回り、竣工した戦艦の中でも上位に入る防御力である。
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表以外の部分(編集中)
まず水中弾防御については先述した経緯で、5層ある水雷防御隔壁の内、弾薬庫横の4層目を95mmから51mmのクラスB装甲に強化している。
本格的な対策を取った艦と比べるとやや薄く、直撃に耐えられるかは不安な面もあるが、少なくとも水中である程度威力を失った砲弾や水中防御区画内で炸裂した物に対する能力であれば、通常の構造より遥かに上だろう。
煙路防御については、ネヴァダ級以降のコーミングアーマーに代わり、新しい防御法が採用された可能性が高い。
次級以降の米戦艦では煙路に多数の穴を開けた装甲板、つまり「蜂の巣甲板」を設けて防御していた事が確認できる。本級については該当資料を当たれてないので確証はないが、時期的に存在していた可能性が高い。
なお大和型の基本計画を行った福田啓二中将が戦後寄稿した回想では、戦前アメリカに駐在していた松本喜太郎少佐が「蜂の巣甲板は米新戦艦にもない」と報告していたが、これは調査不足という事になるだろう。
これは大和型での研究が示す様に、コーミングアーマーと違いどんな大落角の砲弾・爆弾でも防げるのに加え、重量に対する防御効率でも上回るものである。
一方で付近で炸裂した際の爆風が内部に入る点は欠点で、対策として薄いコーミングアーマーと併用する必要があるが、これに対して次級では19mmの薄い縦隔壁を周囲に設けている。
また製造はクラスB装甲をドリルで穿孔して行われた。非常に手間のかかる物である事から鋳鋼で一気に製造する研究も行われたが、対弾性能を満たさないとして採用されなかったようだ。
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まとめると、標準型戦艦に対してもほぼ全部位の装甲で勝っているなど、決して対14インチ防御に留められたとは言えない防御力を持っていると評価できる。
それでも新戦艦の艦砲に対してはやや不足気味である、というのが前のページの結論だったと思うが、(KGVと同じく)多くの旧式戦艦の艦砲に対しては絶大な防御力を持っていると言える。
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サウスダコタ級戦艦
1939~40年起工 1942~47年(62年)就
207m 38,000t 45口径16インチマーク6 三連装3基 27ノット
装甲厚
垂直装甲(弾薬庫) 32mmSTS → 310mm classA+22mmSTS傾斜19度 → 16mmSTS →38mmSTS
垂直装甲(機関部) 32mmSTS → 310mm classA+22mmSTS傾斜19度 → 16mmSTS
砲塔前盾 457mm classB 傾斜41度(内傾)
バーベット 439mm classA
水平装甲(弾薬庫) 38mmSTS → 127mm classB+19mmSTS → 25mmSTS ≒ 164/156mm classB
水平装甲(機関部) 38mmSTS → 127mm classB+19mmSTS → 16mmSTS→ 8mmSTS ≒ 162/154mm classB
砲塔天蓋 184mm classB
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲(弾薬庫) | 貫通不能 | 10km以遠 | 12km以遠 |
15.5km以遠 | 17.5km以遠 | 21km以遠 | 25km以遠 |
垂直装甲(機関部) | 貫通不能 | 11.5km以遠 | 13.5km以遠 | 16km以遠 | 18km以遠 | 21.5km以遠 | 25.5km以遠 |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 5km以遠 | 7km以遠 | 7.5km以遠 | 10.5km以遠 | 12.5km以遠 | 24.5km以遠 34kmまで |
バーベット | 貫通不能 | 7km以遠 (9.5km以遠) |
10km以遠 (12km以遠) |
12.5km以遠 (15.5km以遠) |
16km以遠 (19km以遠) |
18km以遠 (21km以遠) |
23km以遠 (26km以遠) |
水平装甲 | 貫通不能 | 35.5kmまで | 30kmまで | 29kmまで | 29.5kmまで | 29.5kmまで | 30kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 37.5kmまで | 31kmまで | 30.5kmまで | 貫通不能 | 31kmまで | 31.5kmまで |
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垂直装甲(機関部30度) 貫通不能、5km以遠、8.5km以遠、7km以遠、10km以遠、17km以遠、22km以遠
背景と計画
ノースカロライナ級の計画案が検討されていた1936年中頃、米海軍は来年度(38年度)予算にて同級をもう二隻建造する予定だったと言う。
しかし時の海軍作戦部長は新設計の戦艦を望み、一年遅れの39年度予算の為の新戦艦設計が開始された。
本級の研究は37年より始まるが、この頃には日本が条約に調印せず、エスカレーター条項の発動が確実な状況であった。
当時ノースカロライナ級は第16案を基に建造される事が決まっていたが、16インチ砲と水中弾に対する防御が不十分という評価がなされている。
それでも同案は既存の米戦艦に比べ速力や防御力に勝り、火力も同等かエスカレーター条項次第でそれ以上と、全体的に優秀な戦艦案ではある。
しかしエスカレーター条項下で、16インチ砲艦が大多数となった場合、同案はそれらの艦との直接戦闘で不利となる可能性が高い。
その為本級は当初より16インチ砲を搭載するだけでなく、防御力も対16インチを目標とする戦艦として計画されることになった。
装甲配置はノースカロライナ級から大きく変化したが、これはいつも通り後述。
また本級は初期段階では23ノット程度の低速戦艦として計画されていることも特徴的である。
これは日本の戦艦の多くは22~23ノット程度だとされていた点、そして浮上した潜水艦から逃れられる程度の速力として設定されている。
他には35,000tの制約や、いまだに米海軍には多数の21ノット戦艦を保有していた事も理由として考えられる。
しかし日本の旧式戦艦の速力は予想よりも速いとする新しい情報が入った事、そしてノースカロライナ級と共に運用できない事が問題とされ、
ノースカロライナ級と同程度の27ノット程度が要求されることに。
前級と違い膨大な量の計画案が作成されたわけでは無いが、計画案の装甲配置、特に垂直装甲については興味深い点が存在する。
(なぜか14インチ砲艦も検討していたようだが)
本級は排水量の制限のため、この部位はノースカロライナ級から大幅に装甲厚を増すことは難しかった。
しかし上で述べたとおり、前級ノースカロライナ級では新たに傾斜装甲を採用している。
傾斜15度の同級に対し、より深い傾斜を設ければ厚さを増すことなく対弾性能を向上させ、重量の増加もわずかで済むように思えるかもしれない。
実際に防御力は上がるのだが、装甲以外の重量問題が生じてくる。もう別ページに書いてしまったがここでももう一度。
ノースカロライナ級の装甲帯は船体の外板に備えられており、当然装甲のある部分で船体は逆三角形状となる。
これでは装甲の傾斜が増すほど通常の船体に比べ重量バランスが悪化してしまう。
船体を大型化する事である程度凌げるものではあるが、本級は35,000tの排水量制限内で設計されており、米戦艦の宿命としてパナマ運河により幅も限られる。
結果として本級は船体外板に装甲帯を設けることを諦め、外板とは別に艦内部に内装される形で傾斜装甲を持つことになった。
(同じような構造の傾斜装甲はすでにネルソン級やダンケルク級で採用されている)
これにより重量バランスの問題は(外板が被弾により大幅に破壊されない限りは)ある程度解決したが、本級の設計においてはさらなる重量軽減の為、上で挙げたネルソン級などとは少し違う装甲配置が検討されていた。
それは甲板を外縁部で下側に44度傾斜させ、装甲帯と接続させることで、通常の平坦な甲板や傾斜装甲帯と言った部位の範囲を減らそうとしたのである。
(外傾していた装甲帯が上部で内傾して甲板に接続するとも言いかえることが出来る)
簡単に言えばG3級やN3級といった第一次大戦後のイギリス計画艦と類似した装甲配置となっている。
さらにこの案より、懸念されていた水中弾防御を実現するために、装甲帯の下端から船底にかけてテーパーする装甲を設けている。
これにより、前級では弾薬庫のみであった水中弾防御を重要区画全体に設けることに成功した。
この水中弾防御は同時期の大和型と酷似した構造であり(後述するように装甲の角度や接手の構造などは異なるが)、どちらも水雷防御としての欠陥が指摘されたのは有名だ。
しかし考えてみると、このイギリス計画艦の甲板傾斜部と水中弾防御のテーパー装甲と持つ装甲配置は、金剛代艦平賀案に非常によく似ている。
(英計画艦はともかく)米海軍が平賀案の情報を得ていた可能性はまず無いというのは容易に想像でき、その中でここまで似たような形となったのは、兵器における収斂進化の例の様で興味深い。
尤もこの後、傾斜部を設けない普通の傾斜装甲でも重量や防御力で劣らないと判明。構造が複雑なこの装甲配置が採用されることはなかった。
(そもそも20年ほど前に「甲板傾斜部を設けると落角の高い砲弾に対して不利」と結論が出ていたような)
本級の計画案だけでなく、G3級やN3級は条約で建造中止、代わりに建造されたネルソン級で傾斜部は廃止。
大和は傾斜部を残して建造されているが、傾斜角を大幅に減らしてより平坦になっている。甲板傾斜部は淘汰される運命にあるのか・・・
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表を(略)
垂直装甲は先述の通り甲板傾斜を設けず、中甲板で平坦な装甲甲板と接続する。
最終的には厚さ310mmのクラスAアーマーを傾斜19度で配置している。バッキングはSTSだが22mmとも19mmとも。
各砲弾の斜撃性能にもよるが、本級の装甲帯のみを傾斜しない装甲に換算した場合420mm程度になる
さらに本級の場合、薄いの弾片防御を装甲区画内に設けるほか、内装式装甲帯である為、32mmのSTSからなる船体の外板も防御力に加わるだろう。
なお新戦艦編と同じく、この部位に(戦艦主砲弾クラスの)被帽を脱落させる機能はない物として計算した。
なお垂直装甲は米軍試算でコロラド級の16インチ砲に対して16.5kmの安全距離を持つとされている。
表の結果とのずれが激しいが、当時の米海軍はコロラド級の主砲を距離18.5kmで406mmの貫通力があると見積もっており、この数値ならば妥当な安全距離である。
それ以前に表で使用しているマーク5徹甲弾の垂直貫通力は、大戦後期の改良型とはいえSHSであるマーク8使用の45口径砲とあまり変わらないなど妙に貫通力が高く設定されている。(むしろ比較対象が低めなのか)
自艦主砲に対する安全距離も21km程度となり、十分16インチに対応した物と言えるだろう。
さすがに46cm砲に対しては不十分であるが、艦のサイズを考えれば非常に優秀と言える。
砲塔前盾は457mmのクラスBアーマーを使用。当初は432mmだったが、自艦主砲に対し安全距離を持たないとされたため一インチ増厚した。
バーベットは(建造された)米戦艦の中では最も厚い439mmへ。
両者とも垂直装甲と同じく16インチ砲などに十分な防御を得ている。
サウダコタのバーベットは第三次ソロモン海戦にて、至近距離から霧島の14インチ主砲弾を受けている。
米戦艦が実戦において敵戦艦の主砲弾を被弾した数少ない、というか実質唯一の例である。
命中した砲弾はバーペット付近の上甲板を引き裂き、右砲の一部を損傷させた他、装甲の接合部分を歪ませて第三砲塔を旋回困難にしている。
しかしバーベット自体には命中個所に数センチ程のへこみが出来ただけで、装甲内に浸入する事すら殆ど出来ていなかった事がわかる。
表の結果を無視しても、この距離では(よほど横方向の角度が付かない限り)は普通に貫通できるにも関わらずである。
この件に関しては戦史研究家のR.ラングレン氏が残された報告書の写真や戦闘詳報、同型艦アラバマの艦内部との比較などから分析を行っている。
非常に興味深い内容なのでNavWeapsにて見てほしい。
水平装甲の配置はほぼノースカロライナ級と同等の物を採用。上甲板の38mm装甲も引き継がれた。
一方で装甲甲板である中甲板は合計厚が増しただけでなく、バッキングの割合も減り、総合的な防御力は大きく改善された。
その為ノースカロライナ級のような弾薬庫天蓋の追加装甲などを見られない。
同じく外殻→中甲板の場合の安全距離は以下の通り
外縁部 貫通不能/35km/29.5km/28.5km/28.5km/29km/29km 中央部 貫通不能/34.5km/28.5km/28km/28km/28km/28.5km
砲塔天蓋は前級より強力だったが、184mmにさらに増厚された。
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表以外の部分(編集中)
水中弾防御は装甲帯の下端から艦底に達する範囲まで、310mmから25mm(12~1インチ)にテーパーするクラスB装甲を19度の角度で設けている。
範囲並びに厚さの両方で、初めて重要区画全体に積極的な水中弾防御を施した米戦艦と言えるだろう。
なお最大310mmという厚さは大和や後のモンタナすら上回る物だが、テーパー装甲の上端部分はかなり水線に近い高い位置にある。よってこの部分は水中弾防御というよりは、水線付近の外板を抜いた砲弾や、動揺で水線下の部分が露出した際の命中弾に対処する為の厚さと見るべきだろう。
そしてこの配置は形状的に大和型と似た物である事は先述したが、構造や防御思想的には相違点もいくつか存在する。
テーパー装甲と主装甲帯が同じ角度で艦底まで伸びるのに加えて、この二つの間に棚板が通る大和型とは異なり、両者はキーで接合されて互いを支え合う形になっている。
後者の点は大きな違いで、おそらく浅深度での魚雷爆発などで生じた装甲を押し込む力に対しては、大和型より優れていた事も予想出来るだろう。
また水雷防御の方式から見ると、本級はあくまで米戦艦の例にもれず、液層による防御を主体とした多層式の構造を維持している。(なお以前の艦とは違い外側の2区画を液層に)
もっとも厚い装甲板を水雷防御内に組み込む弊害があった点は同じのようで、模型実験では前級ノースカロライナ級よりも水雷防御として劣ると判断されてしまった。
(ただし劣ると言っても、同実験では前級と同じく目標とされたTNT700ポンド(約317kg)相当の爆発から重要区画内を守る事自体は成功している)
煙路防御については前級の解説で述べたように蜂の巣甲板を採用。本級とアイオワ級については、資料や現存艦の写真などで存在を確認している。
なお参考資料には厚さ15インチと大和型とほぼ同厚の物があるが、開口部面積の割合は若干大き目で防御力は劣るか。
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まとめの前に「アイオワ級と対して変わらない」と言う理由で新戦艦編から省かれた本級だが、砲塔前盾は地味に異なるのでこの部分の表のみ下に載せておきたい。
装甲部位\艦砲 |
38cm50口径 |
15インチ50口径 |
38cm47口径 |
16インチ45口径 |
16インチ50口径 |
砲塔前盾 | 19km以遠 | 24km以遠 | 13km以遠 | 18km以遠 32.5kmまで |
安全距離なし |
本級の搭載する16インチ45口径砲は射程が短い分、水平装甲に対する貫通力に優れている。
そのかわり垂直貫通力はやや低めに設定されているようだが、それでも16インチ砲としては十分な物である。
装甲についても上で見てきたとおり優秀で、遠近共に16インチ防御を実現している。
欠点と挙げるとすればやはり装甲や武装の割に船体を切り詰めすぎた点か。
本級と他の戦艦の戦闘を考えてみると、まず条約明け以前の旧式戦艦に対しては16インチ砲艦(所謂ビッグセブン)含め優位に立てるだろう。
コロラドは垂直・水平ともに防御力不足(水平装甲はウェストヴァージニアのみ許容範囲)で、長門は弾薬庫が硬いが機関部の薄さが致命的。
唯一ネルソン級が殴りあえるが、こちらも機関部の水平装甲が弱点となる。
新戦艦では本級に迫る防御力を持つものも多いが、それらの艦に比べ砲塔周辺の防御に優れている点は戦闘時に有利に働くかもしれない。
また本級の水平貫通をもってすれば、30km程度の遠距離戦では大抵の戦艦の水平装甲を抜くことが可能であり、その意味では大和型にすら優位をとれる戦艦ともいえるのだが、
実戦における命中精度や速力の優位を持たない点から、そこまでうまくは行かないだろう。(より近距離ならビスマルクやリットリオの機関部に対しては有効か)
より近距離での戦闘となると、大和に対する不利は仕方ないが、主砲口径に劣るKGVや水平装甲が弱体なビスマルクに対しては、よほどの接近戦でない限り優位である。
一方リシュリュー、リットリオと言った艦の主砲は垂直貫通力に優れるが、装甲は本級の主砲に脆弱な部分もある。これらの艦との戦闘は興味深い物になると思われる。
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アイオワ級戦艦
1940~41年起工 1943~92年就
270m 48,000t 50口径16インチマーク7 三連装3基9門 33ノット
装甲厚
垂直装甲(弾薬庫) 38mmSTS → 307mm classA+22mmSTS傾斜19度 → 16mmSTS →38mmSTS
垂直装甲(機関部) 38mmSTS → 307mm classA+22mmSTS傾斜19度 → 16mmSTS
砲塔前盾 434mm classB+64mmSTS 傾斜37度(内傾)
バーベット 439mm classA
水平装甲(弾薬庫) 38mmSTS → 121mm classB+32mmSTS → 25mmSTS ≒ 167/159mm classB 143.5
水平装甲(機関部) 38mmSTS → 121mm classB+32mmSTS → 16mmSTS→ 16mmSTS ≒ 167/159mm classB
砲塔天蓋 184mm classB
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲(弾薬庫) | 貫通不能 | 10km以遠 | 12km以遠 |
15.5km以遠 | 17.5km以遠 | 21km以遠 | 25.5km以遠 |
垂直装甲(機関部) | 貫通不能 | 11.5km以遠 | 13.5km以遠 | 16km以遠 | 18km以遠 | 21.5km以遠 | 26km以遠 |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 6km以遠 | 7.5km以遠 | 8km以遠 | 11.5km以遠 | 13.5km以遠 | 25km以遠 35.5kmまで |
バーベット | 貫通不能 | 7km以遠 (9.5km以遠) |
10km以遠 (12km以遠) |
12.5km以遠 (15.5km以遠) |
16km以遠 (19km以遠) |
18km以遠 (21km以遠) |
23km以遠 (26km以遠) |
水平装甲 | 貫通不能 | 35.5kmまで | 30kmまで | 29kmまで | 29.5kmまで | 30kmまで | 30kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 37.5kmまで | 31kmまで | 30.5kmまで | 貫通不能 | 31kmまで | 31.5kmまで |
。
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垂直装甲(機関部30度) 貫通不能、5km以遠、8.5km以遠、7km以遠、10km以遠、17km以遠、22km以遠
本級も新戦艦編で扱ってしまったため、あまり書くことはないが、一応他の米新戦艦との比較含めこちらでも。
米軍は38年頃より条約制限を大きく上回る戦艦案を複数作成しており、その中には排水量5万トン程度で16インチ砲9~12門を装備する高速戦艦案が見られる。
本級の計画開始はこれらの案よりやや後で、その頃にはエスカレーター条項の内容が確定した段階にあったため、新たな制限となった45,000tの戦艦として計画されている。
主な計画案はサウスダコタ級をベースに、今まで何度も計画されながら実現には至らなかった高速戦艦とする案が中心となる。
同時に速力を前2級と同程度の27ノットに抑える代わりに、攻防性能を高めた戦艦案も研究されるが、こちらは次級モンタナ級として発展していく。
速力は当初30ノットを目標に研究が行われたが、思ったより排水量増加は少ないと判断されたため、同時期の正規空母と同等の33ノットが要求された。
さらに航行性能の向上や主砲の変更が行われ、最終的にアイオワ級として建造される。
装甲配置に関しては、重量の節約を目指したため、内装式装甲帯を採用するなどサウスダコタ級とほとんど変わりない。
まず垂直装甲は内装式装甲帯に使用されるクラスAアーマーが307mmとわずかに減厚。一方で外板は38mmに増厚している。
総合的に見た対弾性能はサウスダコタに比べわずかに上回るものと米海軍は想定していたが、無論そこまで変わるものではない。
こちらも46cm砲やそれに匹敵する自艦の主砲に対しては不十分なものとなっている。
主砲前盾はサウスダコタ級と異なり、432mmクラスBと64mmSTSを重ね合わせる方式である。装甲製造の技術的問題と言うより、生産時間の面から妥協したものとなっている。
それでも実質防御力は18インチ一枚板装甲を上回るが、なぜか取り付け角度は前級よりも浅くなっている。その分安全距離は若干悪化。
バーベットはサウスダコタ級より変わらず。
水平装甲は装甲甲板である中甲板が121+32mmと微妙に変化。機関部の弾片防御も微増するが、こちらも大きく変わるわるわけでは無い。
同じく外殻→中甲板は 外縁部 貫通不能/35km/29.5km/29km/29km/29km/29.5km 中央部 貫通不能/34.5km/29km/28km/28km/28.5km/28.5km
前級などに搭載された45口径砲SHS以外に対しては、十分遠距離線に対応している。
砲塔天蓋も変わらず。
本級は新たに50口径16インチ砲を搭載。これは使用する砲弾こそ45口径砲と同じだが、より高初速で運用される。
その影響で水平装甲に対する貫通力は若干失われたが、弾道が安定して精度を増した上に射程が伸び、さらに垂直装甲に対する貫通力は大幅に強化。
特に大戦後期より使用されたmod6以降の砲弾は、大和型戦艦の46cm砲に匹敵する貫通力となる。
その為45口径砲は異なり、多くの新戦艦の垂直装甲に対しても20km前半で有効な艦砲と言える。その距離でこの砲に耐えられるのは、建造された艦だと大和型と被帽脱落効果を確実に発揮する場合のリットリオくらいだろう。
ちなみに当初は一次大戦後の計画艦用に開発されたMK2砲を新型砲塔で搭載する計画も存在した。
しかし砲塔設計を行った兵器局との間で割と粗末な情報の共有不足があり、同砲ではバーベット径が設計案に収まらずに排水量の超過が避けられない事に。
そこでより軽量でバーベット径の小さい新型砲として本砲MK7が開発されたが、幸いにも傑作砲として総合的には前級を上回る火力の実現に成功している。
また速力が増した事により、30ノットの新戦艦勢相手でも戦闘距離の選択を出来るようになった点も本級の強みと言える。
装甲の面ではサウスダコタ級よりあまり変化がなく、自艦主砲に対する防御が一部不足している本級だが、戦艦としての純粋な砲撃戦でも、以前の2級を上回り建造された戦艦では最も優れた艦の一つと言えるだろう。
対大和型はまだ電波が飛んできていないので保留。
まあ実際に戦う場合はよほど戦力差がある戦いになるか、どちらも有効打を欠く不完全燃焼な戦いになりそうな気はする。
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アラスカ級大型巡洋艦
1941~42年起工 1944~47年(60年)就
246m 29,000t 50口径12インチマーク8 三連装3基9門 33ノット
装甲厚
垂直装甲 229mmclassA+13mmSTS 傾斜10度
砲塔前盾 325mm傾斜40度(内傾) 材質はclass B と推定
バーベット 330mm classA
水平装甲 36mmSTS → 71mm classB+25mmHT → 16mmSTS ≒ 109/103mm classB 86
砲塔天蓋 127mmclassB 傾斜
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲 | 7.5km以遠 | 21km以遠 | 24.5km以遠 |
26km以遠 | 28km以遠 | 安全距離なし | 38.5km以遠 |
砲塔前盾 | 3km以遠 | 14.5km以遠 | 21km以遠 33kmまで |
安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし | 安全距離なし |
バーベット | 1km以遠 (3.5km以遠) |
13.5km以遠 (15.5km以遠) |
16.5km以遠 (19km以遠) |
21km以遠 (24km以遠) |
25km以遠 (27.5km以遠) |
27km以遠 (30.5km以遠) |
33km以遠 (36.5km以遠) |
水平装甲 | 29kmまで | 31kmまで | 25.5kmまで | 24.5kmまで | 24kmまで | 24kmまで | 22.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 33.5kmまで | 27.5kmまで | 27kmまで | 27kmまで | 27kmまで | 26.5kmまで |
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垂直装甲(30度) 3km以遠、16km以遠、21km以遠、20.5km以遠、23.5km以遠、30km以遠、36.5km以遠
ドイツの装甲艦や日本が建造すると報じされた大型巡洋艦に対抗すべく整備された本級は、高速発揮の為の240mを超える巨体に戦艦と巡洋艦の中間程度の主砲や装甲を持つ艦である。
その他の要素も戦艦と巡洋艦が入り混じった部分が見受けられるが、装甲配置など防御面については他の米新戦艦とは異なる物であるものの、戦艦の要素を感じさせる物となっている。
主装甲帯が浅いながらも傾斜を持つ点、弾薬庫部分でも装甲区画の高さを減らさない点、主な水平装甲となる中甲板以外の上甲板や下甲板にも補助的な水平装甲を持つ点などが挙げられる。
また水雷防御は二層の隔壁を設けただけの簡素ぶりが目に付くが、それでも全く持たなかった既存の米巡洋艦では見られない要素である。
(装甲区画の高さや上甲板装甲といった要素はのちにデモイン級で採用)
表の方を見ると、基本的には自艦の12インチ砲に対する防御が施されているため、11インチ砲程度(一部部位は14インチ砲にも)ならある程度耐えることが出来る。
また主敵となる重巡洋艦の8インチに対して、至近距離の夜戦時でもまあ対応可能だろう。
なお砲塔前盾の材質は不明だが、こちらも戦艦と同じだとしてクラスBアーマーを使用していると仮定した。
水平装甲は14インチ以上の艦砲へも最低限の安全距離を持っているように見えるが、これは上甲板36mm装甲によるところが大きく、これを含めない外殻→中甲板ではかなり悪化する。
外縁部は27.5km/29.5km/24km/23km/22km/22km/19km 中央部は27km/28.5km/23km/21.5km/21.5km/21km/17.5kmとなる。
本級の仮想敵は日本に重巡洋艦やドイツの装甲艦、同規模の艦である金剛型やシャルンホルスト級、そして日本が建造を予定していたとされる大型巡洋艦あたりか。
モンタナ級戦艦
計画のみ(起工前に計画中止)
280m 60,500t 50口径16インチマーク7 三連装4基12門 28ノット
装甲厚
垂直装甲 409 classA+25mmSTS 傾斜19度
砲塔前楯 457mm classB+114mmSTS 傾斜約37度内傾
バーベット 541mm classA
水平装甲 38mmSTS+19mmSTS → 147mm classB+32mmSTS → 16mmSTS ≒ 196/192mm classB 52 169 16
砲塔天蓋 232mm classB
上部装甲帯→甲板 なし
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲 | 貫通不能 | 5km以遠 | 5.5km以遠 |
10km以遠 | 12.5km以遠 | 14.5km以遠 | 17.5km以遠 |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 1km以遠 | 3km以遠 | 3km以遠 | 6km以遠 | 8km以遠 | 15.5km以遠 |
バーベット | 貫通不能 | 1km以遠 (4km以遠) |
4.5km以遠 (7km以遠) |
6.5km以遠 (9km以遠) |
10km以遠 (12.5km以遠) |
11.5km以遠 (14km以遠) |
16km以遠 (18.5km以遠) |
水平装甲 | 貫通不能 | 38kmまで | 31.5kmまで | 30.5kmまで | 貫通不能 | 31.5kmまで | 32.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 41kmまで | 33kmまで | 32kmまで | 貫通不能 | 貫通不能 | 34kmまで |
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垂直装甲(30度) 貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、10km以遠、11.5km以遠
改良型VH使用の大和型を除けば初の青字のみ
最後に取り上げるのは、未成に終わったモンタナ級。
完成していれば6万トン越えの巨艦であり、純粋な水上戦闘能力では米戦艦の決定版ともいうべき戦艦である。
元はアイオワ級と同じくサウスダコタをベースにした45,000t戦艦案より発展している。
こちらは速力は27ノット程度と据え置く代わりに、砲門数を12門に増し火力を重視した案となる。
しかし当初の案の防御力はアイオワ級と余り変わらず、搭載予定の50口径16インチ砲に対し不十分な物であった。
その後砲門数をアイオワと同等の9門とする代わりに装甲を強化した案(なぜか14インチ砲艦案を含む)や、四連装砲塔で排水量軽減を目指した案も登場するが、いずれも満足できる内容ではなかった。
結局第二次大戦が勃発し、第二次ロンドン条約の効力が実質失われたこと、さらに12門艦に有効な防御力を持たせようとすると、どうしても45,000tには収まらないされたことにより、
新型戦艦案はアイオワ級をベースに5万トンを超える案が検討されていく。
排水量増加に伴い船体が大型化すると、米海軍の場合はパナマ運河の33m制限がネックとなるが、こちらもパナマ運河拡張工事の見通しが立ったため問題ないとされている。
(工事自体は中止されたが、2016年になってより広い第三関門が完成している)
1940年よりまとめられた計画案には、16インチ9門のアイオワの防御力を強化する代わりに速力がやや落ちるもの(BB65-1)や、より大型で防御力と33ノットの速力を両立する物(BB65-2)、
そして16インチ砲12門搭載にも、自艦主砲に対し十分な防御を持つ上に高速発揮可能という超戦艦案などが作成された。
後者については排水量64,500tで速力31ノット案(BB65-6)、排水量67,000t33ノット案(BB65-8)などが該当する。
こららの一部の案は建造費が莫大なものになる(特にBB65-8)上に、巡洋艦を始めとした補助艦の速力を考えると33ノットは過剰であると判断。
結局は12門艦で重装甲を持ち、速力28ノットの低速(中速)戦艦である、BB65-5Aが好まれる結果となった。
(尤も31ノット程度の速力があれば、30ノット発揮可能とされた欧州や日本の新戦艦に対しより有効であると言う意見も根強かったという)
その後BB65並びに66には、アイオワ級の同型艦(イリノイとケンタッキー)が建造されることになり、本計画はBB67に変更された。
設計も一部変更が行われ、船体の短縮や対空火器の増加、主砲の初速が引き上げられた事により装甲厚の変更などが行われた。
速力についても既存の出力は過剰(29ノット発揮可能)とされたため、やや引き下げられている。
こうしてまとめられたBB67-4案がモンタナ級戦艦として建造されることになる。
この時期になって艦の全貌が海軍内で知られるようになると「これまでの戦艦に比べて大型化した割に、主砲と装甲以外で得たものが少ない」と批判されたり、
キング提督にもっと小型化できないのかと(今更)言われたりと、一部では評判は良くなかったそうだが、1940年7月無事に建造が承認される。
しかし太平洋戦争の勃発により物資の不足が懸念され、パナマ運河拡張工事は中止。本級も1942年に建造延期、さらにルーズベルト大統領が空母の建造を優先したこともあり、起工されないまま計画は中止された。
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装甲配置について見ておくと、注目すべきは船体の大型化により、内装式装甲帯からノースカロライナ風の外装式に回帰した点だろう。
また水中弾防御も欠陥が指摘されたサウスダコタ式のものから、ノースカロライナの弾薬庫に貼られたものに近い形に変更され、それをもって重要区画全体を防御している。
加えて後述するように艦尾装甲にも変更が加えられた。
ここからは普段通り
垂直装甲は先述したとおりノースカロライナ級のように舷側に露出する形で主装甲帯を設ける配置になっている。しかし傾斜角は前級と同じ19度と、ノースカロライナ級よりも深い。
主装甲帯は409mmのクラスAアーマーとなり、傾斜や厚さは大和型の垂直装甲(410mm20度)とほぼ同等である。
またバッキングは25mmのSTSとこれまでの米新戦艦よりも厚くなり、これを含めた場合の装甲厚は434mmとなる。
なお使用されているクラスAアーマーは、大戦後半にわずかながら改良が行われている。相変わらず英独の表面硬化装甲には劣る性能だが、無視するわけにはいかない。
モンタナ級は1942年に起工予定で、(空母建造よりも優先されない限りは)竣工もかなり遅くなりそうなので、この改良版を使用すると想定した。
表の安全距離は文句なしに18インチ防御と言える。通常の砲戦距離はもちろん、10km前半でさえも対敵姿勢によっては大抵の艦砲が通じない装甲である。
特に大和型の46cm砲に対して17.5kmという安全距離は、50口径16インチ(mod6以降の砲弾に限るが)に対し20kmまでしか安全距離を持たない大和型に対し有利すら取れる数字である。
(大和の対50口径16インチSHSに対する安全距離は新戦艦編にて)
砲塔前盾は457mmのクラスBアーマーに114mmのSTSを重ね合わせている。
こちらもアイオワ級と同じ角度として計算したが、よほどの近距離でない限り貫通される事はないだろう。
バーベットも541mmと前級より100mm近くも増厚し、真正面から命中しても近距離以外では貫通は難しい。
なおバーベットはクラスAアーマーを使用する予定だったらしいが、この厚さで作れるのだろうか。
→どうやら42年に21インチ弱の装甲が試作されており、普通にクラスAで行く予定だったようだ。
水平装甲は他の新戦艦と同じく、装甲甲板がやや薄目で、他の甲板やバッキングが厚めという傾向がある。
尤もその装甲甲板にしても147mm+32mmとかなり厚くなり、合計厚は260mmを超える。基本的に30km付近の砲撃戦でも問題のない防御力であると言える。
また前級で38mmだった上甲板は合計厚57mmにもなり、航空爆弾への防御として特筆すべき防御力を持つだろう(一枚板換算してしまうと関係はないが)。
その分上甲板を経ない外殻→中甲板では安全距離は悪化しそうだが、中甲板のみでも厚いため問題はない。
外縁部 貫通不能/37km/31km/30km/貫通不能/31km/31.5km、中央部 貫通不能/36km/30.5km/29.5km/貫通不能/30.5km/31km
(それにしても、KGVの14インチ砲はクラスBアーマーに相性がいいのだろうか)
砲塔天蓋は232mmと、全戦艦中大和型に続く厚さに。
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表以外の部分(編集予定)
改稿の遅れもあってこのページではまだ殆ど解説出来てないが、アイオワ級に至る米戦艦の多くは、重要区画後方の艦尾にも装甲帯とその上端に接続する水平装甲からなる、重要区画並の重厚な装甲区画を設けているのが特徴である。
つまり、ネヴァダ級以降も集中防御の要素の一つとされる「舷側横方向の集中」を採用してこなかったのである。
(同級の項目や補足のページでも述べた通り、本ページにおける狭義の集中防御の定義に、「舷側横方向の集中」を含まないのはこれが理由である)
この艦尾装甲により、艦尾の舵機械室や同部位と重要区画を結ぶ配管類等、そして装甲区画自体が持つ浮力は厳重に防御される事になる。
一方で多くの場合、これらの装甲区画は高さが水線付近までと低い範囲のみに限られ、被弾時に艦尾水線上の区画が持つ予備浮力の喪失を防ぎ、そこから復原性の維持を助ける能力は持っていなかったのである。
結果的に最後の戦艦案となった本級の設計時には、その点から重量の割に効果の低い物とされ廃止。新たな配置で重量軽減を図っている。
この配置では舵機械室の範囲のみにボックス装甲を設け、加えて重要区画から伸びる操舵配管の防御には、直径26インチ、厚さ7インチの円筒装甲を2本設けてこの中に通す形となった。
これを以て全体の配置としては「舷側横方向の集中」が採用されたと共に、艦尾の配置は配管防御の有無という違いはあれど、舵機械室のボックス装甲が主体という点では大和型に近い物になった点も指摘できるだろう。
なお配管の円筒は曲面形状と言っても、前級までの艦尾装甲帯と比べて薄く、戦艦主砲の直撃時に貫通される可能性は十分にあるだろう。尤も円筒の太さから2本とも被弾して機能を失う事態はそうないと思われる。
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攻撃面もちょっとおかしい垂直貫通力を持つ16インチ砲を多数装備している点から、もし建造されていたら攻防の面で最強クラスの戦艦となっていたのは間違いない。
アイオワ級と異なり速力ではあまり有利が取れないという欠点も存在するが、攻防性能の圧倒的な差が覆されることはそうないだろう。
最後に大和型の安全距離と比較すると(新戦艦編、日本戦艦編の大和の項目参照)、まず垂直装甲は上で書いた通り、モンナタにやや分があると見ていい。
被弾面積を考えると単純にこの部位の安全距離で勝っているのは大きい。
一方で砲塔前盾は大和がゼロ距離でも貫通不能な装甲を持ち、近距離では大和有利。バーベットについては同程度の安全距離である。
水平装甲は大和に分があるが、共に30kmからの砲弾の直撃に耐えうる物であり、現実の交戦距離を考えても、お互い貫通するとことはできないだろう。
こうして考えると舷側部の安全距離の差から、総合的に見ても僅かながらモンタナが優れていると言えるのでは。
しかし、これはあくまでVH鋼の品質を列強最低と見積もった場合の結果であり、一部で確認できる性能を持つVH鋼が大和型に使用されていた場合、この優位はなくなる。
それでもアメリカ海軍の艦艇は、もともと攻防以外の点で日本艦艇に優れる点があるのだから、攻防の面でも敵艦艇に匹敵する性能を持っていることは大きな優位性と言えるのではないだろうか。
所詮は未成艦と言われたらそれまでだが。
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おまけ 米巡洋艦の比較
→ 軽巡・重巡編に移設
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おまけ2
ティルマン最大戦艦案(Ⅳ)
研究のみ
297m 80,000t(常) 50口径16インチ(マーク2) 六連装4基24門 25.2ノット
装甲厚
垂直装甲 457mm classA
砲塔前楯 508mm classA 傾斜約40度内傾
バーベット 432mm classA
水平装甲 64mmSTS → 19mmMS → 114mmSTS → 38mmSTS ≒ 170/152mmSTS
砲塔天蓋 152mmSTS
船体 長船首楼型(大和型と同じく、船首楼が艦尾近くまでを覆う)
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲 | 貫通不能 | 9km以遠 | 11km以遠 |
13.5km以遠 | 16km以遠 | 18km以遠 | 23.5km以遠 |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 3km以遠 | 32kmまで |
バーベット | 貫通不能 (1km以遠) |
8km以遠 (10.5km以遠) |
10km以遠 (12.5km以遠) |
12.5km以遠 (15km以遠) |
15.5km以遠 (17.5km以遠) |
17km以遠 (19.5km以遠) |
22km以遠 (25.5km以遠)) |
水平装甲 | 貫通不能 | 35.5kmまで | 28.5kmまで | 28kmまで | 29kmまで | 28kmまで | 27.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 34.5kmまで | 28.5kmまで | 28kmまで | 28kmまで | 28kmまで | 27.5kmまで |
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ネット上に普通に資料があったので作成。
材質は推定。また各甲板は一枚板として計算したが、同時期の米戦艦の水平装甲を見るに、最上甲板64mmや中甲板114mm装甲は複数枚の鋼材を貼り合わせた物である可能性が高い。
実際の安全距離は表よりも狭いものになるだろう。
装甲配置は同時期の米標準型(の中でもテネシー・コロラド級)に準じた集中防御様式だが、重要区画外の上部舷側の外殻や最上甲板はこれらの艦よりも厚くなっている。
バーベットは432mmと後のアイオワやサウスダコタなど新戦艦とほぼ同等の厚さである。しかし比べると分かるように、それらよりもやや広い安全距離を持つ結果となった。
どうやら米軍が使用するクラスAアーマーは、17~20インチ程度の厚さでは1925年以前に製造された物のデータの方が良い結果が出るようだ。
(比較的薄い物のデータを厚さを増しても性能が落ちないものとして当てはめた結果だろうか)
本級の舷側装甲帯は厚さ18インチと後の新戦艦を上回る厚さだが、少なくともこの部位の装甲については13.5インチ以上の物を作るのは難しいと指摘されており、
もし製造できたとしても品質はかなり落ちていたのではないだろうか。その場合表の安全距離も短くなる。
水平装甲は合計で200mmを超えるが、主な防御を担う中甲板は114mmのみである。その為直接中甲板に命中する外殻→中甲板の場合安全距離はかなり悪化する。
貫通不能/34.5km/25.5km/24.5km/24km/24km/21.5km
(一応本級の外殻は44mmに達しており、角度によっては表の物と同等になりそうだが)
他には砲門数が半減し装甲もかなり薄くなる(ネヴァダ級程度)ものの速力30ノットを発揮する物や、若干装甲厚を減らす代わりに18インチ砲を13~15門搭載する案も。
最大戦艦案(Ⅲ)
63,500t(常) 297m 16インチ50口径(マーク2) 四連装四基 30ノット
装甲厚
垂直装甲 330mm classA
砲塔前楯 457mm classA 傾斜約40度内傾
バーベット 318mm classA
水平装甲 51mmSTS → 19mmMS → 76mmSTS → 25mmSTS ≒ mmSTS
砲塔天蓋 127mmSTS
最大戦艦案(Ⅳ-1・2)
80,000t(常) 297m 18インチ48口径砲連装五基+三連装一基 若しくは三連装五基 25.2ノット
装甲厚
垂直装甲 406mm classA
砲塔前楯 532mm classA 傾斜約40度内傾
バーベット 381mm classA
水平装甲 64mmSTS → 19mmMS → 114mmSTS → 38mmSTS ≒ 170mmSTS
砲塔天蓋 203mmSTS
Ⅰ案はⅣ案と、Ⅱ案はⅢ案とほぼ同じ装甲厚となっている。
:
1934年には日本のワシントン条約脱退を受けて、再び最大戦艦案の研究が行われている。
その中から一つ
1934年最大戦艦案
研究のみ
297m 72,500t 20インチ砲連装4基8門 30ノット
装甲厚
垂直装甲 406mm classA
砲塔前楯 457mm classA 傾斜40度内傾(推定)
バーベット 406mm classA
水平装甲 165mmSTS → 38mmSTS ≒ 180/165mmSTS
砲塔天蓋 178mmSTS
長船首楼型
装甲部位\艦砲 |
8インチ |
28cm |
41年式36cm |
14インチマーク7 |
15インチ |
16インチ |
46cm |
垂直装甲 | 貫通不能 | 11km以遠 | 14km以遠 |
17.5km以遠 | 21.5km以遠 | 23.5km以遠 | 28.5km以遠 |
砲塔前盾 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 貫通不能 | 11km以遠 | 安全距離なし |
バーベット | 貫通不能 | 9km以遠 (11km以遠) |
11.5km以遠 (14km以遠) |
14.5km以遠 (17.5km以遠) |
18.5km以遠 (21.5km以遠) |
20km以遠 (23.5km以遠) |
25.5km以遠 (28.5km以遠) |
水平装甲 | 貫通不能 | 37kmまで | 30.5kmまで | 29.5kmまで | 30kmまで |
30kmまで | 30.5kmまで |
砲塔天蓋 | 貫通不能 | 37kmまで | 31kmまで | 30kmまで | 貫通不能 | 31kmまで | 31.5kmまで |
本案は基準排水量7万トン越えと計画案中最大で、モンタナや大和型を上回る。
搭載主砲は当初規格外の24インチ(61cm)砲が計画されるも敢え無く縮小。それでも世界最大の20インチ砲艦として計画された。
さらにこの時期の米計画案らしく、最大速力30ノットとフッドを意識した高速戦艦となっている。
(同じ主砲や装甲で、速力25ノットのものは66,000t)
装甲材質や配置については同時期の計画案からの推定も入るが一応見ておく。
まず垂直装甲は406mmの主装甲帯を持つ。先の最大戦艦案にも匹敵する厚さで、既存の戦艦を大きく上回る。
スケッチを見る限り、船体が大型化した割に装甲範囲は余り増えていないのか、装甲帯の高さは下甲板までとなっている。
また同時期の計画案からして、傾斜装甲が採用される可能性は低いとだろう。
装甲帯を貫通した砲弾については、テネシー級より受け継いだ縦隔壁群が弾片防御として機能すると思われる。
傾斜やバッキングを省いて計算したが、それでも装甲厚は結構あるので、一部の艦砲以外へはある程度の安全距離を持つ。
砲塔前盾は457mmで、こちらは先の案程の厚さはなく、標準型ともあまり変わらない。
ただし、装甲材質については時期的にクラスBアーマーが使用される可能性も存在する。
バーベットも同じく406mmで、こちらはノースカロライナ級と同等。
水平装甲については、判明しているだけで下甲板に165mmの装甲甲板、その一段下の甲板に38mmの弾片防御甲板を持つ。
こちらも127mm+38mmなど、装甲甲板はバッキングを含めた数字である可能性もあるが、それを無視して計算した。
砲塔天蓋は178mmとこの部位もノースカロライナ級と同等。
こうして見ると、数字の上ではノースカロライナ級と同等かやや上回る程度の防御力と評価できる。
つまり各国新戦艦が搭載する新型の15インチ砲や16インチ砲には主に垂直装甲が不足することになる可能性が高い。
搭載する20インチ砲の設計などはもちろん行われていないが、無論このクラスの砲に対して有効な防御力を得ることは出来ないだろう。
本級は防御力以外については大和やモンタナなど実際に計画された巨大戦艦を上回る物を持つが、この点に関しては排水量の割に非常に物足りないものとなっている。
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