おまけ4 艦砲と装甲(略)ドイツ戦艦編

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※注意 相変わらずこのページでは管理人の趣味と妄想が垂れ流されています。前のページの注意書きを読んでから閲覧することをお勧めします

2015年10月10日公開

結局他のページをあまり進めずに公開。
正直ドイツ艦は全く詳しくないので、テキトウなこと書いて怒られる未来を予想しつつ解説を追加。
一応ビスマルク級については新戦艦編で扱っているので、そちらも読んでもらえれば幸い。
今回もそれぞれの艦がどこまでのサイズの艦砲に耐えられるか、サイズ別に代表的な艦砲を勝手に選んで計算してみることとする。
計算法などについてはこのページを参照。相変わらず重要区画以外をほぼ無視しているが、ここにて一部扱っている。

使用する艦砲は他と同じく8インチ~46cmの7種。(詳細は日本戦艦編を参照)

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はじめに

知っての通り、ドイツは第一次大戦後に大幅な軍備制限を受けており、再軍備後も十分な艦隊を揃える前に次の大戦を迎えている。
そのため第二次大戦に参戦した艦のみ扱うと、前弩級戦艦1クラスと新造2クラスの3クラスになってしまう。
もちろん計画艦なども取り上げたいが、まずは一次大戦の敗戦により海軍休日や二次大戦を迎えることのなかったドイツ帝国海軍時代の戦艦も一通り扱いたいと思う。

・統一前~帝政初期の装甲艦
このページでも装甲艦時代から、装甲配置の変遷を中心に一通りまとめておきたい。
ドイツ帝国海軍が保有した装甲艦の中でも最初期の艦は、帝国成立前のプロイセン海軍時代に遡る事ができる。
まず1864年、デンマークを相手にした第二次シュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争の勃発を受け、海軍力で大きく劣るプロイセンは海外企業が輸出用に建造していた千トン台の小型装甲艦を2隻購入。アルミニウスとプリンツ・アーダルベルトとして戦後に就役させている。

前者は英国製で、同国の民間造船所が(デンマークを含む)中小国に多数輸出していた小型砲塔艦の一つである。主兵装としてはコールズ式の連装砲塔を中心線上に2基設け、ここに建造時予定されたアームストロング砲に代わって、国産のクルップ式21cm砲を4門搭載している。
後者はフランス製で、元々南北戦争時に南軍が発注、姉妹艦は日本初の装甲艦である甲鉄(東)となった事で有名である。こちらは艦首に設けた衝角による体当たりをメインとする装甲衝角艦だが、他にも艦首の砲郭に1門、甲板上に設けた非旋回砲塔に2門の火砲を搭載。就役後はそれぞれ21cm砲1門と17cm砲2門とされる。
(非旋回砲塔というのは、周囲に複数の砲門を開けた固定式の円筒装甲内に砲を搭載する物で、砲の旋回は内部のターンテーブルやレールで砲架を移動させて行う。同じく旋回しない円筒装甲を設けるバーベット(露砲塔)式より防御範囲が大きく、どちらかと言うとケースメイトを甲板上に置いて射界を拡大させたような搭載法である。他国では英海軍の装甲衝角艦ホットスパーが採用しており、大方通常の砲塔より体当たり時の衝撃に強いとして採用されたと思われる)

装甲配置はどちらも小型艦である事から、船体の乾舷全体に垂直装甲を貼って防御しているのが確認できる。一方で水平装甲はこの時点では設けられていない。装甲厚はまずアルミニウスが舷側中央部114mm、艦首尾76mm、砲塔119mm。アーダルベルトは舷側127mm、砲廓・非旋回砲塔が114mm。材質はすべて錬鉄製である。

続く67年に就役するフリードリヒ・カールとクロンプリンツの2隻も同じく仏英より購入した艦だが、沿岸防御を主とした以前の艦とは違い、大型の航洋装甲艦である。
こちらは排水量6千トン弱と大型の船体に、中甲板上に置かれた多数の砲を主兵装とするなど、60年代の各国主力艦とも比較できる要素を有している。
主兵装は砲郭内に19口径21cm砲を14門、艦首尾に21口径21cm砲を1門ずつ計16門搭載。砲郭は全長の半分程に短縮する事で重量節約を図っており、当時英海軍で主流になっていく中央砲郭艦に繋がる要素を持っている。
装甲配置は艦首尾含む水線部と砲郭の範囲のみに垂直装甲を設け、横から見た際には「凸字型」の装甲区画を形成する。厚さはフリードリヒ・カールが全部位127mm、クロンプリンツは艦首尾水線部が76mmに減厚。

また69年にはオスマン帝国向けに英国で建造されていた物を購入した、ケーニヒ・ヴィルヘルムが就役。同艦は排水量1万トン近い当時最大級の装甲艦であった。
武装は20口径24cm砲を中甲板の砲郭に18門、上甲板上に21口径21cm砲5門搭載。中甲板の砲郭は全長の三分の二程を占めている事から、上記の2隻とは違い舷側砲列艦に近いが、それに加えて上甲板上にも21cm砲を1門ずつ収めた砲郭が4か所設けられるのが特徴的な部分である。
装甲は同じく水線部と砲郭に設けられ、厚さは船体中央部の水線と砲郭が203mm、艦首尾水線部と砲郭端部(上甲板の砲郭4つを含む)が152mmと、サイズ相応に増厚。

ここまでの5隻が普仏戦争までに完成した装甲艦となるが、さらなる後続としては戦争前に計画されつつも、就役は帝国成立後となった3クラス6隻が70年代中盤に完成している。
最初のハンザは記念すべきドイツ海軍初の国産装甲艦である。以降の装甲艦は(後述するカイザー級の2隻を除き)国内建造となり、英仏依存からの脱却に成功。建造は三か所の海軍工廠に加えて、民間企業であるフルカン社もこの時点から参加している。

艦そのものは、約4千トンと既存の艦と比較してやや小型化。中央砲郭は範囲が全長の1/5程までに短縮された代わりに、中甲板と上甲板の二層構造になり、ここに主砲として19口径21cm砲を1層4門の計8門搭載。
船体規模以上に軽武装のように思えるが、一方で本艦は砲郭周辺の船体を一部切り欠くことで、砲郭上層の4門を艦首尾方向へそれぞれ2門ずつ指向可能としている。
砲郭の範囲短縮で今まで以上に装甲重量の節約を図った事に加えて、リッサ海戦以降のトレンドである衝角攻撃とそれに適した前方射界の確保を重視した点が大きな特徴で、この時代における典型的な中央砲郭艦の姿と言えるだろう。
装甲配置は同じく水線部と砲郭を装甲化。(なお砲郭範囲の短縮に伴い乾舷に占める装甲範囲も減少) 厚さは船体中央の水線部が152mm、砲郭と艦首尾水線部が114mmである。

次にプロイセン級の3隻は、初めて同一クラスに分類できる複数隻が建造されたドイツ装甲艦である。
本級はアルミニウス以来の砲塔艦だが、排水量は6千トン台と大型化し、武装も一段階上の22口径26cm砲連装2基4門に加えて、艦首尾に25口径17cm砲を2門搭載。
砲塔2基は中心線上かつ船体中央部にかなり接近して置かれ、また射界的に邪魔な帆装を維持しているなど、砲塔艦としては英モナークなどに近い艦である。 
装甲配置を見ると、垂直装甲は水線部に加えて、前後砲塔間のみ砲塔基部に当たる部分を防御する為上甲板まで装甲が施されており、中央砲郭艦と同じく凸字型の装甲区画を形成する。
厚さは船体中央水線部の僅かな高さのみ最厚部235m、それより上で中甲板の高さまでに215mm、砲塔間のみ上甲板までに210mmの装甲が施される。水線部装甲は艦首尾では102mmまで減厚。砲塔装甲は260~210mm。

最後にカイザー級の2隻は英国で建造された、ドイツ海軍最後の外国製装甲艦である。 
本級は7千トン台後半と再び大型化した中央砲郭艦で、全長の1/3程の長さを持つ一層の砲廓に20口径26cm砲を8門を搭載。砲郭の一部が船体から張り出す形とする事で、艦首尾方向への射界も確保している。 
既に国内で十分な建艦能力を得ていた事から購入中止の意見もあったが、当時注目されていた砲塔艦よりも実績がある中央砲郭艦を好む声もあって、そのまま獲得されたようだ。
装甲配置は既存艦と同じもので全体的に増厚。厚さは中央水線部254mm、砲郭203mm、艦首尾水線部127mmに。

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・帝国時代の装甲艦
普仏戦争では両海軍の存在はほとんど戦局に影響せず、結局陸上にてプロイセン並びにその同盟国が勝利を掴む形となった。
この結果もあり成立当初のドイツ帝国にとって、海軍の重要性はあくまで陸軍と比べると低い物と見做されている。以降海軍はヴィルヘルム二世の登場前後まで、限られた規模の中で有効な戦力を模索する時代を過ごしていく事になる。
その時代の基本方針は、中小国に対しては自艦隊を以てバルト海の制海権を維持し、格上相手には沿岸防衛に徹しつつ、外洋では通商破壊を行うという、奇しくも普仏戦争後にフランスで台頭した新生学派とも共通する弱者の戦略であった。

最初に計画されたザクセン級は、70年代半ばに4隻が起工され、78年から83年に竣工。
上記の方針に則り沿岸防衛に主軸を置いた本級は、この時期の他国装甲艦と同じくかなり実験的な要素を幾つか有した艦となった。   
その要素としてはついに帆を廃して機関のみで推進する事に加えて、主砲配置並びに装甲配置についても既存の艦とは大きな変化がみられる。

本級は排水量7トン台後半で、主砲も22口径26cmを引き続き採用。この頃は他国の一部艦で急速な巨砲化が進んでいたが、その流れには乗らずこれを6門搭載。
搭載方法を見ると、艦の前部には連装砲1基を設け、この周囲を一定の高さを持つ洋梨型の装甲で囲って防御。ドイツ装甲艦では初めてバーベット(露砲塔)式を採用している。
そして後部の4門はまた違う形で、バーベットよりも広い範囲を囲んだ四角形の区画(リダウトと呼称される)の四隅に単装砲を1門ずつ置く形である。
リダウトの主砲のうち2門は前方に指向可能な位置にある事から、前部の連装砲と合せれば計4門と、これまで以上に前方火力の強化に成功している。(実際は爆風問題もあったそうだが)

そして装甲配置は凸字型の配置に代わり、英インフレキシブルや伊カイオ・ドゥイリオ級などに準ずる物が導入された。
最大の変化として垂直装甲の範囲はおおよそ前後主砲間のみとなり、それ以降の前後部は水線部であっても垂直装甲が廃された。このページ的にまとめた所の「舷側横方向の集中」を取っている。
当然垂直装甲の無い部位は艦内への砲弾突入を防げない事になるが、代わりに水線付近の下甲板を装甲化。浅い落角の砲弾なら逸らして水線下への突入を防ぐ事を狙っている。ドイツ艦で初めて水平装甲が導入された例で、本級では垂直装甲の範囲的に弾薬庫の防御を兼ねる非常に重要な追加要素である。
なお水平装甲より上の全く装甲に守られていない区画については、石炭庫と艦内の細分化で被害を局限し予備浮力の喪失をなるべく減らす方針である。

この様な配置は、敵主砲に容易く破られる中途半端な厚さの装甲を廃して、その重量で最低限必要な範囲に最大限の防御力を持たせた方が優れる、という考えに基づくものである。
70年代後半から80年代前半は速射砲の登場前で、威力は高いが発射速度の遅い大口径砲(と衝角)が兵装の主体であった。そんな当時の環境において、かなり有効な手段として本級にも採用された形となる。
具体的な装甲厚を見ると、垂直装甲は水線部から上甲板の高さまでに、203mmと152mmの装甲板を二枚重ね。前後部は先述したように非装甲。そして水平装甲はその前後部の下甲板に75mmから50mm、垂直装甲の範囲では上端に当たる上甲板に50mm。バーベットならびにリダウトは254mm。

続くオルデンブルクはザクセン級の5番艦となる予定が、予算不足で設計変更を経て86年に竣工。装甲艦時代のドイツ主力艦としては最後の一隻となる。
本艦は排水量5千トン台と再び小型化した中央砲郭・バーベット併用艦で、中央砲郭に主砲を持つ装甲艦としては最も遅くに登場した艦の一つである。(完成年代であればオスマンのハミディイェの方が後)

そんな時代遅れのコンセプトとは裏腹に、本艦では技術的な進歩を多数取り入れた事が確認できる。
船体の大部分は鉄に代わって鋼製となり、中甲板上の砲郭内に6門、その上にバーベット風の胸壁を設け2門が搭載された主砲は口径こそ24cmだが、口径長は30口径と長砲身化で初速を増す段階に入っている。
装甲配置こそ艦首尾にも垂直装甲を持つ凸字型配置に回帰しているが、減厚しつつも水平装甲が維持された事に加えて、垂直装甲の材質として新たに複合装甲を採用。
厚さは中央水線部300mm、艦首尾200から150mm。水平装甲は(位置はおそらく下甲板に)30mm。中央砲郭並びにバーベットは150mm。複合装甲の対弾性能は当時の砲弾に対しては1.25倍相当という事で、ザクセン級の最厚部にも負けない防御力を確保している。

またドイツ海軍は上記大型艦と平行して、沿岸防衛任務を補完する戦力としてヴェスペ級装甲砲艦11隻を70年代後半に建造している。
本級は1100tの船体に、当時のドイツ海軍では最大の20口径30.5cm(12インチ)砲を1門のみ搭載。魚雷や水雷艇の発達前に、中小海軍が沿岸防御用に整備したレンデル砲艦の一種となる。
この種の艦は航行能力や航行中の戦闘能力は極めて低い物で、本級の場合あらかじめ座礁させて固定砲台としての運用も想定されるなど、場所移動可能な沿岸砲台と言うべき兵器である。
なお通常のレンデル砲艦と違い本級は装甲を有している。垂直装甲は小型艦なので乾舷全体に施され、主砲も後方以外を囲う馬蹄形の胸壁で防御される。厚さは垂直装甲200から100mm、胸壁200mm。材質は錬鉄である。

以下編集予定

ドイツ帝国成立以降の70~80年代に完成した艦は、船体中央部に設けられた装甲区画(ケースメイト)内に主砲を搭載する、いわゆる中央砲廓艦が中心である。
英国戦艦編で触れたように、こういった艦の垂直装甲は、砲廓を持つ船体中央部で高い範囲まで設けられ、それ以外では水線付近まで高さを減じる凸字型となる。(76~78年に竣工したプロイセン級は砲塔艦だが、同級も同じ形)

その中でザクセン級は例外で、船体中央以外に垂直装甲を持たず、艦首艦尾には水平装甲のみを設けるインフレキシブル式配置を採用する。
また垂直装甲も同じく錬鉄の二枚重ねで厚さを確保しているが、主砲は砲塔二基の梯形配置ではない。艦の前部と中央部に設けられた形状の異なるバーベット(範囲的にはバーベットと言うよりはリダウトと呼称すべきか)上に、単装砲を前部に2門、後部に4門配置した独特な物である。
装甲材質は基本錬鉄だが、80年代最後に完成したオルデンブルクの垂直装甲には複合装甲が用いられる。

主兵装の特徴としては英国のように後装砲の信頼性不足から前装砲に切り替える事なく、クルップ式の後装砲を採用している点、一方で他国艦砲の様な口径の巨大化は行われず、最大でも26cm砲と比較的小口径に留まったのも特徴である。
(クルップ後装砲の尾栓は大型化に向かない鎖栓式であったが、他国への輸出用では定遠級の12インチ砲であったり、イタリア向けの40cm砲を製造した記録も存在する。なお後者は砲身重量119トンと、当時の砲では世界最大)

この時点ではバルト海周辺での活動を中心とした沿岸海軍の要素が強かったドイツ海軍だが、88年には海軍を重要視するヴィルヘルム二世が即位。
この前後より外洋海軍の設立を目指して近代的な戦艦の整備が開始されるが、その前に、80年台末より建造されていたジークフリート級が90年以降就役している。
同級は排水量3,500tと小型の海防戦艦・海防装甲艦で、24cm単装砲を後部に1基、前部は2基並列配置という珍しい主砲配置が特徴である。(ロシアのエカテリーナ二世級が近い配置か)

装甲配置は艦首尾を全周する範囲に垂直装甲が設けられ、その上端に接続する甲板に薄い水平装甲を持つ。所謂コンプリートベルトだが、船体中央含め装甲帯の高さは余り無く、乾舷の広い範囲が非装甲となる。
これは80年台のフランス装甲艦に近い配置で、以降ドイツ近代戦艦の内最初の2クラスである、ブランデンブルク級とカイザーフリードリヒ三世級にも採用される事になる。

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・近代戦艦

まずブランデンブルク級は93~94年に4隻が竣工。
装甲配置は先述の通りで、重要区画内では400mmの垂直装甲に60mmの水平装甲が接続する。
4隻中2隻の垂直装甲は複合装甲だが、残りの2隻には新たにクルップ社製のニッケル鋼(クルップ浸炭鋼にあらず)が使用されている。
本級も主砲配置に特徴がある艦として有名で、主砲28cm連装砲を防盾付きバーベット内に収め、それを中心線上に3基配置する。
主砲3基を中心線上と言うとフランスのアミラル・ボーダン級が単装砲ですでに行っていたが、本級は連装砲。
これによりドレッドノート以前の戦艦にも関わらず、片舷6門(一基のみ口径長が異なるが)の主砲火力を発揮可能である。
(なお本級よりも前にも、ロシアの多砲塔モニターアドミラル・ラザレフ級が同じ配置を持っていた)
ただしこの配置は他国戦艦に影響を与える事はなく、ドイツ海軍でも以降は採用されていない。
この理由としては、このような門数での射撃管制が確立していなかったというのが有るらしいが、それ以前に重要だったのは当時の大口径砲に対する評価である。
特にこの時期には中小口径砲で速射砲が登場し、その射程内なら未だに発展途上であった大口径砲よりも有効だという意見が強かった。

一応本級も10.5cmや8.8cm砲を持ち、合わせて片舷7門が使用可能だが、一回り大きい6インチ速射砲を持つ同時期の英戦艦には劣っていた。
そして広い非装甲区画を持つ本級の装甲配置は速射砲の榴弾に弱く、自身の速射砲を守る装甲が殆ど無いのも問題である。
また主砲防御にしても、前から見るとドーム状の防盾は最大120mm厚とバーベットや装甲帯に比べて薄い。
これは大口径砲の直撃弾を防御できないのはもちろん、仰角の都合で砲眼孔の開口部が大きく、弾片や中小口径砲への防御力も不安がある。
以下の点から本級は大口径砲の火力で勝っていても、当時の環境では接近戦に持ち込まれた場合不利になりやすい面を持っていた。
実際13年後のドレッドノート登場時にも、中小口径砲を廃した上に装甲範囲がやや狭い同艦の価値を疑問視する声もあったわけで、この時代に本級が評価されなかったのは想像に難くない。

なお本級の二隻は後にオスマン帝国海軍へ売却されバルカン戦争で実戦を経験している。
その際にはギリシャ装甲巡の234mmもしくは190mm砲弾を受けて使用不能になった砲塔もあり、やはりここの防御は不完全なようだ。
(同じくバーベット形式の主砲を持つ定遠級が実戦で火力を喪失しなかったのとは対照的だが、交戦距離なども影響したか)
他にも船体中央部への被弾からボイラー内に被害を受けている。

その点98年より竣工する次級カイザー・フリードリヒ三世級は速射砲重視の兵装に大きく舵を取っている。
(この間にジークフリート級の改良版オーディン級が竣工。同級は兵装はほぼ変わらず、艦首艦尾の装甲帯を廃して水平装甲のみを設ける英アドミラル級に近い配置)
まず主砲はより発射速度の速い砲として、一回り小さい40口径24cm砲を採用。同砲では薬莢と薬嚢を併用するという、二次大戦時にも受け継がれる要素が独海軍の大口径砲で初めて導入された。
これを砲室装甲で守られた連装砲に収め、前後に一基ずつ4門搭載。さらに副兵装も15cm砲をケースメイトと砲塔の混載で、片舷門数9門を確保した。
一番艦の竣工前に勃発した米西戦争で12~13インチ砲よりも8インチ砲が活躍したことを考えれば、本級の兵装は当時の環境に適合した強力なものだったと言える。
しかし防御面を見ると、垂直装甲に新たにクルップ鋼が使用されるなどしたが、配置は前級と変わらず垂直装甲の高さが無く広い非装甲区画を持つ物である。(艦尾水線部の装甲帯が廃された分範囲はむしろ悪化した)
前級よりも兵装の防御が強化されたのは大きな改善点だが、船体防御は未だに速射砲重視の思想に合致しない物に留まっている。

この点を改善したのが1902年より竣工する次級ヴィッテルスバッハ級だが、その前に1900年には装甲巡洋艦(当時の分類では大型巡洋艦)フュルスト・ビスマルクが完成している。
同艦はフリードリヒ三世級と同じ24cm砲を搭載し、装甲が薄い代わりに速力に勝るという風に、前弩級時代の巡洋戦艦とも言えなくも無い艦である。
同艦は主装甲帯の最厚部が200mmと装甲巡洋艦という艦種の中でも厚い方だが、同時期の戦艦と変わらず、非装甲区画が広い配置である。

そしてヴィッテルスバッハ級だが、本級の装甲配置は前級と比較すると2つの新機軸を導入している。
まず一つ目が垂直装甲の範囲の拡大で、本級は副砲のケースメイトや砲塔の大部分を船体中央の一部に集中し、その範囲を覆う140mmの上部装甲帯を新たに設けた
つまり前級で非装甲だった上部舷側の内、一定の範囲が装甲化され、中口径速射砲や大口径榴弾に対する防御範囲が大きく拡大している。
これはフュルスト・ビスマルクの後続であるプリンツ・ハインリヒではじめて採用された物を戦艦にも適応した形になる。
この代償として主装甲帯は前級の300mmより225mmに減少したが、これでも同時期の英戦艦と同等の厚さである(主装甲帯の高さでは劣るが)。
そもそも日露戦争時の徹甲弾が6インチのクルップ鋼を実戦で抜く事に苦労していた事から、前級のこの部分は過剰防御である。実戦環境で抜けるようになるのは第一次大戦後だろう。
その点主装甲帯の厚さを押さえて、広い範囲を防御している本級の方が当時の環境に合っているのは確実である。
ただ一部副砲の搭載位置が低くなったので、外洋での副砲火力が低下する可能性がある点は退化した部分か。

もう一つの要素として、重要区画内で最も下を通る甲板(本級の場合は下甲板)が傾斜部を伴って主装甲帯の下端に接続する、防護巡洋艦風の亀甲甲板が導入された
これは装甲帯を貫通した砲弾や装甲の剥片が重要区画に飛び込むのを防ぐ為に設けられ、厚さは3インチ程度だが、あまり性能の高くなかった当時の砲弾への効果は非常に高いものと思われる。
この傾斜部は厚さや形状に変化もあるが、一部の巡洋戦艦を除いて今後のドイツ主力艦に常備される事になる。

本級の配置は上で見てきたように、上部装甲帯と甲板傾斜部が導入されている。
これらの要素は既に各国戦艦が導入していた物だが、傾斜部と上甲板までに達する上部装甲帯を併用する点は、当時の英仏艦などにも見られず(日本の三笠が同じ特徴を持つ)、先進的なものとなっている。
装甲配置的には、本級より英仏の模倣ではなく、ドイツ海軍独自の要素が出てきたと言えるだろう。

以降の前弩級艦としては、ブラウンシュバイク級ドイッチュラント級が存在するが、装甲配置的には前級に一部改良を加えたものである。
まず両級とも主装甲帯の高さが前級より増しており、乾舷に占める最厚部の面積が広くなった。
さらに上部装甲帯の長さを増して、ドイッチュラント級では重要区画内の乾舷全体が装甲範囲となっている。
装甲厚は上部装甲帯が増厚した他、ドイッチュラント級は一番艦以外で主装甲帯が240mmに強化された。
また同級は水平装甲にも変更点があり、今までの艦の水平装甲は下甲板(水平部40mm)のみだったのに対して、ケースメイトの天蓋を兼ねる上甲板の一部にも35mmの水平装甲を配置、二層式となった。
こういった変更点以上に重要なのは主砲口径を拡大して、新型の40口径28cm砲を搭載した事である。
この時期には交戦距離の延伸や大口径砲の性能向上により、後に日露戦争で証明されるように、再び大口径砲が重要な役割を果たすと言う考えが出始めていた。
また両級はこの考えに対して主砲だけでなく、副砲もより射程と威力に優れた17cm砲を採用している。

両級はバランスがとれた良艦であり、この時期にフランスとロシアを追い抜いて世界第二位の海軍国となったドイツの主力艦として相応しい艦だろう。
しかし前弩級戦艦の宿命として、1906年のドレッドノート竣工によりその価値は大きく減少してしまう。
以降はこの流れの中でドイツが整備した弩級艦について扱いたい。
(詳しく扱わないが、この2クラスはユトランド海戦にも参加し、戦後の軍備制限下や第二次大戦でも戦艦もしくは練習艦、標的艦として就役することになる。とにかく非常に興味深い艦歴を送ったクラスである)

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・弩級戦艦

巡洋戦艦・大型巡洋艦は下の方で別に扱っているので、ここでは戦艦のみを。
まず初の弩級艦であるナッサウ級は、当初は21cm砲を副兵装とする準弩級艦や、主砲を21cm砲に統一する巡洋艦風の案が研究されていた。
それが英ロードネルソン級やその後続艦の虚実入り交じった情報を入手した事で、対抗する為に単一巨砲艦として1909年より竣工。英国以外の海軍が初めて完成させた弩級戦艦となった。
装甲配置以外の特徴としては、まず主砲口径は諸事情で他国弩級艦より小さい28cmである事(口径は45口径に拡大)、主砲は6基搭載するも、亀甲配置の為片舷火力は英弩級艦と同等の8門。
そして英米艦と違い6インチクラスの副砲を残している事、機関はレシプロで計画速力は英艦にやや劣る19ノットである事が挙げられる。(公試では一応20ノットを記録)

装甲配置は基本的に前級に一部改正を加えた物である。
重要区画内の配置を詳しく見ていくと、船体形状は平甲板型で上を通る甲板は上中下の三層。
垂直装甲は下甲板のやや下までと、あまり高さの無い主装甲帯が290mm(一番艦のみ270)あり、その上には中甲板の高さまでに290mmから170mmまでテーパーする装甲帯、上甲板までに副砲防御を兼ねる160mm装甲帯を設け、乾舷全体を防御している。
主装甲帯の高さは前級よりも低くなってしまったが、代わりに厚めのテーパーする上部装甲帯を設ける、同時期の米弩級艦と共通する配置である。
水平装甲は上甲板と下甲板の二層に設けられ、前者は25mm、後者は水平部38mm傾斜部は58mmで装甲帯の下端に接続する。
さらに本級は水雷防御用の縦隔壁が新たに設けられ、これも弾片防御として機能するだろう。
砲塔周辺は前盾とバーベット露出部が280mm、天蓋は水平部60mm傾斜部90mmである。

こうして見ると上部装甲帯の一部と水平装甲を除けば基本的に前級より強化された、同時期の戦艦にも全く劣らないものである。
当時の環境での具体的な評価については、英戦艦との比較やユトランドでの双方の被害などを交えつつ、他の艦とまとめて後述したい。
という事で、まずは同海戦に参加したケーニヒ級までを紹介しよう。

ヘルゴラント級は主砲口径を他国弩級艦と同じ12インチとし、さらに長砲身の50口径砲を採用。さらに速力も改善し、未だにレシプロ機関ながら計画速力は20.5ノットとなる。
一方で主砲配置は背負い配置や梯形配置含め様々なものが検討されたが、結局前級と同じ亀甲配置である。
そして装甲配置も舷側主砲のバーベット周辺を除き前級とほぼ同じ物を採用。
装甲厚を見ると、重要区画内では主装甲帯に砲塔前盾、バーベット露出部が300mmに。
水平装甲は上甲板最大45mm、下甲板40mm、砲塔天蓋水平部70mm傾斜部100mmと強化された

続くカイザー級はやや装甲配置が改正され、ケーニヒ級やバイエルン級など以降の戦艦の基本配置となる。
まず船体形状は後部砲塔まで船首楼が達する長船首楼型となり、重要区画上の甲板は船首楼と上中下の四層。
副砲の位置も一段上の上甲板上に移動。
垂直装甲は主装甲帯が中甲板までの高さとなり、その上に上部装甲帯を設けて乾舷全体を防御する。
厚さはそれぞれ、350mm、200mm、170mmで、特に主装甲帯の厚さが目を引く。
単純な厚さだけなら第一次大戦時の戦艦の中で最も厚い。上部装甲帯は平均的。
水平装甲は垂直装甲の配置が変わった都合で、船首楼と下甲板の二層になり、厚さは共に30mmに減厚。
一方で水雷防御隔壁から続く形で30mmの縦隔壁が下甲板から上甲板の高さに設けられた。
これにより装甲帯を抜いた砲弾に対しては、弾片が下甲板まで達する可能性を減らしている。
また本級も下甲板の傾斜部を持つが、これも30mm厚と薄いのが特徴である。
(本級やケーニヒ級の傾斜部はビスマルク級にも匹敵する100mmとの説があり、管理人もこのページを作った頃には信じていたが、どうやら艦尾部分のみらしい)
当然この部分の弾片防御としての機能は前級に劣るが、装甲帯の強化とその他の弾片防御(縦隔壁や石炭庫)で十分な防御力を持つと判断させたものと思われる。
砲塔の垂直装甲は変わらず300mmだが、天蓋装甲は水平部80mm傾斜部110mmとなる。

防御面以外では、まず主砲配置が改正された。
主砲塔5基の内、後部で2基を背負い配置、もう2基を中央部で梯形配置する事で、前級よりも一基少ない砲塔数で同等の片舷8門を確保している。
(理論上は10門が使用可能だが、爆風が隣接する砲塔に影響を与えるので避けられた)
機関では蒸気タービンが導入されたのも特徴である。(さらに本級の内プリンツレゲント・ルイトポルトはディーゼル併用艦となる予定だったが、実際には搭載されず)
計画速力は21ノットだが、先述した事情で出力の低いプリンツレゲント・ルイトポルトを除く4隻は22ノット以上を記録。一番艦カイザーに至っては23.4ノットとこの時期のドイツ戦艦中最速である。

最後にケーニヒ級は重要区画内の防御で大きな変化はない。
主砲配置は中心線上に全砲塔を置く形になり、片舷火力を10門に向上させた。(前方火力も4門に向上)
一方で本級の主砲は50口径12インチ砲のままであり、所謂超弩級戦艦を整備する流れには乗り遅れている。
本級の計画時には主砲口径を増大させる案も存在したが、主にこの時期に想定された10km以内の交戦距離では12インチ砲で十分との考えが強かった為採用されなかった。

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・第一次大戦時における英戦艦との比較
ここでは他のページ同様、主に攻防力の点からユトランドにて相対した英戦艦との比較を行いたい。
(英戦艦についてはおまけ2も参照。こちらも巡洋戦艦は後回し)

とりあえず長くなりそうなので、比較する際に重要だと思われる要素をまとめると以下のように。
・ ドイツ艦は(特にオライオン級以降の)英戦艦に対して主砲口径で劣り、(アイアンデューク級以前の艦に)副砲火力で勝る
・遠距離戦闘が行われたユトランドの戦艦戦では主砲がメインとなり、副砲火力の優位はあまり影響しない(勿論主力艦以外と交戦する際には話は別)
・主砲はドイツ側が射程でも劣るが、同海戦では15km以遠でも普通に当てており、この環境で簡単にアウトレンジされる事はない
・通常は貫通力でもドイツ側が劣るのが普通だが、英国側の徹甲弾の欠陥(注1)によりそこまで差は大きくない
・一方のドイツ側砲弾の性能も完全とは言えない
・同海戦での垂直装甲への成績は(注2)でまとめた通り
・これに従うと巡戦(と英12インチ砲艦の一部)ならともかく、双方の戦艦が持つ主装甲帯や砲塔前盾、バーベットを実戦環境で抜くのは難しい(注3)
・一方でそれよりも薄い艦首艦尾や舷側上部の装甲帯は両者とも貫通される可能性が高い(注4)
・船体の装甲帯を貫通後に重要区画内に突入した砲弾は双方とも確認されず(装甲巡ウォーリアを除く)
・命中時に装甲が圧入して浸水する現象も双方に発生したが、ドッガーバンクのように深刻な被害とはならず(フォンデアタンが一時操舵不能になりかけた例を除く)
・上甲板などの水平装甲を破って艦内部に侵入した砲弾は複数あるが、そのまま下甲板を貫通して重要区画内に突入した例は確認されていない(炸裂後の弾片が突入した例はドイツ砲弾にあり)
・一方で砲塔天蓋は一層防御の為、装甲を破られると確実に被害を受ける
・(注5)の命中例からすると、この部分の攻防は英戦艦、とくに15インチ砲艦が大きく優位
・双方とも煙路防御はグレーチングがある程度だが、こちらも結構被弾しつつも目立った被害はなく、煙が逆流した程度(ガスマスク着用で対処)
・英巡戦3隻の爆沈理由は断定できないが、主砲塔の装甲を破られた際に、杜撰な装薬管理によって爆焔が火薬庫に達した可能性が最も高い
・ドイツ側は装薬の安定性で勝り、ドッガーバンクでのザイドリッツの戦訓から、火薬庫の誘爆対策は英国側よりも優れる
・舷側副砲の誘爆も大きな損傷に繋がる。こちらは艦の喪失に至らないレベルの物なら双方で起こっている
・水中弾も双方に発生し、水線下の非装甲部分や装甲帯下端のテーパー部分を抜いた砲弾が存在する
・ただしリュッツオウで魚雷発射管を通じて前部弾薬庫に浸水が生じた以外は、重要区画内へ直接被害を及ぼす程のものではない(ケーニヒの例は微妙なライン)

注1 英国戦艦編でも触れた、斜撃時に砲弾が破砕されてしまう事と自爆の多発。
ドイツ側は炸薬にTNTを使用し信管の安定性も高い事から、装甲を貫通して炸裂する能力はより高い。
また領収試験では英国と違い斜撃時の評価もある程度考慮されたらしいが、それでも相当に貫通力は下がる。

注2
一部は徹甲弾以外の記録も混ざっていると思われるが、代表的な命中弾は以下の通り
どの砲も6インチ以下の装甲に対しては、貫通するか弾片を送り込んで被害を与える事が多いので基本除外。
時系列順ではなく距離順
・英15インチ
距離約17km フォンデアタン 艦尾装甲帯(100mm)不貫 (おそらく被帽通常弾)
距離17km台 ザイドリッツ 砲室前盾(250mm) 穿孔
距離16km台 モルトケ 上部装甲帯(200mm))貫通
距離約14km モルトケ 主装甲帯(270mm)不貫
距離約12kmグローサークルフュルスト 上部装甲帯(200mm)貫通
距離約12km グローサークルフュルスト 主装甲帯(350mm)不貫
距離7km台 デアフリンガー バーベット(260mm)貫通
・英13.5インチ(重量弾並びに軽量弾)
距離17km台 リュッツオウ 砲室側面(250mm)穿孔
距離15km台 フォンデアタン バーベット(200mm) 不貫 内部に被害あり
距離13km台 ザイドリッツ バーベット(230mm) 貫通
距離11km台 ケーニヒ 砲塔前盾(300mm) 不貫
距離11km台 ケーニヒ級 上部装甲帯(170mm) 貫通 (複数回)
・英12インチ(45、50口径)
距離約10km リュッツオウ 上部装甲帯(230mm) 不貫
距離約10km デアフリンガー 主装甲帯(300mm)不貫
距離7km台 デアフリンガー 上部装甲帯(270mm)穿孔 内部被害小
距離約10km デアフリンガー 司令塔(300mm) 不貫
距離7km台 ザイドリッツ 砲室後部(210mm) 貫通
・独11~12インチ砲
距離14km台 クイーンメリー 砲塔前盾(229mm) 不貫 内部に被害あり
距離13km台 タイガー バーベット(229mm) 貫通
距離13km台 ニュージーランド バーベット(178mm) 不貫 内部に被害あり
距離11km台 プリンセスロイヤル バーベット(229mm) 不貫 内部に被害あり
距離10km以内 ウォーリア 主装甲帯→縦隔壁(152mm→51mm) 貫通 複数の装甲を抜いて重要区画内に達した物として例外的に掲載
あとは爆沈艦三隻の戦没原因がバーベットか前盾を抜いた可能性は十分にあり(その場合距離13km台で229mm、距離約15km並びに10kmで178mmを貫通)

こうしてみると痒い所にギリギリ手が届かないと言うか、不十分な部分が多い。
特にドイツ側が10インチ以上の装甲に当てた例が不足する。(ウォースパイトかコロッサスのバーベットにでも当たっていたらなあ)
命中例の中には対照的な結果も見られるが、やはり垂直装甲への貫通力は態勢の変化に大きく左右される。
特に英艦隊の命中弾が増えるGF本隊合流後は、多くの場合英艦隊が独艦隊にT字を取って迎え撃つ形で砲撃を加えている。
つまり艦首を向けた相手への砲撃となり、舷側装甲への撃角は浅い状態での命中弾が多かったと推測される。
一方独艦隊から英艦隊を打つ分には横方向の角度は着き辛いが、そもそもT字を取られた事で、命中弾自体をあまり与えられなかった。
またバーベットは態勢に関わらず当たり所で防御力を大幅に増し、砲室前盾にせよT字戦では砲撃艦以外を指向していた可能性もあり、こちらも正撃とはならないか。
GF合流後の中でも例外はヒッパー隊とフッド隊の戦闘で、距離10km程の同航戦で殴りあって、インヴィンシブル爆沈、リュッツオウ大破と共に被害を受けている。
このような戦いが戦艦同士でも起こっていれば、徹甲弾の成績は双方共にもう少し良かったかもしれない。

注3
平賀資料には当時の物と同程度の性能を持つであろう、英ハドフィールド社製14インチ砲弾の試験記録が残されている。
それによるとこの砲弾は、距離15kmでは282mm、12.5kmで353mm、10kmで383mmのVC鋼と均衡。(落角と横方向の角度を合成して)撃角30度の場合はFM1.6で、234mm、262mm、295mmになる。
実際はこれに加え砲弾が破砕されるので、300mmの装甲を抜くにはより近距離で撃つ必要があると思われる。
これらの情報から、10km同航戦なら英15インチ砲300mm、13.5インチ270mm、独12インチ砲250mm、英12インチはそれ以下ぐらいの装甲に対応した物と想像しているが、具体的な命中例が無いので根拠は薄い。
兎に角カイザー・ケーニヒ級やQE・R級の主装甲帯を抜こうと思えば、双方とも10km以内でなるべく撃角を深く取らなければ難しい。

注4
そもそも英12インチ砲艦は中甲板より上は非装甲だが、他の艦が持つ6インチ程度の装甲も大口径徹甲弾へは不足しており、それに対する防御に限っては、非装甲でも大差はない。
(ただし艦内侵入後に砲弾が水平装甲やバーベットへ当たった場合、それらの部位の防御力に影響する)

注5
一応下で挙げる物がすべて
・英15インチ
距離約8km デアフリンガー 水平部(80mm)貫通
・英13.5インチ
距離11km台 ケーニヒ 司令塔天蓋(150mm)不貫 内部人員負傷
英12インチ
距離7km台 ザイドリッツ 水平部(70mm)不貫 内部に被害あり
・独11~12インチ
15km以遠? マレーヤ 傾斜部(108mm) 不貫
距離約15km ライオン 傾斜部(83mm) 貫通
距離約12km タイガー 傾斜部(83mm) 不貫 破孔あり
三隻の戦没理由をここへの被弾とした場合、距離13km台で64mmもしくは83mm傾斜部、15km並びに10kmにて76mm傾斜部貫通。

この部分への効果も艦の動揺により変化するが、垂直装甲と比べると変化は少ないはず。
例が少なすぎるが、こちらは口径の大きい英側が単純に優れる印象を受ける。(もちろん自爆しない事を前提とする)
中でも英15インチ砲の例は凄まじく、これを信用する場合独戦艦の天蓋は傾斜部含め常時貫通可能となる。
対するドイツ艦砲は英12インチ砲艦(インヴィンシブル級と同厚)に対して有効、13.5インチ砲艦(水平部76mm)にも距離によっては通用すると思われるが、15インチ砲艦相手は厳しい。
因みに平賀資料によると14インチ砲の貫通力は15kmで89mm、12.5kmで74mm、10kmで60mmとなる。
これを見ると英13.5インチ砲に対しても、ドイツ艦は主要な交戦距離で危険な部位を持つ可能性が高い。

簡単なまとめ
ここまで見てきたように、この時点で大口径砲が進歩したといっても徹甲弾の性能は発展途上であり、いまだに装甲の方が勝る面が多い時代であった。

その為戦艦同士の戦いでは、このページで扱っているような主要区画の装甲を抜いて云々という比較を行う事自体が難しい
唯一の例外は砲塔天蓋で、英15インチ砲艦を除いて双方が危険となる。
ここを抜かれた場合は弾火薬庫の注水等を行う必要があるが、英戦艦の場合は一気に誘爆爆沈となる可能性がより高く、ドイツ艦が有利な要素の一つとなるだろう。

一方で誘爆が起こらないとすると、もはや多数の命中弾を送り込んで船体を破壊、浮力を奪うしかない。
この場合、艦首艦尾を破壊する、副砲防御を抜いて装薬を誘爆させる、主装甲帯を圧入して内部構造を破壊する、水中弾を送り込むなどの手段がある。
そうなると砲弾重量で勝る英側に分があるかとなるが、先述した自爆問題があり、装甲艦通後の艦内部への破壊効果はそこまで優れた物ではない。
一方のドイツ側もウォースパイトの例から破壊効果に欠けるのは確実で、結局ユトランドの環境では双方決め手に欠ける結果に終わるのではないだろうか。
つまりもう少し近距離での殴り合いになって欲しいと言う事だが、それだと主要区画への貫通弾が出たり、副砲が(生き残っていた場合)活躍する可能性など別要素も絡んでくるだろう。
もしGF本隊との最初の戦闘が続いていれば・・・と思わなくもないが、数に劣るこちらの不利は明らかで、そこまでリスクを冒して戦闘を続ける理由はないか。

最後に大雑把に比較すると、まず英12インチ砲艦に対しては、砲塔天蓋と一番砲塔横の舷側装甲に対して自艦主砲が通用することから、優位を持つ可能性が高い。
一方で超弩級戦艦が相手となると、主砲口径の割には火力の不利もないが、防御力の優位もそこまで無いという風になり、優劣はつけがたい。
その中でも英15インチ砲艦に対しては劣る面がある事にはあるが、この時点では明確に不利とも言えない程度の差と言える。

ドイツ弩級艦は何れも主砲口径に比べて優秀な艦であり、英海軍の戦艦へも競合できる存在である。
といっても数では明確に劣るので、戦力全体では大英帝国の牙城を崩すまでには行かない程度のまま戦争に突入したことになる。

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バイエルン級戦艦

1913~14年起工 1916~19年就役
180m 28,530t(常)45口径38cm砲 連装4基8門 22ノット
装甲厚
垂直装甲 350mmKC  → 30mm傾斜68度(内傾) → 50mm
砲塔前盾 350mmKC 傾斜なし(やや円筒形)

バーベット(露出部) 350mmKC 
バーベット(艦内部) 250mmKC →30mmNS → 80mm
水平装甲 40mmNS → 8mm →  8mm→ 30mmNS ≒ 58/40mmNS
砲塔天蓋 100mmNS~200mmNS傾斜約25度
上部装甲帯→甲板 あり
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 長船首楼

バイエルン級安全距離

 装甲部位\艦砲

8インチ

28cm

41年式36cm

14インチマーク7

15インチ

16インチ

46cm

垂直装甲 貫通不能 13km以遠 17km以遠
21km以遠 25km以遠 26km以遠 35km以遠
砲塔前盾  4.5km以遠 15.5km以遠  18.5km以遠 23km以遠 27km以遠 28.5km以遠 35.5km以遠
バーベット(露出部)  3km以遠
(4.5km以遠)
13.5km以遠
(15.5km以遠)
 
16km以遠
(18.5km以遠)
19.5km以遠
(23km以遠)
23.5km以遠
(27km以遠)
25km以遠
(28.5km以遠)
32km以遠
(35.5km以遠)
バーベット(艦内部)  5km以遠 18km以遠  24km以遠 27km以遠 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
水平装甲 21.5kmまで 11kmまで 7.5kmまで 7kmまで 7kmまで 6.5kmまで 6kmまで
 砲塔天蓋 27.5kmまで
~貫通不能
29km
~22kmまで
 
23km
~14.5kmまで
22km
~13kmまで
21km
~10kmまで
20km
~8kmまで
15.5kmまで
~安全距離なし

;

;

;

;

;

/

 

/

 :

:

:

/

垂直装甲(30度) 貫通不能、7.5km以遠、11km以遠、15km以遠、19km以遠、20.5km以遠、28.5km以遠

ここからはユトランド後や表で使用した第二次大戦期の砲弾に対する防御も見ていきたい。
本級は帝国海軍が最後に完成させた戦艦であり、その中では最も強力な艦である。
前級からの最大の変更点はやはり主砲口径だろう。
各国戦艦のさらなる大口径化に対抗する必要性が本級では遂に認識された形になる。
(この時期には方位盤など遠距離砲撃を支える技術が進歩しており、そういった環境では大口径砲の方が優位とされたのもあると思われる)
当初は一気に40cm砲を採用してこの競争の先頭に立つと言う流れも存在したが、こちらは実現せず。
結局口径は下げられたものの、依然当時の英戦艦とほぼ同等、世界最大級の38cm砲を搭載した。

防御面の変更も一部存在する。
まず重要区画外の艦首では既存の艦が先端に達するまで装甲帯を持っていたのに対して、本級は前部がほぼ非装甲になる。
これはオライオン級以降の英戦艦と同じ構造で、ヴィッテルスバッハ級以降続いてきたコンプリートベルトから一部外れる事になる。
重要区画内では、上部装甲帯の内中甲板から上甲板までの部分が250mmに、上甲板の水平装甲が40mm、水雷防御隔壁が50mmとなる。
また砲塔も大きく強化され、前盾とバーベットは350mm、天蓋は形状が変わった事もあり水平部100mm(120mmとも)傾斜部200mmに達している。

一番艦の就役は1916年7月とユトランドに僅かに間に合わなかった本級だが、同海戦における環境では既存の戦艦より強力な艦である事は間違いない。
まず防御面は砲塔天蓋の強化が大きく、他の艦では脆弱であった傾斜部が200mmとなり、これなら抜かれる事は考えづらい。
さらに水平部も上の14インチ砲の記録から、少なくとも13.5インチ砲に破られる可能性は低いだろう。
また上部装甲帯の200mm部分が254mmとなった事で、上で挙げた被弾の一部に耐える可能性も増えている。
尤も副砲防御と水線下の装甲帯の範囲は強化されず、こちらに被弾すればケーニヒ級と同じような被害を受ける可能性が高い。
防御面以上に主砲火力の向上は重要な要素である。
使用砲弾は重量750kgと、英15インチ砲に比べると軽いが、それでも既存の12インチ砲の倍近い。その分少ない命中弾でも破壊効果が期待できる。
また上の命中例から、10インチの装甲を抜ける程度に貫通力が向上したとすれば、英戦艦のバーベットを抜ける可能性があるのも非常に大きい。
(なおこの砲の徹甲弾はユトランド時に主に使用された中空被帽を用いるのではなく、より大きい実帽の上に風帽を併用する形である。後述する英新型砲弾と同じ形で、その分貫通力がさらに上がっていた可能性も無くはない)
以下の点から本級はユトランド時なら、15インチ砲艦含む英戦艦全般に優位を持つことが出来たと評価できる。
その分同海戦に参加できず、その後も交戦機会に恵まれなかったのが残念で仕方ない。
(もちろん一隻だけでは出来る事は限られるが、おそらくトマス隊のQE級に与える損傷は大きくなっていただろう)

一方で本級が就役したユトランド後の環境では少々難しい点がある。
これは英海軍に本級を上回る新型艦が登場したと言う訳ではなく、戦訓を元に既存の英戦艦の防御力・攻撃力の両方が強化された事による。
まず防御面は弾薬庫下甲板と砲塔天蓋を若干強化しているが、これは上で考えた分にはあまり影響しないか。
それ以上に重要なのが、爆沈の原因が自殺的な装薬管理にある事を認識し、その対策を試みている点である。
(実は有効な防爆機能を持った弾薬庫扉が開発されるのは1919年まで待たなければならないので、砲塔の誘爆が起これば依然として危険。ただしライオンの例からも分かるように、即応弾の装薬を減らすだけでも致命傷を避ける確率は上がる)
バーベットや砲塔天蓋を抜いて即爆沈とならないとなると、本級にとって英戦艦は一気にしぶとい相手に変わると思われる。

そして英国が新たに開発した徹甲弾の性能は凄まじい。
これはユトランドにて回収されたドイツ製砲弾などを参考に18年以降配備された物で、上で挙げた欠点をほぼ解消している。
貫通力の面では、15インチ砲なら13km付近より350mm装甲を抜ける事が、戦後本級の二番艦バーデンへの試験で判明している。
これは横方向の角度などが着けばそこまで脅威とならないかもしれないが、この砲弾が真に恐ろしいのは貫通後の性能である。
これまでの砲弾は6~8インチ程度の中程度の厚さの装甲に対しても、貫通中に自爆してバラバラになって裏側に達するか、良くて直後に炸裂するのがやっとだった。
一方で新型砲弾はある程度の厚さの装甲なら貫通後も砲弾は完全なままで、8~12m程進んだのちに炸裂する。
つまりこの砲弾に対して本級の装甲配置では、上部装甲帯や船首楼甲板を貫通後に、そのまま下甲板すら抜かれて重要区画への損傷を許す可能性が出て来てしまう。

このように本級が竣工した時期には、ユトランドにてドイツ艦が持っていた優位が失われてしまった感がある。
この環境ではケーニヒ以下の弩級艦も英13.5インチ砲艦に不利な面が出てきたと言わざるを得ない。
先ほど交戦機会に恵まれなかったのが残念と述べたが、この時期には英海軍との戦力差はさらに開いており、幻の艦隊決戦を想像しても悲観的な予想になってしまう。

未完成に終わった三番艦ザクセンは遂にディーゼル機関を併用する予定だったので装甲配置が一部異なる。(ディーゼル併用は先述したカイザー級以降も何度か計画されるも実現していなかった)
まずディーゼルはタービンよりも場所を取る都合で、搭載部分の下甲板のみ他の範囲よりも高い位置に設けられている。つまり被弾面積が拡大し、また石炭庫を必要としない分その防御効果も得られない。
そこで同艦はまずディーゼル搭載範囲の下甲板を80mmに強化。一枚板かは不明だが当時の艦としては厚く、弾片やある程度の直撃弾にも耐えうる物に。
またその前部でも下甲板は50mmとなり、こちらも弾片により貫かれる可能性は減少した。(尤も他の部位は30mmのまま)
さらに前後左右にできた段差から重要区画内に被害が出るのを防ぐため、ここにも140mmから200mmの垂直装甲を設けている。
(後のシャルンホルスト級の段差にもこれぐらいの装甲を設けるべきだったのではと思わずにはいられない)

..

これからは表の内容に入るとして、主に第二次大戦期の環境での評価となる。
当然海軍休日を迎える前に艦歴を終えた本級は、装甲の強化などの改装は受けていない。
一方で垂直装甲は条約の関係で他の艦も強化されない場合が殆どで、この部分は依然上位に入る。
さすが15インチ以上の砲には想定される交戦距離でも危険になってきたが、これは他も同じ。

今まで無視していた使用装甲の品質について書いておくと、装甲帯など垂直装甲全般には、1894年に開発されたオリジナルのクルップ鋼を使用する。
これは第二次大戦期の新戦艦に使用されたKC n/Aと区別するため、KC a/Aとも呼称される
本級に使われたであろう10年代の物の性能は、戦前ドイツ側が行った試験によると同時期の英国製KC鋼に対して十分な優位を持つと判断されている。
(英装甲はドイツの最新の物に比べて割れやすいと評しており、これは英国で言う所のクルップ病を本家ドイツは克服していた事を意味する)
一方で戦後イギリスで行われた、バーデンの装甲を使用した調査では結果は逆転する。
具体的には第一次大戦後に製造された同厚の英国製装甲に対して94から83パーセント、もしくはそれ以下の対弾性能しか持たないとされた。

これについては以下の理由が想像できる
1 要求された性能を満たさない装甲が一部に使用された
同艦の建造時期を考えると、完成を急ぐために装甲品質を妥協したということはあってもおかしくない。(数年後日本海軍も陸奥で同じことを行う)
ただし現行の情報ではそれを証明することは不可能。
2 戦前戦中と比べて英国製装甲の品質が向上した
確かにこの頃の英国装甲の進歩しており、上の試験結果にも影響を与えたとは思われるが、ここまで一気に性能を上げたとは考えづらい。
3 装甲と徹甲弾の相性が大きく影響した
つまりドイツ製徹甲弾は英国製装甲に効果的でドイツ製装甲に弱く、英国製徹甲弾はちょうどその逆だったと言う考え。
ただ試験に使われた英国性徹甲弾は結構ドイツの物を参考にしている部分もあるので、まず可能性は低いと思われる。
4 英国側の試験方法に問題があった
上で「もしくはそれ以下の対弾性能」という表現を使っているが、これは射撃試験中に砲弾を撃ち込むスペースがなくなって、正確な均衡速度を求められなかったことによる。
つまり結構小さい装甲板に対する試験結果を含んでいたと言うことになり、その様な装甲板では得てして砲弾は外側に命中しやすく、本来の性能が発揮できないと言うことも珍しくはない。
試験で均衡速度が割り出されたのは8インチと14インチ厚(実際は200mmと350mmだろう)のもので、それぞれ対弾性能は94%と91%とされている。
依然英国製装甲には劣る数字だが、これは「3」の品質向上の件を含めて考えれば納得できなくもない結果だと思う。
なお上の表では、他国旧式戦艦の計算に使用したのと同じ、1910年代の表面硬化装甲(20年代の英国製装甲には劣る物)として計算した。

同厚の砲塔前盾(傾斜が殆ど無い)やバーベット露出部も同じような評価で、14インチ砲までは十分だが、15インチ以上には不足してくる。
この時期の砲弾は先述したように装甲貫通後も貫通力を保っているので、上部装甲帯を抜いた後に奥のバーベット減厚部分にまで達する砲弾もある。
この部分は170mm、80mmまで減厚し、装甲帯を加えても露出部と比べるとかなり劣る。
水平装甲はニッケル鋼の一種からなる装甲を二層に分けて持つもので、基本的には弾片防御として設けられた物である。
直撃弾が発生するこの時期には、もはや無力としか言いようがない。
また下甲板30mmという厚さでは、上部装甲帯と奥の縦隔壁を抜いた砲弾も止められず、14インチ砲クラスにも耐えられなくなると思われる。
均質装甲を用いる砲塔天蓋は比較的マシだが、傾斜部がこちらでは逆効果になっているか。
..
仮に本級が戦間期に保有された場合、とりあえず水平装甲の強化は必須である。
ドイツ海軍に限らず、本級の配置なら下甲板を強化するのが定石だろう。
(米海軍なら一段上の中甲板とする可能性もあるが)
その際に重量が許せば、ビスマルク級と同じく傾斜部による多重防御の獲得も期待できる。
その他主装甲帯やバーベットの厚さは元々優れている為、ここの強化を行えば一気に旧式戦艦ではトップクラスの防御力を持つ艦に返り咲くと思われる。

 ..

・第一次大戦時の巡洋戦艦
次はユトランドの主役とも言える巡洋戦艦について。
ドイツ海軍では既存の巡洋艦と巡洋戦艦を区別せずに大型巡洋艦(Große Kreuzer)に分類していたそうだが、ここでは英語圏の表記に合わせて巡洋戦艦で。

まず装甲巡から見ていくと、先述したようにドイツ海軍はプリンツ・ハインリヒより上部装甲帯を導入した。
正確に言えば同艦の垂直装甲は水線部上部共に100mmと同厚で、主装甲帯の範囲が拡大したと表現する方が正しいか
これは同時期の戦艦に比べ重要区画間に占める長さが短く、横から見ると乾舷に占める装甲範囲はピラミッドのように上段程狭くなる形に。
以降の装甲巡も基本的この形の装甲を持っている。
一方でフュルスト・ビスマルクより搭載された24cm砲はプリンツ・アーダルベルトより40口径21cm砲とサイズ相応の口径に。
そして同級の改設計版であるローン級以降、ドイツ装甲巡は口径はそのままに、砲門数を増強する方向で強化されていく。
これによりシャルンホルスト級は主砲8門(片舷6門)。さらにブリュッヒャーに至っては12門片舷8門の大火力を獲得した。(また後者は新開発の45口砲砲

しかし同時期には英国で12インチ砲を多数搭載する装甲巡洋艦、後に巡洋戦艦と呼ばれるインヴィンシブル級が就役する。
一応両級とも防御面では装甲範囲か厚さのどちらかで勝り、コロネル沖海戦ではシャルンホルストが同級と大差ない防御力を持つ英装甲巡を撃沈するなど、火砲も通用する相手ではある。
しかしそれは21cm砲に適した交戦距離の場合であり、フォークランド沖海戦のような遠距離戦では攻撃力の圧倒的な差が生じ、不利は否めない。

そこでドイツも大口径砲搭載型の装甲巡の整備へと舵を取り、その第一号であるフォン・デア・タンを1910年に竣工させている。
同艦は28cm砲を4基搭載、うち2基を中央で梯形配置にするインヴィンシブルに倣った配置をとっている。
それ以外の特徴は戦艦と同じく15cm副砲を残す点と、なによりその装甲だろう。
装甲配置を一から見ると、船体は前艦橋まで船首楼が伸びる形で、重要区画上を通る甲板は多くの部位で上中下の三層。
垂直装甲は、まず250mmの主装甲帯は下甲板が高い位置に有る事もあって、同甲板よりも若干下の高さまで、
その上には中甲板の高さまで弾薬庫225mm機関部200mmの装甲帯、一番上には副砲防御を兼ねる150mm装甲が上甲板までに設けられる。
この部分はやや主装甲帯の範囲が狭いが、上部装甲帯の下段もインヴィンシブルの主装甲帯を上回る厚さと、同級を完全に圧倒している。
またコロッサスまでの艦も主装甲帯はあまり高くないので、英戦艦にも迫る(防御範囲では勝る)防御と評価できる。
なお150mm部分の装甲帯は同時期の戦艦が前後のバーベットまで接続するのに対して、本艦では司令塔手前で横隔壁によって閉じられ範囲が狭い。
装甲厚は戦艦並みになったが、この部分は装甲巡洋艦のピラミッド配置の名残が残っているようだ。
水平装甲は上甲板と下甲板の水平部25mm、下甲板傾斜部50mmと大差ない。
また砲塔防御は前盾230mm、バーベット露出部200mm、天蓋水平部60mm傾斜部90mmと、英巡戦には勝るが戦艦にはやや劣る。

次級モルトケ級はこの改良版となるが、一部変更点も。
まず主砲口径は28cmながら50口径砲を採用し、後部で背負配置をとるカイザー級と同じ配置をとっている。
装甲配置は船体形状が長船首楼型になった影響で重要区画上を通る甲板の名称が船首楼、上、中と一段分ずれているが、構造自体は大きな変化はない。
厚さは270/200/150mmとなる。
水平装甲と砲塔防御も前級に準ずるが、装甲帯の背後に縦隔壁が追加されて一部弾片防御が強化された。
こちらも強力な艦であり、英国のライオン級と比較すると砲塔防御や装甲帯の一部で劣る面があるが、基本的にはこちらが勝る。
ただし戦艦であるオライオン級には全体で劣るか。
(二番艦ゲーベンについてはその他戦艦編で扱う予定)

次級のザイドリッツは攻撃面は進歩が無いが、防御面が大きく強化された艦である。
詳しく見ていくと船体はモルトケの艦首にもう一段船首楼が乗ったような形で、船体中央の甲板は船首楼(下段)、上中の三層。
垂直装甲はまず中甲板付近の高さまでに、300mmの主装甲帯を持つ。
さらに上には上甲板の高さまでに270から230mmにテーパーする装甲帯、副砲防御の150mm装甲帯が続く。
相変わらず主装甲帯の高さがあまり無いが、その一段上の部分は他国戦艦の上部装甲帯を上回り、その分有効な防御範囲を増している。
水平装甲も船首楼35mm、中甲板水平部30mm傾斜部50mmと若干強化。
ここまでは英巡戦は勿論オライオン級すら上回る防御だが、砲塔は前盾250mm、バーベット230mm、天蓋水平部70mm傾斜部100mmとこちらは微妙。

第一次大戦まで完成した巡戦としては最後のクラスとなるデアフリンガー級はついに主砲が12インチ砲になり、金剛やタイガー方式で中心線上に4基配置している。
(話は逸れるが、最初に知ったドイツ艦はビスマルクやティルピッツではなく、このデアフリンガーとエムデンだという人は結構多いのではないだろうか)
装甲配置は基本は前級の物を受け継いでいる。
ただし船体形状は船首楼ではなく、船体中央部に最上甲板を持つ平甲板型となり、甲板名称は最上甲板、上、中の三層になる。
その為水平装甲も最上甲板(一部が50mmに)と中甲板の二層に。
また別の変更点と言えば、先述したピラミッド配置の名残はザイドリッツまでにも一部見られたが、本級ではついに戦艦と同じく前後のバーベットに接続する形になっている。
そして砲塔防御が結構強化されたのも特徴である。(前盾270mm、バーベット260mm、天蓋水平部80mm傾斜部110mm)
最後に重要区画外では艦首装甲帯の高さが減少したもの変更点か。

・第一次大戦時の英巡戦との比較
こちらはユトランドで十分直接対決を行っており、結果はより明白な物となる。
まず当時の砲弾でも、英巡戦の12インチ砲艦の防御力不足は明らかで、戦闘時の差は大きい。
(ただし実戦でリュッツオウの致命傷となった2発の水中弾を与えたのは、この12インチ砲艦であるインヴィンシブルだが)
ライオン以降の艦は主砲だけでなく防御面もかなり改善されているが、依然として主装甲帯に5~6インチ装甲を含むなど不十分な点が残る。
と言ってもこちらも艦首艦尾や上部装甲帯の一部は抜かれることになるが、特にザイドリッツ以降の艦は有効な防御範囲で英艦に大きく勝っている。
一方でデアフリンガー級を除いて砲塔防御にはそこまで差はなく、こちらも被害を受ける可能性が残る。
ドッガーバンクではその点からザイドリッツが沈みかけているが、ユトランド時の誘爆対策なら一応英国側ほど致命的な問題ではなくなるか。
という事で、やはり巡戦同士では装甲厚の差もあって独巡戦がある程度優位を持っていたと思われる。
ただしライオン級以降の艦は水線付近や砲塔への被弾による被害を抑える事が出来た場合、こちらもしぶとい相手にはなるだろう。

そしてユトランド以降は先述したように英国側が強化される。
こうするとフォンデアタンやモルトケは主装甲帯の狭さが不安になり、それ以降の艦もテーパー装甲がどれだけ通用するかが問題になってくる。
しかし相手の主要区画にこちらの主砲が通用する事は変わり無いので、戦艦同士ほど一気に不利になるわけでは無いだろう。
なおこの時期には英国で15インチ砲を搭載した巡洋戦艦が登場するが、すべて軽装甲艦なのであまり脅威になるとは考えづらい。

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マッケンゼン級巡洋戦艦 
1915年起工 未完成
223m 31,000t(常)   45口径35cm砲 連装4基8門  28ノット

装甲厚
垂直装甲 300mmKC → 60mm

砲塔前盾 320mmKC 傾斜なしやや円形
バーベット(露出部) 290mmKC
バーベット(艦内部) 270~220mmKC →30mm → 60mm
水平装甲 50mm~25mm →25mm → 30mm ≒ 78/63mm~59/45mm
砲塔天蓋 110mmNS~180mmNS傾斜25度(推定)

上部装甲帯→甲板 あり
上部装甲帯→傾斜部 なし

船体 平甲板型

マッケンゼン級安全距離

 装甲部位\艦砲

8インチ

28cm

41年式36cm

14インチマーク7

15インチ

16インチ

46cm

垂直装甲 5km以遠 17.5km以遠 21.5km以遠
26km以遠 安全距離なし 安全距離なし 40km以遠
砲塔前盾  6km以遠 18km以遠  21km以遠 25.5km以遠 29.5km以遠 31.5km以遠 39km以遠
バーベット(露出部)  6km以遠
(7.5km以遠)
18km以遠
(20km以遠)
 
21km以遠
(24.5km以遠)
26km以遠
(29km以遠)
29km以遠
(安全距離なし)
31.5km以遠
(安全距離なし)
39km以遠
(40.5km以遠)
バーベット(艦内部)  5km
~8km以遠
17.5km
~23km以遠
 
23km
~30km以遠
26km
~33km以遠
安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
水平装甲 21.5km
~24kmまで
12km
~17kmまで
8km
~11kmまで
7.5km
~10.5kmまで
7.5km
~10kmまで
7km
~9.5kmまで
6.5km
~9kmまで
 砲塔天蓋 29kmまで
~貫通不能
30.5km
~19.5kmまで
 
24.5km
~12kmまで
23.5km
~9.5kmまで
23kmまで
~安全距離なし
22.5kmまで
~安全距離なし
17.5kmまで
~安全距離なし

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垂直装甲(30度) 1km以遠、12.5km以遠、17km以遠、20km以遠、23km以遠、25.5km以遠、35.5km以遠

マッケンゼン級はバイエルンと同じく12インチ以上の主砲口径が求められた時期に計画された艦である。
当初はサイズの問題から38cm砲6門の案が支持されていたが、英国が今後の主砲口径を13.5インチに戻すという誤情報も影響し、35cm砲を前級と同じ方式で8門持つ案が選ばれている。

防御面の多くは前級に準ずるが、こちらも変更点が見られる。
まず垂直装甲はほぼ前級のままだが、乾舷が増した影響で甲板名称がまた変わっている。
300mmの主装甲帯は下甲板付近の高さまで、270mmから230ではなく220mmにテーパーする装甲が中甲板まで、副砲防御の150mm装甲が上甲板までとなる。
水平装甲には大きな変更点があり、前級までに存在した下甲板の傾斜部が廃されて、水平のまま主装甲帯の上端近くに接続する。
これは単純に重量軽減の他にも、給炭を楽にする意図あったようだ。
その結果若干弾片防御が簡素になったが、そもそも当時の砲弾では本級の装甲帯を抜くことは難しいのであまり影響はなかっただろう。
なお水雷防御用の縦隔壁が60mmに強化され、これが弾片防御を兼ねると思われる。
(ちなみに本級と同じように傾斜部を廃した艦はこの時期では日本の河内と扶桑の他、サウスカロライナからニューヨークまでの米戦艦でも見られる。この内米戦艦は上部装甲帯に厚めのテーパー装甲を用いており、本級の重要区画内の装甲配置は大体この米戦艦と共通した物と言える)
水平装甲の厚さは前級と変わらず下甲板は30mmに上甲板最大50mmの上甲板だが、新たに中甲板にも20mmと薄い装甲が加わる。
(なお計画された4隻の内、最後の2隻は弾薬庫上の下甲板を60mmにまで強化する予定だった)
砲塔防御は前盾320mm、バーベット290mm、天蓋水平部110mm傾斜部180mmとバイエルン級程ではないが、巡戦としては大きく強化された。

本級もユトランド基準の評価を行うと、より強力な艦であったことは間違いない。
主砲は貫通力が増した事でライオン以降の艦が持つ9インチ装甲を抜く確率がさらに上がり、さらに近距離では英戦艦のバーベットを抜く可能性もあると思われる。
そして既存の11~12インチ砲は砲弾性能はともかく、英側に爆沈艦以外で戦没した艦がいないように、素の破壊効果では英巡戦相手でも不足していた感がある。
(ライオンは先のドッガーバンクでの戦いにおいて最終的には機関停止にまで追い込まれているので、単に運が悪かったで済まされる事なのかもしれないが)
35cm砲の砲弾重量は12インチ砲の1.5倍あり、その分少ない命中弾で敵巡戦を落伍もしくは戦闘不能にする事が可能になるだろう。
一方防御面はユトランドでの被害から、集中砲火を浴びれば本級もかなりの被害を受ける可能性が高い。
ただし砲塔防御が15インチ砲含め有効な厚さになったので、火力を維持しやすくなったのは大きな進歩である。
この分だとユトランド時なら英巡戦は勿論、QE級含む英戦艦とも普通に戦える艦だっただろう。
そして実際に竣工する時期でも、さすがに15インチ砲艦には不利かもしれないが、依然巡戦としては同時期の艦では最も優秀な艦と言っていい。

このように本級は今までの艦では厚くなかった砲塔防御含め、それこそ戦艦にも劣らない防御を有している。
さらにケーニヒまでの独戦艦を上回る35cm砲8門の火力は同時期の戦艦に劣らず、もちろん巡洋戦艦だけあって28ノットの快速を持つ。
これらの要素は一つ一つでは本級よりも優れた艦は当時も普通に存在したが、三要素すべてをここまで高いレベルで保持する主力艦は本級が初めてと言える。
尤も戦局により未完成になるので、攻防速揃った次世代の高速戦艦の座は英フッドに奪われてしまったが。(この頃にはイタリアがカラッチョロ級を起工しているが、こちらも未完成)
そのフッドに対しても本級は不利な面を持つが、同艦も防御面では完全な艦ではなく、徹甲弾の更新を行って遅動信管の性能が向上していれば、本級でも十分対抗可能である。
また第一次大戦後には恐ろしい事に、英国や日本でそのフッドすら上回る高速戦艦の計画が進んでいる。
(当のドイツ海軍も実現可能だったかはともかく強力な案が存在するので、機会があれば紹介したい)
本級もそれらの艦へは見劣りする事は否めないが、これまでのドイツ主力艦よりも火力に優れる点、戦艦よりも速力がある点から、そう簡単に価値を失う訳でも無い。
またそれらの艦が廃棄される条約期に本級が保持された場合、中々面白い戦力となっていただろう。

..

最後に条約期以降の砲弾への防御という事で、表の内容に入りたい。
まず垂直装甲は主装甲帯300mmと60mmの隔壁からなり、この部分もより新しい砲弾へは普通に抜かれるようになる。
ただし未だに自艦主砲クラスへは一定の安全距離を有すると言った結果になった。
砲塔前盾やバーベット露出部も同程度の評価となるが、こちらもバーベットが艦内部で減厚する部分に被弾する可能性がでてくる。
この部分は中甲板から下甲板の高さでは60mmにまで減厚している。
一応270~220mmのテーパー装甲と30mmの縦隔壁を貫通する必要があるものの、この時期の砲弾に対しては、かなり被害を受けやすい場所である。
水平装甲はバイエルン級以前の艦よりは若干上だが、こちらも有効な遅動信管を持つ大口径砲弾にはまず対応できない。
また主装甲帯よりも上の装甲帯(特に270~230mm部分)を貫通した砲弾が、そのまま30mmの下甲板を破る被害も発生するだろう。
その場合は14インチ以下の砲にも防御力不足となるが。
砲塔天蓋は傾斜部が弱点となるのは本級と変わらず。

仮に戦後に本級が保持された場合、バイエルンと同じく水平装甲の強化は必須である。
(強化されるのは下甲板が定石だが、傾斜部の強化ができないので近い配置を持つ米戦艦の改装の様に一段上を強化して防御範囲を増すのも選択肢としてある。
後のドイツ戦艦を見れば後者の可能性は殆ど無いが、本級を保有している時点で色々環境が違うのであり得なくもない)
攻撃面も他艦と同程度の改正を受けるとして、これらを行えば直接戦闘力はレナウンや金剛に勝り、大改装を行えなかったフッドにも劣らない。
新戦艦の相手ならともかく、この時期の主力艦としても十分な戦力になる。
またフランス海軍に編入されるとしても、同海軍が大戦までに整備できなかった高速戦力を獲得する事になる。
どちらにせよ戦間期やそれ以降の各国主力艦整備の内容に影響を与えていただろう。
そしてメルセルケビールかデンマーク海峡でフッドと交戦ルート


・マッケンゼン級以降の戦艦・巡洋戦艦・大型戦闘艦案
大戦勃発後に計画・研究されるも、起工することなく消滅した計画艦について。
この時期にも戦艦のインフレは止まらず、日本の八八艦隊艦など、既存の艦を大きく上回る強力な艦が各国で計画されている。
そしてドイツの計画艦もその例に漏れない。

まず最初はヨルク代艦級で、当初はマッケンゼン級の同型艦として建造される予定が、他国巡洋戦艦や皇帝の意向などもあって38cm砲艦としてまとめられた艦である。
主砲38cm砲を前級と同じ方式で8門搭載し、装甲は基本的に前級(おそらく水平装甲が強化された後半2隻)と同一である。
これに伴い常備排水量は33,500tに増加し速力は27.25ノットと低下。一応デアフリンガー以下の巡洋戦艦に計画速力で勝るが、30ノット台に突入した英巡戦には劣る。
また日本の長門型にも迫られている点から、前級以上に高速戦艦としての要素が強くなったともいえるだろう。

これに続く戦艦枠の研究案もまた、速力を重視した高速戦艦の範疇に入るものが中心となる。
最初はヨルク代艦級と同時期に提案された「L1」から「L3」案で、常備排水量34,000~38,000tとバイエルンからかなり増量した船体に38cm砲を8門から10門搭載。
速力を2~3ノット増した25から26ノットとしている。
その後の研究ではついに排水量は最大45,000tに跳ね上がり、主砲も16インチを飛び越えて42cm砲を8門搭載、最大速力はヨルク代艦と大差ない27.5ノットという、ある意味夢の高速戦艦案も登場している。
(さらに多連装砲塔の採用で重量を軽減し、さらなる速力増強を図る意見も存在したが、運用きたす支障に比べ削減効果は少ないとして採用されず)
ただ諸要素を考慮した結果、排水量42,600tに42cm砲8門、26ノットと若干規模が落ちる(未だに日米計画艦とも張り合えるサイズだが)「L20α」案が今後の原案として選ばれた。

防御面を見ると、これらの案の装甲配置はバイエルン級から変わり映えは無く、装甲厚も下甲板の水平部が60mmに強化されるのみにとどまっている。
おそらく機関や武装に重量が取られすぎたのが理由と考えられるが、それでも日米英で進められた集中防御や傾斜装甲の採用など、重量を節約しつつ重要区画の防御力を増す改正は見られない。
ただ前者は副砲防御を含む防御範囲の減少と引き換えになる上に、装甲厚を増しても十分な品質のものを作れない恐れがあるのと、後者も船体形状を変えるので大幅な設計変更が必要になるという弊害がある。
これも想像になるが、バイエルン級の微強化版である現行の装甲配置でも、ある程度有効な防御力を保持しているとされたため、こういった挑戦をする必要はないとされたのかもしれない。
まず主装甲帯や砲塔の350mm装甲は、改良後の英15インチ砲に一定の距離で抜かれかねない事を先述したが、あくまで砲弾側に良い条件で命中した場合に限る。
実戦ではもっと撃角は浅くなるので安全距離もより広くなる上に、同時期の日米戦艦案も舷側最厚部の防御力は大差ないので、本案だけそこまで心配する必要はないだろう。
そして強化範囲に関係するのが上部装甲帯貫通後に下甲板に当たる場合と、水平装甲のみを貫通するルートである。
正直60mmに強化してもこの時期の艦としては薄いことは否めず、上部装甲帯や上甲板を破った砲弾が完全な状態で命中すれば、防御を破られる可能性も十分考えられる。
一方で下甲板に命中する前に炸裂してしまった砲弾に対しては、30mmの前級までと比べて防御力は大幅に改善していると言えるだろう。

最後に加賀・サウスダコタと比べると、垂直装甲の最厚部はほぼ互角、砲塔防御は加賀に勝るがダコタに劣る、水平装甲は両クラスともに劣る。
この時代になって水平装甲がやや薄いというのは特にマイナスな点だが、42cm砲の性能や速力に期待すれば両クラスと競えるし、フッドまでの英主力艦なら基本圧倒できる有力艦と言えるだろう。

ただし恐ろしい事に、この時期のドイツ海軍の高速戦力に対する望みはとどまることを知らず、さらに強力な艦の研究も進んでいる。
きっかけとなったのは戦艦でも巡戦でもない、大型戦闘艦と呼ばれる艦の研究からである。
そこで最初に計画されたのは、35cm主砲を4門に100~150mmの垂直装甲と32~34ノットの速力を兼ね備えた、ドイツ版ハッシュハッシュクルーザーというべきものだった。
この時点の排水量は3万トンに過ぎなかったが、方針を転換して装甲と砲の口径を強化したことにより急激に増加。
42cm砲8門にL20αに準ずる装甲厚(砲塔天蓋は150mmに増厚)、30ノットの速力を持つ排水量5万トンの「GK5041」案すら登場したが、結局非現実的という事で計画は進まず。
最後には主砲を6門に減じた代わりに、速力を28~29ノットまで伸ばした戦艦枠のL案の研究が再び行われた所で、新型主力艦の研究は終了。
ドイツは敗戦により厳しい軍備制限の中に置かれることになる。

なお終戦後には船舶不足解消のために、残った軍艦を商船へ改装する動きがあった。
実際旧式の海防戦艦の一部では工事が行われ、マッケンゼンやバイエルン級などの未成艦も貨客船やタンカーとして就役させる計画が存在したという。

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・第二次大戦期のドイツ主力艦

ドイッチュラント級装甲艦(とそれに至る研究案)
ポケット戦艦の名でも知られる本級だが、あくまで本国では装甲艦、重巡洋艦として扱われており、装甲も巡洋艦並に抑えられている。このページではおまけの方で軽く扱うのみとしたい。
→ 装甲配置については中戦・大巡編のおまけで扱ったのでそちらを参照
ただし本級が各国海軍に与えた影響は大きく、第二次大戦期の戦艦を語る上では欠かせない存在である。
そこで本級に至るまでの計画案について軽くまとめておきたい。

第一次大戦後に戦勝国の一部が排水量4万トン越え16インチ砲艦の計画を進める中、軍備制限下のドイツ海軍は前弩級戦艦六隻(と予備艦二隻)の保有が許されるのみだった。
これらの艦は艦齢20年を超えると代艦の建造が許されていたが、それも個艦の排水量は1万トンまで。
これはワシントン条約下で列強海軍が代艦として建造できる35,000t級の戦艦の太刀打ちできないのはもちろん、同条約で定義された巡洋艦と同規模の艦しか作れないと言うことである。

そういった制限の中で20年代初頭より代艦研究が始まるが、当時の仮想敵は東プロイセンを隔てる形で領土を持つポーランドであった。
同国海軍は現行の戦力でもまず脅威になるものではないが、戦争となると同盟関係にあったフランスが出張ってくるのが問題である。
具体的には装甲巡洋艦を主力とした艦隊をバルト海に派遣すると言う情報を掴んでいたが、ドイツ側としてはさらに強力な戦力の投入も考えられた。
一方で浅いバルト海に大型の弩級戦艦などを派遣する可能性も低く、それよりは小型のダントン級が派遣される事が予想されていたようだ。
もう一つドイツ海軍が注意を払わなければいけなかったのは、軍縮条約下で盛んに整備された巡洋艦で、フランスはもちろんポーランドも(実行されなかったが)巡洋艦整備を計画していた。
つまり火力や装甲に優れた旧式戦艦と、その二つは戦艦程でないが高速な巡洋艦の2種類の敵に対抗できることが今後の代艦に求められていた事になる。

最初に検討されていた案は、38cm砲を4門搭載し速力22ノットという小型戦艦もしくは海防戦艦的な物と、21cm砲8門速力32ノットと他国の1万トン巡洋艦に近い物の二つである。
どちらも十分な性能を持つとは見做されず、特に前者は38cm砲の搭載が外交問題に繋がると警戒され、12インチ砲6門の案が代わりに検討されている。
この案では主砲配置は三連装二基を前後部に配置する物から、連装3基をネルソンのように前部集中する物やケーニヒスベルク級の配置を採用した物も見られる。
なお装甲を見ると小型戦艦案が垂直装甲200~180mm、水平装甲30mmと、スウェーデンなどの海防戦艦と比べるとそれなりだが、水平装甲はこの時点では重視されていない事がわかる。
巡洋艦案の装甲は垂直80mm、水平30mmとサイズ相応の物である。

当時はフランスのルール占領や経済問題により代艦の建造自体が行えない状態だったが、研究自体は続けられ、27年にはこれまでの試案から四案が検討されている。
この内の三案は38cmもしくは12インチ砲を搭載する小型戦艦案で、装甲は250mmから300mmと以前の案よりも厚いが速力は18~21ノットと遅い。
一方で残りの一つは28mc砲を6門搭載し、垂直装甲100mmとあまり強力とは言えないが、27~28ノットと結構高速を発揮する艦である。
同案の原型は前年26年より研究されていたもので、1万トンと言う排水量で「戦艦よりも速く巡洋艦よりも強い」というコンセプトに活路を見出した案と言える。
最終的に最後の案が採用されるも、このスペックを排水量内で実現するのは難しいとされ、一部性能が引き下げられた他、結局1万トンを若干超過して完成している。

こうして登場した本級だが、用兵側からは「戦艦よりも弱く巡洋艦よりも遅い」中途半端な性能しかない政治的な艦だと評判は悪かった。
ドイツ海軍としては本級の建造は最初の二隻だけに留め、外交交渉の成果があり次第、三隻目(装甲艦C)はより強力な艦とすることを望んでいたようだ。

一方で中途半端とはいえ、当時の戦艦で本級を補足できる速力を持つ艦は限られ、速力は十分でも巡洋艦の戦闘能力で本級に対処できるかは未知数であった。
(本級は8インチ砲に対して十分な防御を持っているかは怪しい所だが、他国が正しいスペックを把握していたわけでは無いことに注意しなければならない)
特にフランスは既存の戦力の見直しを迫られ、最終的に13インチ砲8門に30ノット超えの速力を持つダンケルク級を建造、これを持って欧州で新たな建艦競争が始まったことは良く知られている。
尤もそういった建艦競争の結果、本級の持つ価値は結構低下したと言うか、本当に中途半端な立ち位置に追いやられてしまったが、きっかけになった艦と言う事でその存在は重要だろう。

本級の装甲配置等については中戦・大巡編を参照。

なお装甲艦C計画中の29年になると、フランスがダンケルク級の前に計画していた17,500tの巡洋戦艦・大型巡洋艦に関する情報が入ってきていた。
この時点で12インチ砲を8門持ち、装甲も本級よりも厚い同艦に対する不利は免れない。
ヴェルサイユ条約に関する進展は特にない為、いまだに排水量1万の制約がある中で、主砲を24cm砲9門、速力30ノット程度の艦とする計画が存在した。
これは今までの装甲艦よりも戦艦への速力の優位を持つ案だが、設計の手間やフランス新型艦が30ノット以上出せる場合は意味がないと言うことで実行されず。
最終的に前の二艦よりも若干装甲厚を増した同型艦として完成している。

話は変わるが、二番艦のアドミラル・シェーアはキール港にて転覆した後、船体の大部分が解体されずに地中に残された状態だとか。
これ以上の情報を知らないまま浅はかな意見を言ってしまうと、船体がこれ以上朽ちる前に何らかの調査等を行うべきではないだろうか。
もちろんナチス時代に存在した艦であるという問題があり、そうでないにしても役目を終えた艦なのだからそのまま眠らせるべきだという意見は出てくるだろう。
また発掘の技術的問題や保存計画における障害も大きく、管理できずに価値を損ねてしまうなんてことがあったら元も子もない。
それでも比較的手の届く範囲にありながら失われていくのは惜しい(グラーフシュペーの方が届きそうな気もするが)。
手を加えないにしても、現状保存のための活動が行われているのか気になるところだ。
追記 ドイツ語版wikipediaの記事には戦争遺跡に関する報告書が参考文献として挙げられているようなので、全く研究されていないわけではないようだ。
同記事に載っている現在位置を地図で見ると、キール港近くの並木?とヘリポートがある場所が出てくる。
日本語版では駐車場造営の為に埋められたとあるが、その後もいろいろ改変があったのだろうか。(駐車場自体は並木の隣に今も存在する)
並木はちょうど200mぐらい続いており、もしかして遺構表示なのでは?と思ったが、それはそれで根は大丈夫なのか。

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・装甲艦D・E(シャルンホルスト原案)と以降の装甲配置について

続く主力艦として計画されたのは、最終的にはシャルンホルスト級として完成する事になる装甲艦D・Eである。
研究開始時の1932年時点において、先述したように装甲艦A~Cの性能は満足のいくものではなく、フランスの17,500t艦が発展したダンケルク級の情報も入ってきていた。
そこで本案には同艦に対抗できる性能、具体的には13インチ砲に対応した装甲に、28ノット以上の速力を持つ艦が求められている。

ここで当初建造予定だった案は、排水量18,000tの船体に主砲は前級と同じ28cm砲6門、副兵装は15cm砲8門、8.8cm高角砲8門という物。
ヴェルサイユ条約の制限を完全に逸脱した規模にまで大型化しているが、ドイツ側としてはこの艦も排水量は1万トンだと主張しつつ、軍備制限撤廃を目指し外交交渉の成果を待つと言う方針だったそうだ。

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防御面については把握していない部分が多いが、重要区画内の装甲配置のみ見ていくと、船体形状は長船首楼型で、重要区画上の甲板は基本的に船首楼、上、中の3層。
垂直装甲は傾斜の無い220mmの主装甲帯のみを上甲板の高さまでに配置。それよりも上の船首楼甲板までは弾片防御のみ。
水平装甲は中甲板に重点的に装甲を設け、この部分は水平部が弾薬庫80mm、機関部70mm。どちらも外側の部分は厚さ80mmの傾斜部となり、主装甲帯の下部に接続する。これに加えて船首楼甲板にも補助的な装甲を持ち、厚さは35~50mm。

装甲配置的には前級より大きく変化し、最終的にシャルンホルスト級含む後のドイツ戦艦にも採用される要素が確認できる。
具体的には垂直防御では装甲帯の傾斜が無くなり、代わりにこの部分を貫通した砲弾を下甲板の傾斜部で受け止めるという、多重防御となった点。
そして水平装甲は重要区画を守る甲板の中で最も低い位置の甲板に主な装甲を配置するが、それ以外にも最上層の甲板に薄い装甲を配置。同甲板は小型・瞬発爆弾に対する防御の他、徹甲弾や徹甲爆弾の信管を事前に作動させる事を狙った、こちらも多重防御的な形に。

特に重要なのは、低い位置に設けられた亀甲状の甲板が水平装甲の主体になる点だろう。これは戦間期以降に計画された各国戦艦ではまず見られない(弾片防御など補助的な装甲として採用した例は存在する)物で、どちらかというと旧式戦艦の改装後(具体的にはQE級や金剛~長門型)の配置と共通する点だと言える。

この配置が採用された理由そのものについては、実は把握していない。
だが一般論的に想像出来る事として、(ドイツ海軍が想定する)近距離砲戦では垂直装甲が重要である。そして装甲帯が耐えきれずに貫通を許した場合も、背後に厚い亀甲甲板が控えていれは、砲弾を逸らして重要区画への損傷だけは防ぐ可能性は上昇する。つまり近距離戦で重要区画内を守る事だけを重視する場合は、こちらの方が効率的として採用されてもおかしくはない。
特に本案の場合、垂直装甲は重量などの問題で13インチ砲防御に必要とされた320mmではなく、8インチ防御を基準にした220mmに留まっている。この防御力不足を少し改善すべく亀甲甲板が結果とされたのかもしれない。
なお参考にした書籍によると、造船部門は建造に手間の掛かる点から亀甲甲板をあまり好意的に見ておらず、別の部署の意見で採用されたようだ。

その他この配置の利害については新戦艦編でも既に色々書いているし、本ページでも本案からシャルンホルスト級に受け継がれた弱点含め改めて扱っていく予定だが、その前に再度強調しておきたい事を一つ。
本案を含む二次大戦期のドイツ艦の装甲配置に対する評価として散見される、「一次大戦期の配置の焼き直し」という言説もまた、完全に的を得たとは言えない部分があるのである。

確かにドイツ艦の装甲配置は上でも改装戦艦に似ていると述べたように、他国の新戦艦とは異なる配置を貫いている。また断面図だけを見ればカイザーからバイエルン級と言った一次大戦期の艦に酷似している点も否定できない。ただし各部位の防御効果や役割を考えると違う物も見えてくる。
顕著なのは新戦艦編でも述べた水平装甲の重視と強化である。70~80mm厚の主な甲板と35~50mmの補助的な甲板2層に一枚板の均質装甲を設けた本案と、2540mm程度の非装甲規格の鋼材を2・3層に設けた一次大戦期の艦の間には、主に有効な遅動信管を持ち自爆対策を施した二次大戦期の砲弾に対する防御力において、数字以上の大きな差が存在している。

また本案の垂直装甲は220mmとなり、傾斜部との多重防御を含めても一次大戦期の戦艦よりは弱体化したのに対して、水平装甲が大きく強化された事実は、相対的に水平装甲を重視したという、一次大戦期の防御思想とは明らかに異なる選択を行った結果と評価できる。
最後に垂直装甲の配置で言えば、本案の場合は上部装甲帯を持たずに主装甲帯のみを配置している。これはドイツ艦だとカイザー・フリードリヒ三世級(1898年より竣工)まで遡り、第一次大戦期の主力艦には無い特徴である。

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最後に本案の戦闘力を簡単に考えてみると、8インチ砲に対して十分な防御力を確保している事から、通常の巡洋艦に対する戦力として前級より大きく強化されている事は間違いない。ただし本題であるダンケルク級への対抗としては、排水量の制約もあり、主砲装甲速力と全体的に力不足は否めないだろう。
当のドイツ海軍自身もダンケルク級の正確なスペックこそ把握出来ていなかったが、この事は十分に予想出来ており、計画はシャルンホルスト級となる戦艦案へと移行していく事になる。

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シャルンホルスト級戦艦

1935年起工 1938~43年就役
229.8m(改装後234.9m)32,000t    34年式54.5口径28cm砲 三連装3基9門  31~32ノット

装甲厚
垂直装甲(弾薬庫) 350mmKC n/A傾斜約4~10度 → 105mmWh傾斜65度(内傾) → 45mmWw傾斜10度
垂直装甲(機関部) 350mmKC n/A → 105mmWh傾斜65度(内傾) → 45mmWw傾斜10度
砲塔前盾 360mmKC n/A傾斜20度(内傾)
バーベット 350mmKC n/A (やや内傾)

水平装甲(弾薬庫) 50mmWh → 20mmSt52 → 95mmWh ≒ 126mm?Wh
水平装甲(機関部) 50mmWh → 20mmSt52 → 80mmWh ≒ 113mm?Wh
砲塔天蓋 100mmWh~150mmWh傾斜約20度

上部外殻→甲板 あり
上部外殻→傾斜部 なし
船体 平甲板型

シャルンホルスト級安全距離

 装甲部位\艦砲

8インチ

28cm

41年式36cm

14インチマーク7

15インチ

16インチ

46cm

垂直装甲(弾薬庫) 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 107km以遠 10.515km以遠 2325.5km以遠
 垂直装甲(機関部)  貫通不能  貫通不能 貫通不能 貫通不能 11.5km以遠 16km以遠  28.5km以遠
砲塔前盾 貫通不能 12km以遠  20.5km以遠 25km以遠 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
バーベット  1km以遠
(3km以遠)
12.5km以遠
(14.5km以遠)
 
14.5km以遠
(17km以遠)
17.5km以遠
(21km以遠)
22km以遠
(25.5km以遠)
23.5km以遠
(27km以遠)
30km以遠
(35km以遠)
水平装甲(弾薬庫) 貫通不能 32.5kmまで 26kmまで 25kmまで 25kmまで 24.5kmまで 21.5kmまで
水平装甲(機関部) 貫通不能 31.5kmまで 25kmまで 24kmまで 23.5kmまで 23kmまで 19kmまで
 砲塔天蓋 28.5kmまで
貫通不能
29.5km
21kmまで
 
23km
14kmまで
22km
12.5kmまで
20.5km
5.5kmまで
20kmまで
安全距離なし
15kmまで
安全距離なし

垂直装甲(弾薬庫30度) 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 16.5~14km以遠
垂直装甲(機関部30度) 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 17km以遠

・背景と艦の概要
上述した装甲艦D・Eの2隻は34年にいったん起工されるも、海軍のトップであるレーダー提督をはじめとして明らかにダンケルク級に劣るこの案を好まない人間も多数存在した。
同年既に海軍は軍備制限に囚われない35,000t級戦艦(後のビスマルク級)の研究を開始しており、本級も34年7月よりヒトラーの許しを得て、より強力な艦とする再設計を開始。
その後ヴェルサイユ条約の破棄と英独海軍協定を経て、公に他国海軍と同規模の艦の保有が可能となった1938、39年に完成している。

艦の概要に入ると、本級は排水量が3万トンを超え、原案と比較して主砲口径を除く各性能を大きく強化。一次大戦後のドイツ海軍で初めて戦艦※に分類されたクラスでもある。
※ただし主に英語圏では巡洋戦艦として扱われる事も多い。本級は高速かつ装甲も厚い物を持つが、それに対して主砲口径が小さい点が一次大戦期の独巡戦を踏襲した物と評価されたか。

主砲は54.5口径28cm(28.3cm)砲を三連装砲塔に収め、これを3基9門搭載。 前級と口径こそ変わらないが、長砲身で射程を増した他、砲弾も330kgと一割重い物を使用する。
再設計時に主砲口径を拡大すべきかどうかは、ダンケルク級の装甲厚に関する情報が錯綜していた(ジェーン年鑑は垂直装甲を275mmと報じており、28cm砲では威力不足に)事もあり難航。最終的に垂直装甲は225mmと判明した事(2番艦はジェーン年鑑の方が正解に近いが)砲の設計に費やす時間の問題などもあり、とりあえず28cm砲艦として完成させ、機会があれば38cm砲などの大口径砲へ換装すると言う方針で建造された。

副兵装としては、まず55口径15cm砲を連装砲塔と後部開放式の単装砲架で4基ずつ12門、この他に高角砲として10.5cm砲を連装で7基14門搭載。
速力面では機関をディーゼルとした前級に代わって、高性能な高圧缶を用いた蒸気タービンを採用。最大16万馬力で30ノットを超える高速力を獲得している。ただし機関は性能の引き換えに信頼性に欠ける物で、同系統の機関を搭載した他のドイツ艦を含め、少なからず活動の足かせになった部分も否定できない。

装甲配置を原案では不明だった部分含め見ていくと、まず船体形状は平甲板型となり、重要区画上の甲板は上中下の3層に。また下甲板ののうち缶室中央部のみボイラーを収めるためにやや高い位置にあり、外側や前後との間に段差が出来るのが特徴である。
垂直装甲は重要区画間では350mmの主装甲帯を中甲板の高さまで設け、それより上は45mmと弾片防御程度。また艦首尾では共に中甲板の高さまでに、艦首は端部まで70mm、艦尾は舵機械室の範囲までに90mm、それより上には35mmの装甲が施される。 
水平装甲は重要区画上は下甲板と上甲板の2層を装甲化。亀甲状の前者は水平部弾薬庫95mm、機関部80mm、共に105mmの傾斜部となった装甲帯の下部に接続。後者は50mm。艦首尾では艦首は上甲板に50mm、艦尾は下甲板に舵機械室の範囲までに80mmの亀甲甲板を設ける。
砲塔防御は主砲塔が前盾360mm、天蓋水平部100mm、傾斜部150mm。バーベットはやや上部が窄まる形で350mm。副砲は連装砲が前盾170mm(140とも)、天蓋50~30mm、バーベット150mm。単装の防盾は6020mm。
他には水中防御縦隔壁として傾斜した45mmの隔壁が防御層の最も奥に配置される。あと先述した下甲板の段差部分は厚さ80mmの垂直装甲で塞がれる。

材質は主要な垂直装甲 新型のクルップ鋼であるKCn/a、主要な水平装甲と100mm以下の薄い垂直装甲がWh、水中防御縦隔壁がWw。

基本的な船体の装甲配置は原案を引き継いだ物で、そこに13インチ砲への対応を含め各部位の装甲厚を増した物と評価出来る。
そして本級の場合は装甲帯単体で13インチ砲に対応した厚さとされたにも関わらず、亀甲甲板を主体とした水平装甲の配置を維持した事になる。先述したようにこれはドイツ式とも言うべき、この時期の戦艦では独特な配置である。

結果として本級の配置は重要区画内のみを見れば、「カイザーからバイエルン級と言った一次大戦期の艦の上部装甲帯を廃して、水平装甲を強化した配置」と言うべき物になっているが、それ以外の部分では相違点も確認出来る。
それは艦首尾の垂直装甲で、完全に非装甲ではないが中口径徹甲弾への防御が怪しい厚さに。この部分は一次大戦期のドイツ戦艦と比較して、装甲をより重要区画内に集中していると評価できるだろう。

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・表の解説

まず垂直装甲はビスマルク級など後の艦よりも厚い350mmの装甲帯に加え、背後には105mmの下甲板傾斜部(あと縦隔壁)を組み合わせたドイツ式の防御様式を採用。
傾斜部は厚く一枚板の均質装甲を用いる点から、装甲帯を貫通した砲弾への防御力は以前のドイツ戦艦よりも大幅に強化されている。自艦の28cm砲は言うまでもなく、16インチ砲すら近距離でも耐えることが出来る結果になった。
さすがに46cm砲への防御力は不足しているが、艦のサイズや搭載主砲を考えると過剰なほどの防御力だと言える。また横方向への傾斜が付いた場合はほぼ貫通不能である。

本級も主砲塔は傾斜部を大きくとっており、前盾の面積は小さめ。
厚さは360mmと、このサイズの艦の中では結構厚い(傾斜は推定)が、垂直装甲程の防御力ではない。垂直装甲とは異なり、41年式14インチ砲までに対応できる程度の安全距離となった。
バーベットは350mmとこちらもビスマルク級よりも厚いものの、図面を見ると何故か微妙に内傾している。これを計算に含めると安全距離はやや狭くなるが、それでも搭載主砲の割には非常に高い防御力を持つ。
(自分の知る限りは、近代戦艦でバーベットが内傾しているのは本級とロシアの計画艦のみ)

水平装甲は薄いと良く言われるが、表の計算に使用している上甲板→下甲板のルートだと46cm砲以外は許容範囲内か。ただしそれ以外のルートには問題もあり、後述する。

一方で砲塔天蓋の水平部は100mmと薄く、安全距離は水平装甲よりも悪化。それ以上に弱点となるのが天蓋と前盾の間の傾斜部で、第一次大戦時の計画艦よりも薄い150mmしかない。
傾斜を含め計算すると、戦艦主砲に対し有効な安全距離を持たない結果となった。

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表以外の部位について

まず煙路防御については、上部舷側45mm垂直装甲と上甲板の50mm水平装甲が機能する他、煙突基部や煙路周囲には20mmの弾片防御が確認出来る。
いずれも徹甲弾の直撃には対応できない厚さであるが、他のドイツ艦では蜂の巣甲板の使用が確認出来る。本級に存在するかは調べた範囲では確認できなかったが、存在していた場合はより本格的な防御力を持っていただろう。

続いて副兵装の防御は、15cm連装砲塔が備砲に応じた程度の防御を持つのみ、それ以外は弾片防御程度。

水中弾防御は保守的な物で、主装甲帯がある程度の深さまで達する他、水雷防御を兼ねる45mmの縦隔壁で水中防御区画内で炸裂した砲弾を防げる程度と、積極的な防御は有してない。 
(実際本級と似た配置のビスマルクはデンマーク海峡海戦にて、POWより放たれた水中弾を防げずに缶室の一部に被害を受けている)

艦首尾の防御は、舵機械室を持つ艦尾水平装甲のみある程度の防御力を持つが、その他は榴弾や至近弾防御程度。
先述したように一次大戦期の戦艦よりも簡素な物だが、巡洋艦主砲や副砲、航空攻撃等を想定して一定の防御を維持したとも言える。

長くなるので最後に回したが、本級の防御を語る上で忘れてはいけないのが、舷側の中でも主装甲帯の範囲よりも上に命中した砲弾に対する防御である。
上でも触れたように、本級の中甲板までの高さにある主装甲帯より上は厚さ45mmの外殻を持つのみ。この厚さの外殻は、おそらく落角の大きい航空爆弾を逸らしたり、駆逐艦の榴弾を防いだりする程度の防御力を持つが、戦艦主砲へは有効な防御力は持たない。
つまり本級の乾舷は、一部の高さまでに主装甲帯のみ持つ形になり、このページで言う「舷側縦方向の集中」を行った艦という事になる。ただしそれらの艦の多くは、主となる水平装甲が装甲帯の上端に接続して装甲区画を形成するのに対して、本級の場合は一段低い亀甲甲板が装甲帯下部に接続する点で異なっている。

この配置により強力な多重防御を得た本級だが、当然欠点も存在する。まず水平装甲が一段低い分、上甲板や外殻を抜いた砲弾に対する防御範囲も甲板一段分低い物となり、全体的な浮力の保持や抗堪性にも影響を及ぼすと考えられる。(装甲帯自体は高い位置まで防御出来ているが)
そしてこのページ的に本題となるのが、外殻を貫通した砲弾が下甲板を抜いて重要区画に達する場合の防御力である。

本級の水平装甲は50mmの上甲板(副砲塔周辺のみ80mm)と下甲板(機関部80mm、弾薬庫95mm)から成り立っており、表でもこの数字を使用している。
大口径砲弾に対しては上甲板で被帽の脱落など貫通力を低下させ、下甲板で受けとめる構造である。
しかし外殻の45mm部分に命中した砲弾は、50mmの水平装甲に命中した場合と異なり撃角を深く取れるため、貫通力の低下を起こさないまま艦内部に突入する可能性が高い。


つまり上図の二番目の矢印の様に、外殻→下甲板のルートでは砲弾が威力をほとんど失わないまま、ほぼ直接下甲板に命中してしまう可能性があるという事である。
その場合の水平装甲の安全距離は、ただでさえやや狭い通常のルート(上図もう一つの矢印)よりも狭いものとなる。


表にすると以下のように。

水平装甲(弾薬庫) 貫通不能 30.5kmまで 23kmまで 21.5kmまで 19.5kmまで 18.5kmまで 14kmまで
水平装甲(機関部) 貫通不能 28.5kmまで 20kmまで 18kmまで 16kmまで 15kmまで 12kmまで

8インチ砲や自艦の28cm砲に対してはまだ十分な安全距離を持っていると言えるが、14インチ以上の艦砲に対しては上甲板に命中した場合と比べ非常に狭くなる。
機関部、弾薬庫共に20kmから10km半ばという、実戦でも命中弾が期待できる主要な交戦距離で貫通を許すことになり、大きな問題と言えるだろう。

なお外殻→下甲板というルートの場合、本級以外の戦艦も安全距離は表よりも狭くなる。
しかし本級の場合は、防御力の差が
特に大きくなる点、そして何より、シャルンホルストが戦没した北岬沖海戦での損傷原因(次項で述べる)が、この外殻→下甲板というルートだった可能性があることから長々と書かせてもらった。

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北岬沖海戦での損傷について
同海戦にてシャルンホルストはKGV級デューク・オブ・ヨークを含む英艦隊から逃れようとする中、距離20kmで14インチ砲弾が命中し機関部を損傷。速力を落とした所を駆逐艦に補足され、雷撃により行動不能になっている。
この距離で主装甲帯と傾斜部をまとめて抜くのはまず無理として、水平装甲も通常の上甲板→下甲板と言うルートの場合、艦の傾斜などにより表よりも貫通されやすくなる可能性もあるが、今回の計算ではギリギリ貫通されない事になる。
一方外殻→下甲板のルートの場合、距離18kmで機関部の装甲を貫通することが可能であり、今回計算した部位の安全距離の中では損傷時の距離と一致する。

もっとも損傷原因の明確な答え自体は見つかっておらず、他にも多数の仮説が存在するのが現状である。
同海戦では下甲板に阻まれた14インチ砲弾が通風口付近で炸裂、砲塔一基を使用不能にしている事からも、下甲板を貫通せずにこの損傷に繋がった可能性すら存在する。その場合は煙路周辺の損傷や、信頼性に不安のある機関が衝撃で不具合を起こしたというのも考えられるだろう。

一方で貫通したと仮定した場合では、外殻以外に本級の配置が持つもう一つの弱点が関係した可能性も指摘されている。
それは配置の解説時に少し触れた下甲板の段差で、缶室の一部と他部位の間の僅かな高さのみに存在するものだが、この部分の厚さはなんと水平装甲と同じ80mm(似た配置になっている一次大戦期のザクセンより薄いのはなぜなのか)。
つまり、上甲板の水平50mmもしくは外殻の垂直45mmを抜いた後、ここから缶室へ突入しようとする砲弾を守るのは80mmの垂直装甲のみになる。被弾面積的によほど運がない場合しか命中はしないはずだが、他部位と比較して防御力的には大きな弱点と言わざるを得ない。特に外殻を貫通した砲弾に対しては、巡洋艦主砲にすら距離によっては危うい部位である。

また被弾時の同艦が英艦隊より逃れる為に艦尾方向を向けていた場合、砲弾が最初に当たるのは舷側ではなく甲板、つまり外殻ではなく上甲板の可能性の方が高い事になる。
艦尾方向から飛んできて上甲板を抜いた砲弾は、通常の下甲板に命中した場合は先述したように貫通が怪しいのに対して、こちらの方は後部との間の段差(ここは垂直ではなく傾斜部のようだが)を問題なく貫通出来るという事で、より確実なルートであると言う指摘も否定できない所である。
(15年ごろの筆者はあまりにも範囲が狭いので出来過ぎではと思って無視していたが、本級を真面目に語る上では避けられない物であるので、今回の改稿では正直に書いておきたい)

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まとめ
表の解説以外の事ばかりだったがまとめとして、本級はその防御様式から垂直装甲は非常に堅牢であり、16インチ砲艦でも実戦で貫通するのは難しい。
一方で水平防御はやや不足している感がある上に、上記の問題により数字以上に弱体な物である。砲塔傾斜部も同じく。
一応水平装甲に対する貫通力が低い欧州戦艦の主砲(ダンケルク級含む)へはかなり有効な配置とも評価できるし、本級の搭載主砲からすると過剰としか言えない防御力でもある。

攻撃面について見ると、28cm砲は良好な発射速度に加え、実戦において移動目標への遠距離命中記録をウォースパイトと共に保持する事が示すように、遠近問わず対応出来る優れた砲である。
また前級と比較して砲弾重量を増した事は先述したが、それ以前に使用する砲弾はこの時期の基準を満たした自爆防止と有効な遅動信管を持つ物で、一定の装甲を抜いて重要区画内に被害を与える能力を有している。
ただし素のサイズが小さい事はいかんともしがたい。ダンケルクなど比較的垂直装甲の薄い艦以外、つまり通常の戦艦への威力は不足しているとしか言いようがない。

その他に機関の信頼性不足や初期には凌波性に関する問題もあったが、機動力は間違いなく高速戦力といえる物を有する。
と言う風に総合的にみると、各国がこの時期盛んに整備した高速戦艦・大型巡洋艦の一つで、その中でも有力だが飛びぬけた存在ではないという感じだろうか。ただでさえ戦力不足のドイツ水上艦隊にとって貴重な戦力で、良く働いた艦なのも間違いないが、どこか惜しい印象が強い艦である。

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改装について
本級は主砲を38cm砲6門に換装する事が何度か検討されているが、結局実行に移される前に開戦を迎えている。
唯一グナイゼナウは42年2月の空襲で大破したのをきっかけに改装の準備が進んでいたが、ヒトラーの大型艦解体令により実現しなかった。
仮に実現した場合、見た目が悪くなるとか個人的な感想は置いといて、おおざっぱすぎる見方をすると、本級は砲門数が減って一部の防御に劣る点以外はビスマルク級に匹敵する攻防力を得る事になる。
新戦艦並のパンチ力を得た事で、これなら同規模の高速戦力はもちろん、KGV級すら返り討ちにしかない強力な艦になっていただろう。

もっとも連装3基6門では、有効な斉射門数の維持が難しくなるので、砲術面では運用が難しくなる面も。
また北岬沖海戦では補助艦艇やレーダーの有無が戦闘に与えた影響が大きく、そもそもDoYへは(マストを掠った一発のみと)有効な命中弾すら与えられていないので、同海戦で38cm砲が搭載されていても結果は変わらないだろう。

 
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ビスマルク級戦艦

1936年起工 1940~44年就役
251m 41,700t   34年式47口径38cm砲 連装4基8門  29~31ノット
装甲厚
垂直装甲(弾薬庫)  320mmKC n/A 傾斜10度 → 120mmWh 傾斜60度(内傾) → 45mmWw
垂直装甲(機関部) 320mmKC n/A → 110mmWh 傾斜68度(内傾) → 45mmWw
砲塔前盾 360mmKC n/A 傾斜9度(内傾)
バーベット(露出部) 340mmKC n/A
バーベット(艦内部) 145mmKC n/A 傾斜17度→ 220mmKC n/A
水平装甲(弾薬庫) 50mmWh → 20mmSt52 → 95mmWh ≒ 126mm?Wh
水平装甲(機関部) 50mmWh → 20mmSt52 → 80mmWh ≒ 113mm?Wh
砲塔天蓋 130mmWh~180mmWh傾斜約25度
上部装甲帯→甲板 あり
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型

ビスマルク級安全距離

 装甲部位\艦砲

8インチ

28cm

41年式36cm

14インチマーク7

15インチ

16インチ

46cm

垂直装甲(弾薬庫) 貫通不能 貫通不能 4km以遠 8km以遠 12km以遠 16km以遠 26km以遠
 垂直装甲(機関部)  貫通不能  貫通不能 貫通不能 貫通不能 2km以遠  14.5km以遠  31.5km以遠
砲塔前盾 1km以遠 15km以遠  17.5km以遠 21.5km以遠 26.5km以遠 28.5km以遠 37km以遠
バーベット(露出部) 2km以遠
(3km以遠)
12.5km以遠
(14.5km以遠)
 
14.5km以遠
(17km以遠)
18km以遠
(21km以遠)
21.5km以遠
(24.5km以遠)
23km以遠
(26km以遠)
29.5km以遠
(33km以遠)
バーベット(艦内部) 貫通不能 7km以遠  10km以遠 12km以遠 16km以遠 16.5km以遠 25km以遠
水平装甲(弾薬庫) 貫通不能 32.5kmまで 26kmまで 25kmまで 25kmまで 24.5kmまで 21.5kmまで
水平装甲(機関部) 貫通不能 31.5kmまで 25kmまで 24kmまで 23.5kmまで 23kmまで 19kmまで
 砲塔天蓋 貫通不能 33km
~20kmまで
 
26.5km
12kmまで
25.5km
9.5kmまで
25.5kmまで
安全距離なし
25kmまで
安全距離なし
22.5kmまで
安全距離なし

垂直装甲(弾薬庫30度) 貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、18.5km以遠
垂直装甲(機関部30度) 貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、20.5km以遠

・背景と艦の概要
新戦艦編で既に扱ったビスマルク級だが、改めてここでもまとめておきたい。
まず最終的に本級として完成する戦艦F・Gの計画は、先述したように再軍備宣言前の34年より研究を開始。当初要求されたのは33cm砲8門(後に35cm8門へと拡大)、排水量3万5千トンの高速戦艦である。
一方で初期の段階で、要求される性能の艦を排水量内に収める事は不可能として、対外的には3万5千トンと主張する事を前提に、これを超える規模の艦の設計が進められた。

その後はヴェルサイユ条約の破棄と英独海軍協定を受けて、主砲を38cm砲8門に拡大。排水量と共に喫水が増加し過ぎて、国内の港湾施設やキール運河での運用に支障をきたす事が懸念されたが、既に仏伊が38cm砲艦の計画を進めている事から認められた。
最終的に機関ではターボエレクトリック式の不採用、工法では溶接の使用を一部装甲板を含む範囲まで拡大する等の排水量削減策を取り入れた他、防御面でも前級をベースに複数の改正を経て完成している。

完成した本級は当初の計画を大幅に超過した(当時の条約参加国に適応されていたエスカレーター条項の範囲内ではある)基準排水量41,700t。戦間期に君臨した英フッドを上回り、大和型が竣工するまで世界最大の戦艦であった。
主砲は新戦艦の中では仏伊と同等レベルの38cm砲を採用。これを連装4基8門搭載した他、副兵装は前級と同じ15cm砲と10.5cm高角砲を、前者が連装砲塔のみで6基12門、後者は連装砲架8基16門搭載。

機関は先述したようにターボエレクトリック式が好まれていたが、最終的には機関重量そのものが小さい蒸気タービンを採用し29ノットの高速力を確保。これは前級以上の高圧缶を用いる物だが、就役後は前級ほど信頼性に関する問題には見舞われなかった印象である。
またドイツ海軍の戦略として通商破壊任務への投入が想定された事から、航続距離の確保を目的に各国戦艦の中でも燃料搭載量が大きめに取られている。それが船体サイズに影響を与えた面もあったと思われる。

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装甲配置の解説
ここも全体をまとめていくと、まず船体形状は前級と同じく平甲板型に上中下3層(本級には段差は存在しない)。
垂直装甲は重要区画間では320mmの主装甲帯を中甲板の高さまで設けるのに加え、その上には145mmの装甲帯が上甲板の高さまで設けられ、乾舷全体を装甲化している。
艦首尾の垂直装甲は艦首は端部まで下甲板の高さに60mm、艦尾は舵機械室の範囲までに下甲板より若干上の高さまでに80mmの装甲帯が施され、それより上は非装甲。
水平装甲は重要区画上では下甲板と上甲板の2層を装甲化。亀甲状の前者は水平部弾薬庫95mm、機関部80mm、外側は弾薬庫120mm機関部110mmの傾斜部として装甲帯の下部に接続。後者は50mmで副砲周辺のみ80mm。
艦首尾はまず艦首では全長の半分程まで上甲板50mmと下甲板20mm。艦尾は舵機械室の範囲までに上甲板に50mm、第一船倉甲板に110mmの亀甲甲板を設ける。
砲塔防御は主砲塔が前盾360mm、天蓋水平部130mm、傾斜部180mm。バーベットは円筒形で340mm。副砲は前盾100mm、天蓋35~20mm、バーベット80mm。
他に水中防御縦隔壁として傾斜の無い45mmの隔壁が防御層の最も奥に配置される。装甲材質は前級と同等

装甲配置の特徴として、基本的な配置は前級に近い物を継承しつつ、最大の変化として45mm外殻だった部分が145mmの上部装甲帯となっている(それ伴い背後にあたるバーベットの一部は減厚)。
加えて下甲板の段差が存在しない点も確認でき、これらは先述した前級の弱点を多少は改善した事を意味している。

上部装甲帯を追加した理由については把握していないが、本級の計画では重量軽減のために副砲をケースメイト式とする案が真面目に検討されており、その防御として150mmの上部装甲帯を設ける案も存在する。
そして重量的には優秀でも様々な欠点を持つケースメイト式が採用されるわけもなく、これが廃された後も装甲だけは有効として残された、という流れがあったのかもしれない。
(もし本級がケースメイト砲を持つ艦として完成していた場合、設計が旧式と言われて反論する人は完全に居なくなるだろう。あと最後の戦いでももっと簡単に沈んでいたと思われる)

またこの部位の改正は、結果的に前級までの「縦方向の集中」の放棄を意味し、その点から前級以上に一次大戦期の艦に近づいていったと考える事もできる。
ただしこれはドイツ式の水平装甲配置を保ちつつ前級の弱点を消すには仕方ない変化であるし、また依然として一次大戦期の艦とは異なる面、新戦艦編等でも述べた水平装甲の強化や、垂直装甲では本級の方が主装甲帯の占める割合が大きく、上部装甲帯がより薄い分、相対的にこちらに装甲を集中した形になる。そして艦首尾の垂直装甲は、前級と同じく一次大戦期の艦よりも簡素な物(計画案の一部では150mm厚の案もあったが)である。
以上のように「舷側縦方向の集中」「横方向の集中」と言った、いわゆる集中防御様式を構成する要素自体には当てはまらないが、装甲の集中度合いという点では、依然として一次大戦期の艦よりも上という点は指摘できる。

装甲厚を見ると前級と同程度の部位が多いが、一時期は重量軽減のために主装甲帯300mmなどに減厚する案も存在していた。それが概要で述べたように、機関と溶接の方である程度の重量を浮かし、装甲厚を取り戻した形になる。

注目すべき点として、本級は通常の構造材だけではなく一部装甲の接合にも溶接を用いている。対象は艦首尾の装甲帯と上甲板の水平装甲で、厚さは最大で80mm。
主装甲帯など物理的に溶接不能な極厚板はともかく、こういった比較的薄い装甲でも適切な強度と防御力を保って溶接するにはリスクが避けられない物である事から、この厚さでもかなり挑戦的な例と言える。
(実験では水雷防御縦隔壁も溶接を用いた事が記録されているが、その際にはWw鋼が靱性を失って防御力を落としたとされ、本級では採用に至っていない)

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表と表以外の解説
大部分は既に新戦艦編でやってしまっているが再度。
まず基本的な垂直並びに水平装甲は、前者で厚さや角度に微妙な違いが存在するが、前級と安全距離に大きな変化はない。

一方砲塔防御ではバーベットの傾斜が無くなったことに加え、上部装甲帯の追加された事で、艦内部部分は多重防御に変化。ここは露出部より広い安全距離を持つ事に。
その一方で「上甲板→バーベット艦内部」というルートの場合、安全距離はここまで広くないはずだが、相変わらず計算の都合で扱っていない。
砲塔天蓋は全体的に増厚したのは良いが、傾斜部については角度が大きくなったせいで安全距離はむしろ悪化してしまう結果に。

表以外の部分に入っていくと、まず煙路防御はルートによっては上部装甲帯が防御に加わる形に。 
副砲防御は全門が中口径弾程度への防御力を得たが、装甲厚自体は前級の連装砲塔より弱体化。水中弾防御は隔壁の傾斜が無くなった点を除き特に変化なし。艦首尾防御も前級と大差ない。

そして大きな違いが145mmの上部装甲帯の存在である。8インチ砲程度には対応できるこの装甲の追加によって、まずは巡洋艦以下の砲撃で下甲板より上の非重要区画への損傷を受ける確率を減少させている。
加えて前級の弱点として挙げた、「薄い外殻→水平装甲」というルートが発生しなくなったのも大きな点である。ただしこの部分は新戦艦編でも述べたように限界もあり、特に16インチ砲以上に対しては、比較的薄めの機関部は若干不安があると言わざるを得ない。

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まとめと本級の評価に関する雑感
防御面は上でも見て来たように、一次大戦期から進歩がないというのは真っ赤な嘘にせよ、この時期では独特と言える構造を維持。前級からも一部改良を加えて大きな弱点を解消している一方で、その構造から来る様々な得失を持つ点は変わっていない。
他国の新戦艦と比較した場合、重要区画は垂直部分の多重防御が非常に堅牢だが、水平装甲は(実戦では実現しなかったが)大遠距離での防御に微妙な部分があり、そして砲塔防御も不足気味なのは否めないだろう

攻撃面は38cmと主砲の打撃力向上がやはり大きい。800kgとやや軽めの砲弾を用いる同砲だが、特に垂直装甲への貫通力は28cm砲とは比べ物にならない物で、一部を除く新戦艦相手に十分な打撃力を得た事に。
また精度は想定された10km前半程度と比較的近い距離の場合、デンマーク海峡海戦での勝利がこれ以上ない証明と言える。下で挙げたように本艦に有利に働いた、運が味方したと言える面もあるとは言え、数で勝る英戦艦2隻相手に実戦で戦果を挙げたというのは十分に評価すべき物だろう。
(英戦艦はPOWの主砲が不具合に悩まされ、フッドは指揮装置が改装で更新できてない上に早々にリタイアした点。英艦隊が距離を詰めた事で本艦が序盤にT字を取れた点、この海戦以降は運に見放されたか至近弾止まりで命中弾を与えられていない点など)  
また遠距離にしても前級の戦果から、現実的な有視界・20km台半ば程度の距離での砲戦というのも十分可能と考えられる。

他新戦艦との比較では、大和・アイオワ相手はさすがに不利な面が大きいか。同じく米サウスダコタ、ノースカロライナ級も中々難しい相手だが、こちらは得意な近距離戦をどこまで行えるかにも左右されるだろう。
一方でKGV級とは相性が良い面もあり、リットリオやリシュリューはスペック上は本級を上回る面もあるが、正直両級は武人の蛮用に適さない部分もあるので 実戦での能力でそこまで劣る事はないと言って良い。
という風に、二次大戦中の欧州新戦艦では一定の地位を確保していると評価出来る。

現実的な話をすると、ドイツ海軍そのものの規模から活動が制限されてしまう面もあるが、それでも備砲の小ささからあくまでクルーザーキラーレベルに留まった前級からの進歩は大きい。
自軍の新戦艦を倒してしまいかねないような艦が通商破壊に投入されれば、実際の戦果は少なくとも大きな圧力になるのは言うまでもない。

最後に、本級の評価については新戦艦編でも触れたように、非常に褒貶が激しい事で知られている。本場の欧米は言うまでもなく、下手をすると国内でも大和型並に色々な意見が飛び交ってるのではないだろうか。
(ドイツ軍の兵器全般がそうかもしれないし、特にネットは荒れるのが普通みたいな所もあるかもしれないが)
この背景を個人的な印象と偏見から考えてみると、まずは本級、特にビスマルクが第二次大戦時に残した艦歴と、戦艦として元々持っている性格・性能の間に存在するギャップが影響していると考えられる。

前提として、第二次大戦は日露、第一次のような戦艦が主役の大規模な艦隊決戦は発生せず、戦艦同士の砲戦であっても、大きな戦力差があったり不完全燃焼に終わった例が殆どである。
その中でビスマルクは寡兵ながらも敵艦、それも大改装を受けられていなかったとは言え、戦間期を代表する英巡戦フッドを撃沈するという大戦果を収めた事になある。
二次大戦でも活躍した戦艦は多数存在するが、その中でも敵戦艦との水上戦闘という、もっとも戦艦らしい舞台でこれ以上の活躍をした戦艦は同時期にはいないだろう。
この事から戦時中の連合国では脅威として、戦後の愛好家からは称賛の対象として当然良い兵器という評価が先行していく事になる。

その活躍の一方で、本級を兵器としての性格的に見ると、戦間期から二次大戦期の思想において「理想的な戦艦」とされる性格※とは、間違いなく異なる部分が目立つ艦であった。
※例として艦隊決戦を主目的とする、一次大戦時の以降の流れである遠距離戦闘の重視、設計は限られた重量で効率良く戦闘力を確保するネルソン以降良く見られる要素の導入(主砲三連装砲塔、厚い水平装甲と傾斜式の舷側装甲を持つ集中防御様式の配置など)、あとは高速力の発揮など

また性能とは別にもう一つ触れておきたい点は、活躍に対する称賛とは別に本級を引き合いに出して、実際に交戦した英戦艦であったり結果的に能力を見せる機会の少なかった日本戦艦等を貶すと言った、現代風に言えばマウントの道具に使われたという例が、あくまで一部分ではあるが存在していた。
こういった性能面での反論、一部での扱いへの反発から、好意的な評価への見直しとして否定的な意見が登場。その状態でネットの普及にゲーム等での純粋な軍事ファン以外への知名度増加などを経て、評価が分かれる中現在に至るという認識である。

ここで個人的に注意したいのは、あくまでも「過大評価に対する見直し」であった否定的な意見が広まった結果として、評価すべき点も無視して否定ばかりと言う、公正と言い難い意見も一部に目立ち始めた点である。
日本における見直し論の代表と言えば大塚先生だが、氏自身は10年代後半以降の丸や世艦の記事にて、ダメな所はダメとしつつも、2000年代のネット記事や学研ムックの頃と比べると(見直し論が広まった事もあってか)批判自体はトーンダウンしている面もある。
それにも関わらず、後者の方が未だに(紙の資料と入手のし易さの違いあるとは言え)引用されているのを先日見てしまったので、この根はわりと深いのではないかと勝手に感じている。

今まで過大評価されていたのだから、反動が来るのは当たり前という事かもしれない。だが個人的には「それもなんだかなあ」と思う所があり、本ページはビスマルク級については好意的に扱っているつもりである。元々は重要区画の安全距離から戦艦を考えるページなので、当然評価が高くなっている面もあるが。

ここで脱線して意識の高い話をすると、「○○ってこういうイメージだけれど、実は~」と言った、知的好奇心を満たしてくれる新鮮でセンセーショナルな情報というのは、時には極端な考えであっても広まりやすい物である。もちろんそれが真実である場合も普通にある訳だが。
結局の所大事なのは、どのような考えであっても、その考えが存在する背景を含め、出来る限り多くの情報と対話を重ね、理解を深める努力を怠らない姿勢である。これは軍事趣味のようなニッチな趣味以外でも忘れてはならない点だろう。

もっともここまで読めば分かるように、この文章自体は「個人的な印象と偏見から」書いた物、つまり限定的な情報を摘み取った印象論に過ぎない。
印象操作を狙った等の悪意から来るのでなく、単純に筆者の不勉強と調査不足が原因とは言え、早速矛盾した言葉を吐いた訳である。自省の意味も込めてその点を告白した上で、この怪文書自体も批判的に見るべき情報の一つに過ぎないのだと言い訳をした所で脱線を終えたい。

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新戦艦以外との比較
ここでは海軍休日期を代表するフッドや所謂ビッグ7の3クラスとの比較を行いたい。改稿前に掲載した部分で完全に蛇足だが、消すのももったいないので改稿。

まずフッドについて。この2隻の直接対決の結果は周知の通りだが、安全距離の面でも本級の優位は確実である。
同艦の持つ42口径15インチ主砲は表に用いた物より風帽が短い砲弾を使用し、射程ならびに垂直装甲への貫通力で若干劣る物である。(逆に弾道が高く水平装甲に対する効果は上に)
そして(英戦艦編の改稿時に加筆予定だが)英戦艦は基本戦術として、確実に敵艦隊に打撃を与えるべく、決戦距離は10km台前半というドイツ海軍にも負けない近接主義を採用している。
この決戦距離では、ビスマルクはその装甲配置から船体の重要区画が確実に守られるのに対して、こちらの主砲はフッドの垂直装甲を最厚部でも24kmから貫通可能。10km台なら多少横方向の角度が着いても有効で、同艦の弱点となる上部装甲帯に対しても同じく。

一方でビスマルクを相手にする場合、やはり遠距離での戦闘の方が装甲配置に対して効果的である。この点は後に本級の配置を知った英海軍が、新戦艦等は2万ヤード以上での遠距離戦で対応する方針を固めている事からも伺える。
遠距離戦であれば、「運が悪ければあの場で爆沈していたのはビスマルクの方だった」という意見も一部に存在するが、実際にフッドの主砲の場合、機関部なら21km、弾薬庫でも22.5km付近で同艦の水平装甲を貫通可能である。

しかし水平装甲の弱体さは改装を受けられなかったフッドの方が深刻で、安全距離は本級以上に狭く20kmに満たない。また遠距離では弾道性能と指揮能力の面から、そもそもの砲術面で同艦が劣勢になる可能性も存在する。
と言う風に個艦での比較となると、遠近共に重要区画の抜きあいでは本級が有利である。戦間期の最強艦の一つとは言え、予定されていた改装も受けられなかった当時のフッドには荷が重いと見て良いだろう。

なお同海戦での英海軍の近接主義については、フッドの持つ水平装甲の弱体さをカバーできるのに加え、より確実に命中弾が期待出来る状況となる。戦艦の数で勝る英海軍にとって、相手をみすみす逃がしてしまう可能性のある遠距離戦よりも妥当な選択だったと考えられる。
それこそ後にKGVとロドニーが成功したように、ごり押しで多数の命中弾により戦闘能力を奪って勝利していた可能性もあっただろう。もっとも早々にフッドの爆沈で目論見が狂ってしまうが。

続いて所謂ビッグセブンとの比較だが、文量の関係でまとめてやってしまいたい。
まずここでも20km台の遠距離砲戦はやはりネックである。特に太平洋の戦場でそれを本格的に想定していた、日米の2クラス相手の場合、まともに付き合ってしまえば本級にとって厳しい物があると思われる。
一方でウェストヴァージニアを除くコロラド級の水平装甲、そして改装内容が極端な長門型の機関部水平装甲と言った部位は比較的弱体なままで、加えて垂直装甲も長門の機関部とコロラド級に対しては20kmを大きく超える距離で貫通が可能と、本級の方が逆に有効打を与える事も可能な部位は多く存在している。
そして本級は、最速でも25ノットの長門以下3クラスすべてに対して速力の優位を持っている。そこから遠距離戦で致命傷を負う前に接近し、戦闘距離の選択を行う事も可能になるだろう。

そして中近距離における垂直装甲の安全距離は(横方向の角度にも大きく左右されるが)、本級は最低でも10km半ばまで安全距離を持つのに対して、他艦は先述した2クラスの部位は言うまでもなく、ネルソン級に対しても2018km以内から通用し始める。唯一長門の弾薬庫のみは本級を上回る程だが、機関部との差が大きく評価は難しい所である。
つまり20km前後から10km後半と言う、まさに現実的な交戦距離と言える範囲で、本級はビッグ7の3クラスに対しても大まかな安全距離の優位を持っている事になる。

その一方で、実戦でも被害が目立った砲塔装甲への不安は無視できない。砲塔前盾360mm、天蓋130mm、そして両者の間にある傾斜部180mmと言った部位のいずれかは、すべての交戦距離で貫通されてしまう。
中近距離であっても、仮に横方向の角度が大きく着いて垂直装甲に対する有効打が出ない、もしくはお互いに砲塔に被弾が集中するような事態になれば、火力の喪失分で不利になる可能性は大きい。
それさえ避けられれば、という言葉を付けなければならないが、戦間期に君臨した16インチ砲艦に対しても十分に勝算はあると評価出来るだろう。

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P級装甲艦

→中戦・大巡編を参照

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O級巡洋戦艦

計画のみ

256.5m  32,300t  34年式47(52)口径38cm砲 連装3基6門 33.5ノット

装甲厚
垂直装甲1 190mmKC n/A → 80mmWh傾斜60度内傾 → 45mmWw
垂直装甲2   190mmKC n/A  → 45mmWw
砲塔前盾 210mmKC n/A 傾斜9度?内傾
バーベット(露出部)180mmKC n/A
バーベット(艦内部)90mmWh → 145mmKCn/a
水平装甲1 50mmWh → 20mmST52 → 80mmWh ≒ 113mm?Wh
水平装甲2 30mm → 60mmWH ≒ 76mm?wh
砲塔天蓋 50mmWh

上部装甲帯→甲板 あり
上部装甲帯→傾斜部 不明

船体 平甲板型

O級安全距離

 装甲部位\艦砲

8インチ

28cm

41年式36cm

14インチマーク7

15インチ

16インチ

46cm

垂直装甲1 貫通不能 20km以遠 30.5km以遠 33km以遠 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
垂直装甲2 10.5km以遠 26km以遠 33.5km以遠 33.5km以遠 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
砲塔前盾 11km以遠 28.5km以遠 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
バーベット(露出部) 11.5km以遠 28km以遠 33.5km以遠 33km以遠 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
バーベット(艦内部) 7km以遠 22km以遠 30.5km以遠 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
水平装甲1 貫通不能 31.5kmまで 25kmまで 24kmまで 23.5kmまで 23kmまで 19kmまで
水平装甲2 26kmまで 26kmまで 17.5kmまで 16kmまで 14kmまで 13kmまで 11.5kmまで
砲塔天蓋 22kmまで 18kmまで 11kmまで 10kmまで 9.5kmまで 9kmまで 安全距離なし

垂直装甲1(30度) 貫通不能、7.5km以遠、23.5km以遠、27km以遠、安全距離なし、安全距離なし、40km以遠
垂直装甲2(30度) 7.5km以遠、22km以遠、29.5km以遠、30km以遠、安全距離なし、安全距離なし、安全距離なし

材質は基本推定。それ以前に装甲配置は色々矛盾する情報が出てきてよく分からない。

とりあえず知っている点を並べていくと
・船体形状にあまりP級の面影はなく、シャルンホルストやビスマルクに近い平甲板型になっている。
・甲板も普通に上中下の三層
・垂直装甲は下甲板の高さまでに主装甲帯を持つが、装甲艦とは違いそれよりも上の乾舷にも薄目の装甲帯を持っている。
・主装甲帯は190mmか180mm、下甲板の高さまで。
・それよりも上の乾舷(下甲板から上甲板)は90mmとシャルンホルストから倍増、弾片防御以上の物に。
・水平装甲は上甲板50mm下甲板80mmと他のドイツ戦艦と同等と言う説と、30/60mmと一回り薄い説あり。
・砲塔防御は前盾210mm、バーベット180mm/内部145mm、天蓋50(!?)mm。

ドイツ戦艦にとって重要な下甲板の構造がわからず、垂直装甲や「上部装甲帯→甲板」などのルートの防御が把握できていないのが現状。
ただ以下の三種類のうちのどれかになると想像出来るので、これを基にいつも通り進めていきたい。
A: 傾斜して装甲帯の下端に接続(シャルンホルスト方式)
B: 水雷防御隔壁の範囲まで傾斜して、装甲帯には接続しない(P級方式)
C: 傾斜部を持たずに主装甲帯の上端に接続(マッケンゼン方式、学研ムックだとこの方式だけどイマイチ信用できない

A・Bの場合、傾斜部の厚さは80mmか110mmだが、後者はおそらく艦尾のみと思われるので、80mmで(傾斜は推定)。
主装甲帯に傾斜部を含めた防御力は中口径弾に特に有効なものとなるが、戦艦主砲に対してはそこまで有効ではない。
一方で傾斜部の範囲が限られるBの一部、そして傾斜部を持たないCの場合、装甲帯を抜いた砲弾は直接縦隔壁に命中する。
主装甲帯は単体でも8インチ砲に有効な安全距離を持っているが、当然防御力はこちらの方が劣る。
一応装甲艦などと比べると防御力は向上しているが。

砲塔前盾は210mmと、ビスマルク級と同じ形状だとするとこちらも対8インチ防御。
バーベットは露出部が180mmで、艦内部では145mmに減厚する。
前者は同じく、8インチ砲に有効な程度だが、後者は90mmの上部装甲帯を抜いて被帽を失った状態でこの部分に命中する為、安全距離は本級の装甲部位では比較的広い。

水平装甲の厚さは上で挙げた二つがあるが、配置としては同じ方式に。
重要区画上で最も下を通る下甲板が主な水平装甲となり、上甲板にも補助的な装甲を設けると言う、他のドイツ戦艦と同じ配置となる。
前者の場合は安全距離はやや狭いが、十分許容範囲と言えるものになる。一方後者では通常の交戦距離でも容易に貫通されるだろう
砲塔天蓋は50mmと誤植を疑いたくなるほど薄い。いくらなんでも装甲艦A~CやP級(85mm)よりも薄くなっているのはおかしくないだろうか。
仮にこの厚さだとすると、近距離でも戦艦主砲に容易に破られるのはもちろん、より近距離でも被弾時に大きく変形したり、弾片が浸入するなどして被害が及ぶと予想される。
対8インチ砲でも最低限の防御力しか持たないだろう。

ここまで見てきた防御力は、シャルンホルスト級に比べて全体的に劣るものだが、唯一乾舷の上部(中甲板から上甲板まで)では45mmに対し、90mmと本級が勝っている。
90mmなら戦艦主砲の被帽を飛ばせるので、ここを貫通した後に下甲板に命中した場合でも、シャルンホルストの様に重大な弱点となることはない。
といってもそれは本級の下甲板が80mmだった場合であり、60mmだと元から薄すぎるので、あまり意味はないともいえる。
また本級はシャルンホルストに比べ主装甲帯が薄いだけでなく、高さも低いのは問題である。(下甲板から中甲板の範囲で垂直装甲350mmに対して本級90mm)
「主装甲帯の上端が重要区画上で最も下を通る甲板と同じ高さ」というのは、ドイツ戦艦では第一次大戦時の巡洋戦艦以来見られないもので、
おそらくP級より受け継がれた配置と思われるが、この配置のせいで上部装甲帯への被弾面積は他のドイツ戦艦よりも大きい。
「上部装甲帯→下甲板の水平部」は先述したように80mmならまあ大丈夫だが、問題となるのは下甲板の形状が「A」もしくは「B」の時は「上部装甲帯→下甲板傾斜部」が発生する点である。
当然その際の安全距離は水平部への命中や、表の水平装甲などよりもはるかに狭い物となる。一応8インチ砲防御としては未だに有効だが。

こうして見て行くとシャルンホルスト級はもちろん、その前身である装甲艦D・Eにも劣る。
基本的に戦艦主砲に対して有効な部位は少なく、中でも砲塔の薄さは致命的である。
ただ対巡洋艦に限ってみると、砲塔天蓋だけは不可解だが、それ以外の部位は8インチ砲防御として十分な物は有している。
装甲艦とは違い多数の8インチ砲を被弾する状況でも、重要区画の防御で不安となることはないだろう。
また結局28cm砲のままで艦歴を終えたシャルンホルスト比べて、38cm砲の搭載は大きなアドバンテージを持っていると言える。
一発の威力でビスマルク級と同等ということで、本級の速力に対抗できる巡洋戦艦や船団護衛の旧式戦艦はもちろん、主力となる新戦艦へも機会があれば有効打を与える可能性はある。
といっても本級の装甲は戦艦同士の戦いでは役に立たず、火力を発揮する機会は限られるだろう。
最大限の火力と速力の代わりに防御を犠牲にした本級は、ドイツ海軍最初で最後の巡洋戦艦らしい巡洋戦艦とも言えるだろう。

 

H39級戦艦
1939年起工 未完成
277.8m  53,000t    34年式52口径16インチ砲 連装4基8門  30ノット
装甲厚
垂直装甲(弾薬庫)  300mmKC n/A 傾斜10度 → 150mmWh 傾斜60度(内傾) → 45mmWw
垂直装甲(機関部) 300mmKC n/A → 120mmWh 傾斜68度(内傾) → 45mmWw
砲塔前盾 385mmKC n/A 傾斜9度(内傾)?
バーベット(露出部) 365mmKC n/A
バーベット(艦内部) 145mmKC n/A 傾斜17度→ 240mmKC n/A
水平装甲(弾薬庫) 80mmWh → 20mmSt52 → 120mmWh ≒ 170mmWh
水平装甲(機関部) 50mmWh → 20mmSt52 →  100mmWh ≒ 131mmWh
砲塔天蓋 130mmWh~180mmWh傾斜約25度(推定)
上部装甲帯→甲板 あり
上部装甲帯→傾斜部 なし
船体 平甲板型

H39安全距離

 装甲部位\艦砲

8インチ

28cm

41年式36cm

14インチマーク7

15インチ

16インチ

46cm

垂直装甲(弾薬庫) 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 5.5km以遠 11km以遠 26.5km以遠
 垂直装甲(機関部)  貫通不能  貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能  5km以遠  33km以遠
砲塔前盾 貫通不能 12.5km以遠  16km以遠 19.5km以遠 23.5km以遠 25.5km以遠 33.5km以遠
バーベット(露出部 1km以遠
(2km以遠)
11km以遠 
(12.5km以遠)
13km以遠
(15km以遠)
16km以遠
(18.5km以遠)
19.5以遠
(22.5km以遠)
21km以遠
(24km以遠)
27km以遠
(30.5km以遠)
バーベット(艦内部) 貫通不能 4.5km以遠  8km以遠 10km以遠 14km以遠 14.5km以遠 22.5km以遠
水平装甲(弾薬庫) 貫通不能 35.5kmまで 29.5kmまで 28.5kmまで 28.5kmまで 28.5kmまで 28kmまで
水平装甲(機関部) 貫通不能 33kmまで 26.5kmまで 25.5kmまで 25.5kmまで 25kmまで 22.5kmまで
 砲塔天蓋 貫通不能 33km
~20kmまで
 
26.5km
~12kmまで
25.5km
~9.5kmまで
25.5kmまで
~安全距離なし
25kmまで
~安全距離なし
22.5kmまで
~安全距離なし

/

/

/

 

/

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/

;/・

垂直装甲(弾薬庫30度) 貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、18.5km以遠
垂直装甲(機関部30度) 貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、貫通不能、19km以遠

本級はZ計画にて建造が計画された戦艦H以降の設計案だが、正直装甲配置的にはビスマルク級からあまり変わらないので、語る分は少ない。
一応本案の特徴としては、ソ連が計画する16インチ砲艦への対抗や他の欧州戦艦の情勢から、1ランク上の16インチ砲8門を搭載。
その分の大型化に対応するため、このサイズの艦としては異例のオールディーゼルを採用している。
(結局いろいろあって、喫水の深さは満載時にはかなり厳しい所まで増えてしまったらしいが)

防御面だと基本的な装甲配置はビスマルク級と同一で、各部位の装甲厚に増減が見られる。
まず主装甲帯は300mmと、なぜかシャルンホルスト級から順調に減厚している。
傾斜装甲の採用もなされていないため、主装甲帯のみの防御力は第二次大戦期の大型戦艦では最も低い部類に入るだろう。
ただし本級も下甲板の傾斜部を用いたドイツ式の多重防御を取っており、重要区画の防御力は強力な物となっている。
その傾斜部は弾薬庫150mm、機関部でも120mmとビスマルク級より厚く、傾斜角も同一と推定した場合、砲弾によっては同級より広い安全距離を持つ。

砲塔は前級より25mm増して、前盾385mmにバーベット365mmに強化されたが、これでも16インチ砲艦としてはやや薄目か。
特に前盾は38cm砲と同一の形状とした場合、本級も第二次大戦期の大口径砲には十分な安全距離を持っているとは言えない。
艦内部のバーベット部分も前級より20mm増厚している。こちらはもともと16インチ防御だが、本級ではさらに安全距離を増している。

水平防御の構造自体は上甲板と装甲甲板を組み合わせたもので、こちらも前級より変化はない。
しかし弾薬庫部分の上甲板が80mmと前級の装甲甲板並になり、装甲甲板自体は弾薬庫120mm機関部100mmと結構強化された。
機関部はまだこの時期の戦艦としては低めの防御力だが、弾薬庫部分は遠距離戦にも十分対応できるものになっている。
一方砲塔天蓋は130mmのままで、傾斜部も同じ厚さとするとこちらはかなり微妙な防御力のまま。

未だに艦の規模や搭載主砲に比べて弱体な部位もいくつかあるが、防御力自体は前級よりも上である。
特に水平装甲の強化により、遠距離戦での防御力を増しているのは大きな改善点と言える。
火力も順当に強化されている点から、完成していてもソユーズ級に見劣りする、なんてことはまずないだろう。

6隻の建造が予定されたH級戦艦は二隻が起工されるも、開戦で建造は延期。
この間に設計を改めたH41は垂直装甲こそ変わらないものの、水平装甲が
さらに強化されている。
H39ではいまだに不安のあった機関部の水平装甲も上甲板80mmの装甲甲板120mmと、弾薬庫と同等となり、ついに遠距離戦でも十分な物となった。
同案は16インチから一段階引き上げられた420mm(16.5インチ)砲を搭載予定で、完成していた場合は大和やモンタナと同等の6万トン級の戦艦となる予定だった。
速力が1ノット程落ちているが、他の要素から欧州戦艦の中では最も強力な艦となっていただろう。

その後設計されたH42以降の戦艦案は常備排水量が9万トンを超えるなど、明らかに当時のドイツ国内の環境で建造・運用できる規模を超える艦となっている。
実際に建造することよりも、今後の大型戦艦の為の設計研究としての要素が強い。この中のH44については下で扱っている。

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おまけ ドイツ海軍装甲艦・巡洋艦
→重巡・軽巡編その2へ

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おまけ2

H44級戦艦
研究のみ
345m 130,000t(常) 20インチ砲連装4基8門 30ノット

装甲厚
垂直装甲 380mmKC n/A → 150mmWh傾斜68度内傾 → 45mmWw → 30mmWw
砲塔前盾 不明
バーベット(露出部) 不明
バーベット(艦内部) 145mmKC n/A → 不明
水平装甲 60mmWh →140mmWh → 130mmWh → 20mmSt52 ≒ 252/246mmWh
砲塔天蓋 不明

上部装甲帯→甲板 あり
上部装甲帯→傾斜部 なし 僅かにあり

船体 平甲板型

H44級安全距離
装甲部位\艦砲 8インチ 28cm 41年式36cm 14インチマーク7 15インチ 16インチ 46cm
垂直装甲 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能
水平装甲 貫通不能 41kmまで 32.5kmまで 31kmまで 貫通不能 32kmまで 32.5kmまで

H42以降の戦艦案は、名称とは裏腹にZ計画で建造が予定された戦艦HからNにかけての設計案ではない。
ヒトラーの要求により、主砲や排水量の制限なしにできるだけ強力な戦艦の設計を行ったものであり、米海軍が1910年代に行った最大戦艦研究に近いものと言える。
(なお今までの設計を担当した人員は潜水艦の開発に回されており、本案に関わることは特になかったという)
その中ではH41までの設計において課題となったキール運河のサイズ制限や造船設備の規模などの問題を無視した結果、常備排水量9万トンとティルマン戦艦を超える巨艦が設計されている。
戦局関係なしに建造できた可能性はまずないので、ここではおまけ扱いとした。

その中でも今回扱うH44案は、20インチ砲8門を搭載、常備排水量は大和型二隻分に匹敵する13万トンという規格外の艦となっている。
またこれより後に、80cm砲を搭載したH45の設計が行われたという話もよく聞くが、この件に関して管理人は懐疑的である。詳しくは後述する。

本案の装甲配置は水雷防御を除いて基本的にH42案より受け継がれたものとなり、それはH41以前のドイツ新戦艦をベースに興味深い強化のされ方がなされている。
ビスマルク級の解説でまとめたように、
・垂直装甲は中甲板までの主装甲帯、それより薄い上甲板までの上部装甲帯からなる
・水平装甲は主装甲帯の下端に接続する傾斜部を持つ下甲板が主な防御を担い、上甲板にも補助的な水平装甲を持つ(中甲板はほぼ非装甲)
と言うのがH41までの基本的な装甲配置になる。


本案の装甲配置は大体こんな感じ。三重底や多数の水雷防御隔壁は遺憾ながら省略。
また、傾斜部と装甲帯の接続部分の形状や範囲がよくわからなかったのでごまかしている。

上図を見ると、この特徴は本案の装甲配置にも一部当てはまるものだが、中甲板の一部に下甲板に匹敵する水平装甲が設けられている点で大きく異なる。
以前の水平装甲でよく批判される点は、装甲甲板が下甲板にある為、同時期の集中防御採用艦に比べると、(上甲板装甲を容易く貫通できる)戦艦主砲や徹甲爆弾に対する防御範囲が甲板一段分狭いという点である。
この強化は重要区画の実質防御力はもちろん、船体の防御範囲の面で大きな改善と言える。
尤も中甲板の水平装甲は中央部のみで、途中縦隔壁によって下甲板とつながる形となる為、特定の部位に命中した砲弾についてはこの中甲板の装甲が役に立たない可能性もある。

この件は後で詳しく見るとして、まずは表の方から。

先述したとおり、ドイツ式の多重防御は傾斜角が一度違うだけでも安全距離がかなり変わってくる。しかしH44案は装甲帯自体が380mmと非常に厚くなっているため、大きな差は発生しないだろう。
本級の装甲を傾斜部を含めて打ち抜き、ヴァイタルパートに損傷を与えることは、既存の艦砲では不可能と言う結果になった。
また艦内部での炸裂自体は発生するが、本級は装甲帯のみでも英15インチ砲程度に対しては十分対応可能な安全距離をもっている点も大きい。

バーベットや砲塔前盾はこれまでのドイツ新戦艦の例からあまり強力でない可能性もあるが、詳しい装甲厚はよくわからなかった。
これまでの案や本級の主装甲帯の厚さから、当時のドイツでは400mm越えの装甲を一枚板で製作するのは難しかったと思われる。(日本が試験用に輸入した装甲に420mm厚の物があるが)
ただ重量を気にしなくていいのなら、二枚重ねにするなりして防御力を上げる事も可能だろう。

水平装甲は装甲甲板である中甲板と下甲板、さらに他甲板を含めた合計厚は350mmにも達する。
一枚板換算としても252mmで、大和型の水平防御を上回る厚さだが、材質に劣るためか表の結果はそれほど良い物ではなかった。
トールボーイに耐えられるかどうかはともかく、それでも30kmでの砲撃に対応した防御であり、こちらも通常の砲撃戦で貫通されることは無いだろう。
船体が大きすぎてこの距離でも被弾してしまうかもしれないが。

表の内容はここまでだが、主装甲帯の上部にある145mmの薄い上部装甲帯を貫通した砲弾が重要区画に達する場合の防御力についても見ておきたい。
先述した通り、本案の中甲板装甲は船体中央部のみにあり、上部装甲帯を抜いた砲弾は非装甲の中甲板外縁部を抜き、下甲板の水平装甲へ当たる可能性がある。
この場合直接当たるのではなく、途中に25mmと80mmの縦隔壁があり、上部装甲帯を抜いた時点で砲弾の被帽が失われる為、表の水平装甲程ではないが、特に問題の無い安全距離となる。

一方で、本案はビスマルクやH39/41等と比べて船体の幅が大きいせいか、下甲板の傾斜部の幅もより広くなっている。
その分装甲帯を抜いた砲弾を受け止めやすくなっていると言う事だが、一つ気がかりな点が。
確率としては非常に低い物になるが、特定の落角で上部装甲帯を抜いた砲弾が、下甲板の傾斜部に直接命中する可能性が存在する。
横方向の角度は着かないものとして計測すると、ビスマルク級は落角約28度で上部装甲帯の下端に命中した砲弾が傾斜部に当たるのに対し、本案は20度程度とより現実的な落角で傾斜部に命中してしまう。
現実でこの部位への命中弾が弱点とされた英フッドではこの角度は約12度であり、それと比べるとそこまで問題となる範囲は広くないが、ビスマルク級よりも悪化しているのは確かである。


145mmの上部装甲帯は被帽を脱落させる事はできるが、厚さ的に砲弾の威力自体はそこまで低下しない。

傾斜部も上部で200mmまで増厚しているが、16インチ以上の砲弾なら、撃角によってはその奥に控える30mmの縦隔壁含めて貫通できる。
大和型の46cm砲なら23.5km以遠、より落角の大きい米16インチ45口径SHSなら21km以遠から、理論上は本級の重要区画を損傷させる事が可能である。
(横方向の角度が付いた状態ではより近距離でこのルートが発生するが、傾斜部への撃角はより浅くなるため貫通は難しいだろう。またリットリオやリシュリューの15インチ砲は貫通力は十分だが落角が小さく、より遠距離(26km以遠)での命中弾が必要となる)

何度も言うが、被弾面積的にこのルートが発生する可能性は(船体が傾斜でもしていない限り)低く、本級を損傷させるなら水中弾の方が可能性は高いと思われる。
ただこの上部装甲帯→傾斜部というルートは、中甲板の水平装甲が全体を覆っていないため発生する。
何の制限もなしに設計され、排水量13万トンもある本案なのだから、数千トンの重量増加を気にせずに中甲板の装甲範囲を拡大する事も可能だったはずである。
それを行わなかった結果、確率は低いとはいえビスマルク級になかった弱点が発生していると言うのは興味深い。

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まとめると垂直装甲と20インチ砲により、現実に建造されたいかなる戦艦をも上回る強大な艦であることは間違いない。

防御面では水中弾防御が無いことや上記の問題、さらに砲塔防御が未知数だが、垂直並びに水平防御の大部分は設計された戦艦の中では最も強力と言っていいだろう。
(6万トンも軽い大和やモンタナと比べて劣っているのなら、それはそれで大問題である)

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未成・計画艦編

46cm砲すら貫通不可能な本級の垂直防御だが、試作品や計画上の艦砲には46cm砲を上回る威力を持ったであろう物も存在する。
仮にH44が建造されたとすれば、対抗馬としてそれらの艦砲を搭載した大型戦艦が建造される可能性もなくは無いだろう(断言)。
・・・冗談はともかく、それらの艦砲に対する本級の安全距離についても触れておきたい。
なお計算に使用する数値等は、砲弾重量や初速以外は別口径の砲弾の数字等を参考に管理人が計算したものを使用した。たぶん間違ってる。

→ 艦砲の説明が思ったより長くなったので、どうせなら各国の未成艦を含めて作成してみる。
という事で以下のURLへ ttp://kingenchs.web.fc2.com/sonota/naab/lock/NAaBtest〇〇.html
一応表は完成しているが内容には全く自信がないので(それを言うのならこのページ全体がとなるが)パスとして〇〇内を埋めてもらえると。
よほどこのページに興味のある人以外は見る価値のない事しか書いていないので、スルーしていただければ。(46cm砲以上の艦砲には普通に貫通されかねないと言う結果になっただけだし)
パスは人名 貫通力公式で有名なフランスのあの人  ローマ字小文字7文字

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おまけ3

H45級戦艦?

またH級戦艦案には、H45と呼ばれる80cm砲搭載の超巨大案があったという話を聞いた人も多いかもしれない。
これについては夢の無い話であるが、現時点でこのような案の実在を証明する記録は存在しない。もちろん実在しようがしまいが建造できない規模の艦である事は変わらないが、机上には確かに存在したH44と違い、そもそも計画自体が存在しなかった可能性が高いのである。
英語版ウィキペディアのトーク曰く、今日(2016年現在)H45と検索すると出てくる要目(全長609m・排水量70万トン・24cm対空砲を装備等)はネット上での創作との事だ。
もちろん80cm砲自体は列車砲として実際に投入された有名な兵器であるし、当時のドイツはH44案以外にも恐竜的な兵器を多数研究していた事から「実在していてもおかしくない」と広まったものと思われる。

なお「ヒトラーが80cm砲を搭載する戦艦を欲した」レベルの話であれば、可能性自体は完全には否定できない。
もちろん肯定する資料もないのだが、とりあえず仮に研究がなされていたとしても、どのような艦になっていたかはまったくの不明であるという点は確実だろう。

また仮に80cm砲搭載艦を設計するとして、水上戦闘に使えるとは思えないこの砲を載せつつ、兵器として有効な物にするにはどうすれば良いか考えてみるのも面白いテーマだろう。だが本ページの趣旨から離れてしまうので、ここでは割愛する。

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