戦艦の使用砲弾に関するメモ

元々砲弾については怪文書の補足ページにて2016年ごろ解説を掲載していたが、時間が経つと内容の粗が目立ってきた+元ページの整理をしたいという理由から、今回内容を一新して別ページに作成する事とした。2019年9月7日公開。随時更新中

はじめに
戦艦同士の戦闘においてほぼ唯一の攻撃方法は、大砲から撃ち出した砲弾を相手に命中させる事である。
よって使用する砲弾の性質・性能が艦の攻撃力を大きく左右する事となるわけだが、具体的に有効な能力を持つ砲弾とはどのようなものだろうか。
本ページでは主にその点に答えるため、いつも通り怪文書を垂れ流していきたいと思う。(結論としては既に補足のページに要約があるのでそちらを参照)

目次
砲弾の種類と役割(この下)
主砲弾の沿革
砲弾に必要な要素と具体的な性能評価  若干加筆するかもだがほぼ完成 
(補足)「貫通するという事について」「装甲貫通フローチャート」未完成
・参考資料


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・砲弾の種類と役割

砲弾には様々な種類があり、それは戦艦の主砲が用いる物であっても同じである(一部時代を除く)。まずはその種類について、大まかに分類したうえで解説してみたい。   

使用砲弾はその効果や役割から、主に以下の3つ※に分類する事が可能である。
1. 装甲貫通能力を重視した物
2. 炸裂時の爆風や破片の威力を重視した物
3.上記2種の中間にあたる物

※この他にも広範囲に弾子をばら撒く事を目的とした系統の砲弾、内部に化学剤を充填した砲弾などが存在する。ただし戦艦主砲ではあまり採用されていないのと、このページの本題とはあまり関係ないので割愛したい。 

図 該当する砲弾の例 
戦艦主砲弾の例

あくまで大体の構造を表した図であり、実際に存在する砲弾そのものではないので注意

・若干の解説
「1」は大まかに徹甲弾(Armour Piercing , AP弾) として分類される砲弾である。

艦砲におけるこの種の砲弾は、装甲艦の登場を受けて誕生し、戦艦同士の水上戦闘が想定された時代まで絶えず進化を続けていた。(詳しくは後述)

構造:上図は第二次大戦期の徹甲弾の例である。
大まかな構造は上から、空気抵抗を減らす風帽(無色)、命中時に貫通を助ける被帽(黒色)、本体である弾体(灰色の大部分)、炸薬が充填される弾腔(黄色)、それを爆発させる信管(赤色)、弾腔に蓋する底螺(弾底の一部)となる。
基本この時代に設計された徹甲弾なら、どの国も構造に大きな変化はないだろう。

補足として徹甲弾は本来、内部に炸薬を設けて命中時に爆発する徹甲榴弾(AP shell)と、炸薬を持たない徹甲実弾(AP shot)の二つに分類できる。
ただ厳重に区画分けされた艦艇に対して、装甲を貫通して穴を空けるだけでは十分な被害は与えらない可能性も高い。そこで炸裂による破壊効果や二次被害があった方が良いとの考えから、この時代の海軍で徹甲弾と言えば、実際は炸薬を有する徹甲榴弾を指すのが基本となる。
炸薬の量は時代や艦によって異なり、第二次大戦時の新戦艦主砲で大体砲弾重量の1.5~3パーセント程度。
また信管は貫通後に爆発するよう弾底部に装着された着発信管だが、この時代には各国とも艦の奥深くまで達してから炸裂するよう遅動信管となっている。

役割・効果など
名前の通り装甲目標に対する効果が期待される。
適切な性能を有する物であれば(重要)、他砲弾では対応できない厚さの装甲を貫通し、さらに遅動信管によって内部へ侵入した後に炸裂して、艦の奥深くにある弾薬庫や機関といった重要な区画に被害を与える事が可能となる。
貫通能力は後述するように、命中時の弾速や角度、さらに強度や炸薬の安定性によって大きく変化する。
一応第二次大戦頃だと、ある程度角度が付いても弾径と同厚程度の垂直装甲を貫通・炸裂できるイメージもあるが、これに至るまでの苦しい道のりについては下で見ていきたい。
一方で装甲目標以外への性能には難もあり、軟目標への効果は炸薬量が少なく破壊効果の及ぶ範囲が狭い点、そもそも信管が作動せずに突き抜けてしまう事がある点から他砲弾に劣るものとなる。

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「2」は、微妙な表現になってしまうが「狭義の榴弾」と言うべきものである。

なぜ狭義かというと、上記の徹甲榴弾だったり陸軍の対戦車榴弾など、貫通力重視の砲弾でも名称に「榴弾」と付く例があるように、基本的に炸薬を充填して爆発する砲弾であれば、すべて広義の榴弾に分類される事もある。よって榴弾だけでは曖昧になりかねないので狭義を付けさせてほしい。
そして他にも通常弾(Common shell)という表記もあるが、これは後述する理由から榴弾以上に混同しやすいので、2の砲弾を表す際には使用しない事とする。
ただ20世紀に入ると、爆発力の高い炸薬を用いて威力を増したHE弾(High Explosive, あまり馴染みがないが高勢弾という日本語訳も)が順次採用されていって、最終的に「2」の主流となっている。なので装甲艦時代や前ド級艦が活躍した時代の一部を除けば、「2」=HE弾という定義も可能である。

構造:上図は同じく第二次大戦期のHE弾の一例である。
破壊力の源である炸薬量が多いのが最大の特徴で、新戦艦主砲の場合砲弾重量の5~8パーセント程度。(実は同サイズの航空爆弾などと比べると少なめである)
信管は弾頭部に瞬発の着発信管を装着する事が多いが、用途によっては時限信管が使われる事もある。 
なお上図とまた違う構造(風帽を有する、信管に弾頭信管と弾底信管を併用するなど)の砲弾も、同じ効果を有する場合「2」に該当する。

役割や効果:徹甲弾と打って変わって第一に軟目標への破壊力に優れる砲弾となる。
一般的に船体の非装甲部に使われる鋼板は厚くても十数ミリ程度であり、大口径砲のHE弾ならこれを容易に粉砕、大穴を空ける事が可能である。
仮に水線部など艦の生存性に重要な場所に命中した場合、致命傷たりえる損害を与える事も期待できる。

またそれ以外の区画、舷側上部、甲板、上構など、比較的生存性に関係のない部分への命中であっても、弾片をまき散らして人員や機器を薙ぎ払ったり、火災を発生させることで、着実に敵艦の戦闘力を削ぐ効果がある点も指摘できる。
対する欠点はやはり装甲に対する効果である。弾頭信管により命中後瞬時に炸裂するこの砲弾は、爆発で装甲に穴を開けたり接合部の船体構造を破壊する事は可能だが、爆風や弾片は殆ど内部に達せずに跳ね返されてしまう。すると仮に自身の弾径よりもずっと薄い装甲に対しても、その効果は大きく削がれる結果となる。

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「3」
は主砲弾として1や2ほどポピュラーではないし、中間の一言で終わっても良い気がするが、名称等含めて解説している所があまりないので、脱線気味になるがここで情報を整理しておきたい。

という事でこの種の砲弾は貫通力重視と爆発力重視、二つの中間にあたる砲弾すべてが該当する。つまりその中には、効果や構造が微妙に異なる複数の種類が含まれる事になる。
図に示したのもほんの一例で、まず上図左は同時期の徹甲弾とほぼ同じ構造だが炸薬量が多い。その分若干貫通力が減少した代わりに、爆発の威力で勝る砲弾である。
そして上図右は被帽を持たずに炸薬量もさらに多いなど爆発力に寄った砲弾だが、弾頭信管ではなく弾底信管を用いており、少なくとも薄い装甲を抜いた後に炸裂する事を前提とした砲弾である。
基本的には「1と2の中間の炸薬量と弾底信管」という点がポイントとなる。一部構造が異なる砲弾(風帽を持たずに被帽もしくは弾体が頂部に露出しているタイプなど)もその点を満たしていれば「3」に該当するだろう。

名称:次にこの種の砲弾がどう呼ばれているが、実際に名前を挙げてみたい。
まず図左のような「徹甲弾とほぼ同じ構造だが炸薬量が多い」砲弾は半徹甲弾(Semi Armour Piercing, SAP弾)であり、この種の砲弾で最もわかりやすい名称だろう。
これに対してややこしい名称として、「半徹甲弾」とほぼ同一か、やや爆発力重視に傾いた砲弾は「通常弾」に分類される事が多い。
例として20世紀初頭に英国や日本海軍が用いた尖頭通常弾(Common Pointed, CP弾)や被帽通常弾(Common Pointed Capped, CPC弾)があり、二次大戦時の英軽巡などが用いた風帽尖頭通常弾(Common Pointed Ballistic Capped, CPBC弾)や米海軍の特殊通常弾(Special Common)は構造的には図右とほぼ同様のものである。

上述のように狭義の榴弾に「通常弾」という表記が使われる例もある(零式通常弾など)。この件に関しては名前に騙されないで構造で判断するしかない。
さらにこの二つ以外で該当する砲弾名称に、ドイツ海軍のSpgr. Bdz.(弾底信管付きHE弾)、陸軍砲における破甲榴弾を挙げる事が出来る。

ちなみに巡洋艦以下の中小口径砲では純粋な徹甲弾を持たずに、装甲目標に対する砲弾としてこの種の砲弾のみを搭載している例が結構見られる。
駆逐艦はその役割からして徹甲弾が無いのも不思議ではないが、巡洋艦も日本の15.2cmや14cm砲は弾底信管付きの尖頭通常弾・被帽通常弾であったし、第二次大戦時の英巡洋艦も使用したのはsapやcpbcに分類されるものであった。

役割と効果:利点としては、2の砲弾とは違いある程度の装甲を貫通する事が可能である点。貫通後に炸裂する威力が1よりも強い点となる。
逆に言えば1のように厚い装甲を抜くことはできず、非装甲部への威力は2に劣るということで、器用貧乏な砲弾という面も強い。
(炸薬量と威力の関係は複雑な所で、量が多すぎても砲弾が細かく砕けすぎてみたいな部分もあり、厚めの隔壁を抜くような大弾片が発生しやすいという点ではこちらが優れる面も)
一応戦艦クラスよりも薄い装甲を有する艦艇(つまり対巡洋艦)へ最も適した砲弾である。また対戦艦では第一次大戦頃の環境において、遠距離で非重要区画や甲板へ攻撃を加える際に適しているとされていたようだ。

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複数の種類がある理由は当然の事ながら、目標ごとに適した物を使い分けた方が効率が良いからである。

実際に戦艦主砲で予想される目標は、戦艦(主力艦)、戦艦以外の水上艦艇、陸上の陣地や砲台、そして第二次大戦時なら航空機と言ったものが考えられる。
この内戦艦の本分となるのは敵戦艦との戦闘だが、主要区画に重装甲を有するこの艦種に対しては、徹甲弾の使用が最も望ましい事になる。

・・・まあ第二次大戦時ではそう単純に考えても良いのだが、80年以上続いた装甲艦・戦艦の歴史において、この考えが常に通用するとは限らない。
上で徹甲弾が効果を発揮するのは「適切な性能を有する場合」としたように、やはり徹甲弾は装甲を抜けなければその価値を大きく落としてしまう。
仮に徹甲弾側の性能不足が激しく、どのような条件でも敵主要部の装甲を抜けない場合はどうなるだろうか。
当然他種の砲弾もその部分を抜く事は出来ないので、残る非装甲部や艦橋に命中弾を与えて、撃沈に至らないまでも無力化(最低でも戦闘力減少)を狙う事が現実的になる。この場合、狭義の榴弾の方が効率的である事は疑いようがないだろう。

そして徹甲弾と装甲の力関係を見ていくと、徹甲弾側が「適切な性能」を有しておらず、こちらに近い考えが適応できる時代も確かに存在するのである。

このように「必要な砲弾とは」と問われると、上で見てきた大まかな分類だけでなく、さらに具体的な各砲弾の性能を把握していく必要が生じる事になる。
その具体的な性能というのは、時代ごと、海軍ごと、艦砲ごとに異なるものであって、とにかくできるだけ細かい部分まで追究していく他ないと考えられる。
次の内容ではその例として少々乱雑かもしれないが、各種砲弾の歴史や変遷に関する重要な点まとめていきたい。

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主砲弾の沿革(戦艦の誕生から最期まで)

いつも通り長くなりそうなので、各章ごとにまとめを置いてみる。
目次
・榴弾の登場と装甲艦時代(19世紀前半~装甲艦の登場まで)
・ライフル砲と最初期の徹甲弾(1860~80年代初頭)
・インフレの始まり(1880年代中頃より)
・主力艦対速射砲(日清戦争)
・大口径榴弾(日露戦争)
・戦艦全盛期(弩級艦時代)
・現実と課題(第一次世界大戦とユトランド海戦)
・大躍進(大戦後半~20年代)
・ようやくここまで来たものの(30年代~第二次世界大戦)
・その後(戦後)

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榴弾の登場と装甲艦時代(~装甲艦の登場まで)

艦砲が登場してから19世紀初頭のナポレオン戦争に至るまで、その砲弾と言えば爆発しない鉄球そのものが主流であった。
より専門的には「鋳鉄製の球状実体弾」と言うべきもので、自らのエネルギーを以て命中した目標を破壊する事がメインの機能となる。
その破壊効果は限られたもので、片舷に数十門を搭載した戦列艦同士が撃ち合っても、直接沈没させるほどに被害に至る事は殆どなかった。
例として帆船時代を代表する海戦であるトラファルガーの戦いで、海戦中に沈没した艦は1隻のみ、それも火薬庫に火が達した事による爆沈であった。
戦闘の決着は同海戦でもそうであった通り、多数の命中弾によって帆柱を打ち倒して行動力を奪ったり、乗員を殺傷して戦闘不能に追いこんで降伏させるというのが普通となる。

一方で炸薬を充填して爆発する榴弾もある事はあったが、危険であるとして一部の砲や専用艦での使用に限られていた。
これが通常の艦砲で使用できるようになるのは1820年代、フランスのペクサン大佐が実用化したペクサン砲の登場以降となる。
ペクサン砲は30年代後半から40年代に各国海軍に普及し、50年代にはクリミア戦争で大いに活躍。
特にシノープの海戦では、ナヒーモフ提督率いるロシア艦隊がオスマントルコの艦隊を壊滅状態に追い込み、木造船に対する破滅的な威力を証明した。

これに対してクリミア戦争に参戦したフランス海軍は、要塞攻撃用に錬鉄の装甲板を貼った浮き砲台を建造し、キンブルン要塞への攻撃に使用。
さらに戦後になると、通常の水上艦艇にも榴弾防御用の装甲を設けた艦が就役し、戦列艦に変わって装甲艦が海軍の主力となる時代が始まっていく。
というわけで、砲弾と装甲のいたちごっこは榴弾の登場から始まるのである

なおこの時期の榴弾が使用した信管は、文字通り管の中に導火薬を入れたもので、一定時間燃焼した後に炸薬に達して起爆させるという、時限信管の一種であった。
つまり装甲に命中した衝撃で必ず爆発する訳ではないが、そもそも弾腔を設ける分弾体強度が低くて、装甲を貫通するには全く向かないものである。
よって装甲目標には既存の実体弾を用いる事になるのだが、それにしても当時主流であった32~68ポンド級のサイズでは、実戦的な環境において初期の装甲艦が有する4インチ程度の装甲に歯が立たない状態であった。
つまり砲弾に対して防御側が大きく有利な状況からのスタートだったという事になる。

まとめ 
・帆船時代より主流だった鋳鉄製の球体実弾に加え、球体榴弾が普及する
・榴弾の普及を受けて木造艦から装甲艦が主力に
・装甲艦の装甲に対して、当時の艦砲が用いる榴弾・実弾は通用しなかった

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ライフル砲と最初期の徹甲弾(1860~80年代初頭)
このような防御側優位に対抗する流れは複数存在したが、初期に成果を挙げたのは、既存の砲弾を用いる滑腔砲を大威力化する事であった。
この時期には製造法の改良により、最大400ポンドにもなるような大型の球体弾を初速を落とさずに発射できる、強度の高い砲が製造可能になっていた。
しかし大型の滑腔砲は精度や重量効率の問題もあり、そもそも大型化自体にも限界が存在していた。
そこで南北戦争で実際に戦果を挙げた米海軍を除いて、大型滑腔砲はあまり使用されず。新たに主流となったのは実用化が進むライフル砲であった。

ライフル砲の利点の一つは砲弾に回転に与える事で、球体以外の砲弾でも弾道を安定させる事ができる点である。
つまりそれは同口径の球体弾よりも細長く、空力性や貫通能力が高い砲弾も使用できる事を意味している。
(さらに常に弾頭部を前にして飛翔する事から、着発信管を用いた榴弾もライフル砲の登場により実用レベルとなった)
これらをまとめて長弾と言い、中でも主流だったのは弾頭部が丸みを帯びたコーン状の椎実弾もしくは蛋形弾と呼ばれる形の砲弾である。
他には命中時に特殊な効果を狙った平頭弾もすでに登場し、一部で用いられていた。

イギリスのアームストロング砲など最初期のライフル砲は、装甲艦の開発とほぼ同時期に実用化しており、装甲への射撃試験も盛んに行われている。
しかしその結果を見ると、当初の威力は滑腔砲と比べても芳しいものではなかったようだ。
これは強度不足が指摘されたアームストロング砲をはじめとして、砲弾が大型化したわりにそれに対応した発射薬を用いる事が出来ず、威力が伸び悩んだ事による。
そこで主兵装にふさわしい威力を持つのは、前装砲への切り替えや尾栓の改良などを経た60年代以降を待たなければならない。

また60年代の砲弾として特筆すべき事は、史上初の徹甲弾と呼べる砲弾が登場した事である。
(帆船時代の実体弾も貫通しか考えてないという意味では徹甲弾的ではあるが、そもそも装甲がない時代の砲弾なので徹甲弾と呼ぶのは不適切だろう)
それが「堅鉄弾」(英:Chilled Iron shot/shell)であり、イギリスのパリサー大佐が開発した事からパリサー弾とも呼ばれている。
同砲弾は鋳鉄の椎実型砲弾に熱処理を施し、弾頭部を硬化。名前の通り装甲を破る硬さを付与する事を狙った砲弾である。
そして英名にあるように、これは爆発しない堅鉄実弾に加え爆発する堅鉄榴弾の二種類が存在していた。後者は当初信管を持たずに、装甲命中時の衝撃で内部の炸薬を爆発させる仕組みであった。(そのために不安定な事が多く、炸薬を入れずに堅鉄実弾として使われる事も多かったようだ)

この堅鉄弾の登場による貫通能力の向上に加え、砲自体の大型化が進んだ事は、各国の装甲艦の間で装甲厚と主砲口径の激しい競争を引き起こす事になる。
例として「装甲材質に関するメモ」でも述べたが、この時期の英海軍の主力装甲艦の主砲口径・装甲厚を見ていくと以下のようになる。
ハーキュリーズ(1868):主砲9インチ、垂直装甲最大9インチ(錬鉄)
デヴァステーション(1873):主砲12インチ、垂直装甲最大12インチ(錬鉄)
インフレキシブル(1881):主砲16インチ、垂直装甲最大合計厚24インチ(錬鉄)

インフレキシブルと同時期に竣工する伊カイオ・デュイリオも、45cm主砲に550mmの鋼鉄装甲を有するなど、この競争は70年代後半から80年付近に頂点を迎える事になる。
(このスペックを実現しつつ艦を実現可能なサイズに収める必要から、この時代の艦は装甲配置の面で大きな変革を遂げる訳だが、これに関しては本編を読んでほしい)

一方でこの競争時代には目立った海戦がなかった事もあり、これらの巨砲が持つ装甲への効果というのは実戦で証明される事はなかった。
数少ない例としては、ペルーの装甲艦ワスカルが1877年の反乱時に英艦艇と交戦、1879年チリとの太平洋戦争にてアンガモスの海戦の参加と、二度の戦闘でいくつもの被弾例を残している。
   

同艦の装甲は厚さ4.5~5.5インチの錬鉄と、初期の装甲艦レベルといった具合だが、最初の戦闘では英艦の9インチ~6.4インチ砲弾を50発以上受けつつも、特に大きな損傷を受けてない。
どうやら堅鉄弾の使用数が少なかった事が理由の一つのようだが、同時に「実験では抜けるはずの目標が実戦では抜けない」という良くある現象の一例でもある。
一方で後者の戦闘でチリ装甲艦から放たれた9インチ堅鉄弾は、かなり撃角が大きい状態の命中弾もあったが多数が装甲を貫通。最終的に同艦の戦闘力を奪って制圧する事に成功している。 
この点から少なくとも当時の砲弾は、初期の装甲艦レベルの防御なら十分に破れるほどの性能を有していた事は証明できたと言えるだろう。
しかしながら海戦でワスカルは撃沈されたのではなく、戦闘力を失って拿捕されるという、帆船時代と大差ない決着であった事は注意しなければならない点である。
(戦闘力を奪うのに要した砲弾数はずっと少ないとは思われるが)
 

まとめ
・砲弾形状は滑腔砲からライフル砲への変化に伴い、椎実型の長弾が中心に
・砲弾の種類は実体弾と榴弾(時限信管だけでなく着発信管も使用)に加えて、装甲貫通に特化した堅鉄弾(堅鉄実弾、堅鉄榴弾)が登場する 
・この攻撃側の強化に伴い、装甲艦で重装甲化が進む。それに応じてさらなる主砲口径の拡大と言う風に競争が進んでいった
・一方でこの時代は実戦例の少なさから、砲弾の性能を評価する情報もあまりない
 

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インフレの始まり(1880年代中頃より)

この時代は70年代のような単純な口径拡大・装甲厚の増強ではなく、技術革新による攻防のインフレが巻き起こった時代と言える。
その中で主力艦の主砲に見られた傾向として、一時期の巨砲と比較すると口径が縮小する一方で、長砲身化が進む点が挙げられる。

これは褐色火薬をはじめとして、これまでの黒色火薬よりも燃焼速度が遅い装薬の使用が可能になった事からきている。
砲身長を増す事でこの圧力を砲弾に長く伝え、初速を増した分、以前より扱いやすいサイズの砲で威力を発揮する事を狙った流れとなる。
(なお砲身長の拡大と共に本格的に前込めが不可能になったので、これを機に英海軍を含め後装砲が主流となる)
なお長砲身化の流れは主力艦が装甲艦から近代戦艦へ移り、装薬も褐色火薬に代わりコルダイトやニトロセルロースと言った無煙火薬となった90年代以降も続き、最終的に弩級艦の時期には第二次大戦期でもおなじみの45口径や50口径砲が登場するに至っている。

一部話が20世紀に入ってしまったが、これを80年代に戻すと、大砲だけでなく砲弾でも徹甲弾系統として鋼鉄実弾・鋼鉄榴弾が普及している。
これは名前の通り材質に鋼鉄を用いた物で、それ自体は以前より独仏などで用いられていたそうだが、この時代には鋳鉄製の堅鉄弾を上回るとして英国を含め主流となっている。

以上のように高初速化+鋼鉄製砲弾が主な攻撃側の進歩というわけだが、この時代には「装甲材質などの話」で述べたように装甲側のインフレも激しい時代である。
最終的に誕生するクルップ鋼に対しては、鋼鉄砲弾も性能不足は否めず、徹甲弾による装甲の貫通という攻撃手段にとっては苦しい時代が始まる事になる。

一方で技術の進歩によるインフレは大口径砲だけでなく、6インチ以下の中小口径砲でも、発射速度を大きく向上させた速射砲の誕生という一つの転換点を迎えている。
この類の兵器は小型高速艇の撃退なども目的としているが、それだけでなく主力艦への攻撃能力も期待されていた。
当時の主力艦は限られた重量で大口径砲を防ぐため装甲範囲が狭い傾向があり、当然ながら上部構造など艦の指揮に関わる区画も大部分が非装甲である。
こういった場所に多数の命中弾を与える事ができるのであれば、たとえ撃沈できなくとも戦闘力を低下させ、戦闘を優位に進められるはずという狙いになる。

またこの時期は、炸薬としてピクリン酸など、黒色火薬とは比べ物にならない威力を持つ爆薬が登場した時期である。
高勢弾(HE弾)の走りと言えるそれらの爆薬を充填した榴弾は、中小口径弾でも非装甲目標に多大な破壊効果を与える事が可能であり、上記の説を補強する事となった。
(なおピクリン酸は一部徹甲弾の炸薬としても用いられる事になるが、これが多くの海軍を悩ます問題の一つとなっていく)

そしてこの時代に噴出した、進歩した徹甲弾と装甲同士の攻防、主力艦への速射砲の効果と言った疑問は、以下で述べる日清・日露の両戦争で検証される事になる。

まとめ
・砲弾は上で紹介した物に加えて、威力の高い炸薬を用いた榴弾(HE弾)が登場、徹甲弾系では鋼鉄製の鋼鉄実弾・鋼鉄榴弾が普及する
・大口径砲だけでなく中小口径の速射砲が持つ能力が注目される
・実戦での成果は次の項目で

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主力艦対速射砲(日清戦争)
日清戦争最大の海戦となった黄海海戦は、当時の海戦においては久々に主力艦が参加した艦隊戦となった。
結果としてこの海戦では、日本海軍が1隻も失う事なく清国の巡洋艦5隻を沈めて勝利を収める事になるが、その勝因の一つはやはり速射砲の威力にあるだろう。
清国艦隊は主力である定遠級装甲艦を除いて、主に防護巡や非装甲巡で構成されていた。(一応装甲巡である経遠級もいたが、これもあまり装甲範囲は広くない)
当時の日本艦隊ではまた下瀬火薬は使用されていなかったが、それでもこの戦果は、装甲範囲の狭い中小型艦に対する甚大な効果を証明している。

その一方で主力艦である定遠級に対して速射砲の効果は限られていた。両艦は戦闘中に200発とも言われる命中弾を受けながら、最後まで戦闘力を維持し続けている。
結果として同海戦は、速射砲の威力を示しつつも上記の説を証明するには至らず、その限界を見せた結果だったと言えるだろう。

一方で装甲に対する砲弾の効果としては 日本の松島級(三景艦)が搭載したフランス製の38口径32cm砲について論じる事ができる。
同砲は海戦中における悲惨な発射速度で知られているが、それでも一発の威力は当時の主力艦に負けないもので、戦後の報告書によれは発射数にも関わらず定遠級へ命中弾を与えたとされている。  

フランス製の鋼鉄砲弾を使用するこの砲は、当時の交戦距離で14インチの複合装甲を持つ同級を容易く抜く貫通力を持つと試算されている。
それにも関わらず、この海戦で定遠級への装甲貫通は記録されていない。
海戦の初期において日本艦隊は、横陣で艦首を向けた清国艦隊に対して砲撃を加える形だったので、その際の命中弾であれば角度が大きく付いた事が予測される。
まあこれも「実験では~」の一例と言えるかもしれない。
もちろん命中弾数が増えればどうなっていたかはわからないが、とにかく同海戦では主力艦の装甲を破れなかった事になる。

なお定遠級が搭載した12インチ砲は、日本艦隊に対して(実弾を使用して効果なしと言う場面もあったが)榴弾が命中した場合はかなりの損害を与えている。
以上のようにこの海戦では主力艦を持つ側が敗北しているが、同時に攻防の両方で主力艦はその必要性を十分証明している点も戦訓の一つである。

まとめ
・黄海海戦では速射砲が活躍する一方で、主力艦に対する効果の限界も露わとなった
・大口径砲は、徹甲弾系の砲弾で(日本側は発射数の少なさ、清国側は非装甲目標への使用という理由で)効果が限られたが、清国側の榴弾はそれなりに戦果を上げた
・結局主力艦の厚い装甲を貫通した砲弾は確認されていない

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大口径榴弾(日露戦争)
日露戦争は近代戦艦にとって最初の実戦経験であり、海戦史に残る結果となった日本海海戦を含め、戦艦砲弾の能力が大いに試される機会であった。
ここで両海軍の戦艦が用いた砲弾は、どちらも鋼鉄製で榴弾系と徹甲弾系の2種類が主となるが、一部で大きな差が確認できる。

まず炸薬はロシア側が湿綿火薬(比較的鈍感だが威力は黒色火薬をやや上回る程度)であったのに対し、日本側はピクリン酸系統の下瀬火薬を採用、充填量も日本側の方が多かった。
これは非装甲部への破壊力や、火災や燃焼ガスによる敵艦戦闘の妨害といった役割において、日本側の榴弾が大きく長けていた事を意味している。
一方で下瀬火薬の使用は、貫通を本分とする徹甲弾において日本側にハンデを与えていた。鋭敏に過ぎて装甲に命中すると瞬時に自爆して貫通する事が出来ない可能性が高いのである。
さらに徹甲弾が用いた信管にも差が存在する。どちらも弾底部の着発信管ではあるが、ロシア側が作動を遅らせる遅動機構を有するのに対して日本側はそれを持たない瞬発信管であった。
この点も徹甲弾で装甲を貫通する上で問題である。(ただし日本側の信管が確実に作動するのに対して、ロシア側は不発率がやや高めという問題もあった)

要約すると榴弾は威力において圧倒的に日本側が優位、一方の徹甲弾では装甲の貫通能力を考えた場合、ロシア側の方が適していたと言えるだろう。

そしてこれらの砲弾が実戦で示した能力を評価すると、見えてくるのは徹甲弾を含む砲弾の貫通能力不足大口径榴弾の威力の高さという2点である。

まず装甲に対する貫通能力に関しては、上記の問題があった日本側の徹甲弾は論外として※、比較的貫通に適したロシア側の砲弾も性能不足は否めなかった。
当時の鋼鉄製の砲弾では、新鋭艦が持つ表面硬化装甲に命中すると、強度不足で弾体が破砕されて貫通できないか、内部に十分な損害を与えられない貫通に留まってしまうのである。
(つまり下で書きかけの「貫通するという事」の図で言うと、⑤以降の状態になる可能性が高いのである)

実際に黄海・日本海両海戦での成績を見ていくと、そもそも両海軍ともに使用数が少なめであった事もあるが、装甲目標に有効と言える貫通弾を与えた例は殆ど存在しない。
(特に日本戦艦は黄海海戦での腔発原因が徹甲弾の構造的問題にあるとして、大きな戦果を上げた日本海海戦では殆ど徹甲弾を使用しなかった)

日本側の貫通能力は、鹵獲されたボロジノ級戦艦オリョールで、厚さ6インチ前後のクルップ鋼に複数の命中弾がありながら、一発も貫通弾がない事が十分に証明している。
もちろん沈んだ艦の損害は残り辛いので、選択バイアスである可能性もあるが、生存艦への命中弾は他艦も大差ない状態である。
ただし例外的な物として、黄海海戦でペレスヴェート級ポベーダの主装甲帯を貫通した砲弾が一発存在する。命中箇所は最厚部ではなく水線下のテーパー部分だが、それでも報告書では8インチのクルップ鋼とされているので、例外的に厚い装甲を貫通した事になる。(おそらく不発になったのが功を奏したと思われる。この砲弾はさらに装甲背後の甲板傾斜部を貫通するが、その奥の石炭庫で止まっている)

一方のロシア側は装甲貫通に適していたと述べたように貫通弾自体は多く、上記オリョールの命中箇所と同程度の防御力を持つ三笠の上部装甲帯(6インチクルップ鋼)を抜いた砲弾も複数存在する。
一応この砲弾は装甲内部に被害を与えた例ではあるが、砲弾自体は命中と共に炸裂しているので、理想的な貫通とは言えない。(下図で言うと⑥もしくは⑦のような状態)
装甲を貫通し背後で炸裂、というより理想的な例となると、敷島の6インチハーヴェイ鋼への貫通弾が一発あり、これが両軍の砲弾の中でも装甲に対して最も上手く働いた例だろう。
他には黄海海戦では、三笠の前部砲塔横主装甲帯7インチを貫通した砲弾もあったが、これは貫通時に砲弾が破断して、弾頭部のみ突入するも背後の傾斜部に受け止められている。

と言う風に、結局徹甲弾として期待される働き、装甲で守られた区画内に被害を及ぼす、という効果は殆ど見られなかったと言って良いだろう。

※一応日本側の徹甲弾は炸薬量が多く鋭敏な信管を持つ事から、威力の低い榴弾として非装甲部に被害を与える能力も有している。
さらに水線部に命中して貫通できなかった砲弾は、そのエネルギーにより装甲を圧入させて内部に浸水を発生させる事が確認されており、これらの損害で敵艦の撃沈にも一部だが貢献している。

一方で実際に主力艦に大きな損害を与えたのが、主に日本側が使用した大口径榴弾の威力である。
その効果で注目すべきは、以前述べたように単純に戦闘力を奪うだけに留まらず、主力艦を砲撃による損傷のみで沈没させる程の効果を上げた点である。
実際に日本海海戦で戦闘中に撃沈されたロシア戦艦は6隻で、いずれも集中砲火を浴びて戦闘力を失った状態であったが、その内ペレスヴェート級オスラビアとボロジノ級インペラトール・アレキサンドル3世は、火薬庫への誘爆やとどめの雷撃などもなく、被弾による船体の破壊と浸水のみで転覆するに至っている。
このような事は、海戦史において前代未聞と言えるレベルの出来事であった。

榴弾の集中砲火で主力艦が戦闘不能になる・沈没する、という現象は日清の黄海海戦とは対照的な結果とも言えるだろう。
その理由としてはやはり一発の威力が大きく異なる大口径砲である事、炸薬にピクリン酸を使用していた事、日本海軍の射撃が優秀で多数の命中弾を与えた事、そして最大の原因としてロシア艦隊が構造的に榴弾に弱い状態であった事※などを挙げる事ができる。

上記のように徹甲弾の成果は限られる事から、日本海海戦という兵器としての戦艦が最も活躍した瞬間において、実際に活躍したのは榴弾であった。

※当時のロシア戦艦(それに影響を与えたフランス戦艦も)は設計上の特徴として、同時期の英戦艦などと比べると乾舷に占める垂直装甲の範囲が狭く、榴弾に弱い非装甲部位が大きかった。
これに建造時のミスによる排水量増加や、海戦時には遠征の為の過積載が加わるので、設計時の想定よりもさらに非装甲部の割合が拡大していた。
同じくロシア艦はタンブルホームの船体と機関部内の中央隔壁により、傾斜時の復原性が低く転覆しやすい艦であった。
そこから榴弾を食らって非装甲部を破壊されたり装甲が圧入して機関室内に浸水があった場合、艦の生存性に問題を生じた点が指摘できる。

まとめ
・両軍の徹甲弾は様々な問題(鋭敏な炸薬、信管性能、弾体の強度不足など)があり、主力艦の主要区画にあるような厚さの表面硬化装甲に対応できなかった
・各装甲とその背後の防御構造を抜いて、重要区画内に被害を及ぼした砲弾は存在しない
・一方で榴弾は多数の命中弾により敵艦の戦闘力を奪うだけでなく、船体構造を破壊して沈没させるほどの絶大な威力を見せた
・ただしその効果は、相手側が特に榴弾に弱い状態であったからこそ発揮できた点も指摘できる

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戦艦全盛期(ドレッドノート狂騒から第一次大戦開戦まで)

日露戦争で実戦における価値を証明してから、再度実戦を迎える第一次世界大戦までは、戦艦と言う兵器の価値が最も高まった時代と言えるだろう。
この間には衝撃的な単一巨砲艦ドレッドノートが誕生、この種の主力艦が各国に普及したのちに、さらなる威力を求めて再び主砲口径が拡大する流れに至っている。
主砲の大口径化に伴い、それに対応した船体装甲機関が必要とされた結果、急速に艦の大型化が進む、いわゆる大艦巨砲の時代を迎えていた。

その中で使用された砲弾を見ていくと、まず興味深い現象として、第一次大戦に至るまで相対的に榴弾の価値が低下していった事が挙げられる。
もちろん日露戦争の戦訓は各国に伝わり、ピクリン酸等を用いる高勢弾の威力は十分に認識されていた。
しかしこの時代における主力艦の諸要素は、極端な榴弾至上主義を否定するどころか、相対的に対主力艦での榴弾の評価を下げる程になる。
その諸要素は主に二つ、当時の主力艦は装甲配置的に榴弾に対して高い防御力を有している点、そして徹甲弾側で新たに革新的な被帽弾が登場し、装甲への効力を上げていた点である。

前者は簡単に言うとロシアやフランス戦艦でも、装甲範囲の拡大やタンブルホームの見直しが行われたという事であるが、よりテーマ的に重要なのは後者となる。
被帽弾もしくは被帽徹甲弾は、これまでの砲弾が椎の実型の弾体のみで構成されていたのに対して、名前の通り頭部に鋼の弾帽を被せた砲弾である。


図 初期の被帽弾の例

被帽の効果としては、この部分が最初に装甲に命中する事で弾体の損傷を防いで、表面硬化装甲に対しても破砕されずに貫通する確率を上昇させるのである。
この効果自体は複合装甲の時代のイギリスで発見されていたが、1890年代にロシアのマカロフ提督の元で最初に実用化され、日露戦争以降に各国に広まっている。

上図にも見られるように、普及当初の被帽弾には様々な形状が存在した。
図左は弾帽のみを載せた実帽だが、先端が鈍角になる事から貫通能力はともかく空力的には良くないとして、右側2種の砲弾が生み出される事になる。
図中央は普通の弾頭に形状を寄せた中空被帽。図右は鈍角な被帽だけでなく、さらにコーン状の風帽を併用する形である。
それぞれのサイズなど細かい部分は異なるものの、第二次大戦時の基本となる風帽・被帽・弾体の3つからなる構造も、この時期に誕生していたわけである。

肝心な性能の話に移ると、一次大戦前に被帽弾を用いたテストでは、「想定される交戦距離の撃速で、弾径と同じ厚さのクルップ鋼を破砕されずに貫通可能」という記録をよく見かける。
つまり12インチ砲であれば12インチ厚、14インチや15インチならさらに厚い装甲と、当時の戦艦が持つ主要部の装甲に十分対応した性能に思えるかもしれない。
しかし実際のところ、当時のテストの多くは撃角0度の正撃、つまり最も理想的な状態で装甲に命中した物であった事に注意しなければならない。

交戦距離や目標の角度によって撃角が生じる斜撃の場合、砲弾には正撃時のように正面から砲弾を砕こうとする力だけでなく、横方向の捻じ曲げる力が加わる事になる。
一定の角度で被帽の性能や弾体強度が限界に達しその力に負けてしまうと、砲弾が折れたり尾部が裂けるなどして、性能が大きく低下してしまうのだ。

その場合装甲は貫通できないか、貫通できても不完全な状態になり(下の図で言う③以降)、背後の甲板傾斜部や石炭庫に受け止められて十分な損害を与えられない可能性が高い。

さらに言うと、日露戦争で問題であった炸薬の自爆問題や信管性能に関する対策も国によってまちまちであり、解決できていない徹甲弾にとっては大きな問題のままであった。
有効に働く遅動信管の製造が難しいのは言うまでもないが、炸薬については既にTNTなど鈍感かつ威力の高い炸薬も登場するも、多くの国がいまだにピクリン酸を使用している。
これはTNTのような鈍感な爆薬を炸裂、それも本来の威力で完全爆発させるには高性能の信管が必要であり、これも技術的な課題であった事が理由として挙げられる。

こういった点から、当時の徹甲弾は進歩したといっても、未だに対主力艦において常に信頼できるものではない。
よって特に装甲貫通能力が期待できない遠距離戦闘では、徹甲弾以外の使用が想定される事が多かった。(この点は日露戦争の頃から同じ傾向であったが)
今まではここで榴弾の出番となるわけだが、薄い装甲を広い範囲に貼る当時の装甲配置には相性が悪く、新たな砲弾が重視される事になる。
これが被帽通常弾であり、被帽徹甲弾の炸薬力を増して貫通力を代償に威力を増した物、本ページ最初の項目でも取り上げた半徹甲弾的な砲弾である。 
結果として第一次大戦の実戦においては、榴弾自体が対主力艦であまり使用されないことになっていく。

なお遠距離戦闘となると、実用的な射程が増していく当時の環境では、垂直装甲だけでなく甲板や砲塔天蓋など水平装甲への命中弾が発生する可能性も増していくだろう。
その場合に当時の砲弾が有した能力に関しては、実際にそういった命中弾が現実となった、次項第一次大戦における実戦例にて解説したいと思う。

まとめ
・新たに被帽を有する砲弾(被帽徹甲弾、被帽通常弾)が普及
・これにより徹甲弾は正撃時の能力を大きく向上させるも、斜撃では限界あり。また炸薬や信管の問題も国によってまちまち
・装甲範囲の拡大に伴い榴弾(HE弾)よりも半徹甲弾が使用されるように
・実戦例は次に紹介する第一次大戦で紹介

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現実と課題(第一次大戦とユトランド海戦)

と言う訳で次はついに第一世界大戦。大艦巨砲の世界において一位と二位の座にいる海軍同士の直接対決が発生した戦争である。
この戦いにおいて戦艦砲弾は、前項で解説した部分を含めて、その進歩と限界を大いに思い知らされる事になるのだが、その点を詳しく見ていこう。

まず大戦中に主力艦同士で行われた戦闘として、代表的なのは英独が戦ったドッガーバンク海戦とユトランド海戦である。
この他にもオスマントルコやロシア海軍が関わった戦闘もあるが、本稿では両海戦を主に取り上げたい。

戦闘で使用された砲弾は、ドイツ側が徹甲弾と半徹甲弾の二種、英側は徹甲弾・半徹甲弾・榴弾の三種類である。
榴弾はドイツ側では使用されず、英側も使用したのは12インチ砲艦のみと、先述したように重視されなかった事が分かるだろう。
ユトランドにおける使用割合を見ると、ドイツ側で約8割、英側は一部不明艦があるが記録されている内では6~7割が徹甲弾であり、比較的遠距離の戦闘が多かったにも関わらず、徹甲弾が多用されていた事になる。

両海軍の徹甲弾を見ると、興味深い事に日露戦争時の砲弾と同じような性能差があった事が指摘できるだろう。
両者とも形としては被帽徹甲弾だが、その中で英国側は上図の「中空被帽」であったのに対し、ドイツ側は回収された不発弾から「被帽+風帽」形式を少なくとも一部で使用していた。
この内ドイツ砲弾の被帽は英国のよりも大きく分厚いのに加えて、ただの鋼ではなく硬化処理を施していたという大きな違いが存在した。
このような被帽は表面硬化装甲に命中した際に、硬化層から弾体を守るだけでなく逆にダメージを与え無力化し、弾体を食い込ませる確率を高めている。つまり装甲に対してより進んだ能力を持つ物であった。

続いて命中後の性能は日露戦争の項目でも述べたように、炸薬の安定性と信管性能の二つにも左右されるが、この点ではさらに大きな差が存在する。
英側の砲弾は炸薬として下瀬火薬と同じピクリン酸系統のリダイトを使用信管は一応遅動信管を導入していたが、性能的に不十分で有効に働かない物であった。
つまり日露戦争時の日本側砲弾と同じく、貫通力以前に自爆問題が存在していた事になる。
それに対してドイツ側は、安定性で上回るTNTを使用。さらに弾腔頂部に木製のクッションを設けて衝撃を吸収する自爆防止機構(ドイツ語ではholspitzeと言うらしい)を導入。
信管も遅動信管、しかも内部奥深くまで達する事を狙った0.25秒という大遅動である。
後述するように、この徹甲弾も決して理想的な働きを見せたとは言い難いが、装甲貫通後に炸裂するという徹甲弾の役割を考えた場合、間違いなくこちらの方が適した物である。 

と言う風にこの時期の英独戦艦は、主砲のサイズで英国が勝りつつも、徹甲弾の質という面ではドイツ側に完全に後れを取っていた点が指摘できる。
この砲弾の性能不足は、爆沈の原因となった装薬の取り扱いと共に、ユトランド海戦における英海軍の技術的な失敗の一つと言えるだろう。

ここからは実戦における働きを見ていこう。
ユトランド海戦と言えば大遠距離での砲撃戦という事で、まずは水平装甲に対する砲弾の効果から。

同海戦での英巡戦の爆沈については、「大落角の砲弾が薄い水平装甲に命中して致命傷になった」という意味の解説も結構見られるが、これ自体はやや語弊を含むものである。

そもそも水平装甲と言うと、甲板の装甲に加えて砲塔や司令塔の天蓋装甲も該当するはずだが、これらは分けて考えるべきだろう。
最初にユトランドに参加した艦の甲板装甲を見ると、主流なのは薄い装甲を複数に分けて設ける配置、最近行った分類で言う所の「二層もしくは三層補助分散型」である。
これは確かに大落角で命中した砲弾そのものを防ぐ厚さを持っていないが、同時に防御構造として全くの
無力とは決して言えないものである。
特に英国砲弾のように遅動機構が働かない砲弾の場合、下図の右側もしくは中央のように途中で炸裂してしまい。図左のように各甲板を突破して弾薬庫で炸裂とは行かないのだ。

一方で信管の性能に勝るドイツ砲弾なら、重要区画への突破も十分可能ではないのかとなるが、こちらも本来の大遅動とは行かずに上図中央のように終わった例が確認されている。
一応その際に発生した弾片が下層の甲板を抜いて重要区画に達した例も複数あり、中でもQE級バーラムでは弾薬庫に達した弾片もあるが、その後の対応によって致命傷とはなっていない。

という事で甲板装甲に対する命中弾の場合は、英砲弾は論外としてドイツ砲弾も致命傷になるかは確証は持てない。
(結局は生き残った艦しか詳細な記録は残らないのだから、こちらも選択バイアスである可能性は否定できない。また巡戦3隻の内クイーン・メリーを除く2隻はかなり装甲に劣る初期の英巡戦であって、水平装甲は一層式である。よって普通に貫通された可能性もあるだろう)

一方で甲板装甲よりも致命的な影響があったと考えられるのは砲塔天蓋である。
この部分には各甲板よ
り厚い装甲が施されていたが、当然装甲は一層のみ
つまり信管性能が不十分な砲弾でも、それさえ抜いてしまえば(下図⑤~⑦の不完全な貫通でも)、砲室内になんらかの被害を及ぼす事になる。
そこに当時の英艦隊で行われていた(戦後一部では自殺的と評価された)装薬の管理が重なり、砲室から弾薬庫まで達する誘爆を起こして爆沈するという流れである。

実際に海戦で生還した巡戦ライオンでは、天蓋の83mm前傾部分を貫通した砲弾により砲塔内で激しい誘爆を起こし、事前の注水が無ければ爆沈していたとされる程の被害が発生している。
この例からも、戦没艦も同じような誘爆が致命傷になったという説が有力である。

つまり「大落角の砲弾が薄い水平装甲を~」というよりは、「砲塔内部への被害+装薬管理の問題による弾薬庫誘爆」が、より信憑性の高い巡戦の致命傷である。
もちろん砲塔内への被害というのは、大落角の砲弾が砲塔天蓋を貫通する事が原因の一つとなるので、まったく関係がないわけではない。
だが致命傷に至るかどうかは誘爆の有無が主であり、ドイツ艦のように対策が出来ていれば、天蓋への命中弾だけで致命傷にはならなかった可能性が高いだろう。
ドイツ側の天蓋被弾の例としては、距離7kmと近距離でR級戦艦リヴェンジからと思われる15インチ砲弾がデアフリンガーの天蓋80mm水平部を貫通炸裂している。
だが元々装薬として使用していたニトロセルロースの安定性や、ドッガーバンクでの被害から事前に講じた誘爆対策もあって、英巡戦のような被害は抑えられている。

と言う訳で水平装甲への砲弾の効果は、甲板は重要区画まで十分に達せず、砲塔も誘爆次第であるという事で、大落角での命中弾であっても理想的な効果からは程遠いものだったと指摘できるだろう。

続いて垂直装甲について
垂直装甲への効果については、前項で述べた斜撃時の性能低下と自爆問題が(主に英側に)影響を与えている。
戦闘時は交戦距離の延伸による落角の増大に加え、そもそも目標が正横以外を向いて、横方向の角度が着く事でも斜撃になる場合がある。
海戦の経緯を見ると、主に戦闘を行ったベーティ・ヒッパーの両部隊こそ同航戦が中心で、あまり角度は付いていない印象を受けるが、他部隊はそうはいかない。トマス隊のQE級はベーティ隊の後方に位置するので、斜め前方のヒッパー隊へ発砲する形になり、ドイツ主力艦隊は北上するベーティ・トマス隊を追撃しつつ発砲、最後に英主力艦隊はドイツ艦隊をT字で迎え撃って砲撃、と言う風に横方向の角度が大きく付く場合も多数であった。

そのような状態では性能に劣る英砲弾はもちろん、性能は上とは言えサイズにハンデを持つドイツ砲弾も能力に限界が生じる事になる。
さすがに日露戦争時とは違い、6インチ程度の装甲は遠距離で撃角が大きくとも問題なく貫通可能。(つまり戦艦の補助的な部位の装甲に加え、初期の英巡戦の垂直装甲も普通に対応可能)
さらに9インチ厚のクルップ鋼(ライオン級以降の英巡戦最厚部やドイツ巡戦の水線以外に相当)も、下図⑦までのような不完全な貫通弾を含めれば背後に被害を与える事が出来ているが、戦艦の主要部装甲は多くがこれ以上の厚さであり、それに対応できるものではなかった。
最も厚い装甲に有効に働いた例は、距離7km程で命中した15インチ砲弾(これもリヴェンジからとされる)がデアフリンガーのバーベット(260mmKC鋼)を貫通、内部で炸裂した例である。

そして不完全な貫通が多数となる事もあって、装甲背後の構造を抜いて重要区画で炸裂した砲弾もほぼ存在しない。
唯一の例外としては英装甲巡ウォーリアに命中した12インチ砲弾が、6インチの主装甲帯と背後の2インチ縦隔壁を抜いて重要区画内で炸裂している。ドイツ砲弾の大遅動信管が有効に働いた明確な例だろう。
同艦は主力艦ではないが、この例は同程度の防御力を持つ初期の英巡戦へも同じく有効である事を意味している。

以上のように重要区画への効果が限られる状況では、結局垂直装甲も「砲塔貫通からの誘爆」が一番致命的な損害を与える事になる。
爆沈した英巡戦の砲塔垂直装甲は、クイーンメリーは9インチ、残る二隻は7インチと、十分内部へ被害を与えて誘爆を生じる事が可能である。同海戦における爆沈は、砲塔天蓋ではなくこの部分への貫通弾が原因である可能性も十分あるだろう。
ドイツ側も先述したドッガーバンク海戦で巡戦ザイドリッツが大きな被害を受けており、17km程で230mmのバーベットを貫通した13.5インチ砲弾により後部砲塔が全滅している。  
これを乗り越えたユトランドで同艦が発揮した抗堪性からも、砲塔誘爆がいかに恐ろしい被害をもたらすかが理解できるだろう。

水平垂直と装甲への効果を見てきたが、もう一つ押さえておきたいのは装甲貫通以外での命中弾が与える効果である。
以下に紹介する現象は日露戦争時や戦間期の試験でも一部認識されているが、実際に砲塔誘爆程ではないが結構な被害を与えて、攻撃手段として存在感を増している点が注目される。
一つ目は水線装甲に命中した砲弾が、貫通できなくとも勢力を以て装甲を圧入させ、背後の構造を破壊し浸水を引き起こす現象。
第一次大戦はドッガーバンク海戦でライオンがこの現象により大浸水が発生、海戦後に航行不能になる被害を負っている。
もう一つは水中弾であり、これが装甲の下をすり抜け背後に直接損傷を与える事である。
中でもデアフリンガー級リュッツオウへ命中した12インチ砲弾は、前部魚雷発射管室と隣接する一番砲塔弾薬庫を浸水させ、最終的に艦首浮力を失って艦を放棄に追い込む決定打となっている。
同海戦では他にもマレーヤ、ケーニヒが若干の損傷を負っており、バルト海ではボロジノ級戦艦の生き残りスラヴァの致命傷になった例も存在した。

こうしてみると、砲弾一発の効果としては「砲塔誘爆>装甲圧入・水中弾>(砲弾性能的から実現性に壁)>重要区画の貫通」という印象を受ける。
つまり徹甲弾にとっては理想的な働きとは程遠い結果に終わったと言わざるを得ない。
それでも誘爆ありきとはいえ、日露戦争時の主力艦程度には匹敵する装甲を有した艦が少数の命中弾で撃沈された事は紛れもない事実である。
この結果自体は日露戦争時と比較すると、攻撃側にとって一種の前進を示したものと評価する事も十分可能だろう。

まとめ
・当時の砲弾も両軍ともに欠陥並びに性能不足は否めず、主要区画の装甲(初期英巡戦を除く)に対しては、垂直はもちろん水平装甲へも十分な物ではなかった
・背後の構造を抜いて重要区画で炸裂する例は、装甲巡以外では確認できず
・一方で一層防御である砲塔の装甲を貫通した場合、誘爆を引き起こして大きな被害を与える可能性が存在した
・装甲貫通そのもの以外にも、装甲圧入や水中弾の命中による被害が少なくない影響を与えている

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大躍進(大戦後半~20年代) 

ユトランド以降は特に大きな艦隊戦も勃発せずに一次大戦は終結。戦後はさらなる建艦競争の流れを経て、最終的には軍縮条約下で主力艦の制限が行われる時代を迎えている。
このユトランド海戦から条約体制初期(一部国家はそれ以前からだが)において、主力艦は大戦時の戦訓を盛り込む等して、防御面に大きな変化が生じている。
その中には当然ながら砲塔の誘爆対策もあり、ユトランド時のような貫通弾で簡単に爆沈とは行かなくなる。さらに水平装甲も分散配置では限界があるとして、直撃した砲弾を防ぐ程の厚さへと増大していくのもこの時代である。 

一方で砲弾側、特に徹甲弾の変化はそれに負けないものであり、この時代は砲弾にとって大躍進を迎えた時期である。
この大躍進について、当時の主要な海軍国である(というよりは比較的情報が残っている)英日米の三か国での流れを見ていこう。

まず最も早く動いたのは英海軍で、大戦中にすでに大躍進を迎えている。
その原動力となったのはやはりユトランド海戦での不甲斐ない成績であり、海戦後の分析では自軍巡戦の爆沈と共に砲弾の性能不足が深刻な問題とされていた。
それを受けてフレデリック・ドライヤー大佐の元で砲弾の改正が行われた結果、1918年ごろよりグリーンボーイの通称で知られる新型砲弾が既存の艦砲に配備されている。
同砲弾は基本的にはユトランドで回収されたドイツ砲弾を参考に、一部に独自要素を盛り込んだものである。
特徴を見ていくと、砲弾は「弾体・風帽・被帽」の3つからなる形で、被帽には当然のことながら硬化処理が施された。炸薬はピクリン酸にジニトロフェノールを混合する事で鈍感化させたシェルライトを使用しており、弾腔内にクッションを設けずとも十分な安全性を確保。0.08秒の遅動信管を用いて装甲貫通後9~12m程進んで炸裂が可能となっている。

この能力を大きく示す実験としては、1921年にバイエルン級バーデンを用いた射撃実験が挙げられる。
ここで同砲弾は距離14km相当の条件で、350mmにもなる砲塔装甲を見事貫通している。と言ってもこれ自体は正撃に近い事からあまり現実的な能力を示すものではないが、それより重要な命中弾は、同条件で250mmの上部装甲帯を貫通後に下甲板付近まで進み炸裂、ボイラー室内に被害を与えた一発だろう。
この例からグリーンボーイは、装甲貫通後も進んで重要区画に達してから炸裂可能という、徹甲弾にとっては理想的な効果に近い能力を持つ事を証明したのである。

余談だが戦後の新型艦では、この新型砲弾の存在に加え16インチやそれ以上の巨砲の計画が進むなど、攻撃側の能力は既存の装甲配置では対処不能である事は明らかであった。
それはつまり、前弩級戦艦の時代から巡戦フッドに至るまで維持されてきた、榴弾防御のための薄く広い装甲配置の限界である。これを受けて英国は重要区画への徹底的な集中主義へと回帰した新型戦艦を計画、条約後のネルソン級にも受け継がれる。以降同艦の装甲配置は多くの戦艦で手本となっていくわけである。

続いては日本海軍
同海軍はユトランド前より被帽に硬化処理を施し(フランス海軍の影響)「風帽+被帽」の形になるなど、すでに英国とは別路線を進んだ事が確認できる。
一方で炸薬は下瀬火薬、信管も瞬発式の三年式信管という同じ問題を有したままであった。
そこでユトランド以降、砲弾の能力不足が日本でも認識され始めると、ドイツ砲弾に加えて英ハドフィールド社の新型砲弾(グリーンボーイに相当すると思われる)を参考に改正が行われている。
これによって試作された砲弾(一部回想では一号弾とも呼称される)は、炸薬こそ下瀬火薬のままだがドイツ砲弾の自爆防止クッションを有し、さらに同時期には初の遅動信管となる八年式信管が採用されて命中後の能力を向上。元より比較的進んでいたと思われる斜撃への対応能力もさらに向上したとされている。 
しかしながらこの砲弾は、腔発の原因を疑われた八年式信管が使用されずに三年式に回帰したからか(それともクッションありでも下瀬火薬が鋭敏過ぎたのか)、軍縮条約で廃棄された艦に対する射撃実験では装甲に対して芳しい結果を示していない。

最終的には「下瀬火薬+自爆防止クッション」という要素を残しつつも、英国製砲弾の要素をより強く取り入れた砲弾が「五号徹甲弾」として採用。信管も改めて遅動信管である一三式三号信管が採用されて、この組み合わせによって一定の能力を実現したと言えるだろう。
という風に英国と比べると若干回り道しているのと、未だにピクリン酸を使用している点が気がかりだが、その威力自体は本物である。五号弾に対してはユトランド前の艦や中途半端な改正に留まった長門型はもちろん、さらに洗練された加賀型以降の主力艦ですら防御力不足は否めなかった。結果的に日本海軍でもネルソンの配置が注目され、金剛代艦を経て大和型へ至ることになる。

最後は米国だが、日英と違って把握できていない部分がかなりある事を了承願いたい。
一次大戦期までの米徹甲弾の特徴は、1910年代にピクリン酸の威力に惑わされず、非常に鈍感なD爆薬(ピクリン酸アンモニウム)を採用していた点である。
これは日英砲弾と比べて優位な点かと思いきや、当時の実験では普通に自爆も確認されており、加えて信管も遅動信管であったが性能は安定せず。結局は両海軍とも大差ないものとなる。
(一応1924年のコロラド級ワシントンに対する射撃試験では、遠距離砲撃時に標準型戦艦が持つ3.5インチの水平装甲に対して有効な威力を示したとされているが)

この改善が進むのは20年代以降であり、まず炸薬は充填密度が問題であると判明し改正。信管についても26年に開発されたマーク7信管にて、安定した遅動機構とD爆薬を完全爆発させる事の出来る性能を両立。これによって自爆せず貫通後に重要区画に達する砲弾を獲得したと考えられる。

一方でもう一つ重要な斜撃性能に関しては不明な点が多い。ユトランド時の砲弾は英砲弾と比べると、若干の斜撃を考慮した弾体強度を求められたものの、被帽の硬化処理は行われず。いつ頃から硬化処理が導入されたかは把握していない。
確実な事としては、1919年にハドフィールド社製弾を購入して試験を行い、その性能が既存の米砲弾に勝る事を認めている(時系列的には、この実験の情報が日本に伝わって五号弾へと進むという流れにもなる)。そして米海軍は国内工場で完成させる形で同社との製造契約を結びつつ、おそらく海外企業へ依存しないため、国産徹甲弾についてもこの時期に性能改善が行われたのだと思われる。
ただし当時の米砲弾を見ると、被帽が小さく形も鋭角に近い(改正前の日本砲弾にも近い印象を受ける)。これで同時期の日英改正砲弾に相当する性能があったかは一部怪しいとも想像しているが、結局確証を得る事は出来ていない。

このように到達時期(英国は18年、日米は20年代後半)や達成度(日本は自爆防止、米国は斜撃能力に疑問符)に差こそあるが、この時期に主要国家の徹甲弾は、初めて敵艦の装甲を抜いた後に重要区画に達する砲弾へと進歩したのである。
この進歩によって対艦戦闘の主役は名実ともに徹甲弾のものとなり、一時期の日米戦艦が徹甲弾以外の主砲弾を一切搭載しなかったという選択にもこれが現れている。

まとめ
・この時期の徹甲弾は、硬化処理を施した厚く硬い被帽、斜撃に耐える弾体強度、自爆防止機構もしくは鈍感な炸薬と有効な遅動信管の組み合わせと言った要素が普及
・これによって今まで紹介してきた問題が大きく改善され、冒頭の「砲弾の種類と役割」で述べたような「適切な能力」を持つものに大きく近づいた
・上記性能向上により対艦戦闘は完全に徹甲弾が主となり、一部の国では主砲弾を徹甲弾のみとする例も存在した

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ようやくここまで来たものの(30年代~第二次世界大戦)

前項で性能的には大きな一区切りが付いた徹甲弾だが、その後(一部では二次大戦の終結に至るまで)も改良自体は続けられている。
その内容は国ごとによって個性の見られるものではあるが、一応共通する点はさらなる遠距離砲戦への対応として、空気抵抗の少ないより先鋭な形になった事である。
これは風帽の長大化によって達成されており、本ページの最初に掲載した図のような形になったのはこの時期という事になる。

この他に改良点として求められたのは、さらなる斜撃時の性能向上。つまりもっと浅い撃角で厚い装甲へ命中しても対応できる能力である。
この分野の成長度合いで言うと、米海軍が他国を突き放している印象を受ける。

二次大戦期の米国徹甲弾と言えばSHS化もあるが、弾体の硬度分布で大きく進歩した点が見られる。
当時の砲弾の弾体は一般的に、硬い弾頭から柔らかい尾部までなだらかに硬度を落として、装甲を破る硬度と損傷しない強靭さの両立を狙っている。(クルップ鋼の硬化層と同じ思想)
それに対して米国砲弾はさらに一歩を踏み出し、鞘状硬化(Sheath Hardening)と呼ばれる手法を採用。一部側面の硬度を上げて斜撃時の性能を強化したそうだ。
さらにそれとは別に、米徹甲弾は炸薬量を最低限まで(弾重の1.5パーセント程度)抑え、厚い弾殻を有している。これも斜撃に耐える弾体強度を持つ上で優位な点だろう。

最後に装甲貫通以外の能力としては、水中弾効果の積極的な利用についても書かなければならないだろう。
これ自体は特にフランスの徹甲弾が以前から追究しており、九一式にしろ20年代末の八八式の構造を受け継いだものなのだが、構成の都合によりここで紹介したい。
構造としては砲弾の一部(戦艦用九一式なら被帽、フランス砲弾は風帽の基部)を平頭状にして水中での直進性を増した事、日本の場合は海中で炸裂しないよう信管の遅動時間をさらに増したという事だが、装甲への能力が有効な物となって行く中で、あえて採用した事はやや興味深い点と言えるだろう。
日本海軍の場合、本格的に注目された土佐への実験時は未だに自爆・信管問題の対策が不十分な中で、最新鋭艦に容易く損傷を与えたのが衝撃だったからと思われる。
そして自爆問題が解決した後にも、数の面で戦力差のある英米相手では正攻法では限界があるので、切り札として重視されたのだろう。

なお九一式と言えば、やはり下瀬火薬の自爆防止には限界があったのか、多少は鈍感なTNAに自爆防止クッションを組み合わせる方式となった点も注目される。
これをもって、ようやくピクリン酸の呪縛から主要国家の新型徹甲弾が完全に逃れる事になったのである。

第二次世界大戦での実戦例
ここまで見てきたように、徹甲弾は戦間期の進歩によって、初めて主力艦に対して有効な能力を持った状態で戦争を迎えた事になる。
と言っても大戦では戦艦の役目が一部に限られてしまった事もあり、日本海海戦やユトランド海戦に相当するような艦隊戦は勃発せず。その性能が試される機会ははるかに少ない結果に終わった。
しかし少ないとはいえ、最後の戦場にてその能力の片鱗を見せた例も十分に確認できる。

まず二次大戦において最も戦艦らしい戦果を上げた例といえば、敵主力艦を正面からの戦闘で撃沈したという事で、おそらくビスマルクによるフッド撃沈が該当するだろう。
これは何らかの被害がフッドの後部副砲弾薬庫に生じ、そこから主砲弾薬庫に誘爆して爆沈したという事だが、本文でも論じたように直接の被害を与えた命中弾は確定してない。
距離的には十分最厚部の装甲を破って弾薬庫で炸裂、という理想的な働きを見せた事も推測できるが、同艦の装甲配置を考えると別の被害も考えられる事から、砲弾の性能を示す例としてはやや不明瞭である。

より明瞭な効果が残された例としては、撃沈には至っていないが、メルセルケビール攻撃でダンケルクへ命中した英15インチ砲弾を挙げる事ができる。
その際に舷側装甲に命中した2発に砲弾は両方とも装甲を貫通、遅動信管が有効に働き機関室内もしくはその上部で炸裂。戦闘力並びに航行能力を大きく奪って同艦を擱座に追い込んでいる。
あまり装甲の厚くない格下相手の戦果と言えるかもしれないが、重要区画内に達する損害を与えた事から徹甲弾にとって理想的な効果の例と言える。

もう一つ命中部位に謎が残る例になるが、北岬沖海戦でシャルンホルストへ命中したDoYの14インチ砲弾も忘れてはならない。
ユトランド時の独巡戦よりも更に重装甲である同艦に対して、命中弾一発で速力を大きく削いで、最終的な撃沈に貢献している。
フット爆沈はユトランドの再現と言われる事も多いが、こちらの戦果は同海戦で砲弾性能に泣いた英海軍にとって、雪辱を果たした例と言えるかもしれない。

その他に、最も厚い装甲を抜いて内側に損害を与えた例としては、垂直装甲であればビスマルクの砲塔や司令塔(最大360mm改良KC鋼)を破壊した英ロドニー並びにKGVの主砲弾。
水平装甲なら、ジャンバールの各甲板(装甲甲板だけでも150mm均質装甲)を突破し副砲弾薬庫で炸裂した米マサチューセッツの16インチ砲弾が挙げられる。
どちらも一次大戦時の例(垂直260mm、水平80mm)と比べると結構な差が開いた事になる。

水中弾効果については「装甲配置に関するメモ」でもまとめた通り多数が発生しており、その内ブルターニュや霧島など主力艦の致命傷になった例も存在する。
それを重視した九一式も(巡洋艦用を含めて)一応水中弾による戦果を上げてはいるが、戦艦同士の戦闘で命中弾を与える機会は第三次ソロモン沖海戦のサウスダコタへの一例のみ。それも徹甲弾はバーベットへの1発のみという事で、日本戦艦自体がそうだったが、本来の目的を達するには至っていない。

という風にこの時期の砲弾は実戦例こそ少なくとも、間違いなく性能向上が見て取れる戦果を残している。
具体的には、少数の命中弾であっても重要区画内に達して炸裂する事で、砲塔誘爆や水中弾が発生せずとも効率良く主力艦に損害を与えるものになったという印象を受ける。
そこから1860年代より続く徹甲弾と装甲の競争は、若干攻撃側がリードする状態に至ったのではというのが本ページにおける個人的な意見である。
まあそれ以前に兵器としての話をすると、この時代は水雷兵器や航空機の発達が著しく、それに比べると対艦兵器としての艦砲の立場は・・・というのも悲しいが一理ある点だが。

なお対艦兵器としての役割が減少した戦艦は、その火力を生かして陸上砲撃任務に就くことも多かった。
この場合よほど要塞化された場所を除いて使用されるのは榴弾が主であり、ここにきて榴弾需要が復活している。
米海軍などでは、大戦中盤まで榴弾が支給されなかった新型戦艦よりも、古い時代の榴弾が残っていた旧式戦艦の方が多用されたというエピソードもあったそうだ。
また主砲で対空射撃を行う手段として、時限信管を装備した榴弾が一部で使用されている。これも時代らしい変化である。

まとめ
・上記の大躍進以降の変化としては、射程延伸の為の風帽の長大化に加えて、斜撃性能のさらなる向上も続けられている
・第二次大戦は主力艦に対して「適切な能力」を有する徹甲弾が使用された、最初で最後の戦争となった
・戦艦の立場の変化から実戦例は限られたが、前大戦からの進歩を実戦でも証明した例が多くみられる
・同じく立場の変化から、主に陸上砲撃用として榴弾需要が復活する

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その後(戦後)
戦後も一部の国家で戦艦は保有され続け、再び陸上砲撃任務に動員された例も存在する。
その中では新たな砲弾の開発もされており、米アイオワ級では対人用の榴散弾的な砲弾、VT信管付きの対空砲弾、長射程の軽量減口径弾(計画のみ)、極めつけには核砲弾も存在したそうだ。
しかしながら対艦兵器としての主砲弾の歴史は、第二次大戦と共に終焉を迎えたと見ていいだろう。

余談だが、装甲対砲弾というテーマ自体は、戦後も戦車砲の分野で盛んに競争が続けられる分野である。
そちらの方ではすでに第二次大戦の時点で、一部被帽弾に代わってAPCRやAPDSと言ったサボット付の高速弾を用いて貫通力を高めようとする流れが登場し、現代の主力戦車が用いるAPFSDSに至っては、二次大戦期よりも優れた品質の均質装甲に対して、近距離の正撃で600~1000mm貫通など、すさまじい貫通力を獲得するに至っている。
もちろん貫通力があるといっても、上で論じてきた「適切な能力」とは異なるものなので、戦艦の徹甲弾とは同じ視点では語れないが、とにかく戦後の徹甲弾は、戦艦とは関係ない所で新たな進化を遂げていくのである。

おわりに
「砲弾が敵艦の装甲を貫通後、重要区画に達して炸裂」そんな場面は戦艦の歴史において、当たり前のようにあった事だというイメージがあるかもしれない。
実際に戦艦の頂点である第二次大戦期において、列強海軍の主砲弾はそんな能力を十分に有していたが、それは戦間期までに積み重ねられた失敗を経た結果であった。
むしろその失敗と苦悩の歴史の方が、装甲軍艦の歴史に占める期間が長かったといっても過言でない。本稿でその歴史の一端を理解してもらえれば幸いである。

また砲弾の性能を理解する事は艦の攻撃能力を知るだけでなく、装甲配置などの防御様式が決定された背景を知るうえで貴重な情報となる。
正直筆者が怪文書を書き始めた頃は、二次大戦以前の砲弾なんて全くの守備範囲外であったので、今解説を見ると色々と矛盾した部分が多く残っていると思われる。なるべく早くこのページの内容を反映させていきたい。

そして最後に、ここまで読まれた方は、長々と書いておいて砲弾の性能評価が代表例のみに留まった点が気になっているかもしれない。
これについては別項目でより具体的な判断基準を設けて、個別に評価していく予定である。
→すぐ下の次項へ

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・砲弾に必要な要素と具体的な性能評価

ここで個別の性能評価に入っていくとして、まず改めて対戦艦において求められる徹甲弾の役割を振り返っておこう。 
それは徹甲弾という文字が示す通り「装甲を貫徹する」事だが、上の沿革でも散々述べた通り、貫通の中でも理想的な貫通弾となる事が重要である。
具体的には下図①のように、装甲貫通後も背後の弾片防御を突破し、重要区画内で炸裂できる事。その間に損傷せず機能を失わずにいる事。
そして実戦では理想的な角度で砲弾が命中するとは限らない事から、なるべく浅い撃角でも上記の性能を保つ事。といった点が必要になるのである。

評価基準
ここでは上記性能を実現する上で必要な要素を以下のA~Eに分け、各国砲弾を当てはめる形で評価していきたい。

A 被帽
被帽を持っている事
被帽を持たない砲弾は、戦艦が持つ厚さの表面硬化装甲に対して、正撃であっても弾体が損傷し本来の機能を失う可能性が高い。
被帽に準ずるものとしては、米海軍のspecial commonなど弾頭に厚さ数ミリ程度のフードを設ける例が挙げられる。これは元々弾頭に溝を設けずに風帽を取り付けようとしたもの。薄く弾体損傷を防ぐ事は出来ないが、貫通を助ける効果もわずかに存在した。
被帽に硬化処理を施している事
初期の硬化処理を施さない被帽は、同時期の戦艦が持つ厚さの表面硬化装甲に対して、正撃から撃角15度程で有効な能力を示していた。
一方で20度やそれ以上と言った、より現実的な撃角で進歩した表面硬化装甲に命中した場合、通常の被帽は弾体を守る事は出来ない。この場合に必要となるのが、硬化処理を施して装甲の硬化層に与えるダメージを強化した被帽である。 
この被帽は先端をとにかく硬く装甲表面並に硬化させ、サイズも大きく分厚い物である程効果は大きいものなると思われる。

B 弾体 
硬度と強度を両立している事
一般論として、硬いものは砕けやすく柔らかいものは変形する。どちらも装甲を損傷せず貫通する上での障害であるので、この二つを両立する事が必要となる。
その場合弾頭部は装甲を破れるように硬く、それ以降は砕けないよう柔らかく、というのが基本である。ただし硬度が急激に変わる部分があると、そこから損傷が始まる弱点となる事から、弾頭から尾部にかけてなだらかに硬度を落とすのが望ましい。
また横方向の力がかかる斜撃の場合、貫通中に砲弾の後部が変形しつつ装甲の破孔に押し付けられる事で、側壁が破られたり砲弾そのものが二つにちぎれてしまう。これを防ぐには弾頭から尾部だけでなく、表面から内部の弾腔に向けても硬から柔へと変化させていく、鞘状硬化とする事が特に効果的である。
それ以外には弾腔をなるべく小さくして、弾殻を肉厚に保つ事も各部位の強度を保つ上で重要である。実は弾頭部の形状は表面硬化装甲の場合貫通力にはあまり影響せず。

C 性能指標
射撃実験等において、どの程度の厚さ撃角の装甲に対して、損傷せず貫通できる性能を目標としていたのか。
二次大戦時は交戦距離の長さや傾斜装甲を持つ戦艦が多い事に加え、それ以外にも艦の動揺や対敵態勢で角度が付く事が予想される。
そこで弾径の7~10割程度の厚さの装甲に対して30~40度程度、もしくはそれ以上でも対応できる事、ぐらいの能力は欲しい

D 炸薬 
炸薬は鈍感な物である事
ピクリン酸のような鋭敏な炸薬は命中時の衝撃でほぼ確実に自爆し、装甲に対する能力を大きく損なってしまう。徹甲弾の炸薬ではこれを避ける事が第一に重要である。
仮に鋭敏なものである場合、自爆防止機構を有している事
弾腔の先端に木やアルミなどのクッションを設ける事が多い。その分炸薬量に対して弾腔が大きくなるのが欠点である。
弾腔を小さくできる量である事
Bで述べた弾体強度的な理由(この点ではクッションを必要としない鈍感な爆薬を用いた方が優位である)に加え、それ以外にも弾頭から炸薬までの距離が長い場合、たとえ自爆防止が出来なくとも自爆するまでのタイミングがわずかに遅れる。その間に貫通量が増えるなどして、装甲背後への効果が向上する可能性も存在する。
砲弾の炸裂時に十分な威力を与える事
貫通できなければ話にならないが、せっかく貫通しても有効な損害を与えられないのは問題である。
ただ上記内容とは矛盾しかねないので、どの範囲まで強化すれば良いかはよくわからない。炸薬が強すぎると弾片が小さくなりすぎて逆に破壊効果が落ちるとも言うし、正直量はそこまでなくとも良いのだろうか。
とにかく貫通力重視であるなら、TNT、シェルライト、D爆薬といった鈍感かつ威力のある炸薬を、比較的少量(弾重の2パーセント以下)充填するのが王道だと思われる。

E 信管
信管は遅動信管である事
重要区画に達して炸裂させる事が最も重要。
実は弾底信管であればたとえ瞬発式でも、先述したタイムラグがあるので、装甲を抜いた後に炸裂する事も十分可能性である。だが重要区画に達するには遅動信管でなければならない。
遅動時間は様々な選択があるが、比較的短遅動と言われる0.03秒でも6メートル以上は進むので可。逆に貫通後に艦の全幅を超える距離を進みかねない大遅動信管もあるが、一応内部で色々と減速すると考えればこちらも大丈夫だろう。
信管は炸薬を完全爆発させる性能がある事
鈍感な炸薬を完全爆発させる場合、信管の伝爆薬にはピクリン酸等よりさらに威力の高いテトリルなどが必要である。
信管やそれを保持する底螺は命中時の衝撃で機能を損なわない事
信管は言うまでもなく、底螺も破損すれば弾腔が破られた時と同じく不完全爆発になり、信管が抜け落ちて不発化を引き起こす事も。
なお使用しているのが瞬発信管である場合、損傷して不発になった方が砲弾そのものが重要区画に達する(炸裂しないので被害は限られるが)確率は逆に上昇するだろう。

F その他 何かあれば

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上記基準を用いた各国砲弾評価の試み

対象は日英米独伊仏の6か国、「ユトランド海戦時」「1920年代」「第二次大戦時」と時代ごとに分けて評価していく。

日本
ユトランド時:被帽徹甲弾(通称三年帽)
A 硬化処理が施される。形状は小型で薄く、先端はやや鋭い
B 同時期の英砲弾と同じ欠陥あり。炸薬量が多い事もあって弾殻は薄い
C 戦艦相当の厚さを持つ自国表面硬化装甲に対して、撃角15~20度で対応できるものだが、23度以上では大きく性能が低下
D ピクリン酸系統の下瀬火薬を使用。自爆防止なし 
E 瞬発式の三年式信管を使用

20年代:五号徹甲弾
A 硬化処理が施され、厚く大型化
B 強度は以前よりも改善。炸薬量に加え自爆防止クッションの存在で弾殻は薄め
C 弾径より2インチ薄い(8.5割程度)自国装甲に撃角30度で対応。主力艦の装甲相手に有効と言えるレベルに
D 下瀬火薬を使用。弾腔上部に自爆防止用クッションを設ける
F 0.2秒の大遅動に加えある程度性能が安定した一三式三号信管を使用

第二次大戦時:九一式・一式徹甲弾
A 20年代後半の八八式より引き継いだ鈍角の被帽頭と平たい被帽を設ける独自の形。両方とも高い硬度を有し、二つを合わせた場合は非常に厚い
B 46cm砲弾のみ鞘状硬化の傾向あり。炸薬量は減少するも、依然として自爆防止用クッションを有し弾腔は大き目。その分若干弾殻は薄い
C 弾径の9割の厚さを持つVH装甲に撃角25度まで対応(46cm砲弾は30度)。弾径より1インチ薄いVH装甲に撃角20度で対応
D 下瀬火薬よりは鈍感(だが他国と比べると鋭敏)な九一式爆薬を使用。上述の自爆防止機構を引き継ぐ
E 0.4秒とさらなる大遅動信管となった一三式四号信管を使用
F 水中弾効果に注目に上記の被帽構造を採用

イギリス海軍
ユトランド時:決まった名称なし
A 硬化処理を施さず柔らかい、小型で薄い
B 肩部の硬度分布に問題があり砕けやすい。炸薬量3パーセント超えで弾殻は薄い
C 弾径の8~10割の厚さを持つ当時の面硬化装甲に対して正撃で対応。弾径の2/3の厚さの表面硬化装甲に対して、撃角20度で破砕され対応できず。実は当時の砲弾で最も斜撃性能が低い疑惑あり
D ピクリン酸系統のリダイトを使用。自爆防止機構なし
E 遅動信管だが信頼性低

20年代:決まった名称なし(通称グリーンボーイ)
A ドイツ砲弾を参考に硬化処理を施す。弾頭に面した中央部分が丸みを帯びて盛り上がった形に
B やや炸薬量が減少し(2.5パーセント)硬度分布も改善
C 弾径より2インチ薄い(8.5割程度)当時の表面硬化装甲に撃角30度で対応
D 非常に鈍感なシェルライトを使用
E 0.08秒の遅動信管、大きく性能改善

二次大戦時:特に決まった名称なし
A 20年代のものに準ずるが、盛り上がった先端部分が平らに
B 損傷を防ぐ意味から尾部が柔らか目で変形しやすい。当時としては炸薬量は多めで弾殻は薄め
C 弾径の8~10割の厚さを持つ自国表面硬化装甲に撃角30度で対応
D 変わらずシェルライトを使用
E 0.08秒の遅動信管を使用。新開発の底螺により尾部の変形に対応

アメリカ
ユトランド時:ミッドヴェール1916など
A 硬化処理を施さず、小型で薄い
B 詳細は不明だが、当時の砲弾の中でも強度に優れるとされる。炸薬量は多め
C 戦艦相当の厚さの表面硬化装甲に対して撃角15度程度で対応。20度でも50パーセントの確率で対応
D 鈍感なD爆薬を使用するも充填方法に問題
E 遅動信管を採用も、安定性は低く完全爆発させる事ができず

20年代:決まった名称なし
A 不明
B やや炸薬は多めで 強度は不明
C 不明
D D爆薬の充填方法を改善し自爆問題を解決
E 26年に有効な遅動信管が開発される

・二次大戦時:決まった名称なし
A 硬化処理が施され先端は丸みを帯びる。非常に大型で分厚く、後期型は非常に硬い
B 鞘状硬化が顕著。炸薬量が少なく(1.5パーセント)、特にSHSは弾体が長い事もあって非常に弾殻は厚い
C 弾径と同厚の自軍表面硬化装甲に対して30~35度で対応。第二次大戦期の砲弾の中でもトップクラス
D D爆薬を使用
E 0.03秒と短遅動ながら有効な遅動信管を有する(霧島の件から重要区画内に達しない可能性もあるが、その件でも一応内部に被害を与えている。他にはジャンバール相手にも有効に作動)

ドイツ
ユトランド時
A 一部では硬化処理を施し、厚く丸みを帯びたもの使用
B 炸薬量は少なめ、弾頭から弾腔まで肉厚の弾殻を持つ
C 弾径の1/2の厚さの表面硬化装甲に対して撃角30度で対応、当時の砲弾としては例外的とも
D 鈍感なTNTを使用。さらに自爆防止用クッションを弾腔上部に設ける
E 0.25秒の大遅動信管を採用。この時代では数少ない有効な徹甲弾用信管

20年代
A
B
C
D
E

第二次大戦時
A 硬化処理を施した標準的な物、20年代の英砲弾に近い形

C 弾径と同厚の自国表面硬化装甲に対して撃角30度で対応
D TNTを使用。図を見ると弾腔上部が区切られているが、クッションは設けず炸薬のみ?
E 0.035秒と比較的短めの遅動信管に

フランス
ユトランド時:
A 硬化処理を施すも、薄く先端はやや鋭い
B 炸薬量約4パーセントと弾腔は大きく、弾殻は薄い。強度は不明
C 日本製徹甲弾と同程度と推測される。つまり英砲弾より上だが未だに実用レベルではない
D ピクリン酸系統のメリニットであり、自爆防止機構なし(ただイエナへの射撃実験では装甲を抜けたとも)
E 遅動信管を採用。性能は初期において安定しないものであったが、後に改良されていった模様

20年代:34cm砲用m1912-1921徹甲弾
ユトランド時の34cm砲弾に風帽を加えた点以外は特に変更は無いようだ
ただしこの風帽は水中弾道の安定のため着水時に先端が脱落し平らな基部が現れる構造で、近代戦艦の主砲弾では初めて水中弾効果に着目した物となる。

第二次大戦時(リシュリュー38cm砲用国産砲弾など)
A 硬化処理を施すも、形状はやや鋭くあまり厚くない
B 不明 
C 不明
D 鈍感なシェルライトを使用(英国の物よりピクリン酸の割合多め)
E 遅動信管だが詳細は不明
F 引き続き水中弾効果に注目、また弾底部の問題から腔発が発生

イタリア
ユトランド時
不明 20度斜撃の試験を行ったという記述を見た事も

20年代
不明

第二次大戦時:リットリオ級用381mm砲弾など
A ドイツ砲弾に似た中央が盛り上がる形状で、非常に厚い(確認できる限り全長に占める割合は各国戦艦主砲弾中も最も大きい)硬度などは不明
B 炸薬量は新戦艦の主砲弾中で最も少ない一方、被帽に対して弾体が小さい事や底螺がかなり大型である事から、弾頭から炸薬までの距離はあまりとれていない。硬度などは不明
C 不明
D 安定したTNTを使用。さらに先端には自爆防止用クッションらしき物も確認できる
E クルップ式で同じく0.035秒の遅動信管
F 品質管理の不徹底から射撃精度に問題あり。そこから貫通能力に影響する部分にもムラがあった可能性も

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まとめ
一人歩きしてしまうのが怖いとはいつも思っているが(何をいまさらかもだが)、この内容について論じる限りは一応の考えをを出しておこう。
と言ってもあくまで上の内容を総合しただけだが、大体以下のようになるのではないだろうか。

・ユトランド時 独(墺も)>>日≒米≒仏>伊?>英
やはり被帽炸薬信管と言った面でドイツ砲弾が頭一つ抜けているはずだが、これでも実戦での能力は十分とは言えなかったのは上で書いた通り。
英国砲弾が独日仏に劣る点は実戦例や実験の結果から確実と思われるが、他の細かい順位は色々怪しくも。

・第二次大戦期 米>英≒独>日≒仏 (伊は不明)
こちらは米(厳密に言えば被帽の硬度をさらに上げた後期型)が抜けている印象。
どれもユトランド時のドイツ砲弾よりも性能は上で、戦艦クラスの防御構造に対して最低限有効な性能を確保している。
なお英仏は米国製徹甲弾を一部で使用している。

今更ながら注意点として、上の評価基準は基本的に舷側装甲、つまり厚い表面硬化装甲を抜いた後に重要区画に達する能力を主に考えたものである。
均質装甲を用いた水平装甲への効果となると、炸薬信管などの部分は同じとしても細かい性能は別の要素が影響すると思われる
巡洋艦の主砲弾の例になるが、戦後のテストで巡洋艦用の九一式(構造的に戦艦用の物よりも簡素で性能は劣る)が、均質装甲に対して米独の砲弾を上回る結果を出してしまったのもその一例である。
そして装甲の方でも述べた事と同じく、たとえ表面硬化装甲内でも装甲側の違い等、様々な条件によって発揮できる性能が左右される事は忘れてはならない。

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ちなみにNAaBの砲弾性能、主に斜撃性能や弾体強度の設定はどうなっているか調査してみる。
今回は2.29を使用。弾径と同厚の表面硬化装甲(クラスA装甲)に対して、以下の数値から順位を付けるものとする。
基準1→撃角の増加(0度から45度まで)に伴うFM増加量の少なさ
基準2→弾体が損傷せずに貫通できる限界角度の大きさ
結果はそれぞれ以下のように
1→ 米≧英≒独≧日>仏>伊
2→ 米>英≧独伊>日(46cm)>日(それ以外)
なお英砲弾はバグだろうか40度付近から挙動がおかしくなるが、その点は反映せず。

この二つを合せると、上の予想も当たらずといえども遠からずと言った所だろうか。
やはり46cm砲は(貫通性能だけで言うと)サイズそのものが最大の武器であって、米47口径18インチ砲が実戦投入されたとして、これを上回るには51cm砲にて対抗する必要があると思われる。

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以下編集予定

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(補足)貫通するという事について 

貫通、貫通と簡単に言っていたが、実際には複数の種類が
徹甲弾が装甲に命中する際に想定される現象をパターン化していって、

A:命中後による装甲の損傷状態と砲弾の位置
1. 装甲は表面から裏側に通じる穴が開き、砲弾全体が装甲背後に達した状態
2. 装甲は表面から裏側に通じる穴が開き、砲弾質量の大半が装甲背後に達するが、一部は装甲内か装甲前面にある状態 
3. 装甲は表面から裏側に通じる穴が開き、砲弾質量の一部が装甲背後に達するが、大半は装甲内か前面にある状態
4. 装甲は表面から裏側に通じる穴が開くも、砲弾質量のすべてが装甲内か前面にある状態
5 装甲は表面に穴が開くも、裏側には達せず。砲弾質量のすべてが装甲内か前面にある状態

6. 装甲表面に穴は開かず、凹み「圧痕」や亀裂「クラック」ができる程度。砲弾質量のすべてが装甲前面にある状態
これに加え装甲には、以下のような損傷が加わる可能性が存在する。
(衝撃により装甲の裏側や船体構造の一部が剥がれて飛び散った状態)
(衝撃により装甲が割れた状態)

B:砲弾の損傷度合
装甲命中時、付属物である風帽や被帽は基本的に脱落するか破壊される。
そして残る本体である弾体の損傷度合によって、命中後のパフォーマンスは大きく変化する。
1. 損傷しないか、諸性能を損なわない程度に留まる「弾完」
本来の性能を発揮できないレベルで損傷する「弾破」 
損傷の状態には複数あり、弾体の頭部が潰れる、尾部が千切れる、側面が裂ける、いくつもの破片に砕けるなどがあるが、ここでは大別して以下の二種類とする。
2.一見砲弾の形を保っているが、信管と炸薬(貫通後の炸裂)に働きに影響が出るような損傷
3. 砲弾の原型を保たない程に破砕されてしまう損傷  

C:命中時の信管と炸薬の働き 
徹甲弾は貫通の成否に問わず、最後には炸裂するか不発のどちらかとなる。この内炸裂にも以下のような種類が存在する。
1. 「完全爆発」完爆とも。信管の作動によって炸薬を爆発(爆轟)させ、砲弾本来の威力で炸裂する事。
2. 「不完全爆発」不完爆とも。弾体の損傷、信管の性能不足などにより、本来想定された物よりも弱い爆発となる事。    
3. 「自爆」命中時の衝撃など、本来想定しない要因・タイミングで炸薬が爆発してしまう事。基本的に不完全爆発である事が多い
4. 「不発」何らかの理由によって爆発しない盲弾となる事。主な原因は信管の問題だが、この他にも弾体がちぎれたり砕けるなど物理的に炸裂できない状態になる場合も。

以上の条件を組み合わせていくとかなりのパターンが生まれていくが、その中から代表的と思われる物を以下にまとめてみる。
目標は日本の加賀型戦艦の垂直装甲 舷側の装甲帯と内側の弾片防御 外側が主となる二層式防御 
垂直装甲に対する命中弾の例

は   A1・B1・C1  砲弾側にとって理想的   C2になる場合も
   A1・B1・C1   信管の設定  重要区画に達する前に炸裂している例 もちろん 弾片防御の構造によっては重要区画内に達する可能性も
③ A1・B2・C3   よく見ると砲弾に裂け目が 信管設定によっては2のように重要区画より外側で


   A1~2・B2・C4   よりも損傷が激しく、完全に信管のある尾部がちぎれてしまっている。  燃焼する程度で炸裂しない可能性が高い
⑤ A1~3・B3・C4   貫通中に砲弾が破砕されしまって、艦内へは破片のみ  弾片防御の構造や破片の勢力によっては 重要区画に達する場合も
⑥ A2~3・B1~2・C1もしくは3   貫通途中に自爆 もしくは貫通力が足りずに装甲内で止まった後炸裂した例
  内側への被害は炸裂する前にどこまで貫通出来ていたか、完爆するか不完爆するかによって変化。これまた条件によっては重要区画に達する場合も


⑦ A4・B1~3・C1~4   5や6よりも 砲弾の突入が浅くて破壊効果が艦内に及ばなかった例 もしくは装甲に穴をあけた後、突破に失敗して前面にはじき返された例  装甲や船体の破片が飛び散るのみ      
⑧ A5~6・B1~3・C1~4  こちらも装甲を突破できずに  装甲の剥片が発生する程度
⑨ A6・B1~3・C1~4  こちらは剥片も発生せずに  艦内へは衝撃のみ 完全に装甲側が勝利した例

A2~3・B2・C4 装甲に食い込んで不発になった状態。艦内への被害は⑦と同程度か

「正貫」  名前の通り理想的な貫通 「貫通」かつ「弾完」の状態     残速が十分であれば装甲背後の弾片防御を貫通して艦の奥深くに達する事が可能 そして遅動信管が無事で
「破貫その1」 「圧貫」とも 「弾破」の状態 と 砲弾の尾部が 不完全爆発に過ぎないか不発になってしまう  また弾頭部がつぶれるか砕けた場合、装甲背後の構造を突破できない可能性も 
破貫その2」 よりもさらに損傷が激しい状態で「貫通」図は貫通しながら破砕されてしまったが自爆してしまい、すでにバラバラになっている例 もちろん炸裂しないし、奥に弾片防御がある場合これによって防がれる)   
「部分的貫通」 「頭貫」「中貫」「底貫」など   装甲の破片が飛ぶ 反跳もしくは栓入したまま さらに炸裂すれば一部外へ逃れてしまうがその分の威力も加わる
「穿孔」 
「不貫その1」装甲の裏側に達する孔が開くも 砲弾自体は達せず   炸裂したとしてもその威力は外に逃れてしまう。  
「不貫その2」砲弾が表面に穴をあける事もなく 反跳、破砕、自爆するなどして、凹みだけを残した状態。薄片が発生することも(略) 


「外側を抜いた後に内側に達する貫通弾、達しない貫通弾」
「炸裂時に想定された破壊効果を発揮できる貫通弾、できない貫通弾」
貫通と言うとを想像してしまいやすいが、実際はそれ以外の不完全な貫通である例がある事に注意しなければならない 

フローチャート(垂直装甲編)
水平装甲編

KGV級あたり

1 最上甲板に命中します 即動信管ですか、遅動信管ですか
即動信管→2へ 遅動信管→4

2 最上甲板を貫通後、中甲板の水平装甲に達する前に信管が作動します。→4へ

3 非重要区画内で炸裂(完全爆発)します。弾片をまき散らして周囲を破壊しますが、中甲板の水平装甲に阻まれて重要区画内には達しません。(煙路や通風口の

4  中甲板の水平装甲に命中します。食い込むか
可能6 不可能5

5 砲弾は水平装甲を貫通できずに滑跳します。

6 砲弾へと穿入していきます。
まったくもって  やや

7 砲弾は します

米6インチ砲弾の弾片の例


徹甲弾は炸薬の量や位置などの理由から、(装甲命中で弾体が損傷していなければ)炸裂時には弾頭部が原型をとどめた大弾片となる事が多い。
写真は各国海軍の中でも炸薬比が小さい米海軍のSHSの例で、59kgの6インチSHSから発生した大弾片は重さ約17kg。

そして米16インチSHS場合、この部分の弾片は平均で510ポンド(約230kg)にもなるそうだ。つまり8インチ砲弾2発分ぐらいの質量を持つ大弾片が再加速して突入する事に。
米徹甲弾と言えば比較的短遅動の信管を用いるが、それでも一度装甲区画内に入って炸裂出来れば、こういった大弾片が多少の構造や弾片防御をものともせずに重要区画を食い荒らしただろう。

    

 

 

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