艦砲と装甲(略)新戦艦編 後編

2015年1月公開

※注意 このページは管理人の趣味と妄想でできています。前のページの注意書きを読んでから閲覧することをお勧めします。

前回は第二次世界大戦時の各国新戦艦について、軽くスペック(特に装甲厚)を列挙し解説した。今回は本題である計算結果について、装甲配置や防御様式の特徴を絡めて扱っていこう。

こちらにも注意と補足
・・・といっても書ききれないことだらけなので、まず補足のページも読んでいただければ(参考資料なども同ページを参照)
・トップにある通り、このページは各艦艇の主砲貫通力と重要区画を守る装甲を比較、艦の持つ「安全距離」を基準に優劣について考える不毛な場所である
・もちろん重要区画の防御だけで戦闘時の優劣が決まるとは言い切れない。ここで扱う弾薬庫や機関部が無事でも、被弾時には何らかの被害が発生して戦闘能力に影響を及ぼした例は数多く確認されている
・基本的に重要区画を守る装甲や隔壁、一部構造材のみを防御構造として計算。それ以外の燃料や機材などは除外
・表に使用した部位以外から重要区画へ達する砲弾のルートも存在する。そのすべては扱う事は出来ないが、補足のページにて触れた物に関しては解説内でもなるべく扱う事とする
・実戦において垂直装甲は横方向の角度が付いた状態で被弾しやすい為、表よりも広い安全距離を持つ可能性が高い
・同じく艦の動揺や浸水による傾斜でも命中角度は変わり、安全距離も変わってくるが、これらも無視
・バーベット装甲は円筒形の形状により、通常の装甲よりも対弾性能は高い。日本海軍の記録よりここでは1.1倍相当で計算している (カッコ内は元の数字)
・重要区画に達する前に砲弾が爆発してしまうなど信管の性能についても無視、砲弾の変形破損などによる不発化や貫通力減少も考慮せず
・表の安全距離については0.5km刻みで掲載。文字色は垂直装甲は18.5km以下青字、23km以上赤字、水平装甲は30.5km以上青字、25km未満赤字とする
・ありえないとは思うが、本ページを話のネタやソースに使って電波扱いされても責任は取れない。どこまで本気にするかは自己責任でお願いしたい
ここまで面倒な文章を読んでくれた物好きな方は、下の本題へどうぞ

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リシュリュー安全距離

 装甲部位\艦砲 45口径38cm
(リシュリュー)
50口径381mm
(リットリオ)
47口径38cm
(ビスマルク)
45口径14インチ
(KGV)
45口径16インチ
(NC)
45口径46cm
(大和)
50口径16インチ
(アイオワ)
42口径15インチ
(ヴァンガード)
 垂直装甲 23km以遠 23.5km以遠 20km以遠 16km以遠
20.5km以遠   25km以遠 25km以遠 19.5km以遠 
 砲塔前盾 40km以遠 安全距離なし 19km以遠 13km以遠  安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし 27.5km以遠
バーベット 21km以遠
(24km以遠)
21.5km以遠
(24km以遠)
18km以遠
(21km以遠
13.5km以遠
(16.5km以遠)
18.5km以遠
(22km以遠
24km以遠
(27.5km以遠
23km以遠
(27km以遠)
17km以遠
(20km以遠)

水平装甲(弾薬庫) 34.5kmまで 36kmまで 33kmまで 29kmまで 27kmまで  29kmまで 29.5kmまで 29kmまで
水平装甲(機関部) 33kmまで 35kmまで 31.5kmまで 28kmまで 25.5kmまで 27kmまで 27.5kmまで 28kmまで
 砲塔天蓋  安全距離なし?
~16kmまで
 安全距離なし?
~16.5kmまで
 安全距離なし?
~17kmまで
安全距離なし?
~20.5kmまで
安全距離なし?  安全距離なし? 安全距離なし? 安全距離なし?
~17kmまで

30度
垂直装甲(30) 17.5km以遠 17.5km以遠 14.5km以遠 10km以遠 16.5km以遠 20.5km以遠 20.5km以遠 13km以遠


コメント

前回と同じく表の結果について解説する前に注意。前のページで述べたように、リシュリュー級で実際に使用された装甲の品質は不明である。
上の表は推定として、垂直部に20年代のKC鋼を、水平部はドイツのWh鋼を、それぞれ同じ厚さで用いた場合の安全距離となっている。


まずは垂直装甲から、舷側は水線下から中甲板の高さまでに設けられた厚さ330mmの主装甲帯を配置。
装甲帯は船体に内装される形で傾斜角15.4度で取り付けられ(バッキングは18mm)、弾片防御として50mmの均質装甲を持つ下甲板の傾斜部が30度内傾して裏側に控えている。
これは前級ダンケルク級から一部改正を行ったものだが、装甲配置の面でも、内装式の傾斜装甲という事で英ネルソン級の影響が見られる。
両者を比較すると、本級は装甲厚や傾斜角では劣っているものの、水線下の装甲範囲や弾片防御などではこちらが優れている。
(なお第二次大戦期のフランス戦艦の特徴である四連装
砲塔の前部集中配置自体は、ロンドン条約前に計画された17,500t巡洋戦艦案から引き継いだものである)

330mmと言う厚さも傾斜装甲を採用した戦艦の中では厚い方だが、結果を見る限り旧式16インチ砲の威力を上回る新戦艦の艦砲に対してはやや不足している。
ただし英戦艦やビスマルクの主砲に対してはほぼ問題のない安全距離である。
また実際の砲撃戦では、常に敵艦を正横に見たまま戦闘を行う事ばかりではないだろう。上の表は30度角度がついた場合の例だが、こちらは当然の事ながら砲弾の撃角が浅くなり、大きく安全距離を増している。

砲塔前盾は430mmと厚いが傾斜角は30度と、遠距離で大落角の砲弾が予想されるこの時代では微妙な数字である。
この場合本来垂直装甲への貫通力が落ちる遠距離においても、落角と前盾の角度が打ち消しあって深い角度で命中してしまうことになる。よってこちらもある程度の威力を持つ艦砲には対応できない結果となった。
なお主砲塔が2基しかない本級でここを抜かれるのは致命的に思えるが、砲室の中央に装甲隔壁を設けているので、一度の被弾で4門全滅とはいかないようだ。
(同じ構造を持つダンケルク級の被弾時に効果を発揮した例あり。また本級がダカールにて腔発事故を起こした際も、同砲塔内の2門は使用可能状態だった)

一方で砲室ではなくバーベット部分を貫かれたり破壊された場合には、その恐れは十分にある。
また本級の場合、バーベット内での揚薬機構に注意すべき点があるという。
詳しい構造自体は別ページで解説する予定だが、普通この頃の戦艦主砲は誘爆を防ぐため、各揚薬筒は一基につき一発分の装薬を運ぶのが基本である。
しかし四連装砲に十分な速度で弾薬を供給するためだろうか、途中に換装室を挟んで上下の二種類に分かれた本級の揚弾薬筒の内、下部揚弾薬筒は明らかに複数発分の砲弾や装薬が運ばれる形になっている。  
つまり下部揚弾薬筒か換装室といった区画で装薬が爆発した場合、連鎖的に誘爆して弾薬庫が危険に晒される可能性は他国新戦艦より高いのではないか、という指摘もなされている。

これらの問題のせいもあってか、本級のバーベット装甲は400mmと新戦艦の中では厚めで、正面から当たらない限りはかなり安定した安全距離を持っている。
まあ貫通されなければ問題ないと言うのも間違いではないだろう。

次に水平防御は、主装甲帯の上端にあたる中甲板を装甲甲板とし、この部分に弾薬庫170mm機関部150mmの均質装甲を設けている。
同甲板には10mmのバッキングに装着されるほか、一段下の下甲板には弾片防御用の40mm均質装甲、上甲板には25mm厚の構造用鋼からなる甲板も防御に加わる。
これらを一枚板換算した厚さを見ると、弾薬庫196mm機関部177mm相当と非常に厚い。
ただし下甲板40mmの装甲は、14インチ以上の砲弾が完全な状態で炸裂した際に弾片を防げない可能性が高く、この甲板をを含めない場合の厚さは183mm、164mmとなる。

それでも表の方を見ると、高初速の欧州戦艦相手ではまず貫通される可能性はない。他艦へも交戦開始直後の30km台での命中弾、みたいな事が起こらない限り十分戦える安全距離だろう。
なお上甲板ではなく、中甲板から上甲板の高さの乾舷(25mmとほぼ非装甲)を貫通して装甲甲板に命中するルートも考えられる。
この場合では安全距離は僅かに(0.5km程、機関部は欧州艦の一部に対し1km)狭くなるが、それでも移動目標に対する命中記録が存在しない程の遠距離である。そこまで問題とはならないだろう。

一方で本級の砲塔天蓋は、表のすべての艦砲に対し安全距離なし、若しくは極めて短い安全距離しか持たないことに
水平部170mm、傾斜部195mmもの厚さを持つこの部位でこのような結果となったのは、第一回でも触れたように表面硬化装甲の使用が原因である。
一般的に天蓋に使用される均質装甲とは違い、表面硬化装甲をこの程度の厚さで用いても、大口径弾が命中した場合には割れてしまって内部に被害が出てしまうのだ。
本級と同じくこの部分に150mmの表面硬化装甲を用いたフランスのダンケルクは、メルセルケビールにてイギリス戦艦の襲撃を受けた際にこの問題が露呈している。
15km程度と決して遠距離とは言えない距離から放たれた15インチ砲弾が命中した際に、破砕された砲弾の一部が二番砲塔の天蓋を貫通。右側2門分の区画に弾片と装甲の剥片が降り注いで、内部人員を殺傷し1門を使用不能にしてしまった。

天蓋に表面硬化装甲を用いたのはフランスの新戦艦と日本の改装戦艦のみであり、結果としては失敗だったと言える。
(使用にはデメリットしかないように見えるが、一応より深い角度で落ちてくる徹甲爆弾を破砕する狙いがあったようだ)

なおこの計算では、板厚と弾径の関係が現象の発生に大きく関係しているようで、傾斜部は装甲厚自体が195mmに増えているためややマシな結果に。
それでも安全距離は狭く、どちらにせよ砲塔天蓋は想定される交戦距離の殆どで貫通されかねない事になるだろう。

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推測ではそうなったが次は実戦である。2番艦のジャン・バールがカサブランカ沖海戦で負った損傷をみていきたい。

この戦闘で係留中のジャンバールは、サウスダコタ級戦艦マサチューセッツより距離24km~20kmから砲撃を受け、7発の命中弾と1発の至近弾を喫したとされている。
調べる事が出来たものについて述べていく(時系列順)
・7時25分 副砲弾薬庫上の水平装甲を上甲板から下甲板まですべて貫通し、弾薬庫内で炸裂(空だったので大事に至らず、場合によっては爆沈していた)
・7時35分 艦首先端の水線下部分を貫通、外板に歪みを生じる
・7時36分 係留されていた岸壁への命中弾、砲弾と岸壁の破片により船体に多数の破孔を生じ浸水が発生
・7時37分 煙突を貫通後装甲甲板をかすめて通り過ぎる
・不明 岸壁を貫通後舷側装甲に命中、貫通せず不発化して下方向に逸れる
・8時6分 一番砲塔のバーベットと砲室の間をふさぐ床面装甲(150mm均質)に命中、貫通せずに跳弾するも、装甲が変形し旋回不能に(翌日には復旧)
・8時6分 未完成の二番砲塔バーベットに命中、貫通せずに反跳する
・8時10分 艦尾の水平装甲(厚さ100mm)を貫通し炸裂。後日命中した二発の1000ポンド爆弾と共に艦尾に重大な損傷を与える

その後のフランス軍の調査によりジャンバールには30度を超す角度で砲弾が命中したことが判明している。

この数行だけでもいくつか矛盾がみられるが、これを上の計算結果を比較して考えて行こう。
まずバーベット・垂直装甲への被弾は、表の結果では米16インチ砲に対してかなり微妙な距離での被弾であった事になる。
それに対して、こちらではいずれも装甲側が勝利し貫通弾を出していないが、これについては今回使用したmod6砲弾が未だに存在せず、当時の貫通力はこれより劣るものだからであった点、さらに大きな理由として、両者ともかなり横方向の角度が付いた状態で被弾しており、その実質防御力は装甲厚以上の物になっていた点が指摘できる。

一方で謎なのが、最初の命中弾であった副砲弾薬庫への貫通弾である。
ジャンバールの副砲弾薬庫上の水平防御は機関部と同等で、一枚板換算では164mmにも達するが、米16インチ砲の水平貫通力はドイツ製Wh鋼の場合、この距離では114mm~145mmにすぎない。
さらに疑問なのがこの距離での砲弾の落角は21度~28度であるのに対し、フランスの調査によると命中弾はいずれも30度を超える落角であるとされている点だ。
ここで情報を整理して、想定させる水平装甲貫通の理由について挙げてみたい。

説1. 実際はより遠距離での砲撃だった。
仮にフランスの水平装甲がドイツのWh鋼と同等だとした場合、20~24kmでの砲撃では164mmの装甲を貫通できない。
実際に装甲を貫通するには、25.5km以遠からの砲撃が必要だという計算結果となった。
ということは、実際はその程度の距離で砲撃が行われていた可能性が考えられるだろう。またこの距離では落角は30度を超えるものになり、フランス軍の調査とも一致する。
(原史料に当たったわけではないので、むしろ自分の情報収集に問題があるような気がするが)

説2. 被弾位置の装甲の品質が劣悪だった、
先程この距離では114mm~145mmしか貫通できないとあったが、あくまでドイツのWh装甲の場合である。
フランス製の164mm装甲がドイツ製の145mm装甲に劣っている場合、貫通は可能である。
同国のこの時代の装甲は詳しいことは把握していないが、仮に全体的に劣悪でなかったとしても、建造の都合で規格外の装甲を使用していた場合も当然防御力は落ちる。
なお砲塔天蓋と同じくこの部分に表面硬化装甲を用いていた可能性については、ダカール沖海戦でリシュリューが15インチ砲弾を受けた際に問題がなかったことからまず無いと思われる。

説3. 被弾時にジャンバールが傾斜していた。
砲撃距離に間違いがなかった場合に落角について説明できるのがこの説である。   
撃角が深くなるような方向に艦が傾斜していた場合、当然の頃ながら砲弾の貫通力は通常時より上昇する。
24kmからの砲弾の着弾時に4度傾斜していた場合、落角は32度となり164mmのWh鋼も貫通できる事になる。
ただし件の砲弾は最初の命中弾であった事から、砲戦前から傾斜していた事になるが、事前に受けた空襲での被害はそこまで大きくないし、艦の動揺によるとしても港内でそこまで揺れるのかは疑問である。

加えてマサチューセッツが弱装弾を使用していた場合、落角並びに貫通力の両方で矛盾しないものになるが、これも撃角と射距離が一致するのかなど、原史料に当たれていない為確証が採れていないのが現状である。

以上四つの理由を挙げてみたが、自分としては主に2と3が考えられると想像したい。
ただしそこまで品質に差があったか不明で、どちらかというと4の影響が強かったのではないだろうか。
・・・とページ作成時より考えていたが、より詳細な記録に当たってみるとちょっと無理があるかもしれないので、もっと根本的な勘違いをしている悪寒もする。
ただどちらにせよ、水平装甲が持つ安全距離はより短くなると考えた方がいいかもしれない。

水平装甲を長々とやってきたが、垂直装甲に使われてた装甲の性能はどうなるんだとも思われるかもしれない。
確定的な事は正直なにも言えないが、上で見た通り被弾例から推測する事は不可能である。一方本級の計画時において近距離側の安全距離は19kmが要求されていたという。 
仮に本級の垂直装甲がそれを満たしていたとする場合、当然上の結果とはかなり乖離する事になり、その場合は表に使用した装甲よりも優れていた可能性があるという事だろう。
(元々計算結果自体が垂直過剰、水平過小な気がするので、最初から自信を持って言える事は何もないという結論になってしまう)

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全体的な評価は難しいが一応まとめると
主な戦場となる欧州の戦艦に限定すると、仮想敵であるビスマルクや結果的に交戦した英新戦艦相手に対抗できる防御力を持っており、その点では目標を達している。
リットリオ級とも十分戦えるものだが、中近距離での戦闘は危険が伴うものになるだろう。
また日米戦艦との比較として、まず米45口径16インチ砲艦相手では、20km台の遠距離砲撃が命中した場合、ジャンバールの例を見ても水平装甲を破られてしまう。
一方で砲塔以外の垂直防御は意外にも十分なものがあり、この距離での砲撃戦では優位に立てる可能性すらあると見ていい。
大和とアイオワに対しては水平装甲はそこそこの距離まで耐えることができるのだが、垂直装甲はこれよりも多少品質が上としても不十分で、現実的な交戦距離の殆どで貫通を許す事になる。
この二隻に対する防御力は不十分だと言えるだろう。

最後に本級は実戦(被弾)経験が豊富であり、より現実的な防御力について考えることが出来た。しかし逆に言えば一隻だけ現実的な厳しすぎる査定で、不公平な結果となってしまったかもしれない。

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リットリオ安全距離

 装甲部位\艦砲 45口径38cm
(リシュリュー)
50口径381mm
(リットリオ)
47口径38cm
(ビスマルク)
45口径14インチ
(KGV)
45口径16インチ
(NC)
45口径46cm
(大和)
50口径16インチ
(アイオワ)
42口径15インチ
(ヴァンガード)
 垂直装甲 17.5km以遠 19.5km以遠 14.5km以遠 11km以遠
14.5km以遠   20.5km以遠 17.5km以遠 13.5km以遠 
 砲塔前盾 安全距離なし 安全距離なし 34.5km以遠 26km以遠  安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
バーベット 22.5km以遠
(25.5km以遠)
23km以遠
(26km以遠)
19km以遠
(22km以遠) 
14.5km以遠
(17.5km以遠)
19.5km以遠
(23km以遠) 
25km以遠
(28km以遠) 
24.5km以遠
(27.5km以遠)
18km以遠
(20.5km以遠)

水平装甲(弾薬庫) 32.5kmまで 34.5kmまで 31.5kmまで 28kmまで 25kmまで  26.5kmまで 28kmまで 28kmまで
水平装甲(機関部) 27kmまで 28.5kmまで 27kmまで 24.5kmまで 20kmまで 18kmまで 21.5kmまで 24kmまで
砲塔天蓋 31kmまで 33kmまで 30kmまで 27kmまで 24.5kmまで 25.5kmまで 27kmまで 27kmまで

:

30度
垂直装甲(30) 12.5km以遠 15km以遠 10km以遠 6.5km以遠 9km以遠 16km以遠 13km以遠 9.5km以遠

コメント

いきなり長々と書いてしまったので今度は簡潔に、と言いたいが本級の防御様式も説明することは多い。
まず垂直防御は、中甲板の高さまである主装甲帯が艦の舷側に露出する形(外装式)で11度傾斜して取り付けられている。
この主装甲帯に対して、イタリア海軍は自艦の砲撃に距離16kmで耐えられることを目標としている。
本級の搭載する15インチ砲は、距離18kmでも一次大戦期の垂直装甲に対し500mmを超える貫通力を持つ強力な砲である。
これに対応しようとしても、普通に装甲厚を増やすなどシンプルな方法では重量が嵩みすぎてしまう他、装甲板の製造技術的な制約もあり実現は難しい。

その為本級の垂直装甲では、他の新戦艦に見られない構造を有しており、主装甲帯は70mmの均質装甲と280mmの表面硬化装甲の二種類が用いられている。
単に2枚の装甲板を重ね合わせる方式といえば、古くは装甲艦インフレキシブル等にも見られるが、基本的に同じ厚さ・材質の一枚板の物に比べ防御力は落ちる。
どちらかというと、技術的に厚い一枚板の装甲板が作れないと言う事情から採用される方式である。

一方で本級では、二枚の装甲板を間隔をあけて配置する形が研究されていた。
つまり、外側の装甲で砲弾の被帽を破壊若しくは脱落させ、内側の表面硬化装甲で残った弾体を破砕しようと言う狙いである。
この構造が機能した場合、単に二枚の装甲を重ね合わせた物よりも高い対弾性能を持つのは言うまでもなく、二枚の厚さの割合によっては350mm一枚板の装甲を上回る事が可能になる。
しかし問題として、内側の表面硬化装甲が厚ければ厚いほど、被帽を失った装甲に対する効果は上がるが、そうすると外側が薄くなり被帽脱落効果が減少してしまう。
だからと言って、外側を厚くして内側を減らしすぎてしまうと、その防御力は一枚板の装甲に劣ると言う風に、中々扱いが難しい防御方式といえる。

ちなみにこの方式の防御法は少なくともドイツ、イギリスに加え日本海軍でも研究されており、日本海軍では梯装板(甲鈑對弾丸効力標準より)や脱帽鈑(斉尾メモより)と呼ばれていたようだ。
そして正式に採用した国はイタリア海軍以外に存在しないが、そういった不確実性や整備性の悪さなどが影響していると思われる。

話を戻して、本級の外側の均質装甲は70mmと、かなりギリギリの厚さ(被帽脱落は装甲厚の6.5倍程度までの砲弾に対応するらしいので)として設定されている。
逆に言えば、この方式における最大限の防御力を狙った厚さといえるだろう。
本当にこの構造が機能するかは確証は持てないが、今回はイタリア軍が実物大模型を使用した実験に成功したという情報を信用したいと思う。

なおこの方式の欠点の一つとして、本来は装甲板同士の間隔をかなり広く取る必要があり、その分莫大なスペースを浪費してしまうと言う点があった。
ただし本級の場合、装甲間にセメントを充填することで効果を保ちつつ、間隔を25cmまで小さくまとめる事に成功したようだ。
・・・しかしセメントに使った重量を考えれば、400mmぐらいの装甲を一枚板で用意した方が重量的に良い気もするが、それが出来ないからこそ誕生した方式なんだろう。
(装甲間に充填されたのは木材だとする記述も見かけるが、今のところ国内の書籍等以外で出典となる物を見つけられていないので、可能性は低いと思われる) 

装甲帯の280mm部分などには、テルニ社製の表面硬化装甲(TC鋼)が使用されている。
この時期の同鋼板の特徴として、とにかく表面は硬く、硬度は第二次大戦期の表面硬化装甲の中でも最も高くなる。
その分貫通力を弱めたり砲弾自体を砕くことが期待できるが、一般的に硬いと言うことは脆さを含む事を意味し、強力な装甲は表面の硬さだけでなく、装甲自体が割れないよう強度を持つことが重要である。
しかしこの装甲の硬化層は特に脆いと言うわけでもなく、さらに硬化層の範囲を浅めにすることで、裏側の強靭層が占める割合を増している。
その結果表面と裏側両方の品質に優れた装甲となり、第二次大戦期の戦艦に使用された中でも最も優れた表面硬化装甲とも言われている。
(なお生産性は悪かったようで、元々の工業力も相まって建造費高騰の一因となったとか。また同じ装甲でも、巡洋艦に使用された物は裏側の範囲が狭い為、そこまで性能は良くはないそうだ)

特異な装甲配置に加え、高性能の装甲を持つ本級の舷側装甲は、表の方では大和、アイオワを含むすべての艦砲に対して有効な防御力を示すという計算結果になった。
(自艦の砲撃に距離16kmで耐えられないという計算結果にもなってしまったが、全般的に垂直貫通力を過大に計算気味なことや、実際には使われない最大初速での計算であったことが理由として考えられる)
ビスマルクや改装後の長門型といった艦も多重構造で広い安全距離を持つが、これらの艦とは違い艦の外部に被害を留めることができる点も優秀と言える。
といっても被弾した場合周辺の70mm装甲やセメントは吹き飛ぶと思われる為、多数の砲弾を近い範囲に喰らった場合の耐久力は通常の装甲に劣るものになるだろう。

なおこの効果を得られない場合の安全距離は、単に70mm+280mmの貼り合わせとして計算した場合、5km(米SHSは6~7km)ほど悪化する
それでも装甲品質もあって、上のリシュリュー級を上回るが、設計時の要求からするとさらに不十分な結果だろう。

このように強力な主装甲帯を持つ本級だが、水雷防御との兼ね合いでその範囲(高さ)は狭く、水線下を含めても4m台と、他の新戦艦の6~8割程度しかない。
その為肝心の装甲帯へ被弾する確率が少なくなり、水平装甲に当たる可能性が増えている他、水線下の防御範囲がほとんど存在しないという欠点も抱えているが、水中弾については(以下略)

非常に強靭な防御力を示した主装甲帯に対し、砲塔正面は一枚板の350mm装甲と、そこまで厚くない上に傾斜もあまり取れていない。(380mmとする説もある)
英14インチ砲を含め、ここで扱う艦砲に対しては非常に脆弱である。

一方バーベット部も同じ装甲厚であり、新戦艦の中では薄いものの、正面から命中しない限りそれなりの防御力だろう。

次に水平防御を見て行くと、まず主装甲帯の上端に接続する中甲板を装甲甲板として、機関部に100mm、弾薬庫には150mmの均質装甲を配置している。
この他には装甲規格の鋼材36mmを含む合計45mm厚の船首楼甲板が加わるが、リシュリュー級のように装甲甲板の一段下に弾片防御甲板はない。

優れた表面硬化装甲を持つ本級だが、逆に水平装甲などに用いられた均質装甲の評価は各国の中で最も低いようである。
他国の均質装甲に比べ鋼材の品質自体は悪くないのだが、全体的に硬すぎて水平装甲に必要な靭やかさが欠けているからだそうだ。
表の結果にも装甲材質の影響が現れており、特に中甲板の厚さか100mm厚まで薄くなる機関部については、日米英の戦艦に対して防御力不足と言える。
しかし水平装甲への貫通力が低い高初速弾を用いる欧州戦艦(英国除く)相手ではさほど問題ではない結果に。

本級の砲塔天蓋は水平な部分を持たず、約5度傾斜した前部と反対方向に約10傾斜する後部からなる。 
表では面積の大きい前部を扱ったが、傾斜している分正面から飛んできた砲弾の撃角が深くなり、傾斜しない装甲よりも貫通されやすくなっている。
厚さ200mmは新戦艦では大和型に次ぎ、建造された艦の中でもトップクラスだが、これを含めると安全距離は弾薬庫部分とあまり変わらない。

また本級はこの時期の艦としては珍しく、主装甲帯や装甲甲板よりも上の乾舷(船首楼から中甲板まで)にも70mmの均質装甲からなる装甲帯を設けている。
主に中小口径弾への防御が目的と思われるが、最上
甲板ではなく舷側の外殻に命中した砲弾が装甲甲板に命中する際の防御も考えられていると思われる。
ただ水平装甲が外側では減厚していることもあり、安全距離を考えるとあまり表と変化はないだろう。

あとすっかり忘れていたが、リットリオ級はこの部位に装甲を持つため、バーベットが艦内部では280mmに減厚している。
先述した通り本級の装甲帯の高さは新戦艦の中ではかなり範囲が狭い方であり、そのためこの部位に命中する割合も高くなるだろう。
未計算だが、同じく70mm装甲により被帽を脱落できるとすると、かなり広い安全距離を持つと思われる。
(写真を見ると70mm装甲には舷窓が結構開いているので、厚さ通りの防御力があったかは怪しいが)

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まとめていくと、垂直装甲は範囲がやや狭いものの非常に強力であり、この部分だけ取れは中近距離での砲撃戦では新戦艦の中でも最も硬い艦の一つとまで言える。

ネタバレになってしまうが大戦末期に改良されたアイオワ級の砲弾を18km以内で受け止めることは、大和型の装甲をもってしても不可能なことである。
一方で遠距離からでも砲塔正面を抜かれ、火力を喪失する恐れがあるのは本級の大きな弱点と言えるだろう。
また本級は主砲の精度や弾道特性から遠距離戦に向いておらず、砲戦時は距離を詰める必要があるが、水平貫通力が高い日米英戦艦と対する場合、機関部の水平防御の薄さがその戦術に影響する可能性もあるだろう。

またこのページの主旨からは外れる部分だが、本級は通常時の復原力が新戦艦中ダントツの最下位(傾斜時や損傷時の復原性はまた別の可能性もあるが)かつ、今回扱わなかった部位に結構重大な問題を抱えている。
文量の関係でこの件は別ページで詳しく扱いたいが、とにかく重要区画の直接防御以外の面ではやや脆さを持つ可能性が高い。
このように本級は、非常に優れた強力な面があるのは間違いないはずだが、マイナス面についてもかなりはっきりした艦だと言えるだろう。

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ビスマルク安全距離

 装甲部位\艦砲 45口径38cm
(リシュリュー)
50口径381mm
(リットリオ)
47口径38cm
(ビスマルク)
45口径14インチ
(KGV)
45口径16インチ
(NC)
45口径46cm
(大和)
50口径16インチ
(アイオワ)
42口径15インチ
(ヴァンガード)
 垂直装甲(弾薬庫 19km以遠 22.5km以遠 14.5km以遠 8km以遠
18km以遠   26km以遠 23km以遠 12km以遠 
 垂直装甲機関部 21km以遠 25km以遠 5.5km以遠 貫通不能 22km以遠  31.5km以遠 27.5km以遠 2km以遠 
 砲塔前盾 33km以遠 33.5km以遠 26.5km以遠 21.5km以遠  30.5km以遠 37km以遠 37.5km以遠 26.5km以遠
バーベット 26km以遠
(29.5km以遠)
26.5km以遠
(30km以遠)
22.5km以遠
(26km以遠
18km以遠
(21km以遠)
24km以遠
(27.5km以遠
29.5km以遠
(33km以遠
29.5km以遠
(33.5km以遠)
21.5km以遠
(24.5km以遠)

バーベット艦内部 20.5km以遠
(23km以遠)
22.5km以遠
(26km以遠)
16km以遠
(18.5km以遠
12km以遠
(15.5km以遠)
17.5km以遠
(21.5km以遠
25km以遠
(30km以遠) 
22km以遠
(27km以遠)
16km以遠
(18km以遠)

水平装甲(弾薬庫) 28.5kmまで 30kmまで 28kmまで 25kmまで 21.5kmまで  21.5kmまで 23kmまで 25kmまで
水平装甲(機関部) 27kmまで 28.5kmまで 26.5kmまで 24kmまで 19.5kmまで 19kmまで 22kmまで 23.5kmまで
砲塔天蓋 29km
~安全距離なし
30.5km
~安全距離なし
28.5km
~安全距離なし
26km
~9.5kmまで
22km
~安全距離なし
22.5km
~安全距離なし
24km
~安全距離なし
25km
~安全距離なし

:

30度
垂直装甲(弾薬庫) 6km以遠 11.5km以遠 1km以遠 貫通不能 5.5km以遠 18.5km以遠 13.5km以遠 貫通不能
垂直装甲(機関部) 貫通不能 1km以遠 貫通不能 貫通不能 貫通不能 20km以遠
5km以遠 貫通不能

 

コメント

上の表がビスマルクの安全距離だが、なかなか面白い結果となった。
まず垂直防御について、本級の装甲帯は中甲板までの高さまでに配置された320mmの主装甲帯と上甲板までの145mm上部装甲帯からなる。(さらにバッキングとして15mmの鋼板が加わるが計算には含めていない)
この部分に使用されるのは「KC n/a」と呼ばれる物で、これはドイッチュラントの砲塔前盾より導入された改良型のクルップ鋼に当たる。
(前編でも少しふれたように、一部で言われる「ヴォタン鋼」は別部位に用いられる物なので注意)
オリジナルのKC鋼からの改良内容としては、成分の変更による鋼材の品質向上や硬化層の拡大を行い、被帽徹甲弾に対する性能を向上させている。
表面硬化装甲の本家ドイツらしく、第二次大戦期においても優秀な部類に入る装甲である。

それでも320mmという厚さは新戦艦の中では大したことない上に、意図的な傾斜もなく(弾薬庫横などでは船体形状に合わせて傾斜する程度)その恩恵を受けられない。
この部分はフランスのダンケルク級が搭載する33cm砲に有効な厚さとして設定されたもので、それ以上の艦砲への直撃を考えている新戦艦の中では強力とは言えないだろう。
しかし前のページの長門型と同じく、本級も下甲板の傾斜部が主装甲帯の下部に接続し、装甲帯を貫通した砲弾が重要区画に達するにはこの部分を貫通する必要がある。
この多重構造を考慮した場合、重要区画はより強力な防御力を発揮可能となるのである。

この構造自体は第一次大戦期までの戦艦によく見られる物と前回は言ったが、本級の傾斜部は厚さが110~120mmと当時の艦よりも厚い。
さらに傾斜部は複数枚の鋼材を重ね合わせるのではなく、一枚板の均質装甲を使用。同じ方式を採った既存の艦を上回る強力な対弾性能を獲得している。
個人的には最初から多重防御を前提とした配置であることから、改装で多重構造を強化した長門型よりも効率の良い配置に思える。

表を見ていくと英戦艦相手は問題ないとして、仏38cm砲や米45口径16インチSHSに対しても有効な安全距離を持っていると言えるだろう。
一部ではこの装甲配置により、16インチ砲をゼロ距離で受けても問題ないとする説もあったが、今回はこの考えとは一致しない結果となった。
(それでも横方向に30度角度が付いた場合では、46cm砲以外は10km以内でもロクに抜けなくなっている。46cm砲でもこれ以上角度が着くと貫通不能になるだろう)
ちなみに弾薬庫部分は舷側装甲が微傾斜し、傾斜部の装甲も110mmから120mmに増厚しているが、表の英主砲に対する安全距離は機関部の方がより広い結果に。
これは機関部の方が幅が広いため、傾斜部の角度が異なる(60度対68度)のが原因である。

長門型の解説でも触れた通り、この防御様式はあくまで重要区画を守り抜く事を主軸としたもので、装甲帯を貫通した砲弾が傾斜部で炸裂すると、少なからず船体や浮力などに損害を与えることになる。
それでも本級が最後の戦いにおいて、多数の被弾がある中で浮いていたのは、重要区画内への貫通弾を極力減らすこの防御様式が効果を発揮したからと言えるだろう。

結局火砲のみでは沈めることができなかった本級だが、それと比べると比較的簡単に砲塔への被弾で戦闘能力を喪失、沈黙した事は無視できない事実である。(交戦距離的には仕方がない面もあったが)
垂直部分の装甲は前盾360mmにバーベット340mmと、実は欧州戦艦の中では特に薄いわけではない、上の表を見ると防御力としては不足していると言わざるを得ない。
なお砲塔は傾斜部を多用する形状で、なるべく前盾の面積を減らす為の努力が見られるが、傾斜部の装甲はかなり薄いため、戦艦主砲へは逆効果のような気もする。
またバーベットは艦の内部で装甲厚が220mmに減じているが、この部位へ145mm厚で傾斜もある上部装甲帯を貫通する必要があり、防御上の弱点ではない。

次は水平装甲だが、ビスマルク旧式論の根拠の一つには、ユトランド海戦の戦訓である水平防御の強化が行われていないという物がある。
これ自体は一次大戦期ドイツ戦艦との装甲厚との比較から間違いであると断定できる
確かに水平装甲は他国新戦艦のように主装甲帯の上端にあたる中甲板ではなく、一段低い位置(下甲板)に重点的に貼られており、旧態然とした配置のように思える。
しかし使用されている装甲は、旧式戦艦のように薄い構造用鋼を複数枚重ね合わせるのではなく、機関部で80mm、弾薬庫上は95mmの一枚板の均質装甲(Wh鋼、硬質ヴォタン鋼)を配置している。
合計厚や実質防御力では比べ物にならない。

また下甲板の装甲に加え、上甲板にも補助的な装甲(50mmのWh鋼)を用いることで、先に爆弾や砲弾の信管を作動させることを狙っている。
航空爆弾に対しては、ティルピッツやシャルンホルスト級への度重なる空襲の際に、かなりの確率で損傷を防いでいる事から、厚さのわりに結構な防御力を有していたかと思われる。(投下高度は低いが800kg爆弾にも一応耐えている)
だし遅動信管を用いた徹甲弾に対して、この構造が効果があったかは疑問である。
日本海軍の九一式は言うまでもなく、比較的短遅動と言われる米戦艦の砲弾も上で紹介したジャンバールの例がある。
これが機能しないとすると、一枚板換算した単純な装甲厚自体は薄く、新戦艦の水平防御として弱体と言われても仕方ない。

Wh鋼自体も名前から分かるとおり、イタリア製程でないがやや硬めの均質鋼であり、伸びが悪い。
その為巡洋艦の垂直装甲などに用いる場合は問題はないのだが、戦艦の水平装甲としてはやや性能に劣るものとなっている。(これについては異論もあり)
表の結果を見ると一部の艦には20km付近と言う、現実的な交戦距離でも貫通を許すこととなる。
ただ欧州高初速艦に対する安全距離は確保できているし、近距離志向の艦とするならこの安全距離でも許容範囲のような気もする。

砲塔天蓋は130mmとかなり薄めだが、欧州戦艦相手なら対応可能な点と、近距離戦志向と考えればある程度の安全距離を持っている点は同じである。
ただし、上に書いた通り本級の砲塔には傾斜部が多めに取られている。
その部分は180mmと傾斜(25度程度)を考えるとかなり問題で、ここで扱う艦砲の殆どに安全距離を持たない。
砲塔正面の装甲こそ薄くないものの、こうして天蓋や傾斜部などを含めて考えた場合、本級の砲塔防御は列強新戦艦の中でも特に弱体であると言わざるを得ないだろう。

-------------------------
表の範囲は以上だが、ビスマルク級の装甲配置を見ると、他の新戦艦が持つ「主装甲帯とその上端に接続する水平装甲」に重点を置いた配置(補足のページで定義した集中防御艦の特徴)とは明らかに異なる。
垂直装甲は水線部の厚い装甲帯と上部の薄い装甲帯の二種類で乾舷全体を覆う形となり、水平装甲は一段下の甲板に重点的に配置し、傾斜部を経て主装甲帯の下部に接続している。
この配置が旧式かそうでないかは長くなるので別ページに回すとして、問題となるのは表で挙げた以外にも砲弾の貫通ルートが多数存在するという事である。
前者は基本的に、水平防御は水平装甲のみ、垂直防御は垂直装甲のみで考えていいのに対し(表が作りやすくて大変よろしい)、後者は砲弾のルートにより垂直装甲と水平装甲を複合的に貫通する必要がある。

舷側に命中した砲弾の場合下の図にある4つが挙げられる(甲板→舷側だと重要区画に達しないので除外)。

1 主装甲帯を貫通→下甲板水平部に命中
2 主装甲帯を貫通→下甲板傾斜部に命中(表の垂直防御

3 上部装甲帯を貫通→下甲板水平部に命中
4 上部装甲帯を貫通→下甲板傾斜部に命中
この内1
番は、構造上大和の46cm砲を含めほとんどの艦砲でも貫通不能であり、重要区画の防御力で言うと表の垂直装甲に使用した2番よりもはるかに高い。
面積的には大きくはないが、このような場所も存在すると言うのは覚えておいていいかもしれない。
一方で3・4番は舷側の装甲が145mmと薄くなり、(一応奥に30mmの隔壁もあるが)1番ほど貫通した砲弾の威力が落ちず、あまり有効な安全距離を持てない。
3番の場合特に重量のある46cm、16インチSHSが命中した場合、弾薬庫は20km付近、機関部に至っては10km中頃で貫通される危険すらある、という結果になる。
(そこまで近距離だと落角的に下甲板に達しない可能性もあるが、船体中央部だと普通に有り得る。その為砲塔以外の防御としては特に弱体な部位と言える)
4番はさらに撃角が深くなる関係で、戦艦主砲にほとんど安全距離を持たないという結果になるが、本級は主装甲帯がかなり高い位置にも施されており、こののような命中弾が発生する事はあまりないだろう。

本級の場合、バイエルン級など第一次大戦時のドイツ艦よりも主装甲帯の占める割合が高くなり、ここで言う3・4番が発生する可能性を減らしている。 
先述したように本級の持つ水平装甲や傾斜部はそれらの艦よりも確実に強化されている事を含めて、これも大落角の砲弾に対するドイツ海軍なりの対応と評価できる点が指摘できる。
もちろん戦艦主砲への防御のみで評価した場合、これは集中防御の採用と比べて効率的かと言うと疑問もある。まあこのページで言うのは何だが、第二次大戦の戦艦は戦艦主砲への防御のみ考えればいいと言うわけでは無いし、重量を気にしないのなら別の利点もある事はあるのだが。

その他にも欠点があり、主な水平装甲が下甲板であることから、他艦よりも一部攻撃に脆弱な非重要区画が大きくなる(図のやや濃い部分)。
(一応誤解の無いように言っておくと、50mmの上甲板と145mmの上部装甲帯により、中小口径弾に対する防御範囲はいわゆる他新戦艦よりも広い。ただ大口径砲へはこの程度の厚さはあまり意味がない)
この配置のおかげで強力な多重構造を得たが、その代償に重要区画外への被害は拡大しやすいといえる。
この辺は詳しくはないが、ドイツ艦らしくカタログスペックに載らない船体強度やダメージコントロール能力でカバーしていて、問題とされなかったのかもしれない。
(ちなみに本級はGM値も他国なら射撃管制に不向きとして避けられかねないレベルで、新戦艦中最も大きい)

最後の戦いにおける本級は、早期に戦闘力こそ失っているが、それ以外の装甲配置は上手く機能していたと評価できる。
砲塔や司令塔以外の主要区画を抜いた例を見ると、海底調査などでも確認されておらず詳しい部位も不明だが、距離からして装甲帯に当たったと思われるロドニーの1発が機関部に突入したという証言が存在するぐらいである。
(これは距離的に主装甲帯→傾斜部、つまり上の2番だと思われるが、艦が傾斜していたとすると3番もあり得る)
同艦は最大で3kmまで接近して射撃したという記録から、もっと抜けていてもおかしくはないが、実戦では横方向の角度が着くこと、至近距離過ぎて砲弾が自壊した事、水面で跳弾して威力を失った事、装甲帯貫通後に落角が足りずに下甲板へ達しなかった事、などの現象が影響していたのだろう。
薄いと言われる水平装甲にしても、英海軍がゴリ押しにも見える近距離での火力集中策を取った事もあって、ここでは問題になっていないのも注目である。
仮に20km以遠の遠距離戦闘ではあれば、このような堅牢さを証明できたかは怪しい面もあるわけだが、一方でダラダラと遠距離砲戦をしていたら、それはそれで命中弾が少なくなり、本艦の戦闘能力を奪うのに手間取っただろう。

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この表の計算結果だけを見ると、弱い敵にはめっぽう強い近距離番長という評価はあながち間違っていないのではと思う。
もちろん舷側部は見てきたように非常に強力で、16インチ砲艦とも十分戦える、本級の大きな武器である。
そして16インチ砲艦に匹敵する攻撃力、防御力を持つ同時期の欧州15インチ砲艦に対しても、同じく明確に劣るなんて事は間違いなく無いだろう。
砲塔防御が比較的弱いが、程度の差はあれ他の欧州戦艦も同じで、特にKGV級を含む英新戦艦には結構な優位を持っていると言える。
一方で日米新戦艦に対しては脆弱な部分が多いので、接近戦に勝負をかける事になるだろう。

面白いのは第二次大戦の戦艦同士の戦いを見ると、近距離戦を重視したことは結果的には間違っていなかったと考えられる点である。
時代遅れの設計思想と一部で言われる本級が、航空機の時代が始まり、戦艦自体が時代遅れと言われ始めた第二次大戦で歴史に名を残す活躍をしたことは皮肉である。
(尤も御存知の通り、ビスマルクは航空機の攻撃を受けたのをきっかけに、水上艦の攻撃で沈没したのだが)
個人的にはあまり好きな艦ではないが、ネタはいくらでもあるので本級については延々と文章を書き続けることができるだろう。でもこれ以上駄文を書いても仕方がない。(読み直したらあまりにもひどかったので書き直したりしてるけど)

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キングジョージ五世安全距離

 装甲部位\艦砲 45口径38cm
(リシュリュー)
50口径381mm
(リットリオ)
47口径38cm
(ビスマルク)
45口径14インチ
(KGV)
45口径16インチ
(NC)
45口径46cm
(大和)
50口径16インチ
(アイオワ)
42口径15インチ
(ヴァンガード)
 垂直装甲(弾薬庫 22km以遠 22.5km以遠 19km以遠 15km以遠
20km以遠   24.5km以遠 24.5km以遠 18km以遠 
 垂直装甲機関部 26.5km以遠 27km以遠 22.5km以遠 18km以遠 23.5km以遠  29.5km以遠 29km以遠 21.5km以遠 
 砲塔前盾 30.5km以遠 31.5km以遠 26.5km以遠 21.5km以遠  27.5km以遠 33.5km以遠 33.5km以遠 25km以遠
バーベット 27km以遠
(30.5km以遠)
27.5km以遠
(31.5km以遠)
23km以遠
(26.5km以遠
18.5km以遠
(21.5km以遠)
24km以遠
(27.5km以遠
30km以遠
(33.5km以遠
29.5km以遠
(33.5km以遠)
22km以遠
(25km以遠)

水平装甲(弾薬庫) 35kmまで 37kmまで 33.5kmまで 29.5kmまで 27.5kmまで  30.5kmまで 31kmまで 30kmまで
水平装甲(機関部) 32.5kmまで 34.5kmまで 31.5kmまで 28kmまで 25.5kmまで 28.5kmまで 28.5kmまで 28kmまで
砲塔天蓋 33.5kmまで 35.5kmまで 32.5kmまで 28.5kmまで 26.5kmまで 29kmまで 29.5kmまで 29kmまで

30度
垂直装甲(弾薬庫) 13km以遠 13km以遠 12.5km以遠 8km以遠 14km以遠 17.5km以遠 18.5km以遠 11.5km以遠
垂直装甲(機関部) 17km以遠 17km以遠 15.5km以遠 12km以遠 17.5km以遠 22km以遠
22.5km以遠 15.5km以遠

コメント

次はイギリスのキングジョージ五世(KGV)級の防御力について見ていこう。例によって垂直装甲から。(装甲厚は40lbs=24.9mmとして表記)

この部分は表面硬化装甲(CA、単にC装甲とも)から成る主装甲帯を、船体の外側に取り付ける形で中甲板の高さまで配置している。
バッキングは22mmのD鋼で、装甲帯には殆ど傾斜がない(砲塔周辺など艦の両端近くではやや傾斜)のが特徴となる。
これはレナウンやフッドからネルソン級にかけて、世界に先駆けて傾斜装甲を採用した英国戦艦の系譜では逆行する形と言える。

傾斜装甲はビッグセブン編で一部述べたように欠点もあり、まずフッドに採用された外装式だと船体形状に与える影響が大きく、重量バランスの悪化を引き起こす。
ネルソン級のような内装式にしても、装甲で砲弾を防いでも爆発により外殻が損傷する、もしくは砲弾が下に滑り水中で爆発する可能性がある、水雷防御区画の形状に影響を与える、などの問題が存在する。
しかし何よりの理由は、ネルソンやフッドに共通する主装甲帯の高さ不足により有効な防御力を持つ範囲が狭い、という欠点が無視できないものだったからだろう。
(追記 この内装式傾斜装甲から外装式垂直装甲への回帰だが、どちらかというと装甲範囲でなく水雷防御との兼ね合いが重要だったそうだ。ここでは書ききれないので詳しくは別ページで)

実際にKGV級では、水中弾防御となる水線下の範囲を含め、約7mと言う非常に広い範囲を装甲帯で防御することに成功している。
これは水中弾防御用のテーパー装甲を持つ日米戦艦を除けば、新戦艦の中で最も広い装甲範囲である。
範囲だけでなく厚さも優秀で、弾薬庫374mm、機関部349mmと新戦艦中では大和型に次ぐ厚さとなる。

垂直装甲に使用されるC装甲は他の表面硬化装甲と比べると、表面の硬度が低めで硬化層の範囲も伊TC鋼と同程度に浅いのが特徴である。
硬化層により砲弾を破ると言うよりも、裏面の品質からくる全体的な強度を重視した装甲であり、その性能はイタリアに次ぎ、連合国側では最高の物とも言われる。
(なおこちらも司令塔に貼られたような薄目の装甲ではそこまで優秀ではない)
ただし戦艦用の厚さも品質のばらつきが結構大きいようで、中にはドイツKC n/Aに劣るものも確認されている。
また最新鋭の砲弾に対しては、ネルソン級に使用された20年代の装甲と大差ないとする試験結果も存在する。
この装甲については時々「米国製装甲の1.25倍の性能を持つ」という評価が紹介されるが、これらの記録から個人的には考え辛い。
それでもNAaB上でも優秀な装甲として設定されているのは事実である。(性能は一割増し程度だが)。

表の方を見てもらうと、まず弾薬庫横はバッキングや弾薬庫部分の僅かな傾斜を含めると新戦艦の中でも上位に入る装甲を持つ。
一方で機関部もこれには劣るが自国の15インチ砲程度には対応可能と、傾斜の恩恵がなくとも一定の防御力を確保している事がうかがえる。

次に砲塔だが、欧州戦艦の例にもれず本級の砲塔正面は324mmと非常に薄い。
この部位は自艦砲弾に対してはある程度の距離でも耐えることが出来るが、他の新戦艦に対する防御力は不足している。
なお、本級の砲塔前盾には傾斜がほとんど見られず、完全に垂直に取り付けられるのが特徴である。
傾斜を設けないことで、砲弾の落角が大きい遠距離では普通に撃角は浅くなり、他艦に見られる「安全距離なし」とはならないようである。
(そもそも戦艦の射程ギリギリの落角で前盾に当たることは稀だろうが)
バーベットも同じく324mmで、形状による防弾効果が期待できない位置に当たった場合は、砲塔前盾と同じくかなりの遠距離から貫通を許すことになる。

水平装甲は主装甲帯の上端に接続する中甲板に、弾薬庫149mm機関部125mmの均質装甲(さらにバッキング13mmが加わる)を持つ。
その他甲板を含めると、弾薬庫部は一枚板で約165mm相当と各国の戦艦の中でも強力だが、機関部は140mm相当とやや薄くなる。
均質装甲も水平装甲に適した強度に優れる物を製造しており、こちらも優秀である。どちらの部位も安全距離では十分なようだ。
(もし装甲配置や厚さが全く同じ艦に各国の表面硬化・均質装甲を貼った場合、イギリス製装甲を貼る艦が最も優れた防御力を持つことになるだろう。
実際に製造された装甲より厚い物でも、品質が落ちないとした場合に限るが)
なお本級も上甲板ではなく外殻を抜くルートが存在し、その場合は大体1km程安全距離は短くなる。米45口径SHS相手だと、状況によっては抜かれるかもしれない

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最後にまとめると、機関部の垂直装甲がやや弱体であるが、弾薬庫部分の装甲は16インチやそれに匹敵する15インチ砲へ対抗でき、水平装甲も平均以上である。
ただし新戦艦唯一の14インチ砲搭載艦と言うハンデを考えると、遠距離戦以外では仮想敵であるビスマルク級や他の新型戦艦相手に有利に戦うことは難しいだろう。
一応英海軍が戦前に設定した決戦距離(15kmから11km程度)で殴りあえば自艦主砲も十分有効である。
ただ本級も砲塔が薄いので接近戦前の被弾が心配だし、双方の垂直装甲が通用しない距離まで近づくと、装甲帯の高さが逆に被弾面積上不利になる可能性も。
またこの距離は、上で扱ったようにビスマルク級の装甲配置に対しては、むしろ効果が下がる面があるのも問題だろう。
旧式戦艦相手ではまた違う結論になってくるが、このメンツの中では厳しめの評価にならざるを得ない。
兵器としての有効性や価値はともかく、戦艦の本分である対戦艦においては「戦艦のようなもの」という評価もやむなしか。

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ノースカロライナ安全距離

 装甲部位\艦砲 45口径38cm
(リシュリュー)
50口径381mm
(リットリオ)
47口径38cm
(ビスマルク)
45口径14インチ
(KGV)
45口径16インチ
(NC)
45口径46cm
(大和)
50口径16インチ
(アイオワ)
42口径15インチ
(ヴァンガード)
 垂直装甲(弾薬庫 25.5km以遠 26.5km以遠 21.5km以遠 17.5km以遠
23km以遠   27km以遠 27km以遠 19.5km以遠 
 垂直装甲機関部 25.5km以遠 26.5km以遠 22.5km以遠 18.5km以遠 23.5km以遠  28.5km以遠 27.5km以遠 20.5km以遠 
 砲塔前盾 安全距離なし 安全距離なし 17km以遠 11.5km以遠  安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし 15.5km以遠
バーベット 21.5km以遠
(24.5km以遠)
22.5km以遠
(25.5km以遠)
19.5km以遠
(22.5km以遠
14.5km以遠
(17km以遠)
20.5km以遠
(24km以遠
25.5km以遠
(29km以遠
25.5km以遠
(29.5km以遠)
18.5km以遠
(21.5km以遠)

水平装甲(弾薬庫) 34.5kmまで 36.5kmまで 33kmまで 29.5kmまで 27kmまで  30kmまで 30kmまで 29.5kmまで
水平装甲(機関部) 32kmまで 34kmまで 31kmまで 27.5kmまで 25.5kmまで 27.5kmまで 28kmまで 27.5kmまで
砲塔天蓋 36kmまで 38kmまで 34.5kmまで 30kmまで 28.5kmまで 31.5kmまで 31.5kmまで 貫通不能

30度
垂直装甲(機関部) 19km以遠 20km以遠 17km以遠 10km以遠 18.5km以遠 24km以遠 23.5km以遠 13km以遠


まず垂直防御は、中甲板までの高さにある外装式の主装甲を持ち、305mmのクラスAアーマーを傾斜15度で配置している(バッキングは19mmのSTS)。
実は数字だけ見ると列強の大型新戦艦の中では最も薄く、条約前の米海軍が保有した標準型戦艦(343mm傾斜なし)を下回る数字である。
しかし従来の米戦艦とは異なり、傾斜装甲の採用により防御力自体はそれらを上回るをとなっている。

ちなみに米海軍は、この装甲を16インチ砲に対し19.5km以遠で安全距離を持つと評価している。
そう聞くと16インチ対応防御のように思えるが、これは自艦が搭載する16インチマーク6ではなく、前級であるコロラド級の物に対する安全距離である。
そのため
SHS対応のマーク6や7といった、新型の16インチ砲に対する防御としては不適格とみなされたようだ。

クラスAアーマーは米海軍内でクルップ鋼など表面硬化装甲を意味する用語である。
第二次大戦時の米新戦艦に使用されたクラスA装甲は、共通した品質や製造法の装甲が採用されているが、実は海軍休日以前は主要なメーカー3社が独自の装甲を開発・製造していた。
よって同じ艦でも違う性能の装甲が混在している状態だったそうだ。
その話はともかく、30年代より開発されたクラスAアーマーは、同時期の進歩した被帽徹甲弾へ対抗する為、硬化層を非常に深い範囲に持つのが特徴となる。
しかし第二次大戦期の一部砲弾は多少硬化層を増しても損傷しない程に進歩しており、むしろ強度的にマイナス面もある選択と言える。
鋼材の品質自体は最も優れたものであるが、この強度不足が祟って、大口径砲に対する性能はあまり良いものではないと評価されているようだ。
それでもコロラド級以前の艦に用いられた物よりは上だが、英独に比べると劣る物である。
(一方で厚さ7インチ以下に限定すると、厚い硬化層が中小口径弾に対して効果的に働くので、英独を上回る最高の性能を持つと評価される)

今回の結果を見ていくと、まず14インチ砲はもちろん、英独の15インチ砲に対してはある程度の安全距離を持っている。
しかし自艦の16インチ砲や仏15インチ砲に対しては、かなり不安な防御力しか持たないという結果になった。
そしてリットリオ、大和、アイオワの主砲に対する安全距離はかなり厳しいものとなる。これでは交戦距離のほとんどで舷側を貫通させられかねない。
さらに元の装甲があまり厚くない点から、傾斜装甲の恩恵が薄くなる30度斜撃時の安全距離は、新戦艦の中では劣る物である。

ところで米軍試算の安全距離を見ると、弾薬庫と機関部でそれぞれ別々に設定されており、弾薬庫周辺の装甲が強化されていることになる。
本級は水中弾防御のため、弾薬庫横の水雷防御隔壁に95mmから51mmの均質装甲が追加されている。
95mm厚の部分は装甲帯よりかなり下に位置しているが、装甲帯を貫通した砲弾は51mm部分には命中する。これを表の「垂直装甲(弾薬庫)」として設定した。
伊15インチ砲は貫通時の残速が早すぎて意味をなさない結果になったが、それ以外の安全距離はやや改善する。

続いて砲塔前楯を見ていくと、406mmのクラスBアーマー(均質装甲)が傾斜41度で配置されている。
砲塔の垂直装甲は表面硬化装甲を用いるのが一般的だが、アメリカの新戦艦は例外である。表面硬化装甲に比べ対弾性能は落ちるものの、砲塔天蓋に表面硬化装甲を用いるような致命的なことではない。
表を見てみると、こちらも英独15インチ砲までに対しては十分な安全距離を持っているが、それ以上の貫通力を持つ艦砲には耐えられない。自艦の砲に対しても安全距離なしとなっている。
一方バーベットも装甲厚は406mmだが、こちらはクラスAアーマーを使用している。形状を考えると、十分な安全距離を持ってるのではないだろうか。

次に水平装甲を見ていこう。
本級は装甲甲板である中甲板に、91mm(外側は104mm)のクラスBアーマーを有している。
クラスBアーマーは均質装甲の名称で、こちらは海軍休日前も3社とも同じような性能だったそうだ。
第二次大戦期の物はクラスAとは異なり、均質装甲は鋼材の品質そのものが大きく影響する為、こちらは英国の物に並ぶ性能である。
また米海軍の艦船には、STSと呼ばれる均質装甲規格の構造材が使われることもある。
クラスBが主要な個所に使用されるのに対し、こちらはより補助的な部位に用いられるイメージだが、どう違うのかは正直よく知らない。性能は同程度である。

話を戻して、本級は中甲板のクラスB装甲のみだとかなり薄いが、それに付属するバッキングや他の甲板等はすべてSTS製で、これらを含めた水平装甲全体はかなりの物である。
具体的に言うと、上甲板37mm、中甲板91mm+36mm、さらに一段下には16mm弾片防御も。弾薬庫はこれでも防御力不足が心配されたため、一段下の装甲は51mmに強化されている。
表を見ると、機関部はやや薄いかも知れないが、現実的な交戦距離では十分な数字であり、弾薬庫はそれ以上に十分な水平装甲を備えていると言える。
ただ上甲板の厚さが水平装甲全体に与える影響が大きいと本級の配置は、上甲板ではなく外殻を抜いた砲弾に貫通されやすくなる一面がある。
一応本級の設計時にはこの対策として、中甲板の外側を104mm+36mmに強化しており、これを含めると安全距離の減少は0.5km程に抑えられる。
ただし砲弾が中央部に達した場合は問題で、弾薬庫は1.5km、機関部2km程安全距離が縮まってしまう。
この場合、自艦主砲に対しては有効な防御力をもたない事に。
砲塔天蓋は178mmとより厚く、特に傾斜したりもしていない。こちらは十分な防御力だろう。

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本級に関しては、「16インチ砲を搭載したが、防御は14インチ対応防御に留められた」という表現をよく見るが、今回の結果ではちょっと違う印象を受ける。
確かに対16インチ砲防御としては、本級の装甲(特に舷側と砲塔正面)はやや物足りない感がある。しかし14インチ砲対応防御かと言えば、確実にそれ以上の装甲を持つ艦である。
なぜ14インチ砲防御と呼ばれたかは、単純にアメリカが15インチ砲を持っていなかったのが理由だと思うのだが、まあここら辺は妄想なので置いておこう。
全体的に優秀な戦艦と評価される本級だが、単純に装甲と火力のみ見ていくと、このメンツの中では埋もれてしまっている感もある。
意外とビスマルク級との戦いが面白いことになりそう。相手が水平防御にハンデを抱えすぎているので、20km以内での戦闘に限るが。

 

大和安全距離

 装甲部位\艦砲 45口径38cm
(リシュリュー)
50口径381mm
(リットリオ)
47口径38cm
(ビスマルク)
45口径14インチ
(KGV)
45口径16インチ
(NC)
45口径46cm
(大和)
50口径16インチ
(アイオワ)
42口径15インチ
(ヴァンガード)
 垂直装甲 16.5km以遠 16.5km以遠 15.5km以遠 12.5km以遠
16km以遠  19.5km以遠 20km以遠 14.5km以遠 
 砲塔前盾 貫通不能 貫通不能 貫通不能  貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能 貫通不能
バーベット 13.5km以遠
(16.5km以遠)
14.5km以遠
(17km以遠)
11km以遠
(14km以遠
7km以遠
(9.5km以遠)
10.5km以遠
(13.5km以遠
16km以遠
(18.5km以遠
14.5km以遠
(17.5km以遠)
10km以遠
(12.5km以遠)

水平装甲 37.5kmまで 40kmまで 35.5kmまで 31kmまで 29.5kmまで  33kmまで 33kmまで 貫通不能
砲塔天蓋 38.5km
~36kmまで
41.5km
~38.5kmまで
貫通不能
~34.5kmまで
32.5km
~30.5kmまで
30.5km
~28.5kmまで
35km
~32kmまで
34.5km
~32kmまで
貫通不能

:

30度
垂直装甲(30) 9.5km以遠 9.5km以遠 9.5km以遠 貫通不能 10km以遠 13.5km以遠 13.5km以遠 3.5km以遠

ノースカロライナのコメントをまだ書いていないが、昨日は大和の戦没日だから更新してみよう。
正直評価しろと言われても、圧倒的な防御力であると言う他ない。

舷側装甲帯は中甲板の高さまでに外装式の主装甲帯を持つ。(この下端には水中弾防御として船底にまで達するテーパーした装甲が接続)
主装甲帯は410mmの傾斜20度のVH鋼からなり、これに16mmのD鋼がバッキングとして加わる。
装甲厚、角度ともに新戦艦の中では圧倒的であるが、使用されているVH鋼に関しては複雑な評価が存在するようだ。

VH鋼は有名なので、書くとボロが出そうだが一応
日本海軍は英ヴィッカース社設計の金剛型を獲得して以降、同級にも使われたVC鋼を採用し垂直装甲等に用いていた。
基本的にはKC鋼のマイナーチェンジ版であるVC鋼に対して、VH鋼は元となる鋼材の成分こそ同一だが、主に浸炭処理の廃止と硬化層の範囲拡大という二つの面で大きく異なる装甲となっている。
中でも浸炭処理の省略は、それにかかる時間と費用を浮かして、生産性を大幅に向上させる事に成功している。莫大な装甲重量を必要とする大和型戦艦の建造ではかなり重要な進歩である。
また経済的な部分以外でも、浸炭装甲の表面にはガラスの様に硬く脆い浸炭層を生じるが、これを無くす事で装甲板の強度につながると言う風に、性能面での利点もあったようだ、

この非浸炭の表面硬化装甲という物は、新戦艦では日本海軍のみが使用しているが、それ自体は日本オリジナルではなく以前からも存在していた。
古くは米国の3社の内、ベスレヘムとミッドヴェールで製造されていた他、フランスのシュナイダー社も同じような装甲を開発していたと言う。
VH鋼の開発に携わった佐々川清少将はフランスへの留学経験もあり、関係性も指摘されている。

もう一つの変化である硬化層の範囲拡大は、1926年に試作された450mmVC鋼にて硬化層の不足が性能低下を招いた経験から導入されたものである。
装甲的の機能的には、砲弾に損傷を与える能力を増強した形となっている。

このVH鋼だが、戦後連合国で行われた調査での評価は一部を除いて低い。
元となる鋼材の品質はVC鋼より進歩しておらず、不純物も多めであまり良いものではない。というのはそういう物だから仕方ないとして、
サンプルの硬度分布をみると、硬化層の硬度が全体的に低く英国のC装甲以下となる、肝心の硬化層の深さもVC鋼と同程度と言った具合で、一部を除いて本来の品質とされる物とは大きく異なっている。
これらの装甲の製造過程は明らかになっていない為、それらが単に規格外の物や試験的に製造法を変えたものなのか、それとも大和型戦艦に使われたVH鋼と同程度の性能を持つのかは断言はできない。
ただし今回計算に使用したデータはその試験結果に基づいているようで、なんと1910年代のイギリス製表面硬化装甲、つまりVC鋼に相当する装甲よりも対弾性能に劣ると設定されている。
つまり他艦に比べると若干材質面にハンデを抱える状態である。

というわけで結果を見てみるが、完全に元の厚さと傾斜が若干のハンデを圧倒している。 
大和、アイオワを除いて通常の交戦距離で貫通を許すことないだろうし、その2クラスにしても通常の戦艦に求められる安全距離をクリアしている。
実戦ではこれに加え、対敵姿勢により横方向の角度がつくのだから、10km台の戦闘でも舷側の装甲を破るのは難しいだろう。

また上の評価では一部を除いてと述べたように、VH鋼の中でも184mmのサンプルはその厚さでは米クラスAを上回り、調査された各国装甲の中でも最も優秀との評価も存在する。
このサンプルの硬度分布は、他の物よりも硬化層の硬度が高く、範囲もより深い。(それでも本来の数字には足りないが)
装甲の研究家であるN.オクン氏はこの二点から、ドイツKC n/Aとの共通点や影響があると推測しているが、特に裏付けはないそうだ。
他にも英国で調査された380mm装甲(こちらはより硬度が高い)も優秀な成績を収めたそうだが、大和型に使用された装甲がこれ程の性能となるかは不明である。仮にそうだった場合はさらに化け物に・・・
ただし自艦主砲に対する安全距離的にそこまで間違っていない(目標20kmに対して後に若干過剰だと判明)気もするので、以下の計算も低めの装甲品質で行いたい。
(若干脱線する上に妄想になるが、超甲巡のどう考えても甘く見積もりすぎな安全距離は、もしかしたらこの性能のVH鋼を基準に考えられているのかもしれない。)

続いてバーベットの装甲も560mmと非常に厚い。10km台の戦闘にも耐えられる過剰な物だが、砲塔正面はそれ以上の防御力を持っている。
この部位は650mmもの厚さのVH鋼を45度の傾斜で配置している。このような厚さのVH鋼は硬化後の処理に失敗して脆くなりやすくなっていたそうだが、
それを含めても圧倒的な装甲厚に傾斜も加わるとのことで、第二次大戦期の艦砲ではどの距離からも貫通不能とされている
貫通しようと思えば撃速が十分な状態で、なんとか撃角を深くとる必要があるため、
・敵戦艦が空中に飛び上がり、上空から打ち下ろす形で攻撃する
・大和がすでに数十度傾斜している
・パナマ運河のように水門間で高低差がある場所で戦う
などの状況でない限りは貫通できないだろう(ツッコミ不要)

もちろん貫通はできなくても表面硬化装甲は着弾の衝撃で亀裂が走り、それ以降十分な防御力を発揮できなくなることもあるので完全無敵とは言えない。
(そもそも貫通できなくとも、砲塔の機能も支障が出る可能性も存在する)
また砲塔の側面や後方はそこまで厚くないというか、結構薄いため砲塔自体が破壊される可能性はあるだろう。
ただしこのページでは砲撃戦中は砲塔を相手に向けるため、正面以外にはまともに命中する可能性は低いとして表には載せていない。

水平防御は中甲板が装甲甲板となり、傾斜部を経て主装甲帯と接続している。この傾斜部については後述。
その他の甲板はあまり厚くないが、この中甲板だけでも平坦部で200mm(バッキング10mm)という規格外の厚さになる。

この部分には第一次大戦後に開発されたNVNCに代わり、新たにMNCが開発・使用されている。
旧式戦艦の改装時など多くの艦に使われたNVNCだが、大口径弾に対しては強度不足とも指摘されていた。
そこでドイツより輸入された均質装甲に注目し、新しい成分で作られた均質装甲とされている。
品質としては米英の物に劣る点もあるが、NVNCや独Whを確実に上回るものである。

安全距離の方は十分としか言いようがないが(一応他の艦と同じく外殻を抜かれた場合は0.5km~1km程短くなる)、さすがに自艦の射程ギリギリ、40km付近での砲撃に耐えられる装甲とは言えない。
46cm砲によるいわゆるアウトレンジ戦法は、水平装甲があくまで30km台での砲戦対応であることに加え、中近距離での砲撃戦で絶大な防御力を持つ本級の垂直装甲から見ても、一部の情報が独り歩きした結果と言えるだろう。
(もし本当に敵戦艦の射程外から砲撃を行いたいのであれば、装甲を減らしてでも計画時要求された30ノットの速力と50口径砲を採用していただろう)
もちろん日本海軍が緒戦の遠距離戦で敵艦隊に優位に立つことを目標としていたこと自体は事実であるが。

また表には載せなかったが部分だが、大和型の装甲甲板は艦の外側で7度ほど傾斜して装甲帯に接続している。
この構造は日本では最上や利根型といった巡洋艦や金剛代艦(平賀案)にも見られるが、元をたどると第一次大戦後にイギリスが設計した新型戦艦に酷似している。
なおその新型戦艦案はのちのネルソン級につながるものだが、ネルソン級自体の甲板は傾斜していない。ここら辺の艦については別ページで扱っているためそちらも参照してほしい。

その部分は艦の外縁部に向かって下がる形に傾斜しているため、砲弾の撃角が深くなり貫通されやすい構造となってしまっていると評価できる。
もっともその部分は装甲厚が230mmMNC+14mmDSと増厚しており、安全距離も自艦砲弾に対し30kmを確保している(45口径16インチSHSでは27km)ので問題にはならないだろう。
ところで元となったイギリス戦艦の傾斜部は、範囲の狭い垂直装甲の代わりとなる意味が強く、傾斜も急で上下の範囲が広い。
一方大和では傾斜は浅く、カバーする範囲も狭い。そのため落角が小さくなる近距離の戦闘以外では垂直防御の補助とはならないだろう。
水平防御としては無論逆効果な点もあり、防御上の存在意義については少々疑問が残るわけだが、それでも艦の小型化という効果はあるわけで、それは多少の防御力の変化よりもはるかに重要な物だったのだろう。

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まとめると、やはりこの中では頭一つ抜けた存在と言える。そもそも排水量の違いからして、そうでなければおかしくもあるが。
装甲の品質が低めに見積もられている事もあり、舷側はリットリオ級に劣る結果となったが、砲塔をはじめとした他の部位では完全に他の艦を圧倒している。
また垂直装甲も水中弾防御を含め非常に広い範囲を防御できている点は、リットリオ級と対照的だ。
これだけ重厚な装甲を持つのだから、実際は致命的でなくとも副砲装甲が薄いことを気にする人がいるのも仕方がない気がする。
個人的には装甲区画内の弾片防御が薄いのが気にはなるが、この装甲帯や装甲甲板の厚さでは弾片や剥片を発生させること自体が難しいだろう。

18インチ砲艦である本級は20km中頃から10km後半という現実的な交戦距離に於いて、敵の攻撃を防ぎつつ一方的に他の戦艦の垂直装甲を抜くことができる。
これを他の新戦艦すべてにできるのは、やはり一対一での戦いに於いて大きな強みと言えるだろう。
しかし数に劣る状況の艦隊決戦において、その性能がどこまで影響を与えられるかは未知数に過ぎないし、水上戦闘に参加する機会であったソロモン海での殴り合いはその装甲を以てしても不安がある。
数少ない戦艦同士の戦いである、第三次ソロモン沖海戦やスリガオ海峡海戦に大和が代わりに参加したとしても、結果は大きくは変わらなかったのではないだろうか。

 

アイオワ安全距離

装甲部位\艦砲 45口径38cm
(リシュリュー)
50口径381mm
(リットリオ)
47口径38cm
(ビスマルク)
45口径14インチ
(KGV)
45口径16インチ
(NC)
45口径46cm
(大和)
50口径16インチ
(アイオワ)
42口径15インチ
(ヴァンガード)
 垂直装甲(弾薬庫 23km以遠 24km以遠 19.5km以遠 15.5km以遠
21km以遠   25.5km以遠 25km以遠 17.5km以遠 
 垂直装甲機関部 23km以遠 24km以遠 20.5km以遠 16km以遠 21.5km以遠  26km以遠 25.5km以遠 18km以遠 
 砲塔前盾 20km以遠 23.5km以遠 12km以遠 8km以遠  19km以遠
33kmまで
25km以遠
35.5kmまで
安全距離なし 11.5km以遠
バーベット 20km以遠
(22km以遠)
19.5km以遠
(22.5km以遠)
17km以遠
(20km以遠
12.5km以遠
(15.5km以遠)
18km以遠
(21.5km以遠) 
23km以遠
(26km以遠
22.5km以遠
(26.5km以遠)
16km以遠
(19km以遠)

水平装甲 34.5kmまで 36.5kmまで 33kmまで 29kmまで 27kmまで  30kmまで 30kmまで 29.5kmまで
砲塔天蓋 36kmまで 38kmまで 34.5kmまで 30.5kmまで 28.5kmまで 31.5kmまで 31.5kmまで 貫通不能

:

 

30度
垂直装甲(機関部) 17km以遠 17.5km以遠 15km以遠 7km以遠 17km以遠 22km以遠 21km以遠 10km以遠

まず垂直防御を見ていくと、本級はネルソン級や上のリシュリュー級の様に、船体に舷側装甲を内装する形で主装甲帯を配置。上で扱ったノースカロライナ級よりも整った船体を有している。
(前級サウスダコタ級でこの配置にたどり着くまでに興味深い変遷を辿っているのだが、ここに書くと長くなるので別ページで)

ここで注目すべきは、装甲帯が船体内部に配置された事で、砲弾は最初に船体の外殻を貫通してから装甲に命中する点である。
アイオワ級の外殻は38mmとやや厚めのSTSを用いているが、この部分に先程のリットリオ級のように、砲弾の被帽を脱落させる役割があるという説も存在する。
中には「大和型を含むすべての戦艦の被帽を脱落されることが可能」という説もあるのだが、管理人の英語力では詳細は不明。

ただリットリオの舷側と比べると38mmの鋼板を配置しただけの構造はあまりにもシンプルであり、それだけで効果が得られたのか不確かである。
(上で述べたように被帽を脱落させるには、ある程度装甲間の距離を離す必要もある)
またリットリオ級の解説で述べた通り、この方式の防御法は他国海軍でも検討されていたが、何れも被帽脱落に必要な装甲の厚さは38mmを上回る物とされている。
そもそも次級のモンタナ級で内装式を廃しているところを見ると、効果的はなかったのではないだろうか。
もちろんモンタナ級での装甲配置の変更については、KGVの解説で触れた欠点や水雷防御など別の理由が存在していた可能性もあるが、今回はこの説は見送ることとする。

改めて解説すると、本級の装甲帯は307mmのクラスAアーマーと22mmのバッキングからなる。
ノースカロライナ級より厚さはほぼ変わらないものの、傾斜が19度とより深くなり対弾性能を増している。、
被帽云々を抜きにしてもかなり強力な装甲であり、表でもノースカロライナ級を上回る防御力を持つ。しかし自艦や伊仏15インチ砲、大和型の艦砲に対しては相変わらず不安な安全距離である。
また30度斜撃時もノースカロライナ級程ではないが、安全距離があまり伸びていない点は興味深い。

続いて砲塔正面、本級は厚さ434mmのクラスBアーマーと、この中では大和型に次ぐ厚さの装甲を備えているが、さらにバッキングとして64mmのSTSが加わる。
一方で取り付け角度は何故か約37度と浅めになっている。砲塔内の容積に問題があったのだろうか。
安全距離はノースカロライナ級を上回り、SHS使用の45口径16インチや仏高初速15インチ砲にも対応可能な程度に強化されている。
しかし大和型の46cm砲に対しては有効ではなく、より斜撃性能の高い自艦主砲に至っては安全距離は全く存在しない。
後者については設計時米軍が行った試算の時点で指摘されており、今回の計算と一致する結果となった。
バーベットもその二つ以外の艦砲へは広い安全距離を持っており、砲塔周辺は確実に通常の16インチ砲対応防御以上のものを持っていると評価できるだろう。

水平装甲にはノースカロライナ級ではやや薄かった中甲板の装甲厚が121mm(外側は127mm)に増厚されている。
本級もバッキングや上甲板などが厚く、機関部含め結構な強化がなされた。
この部分はノースカロライナ級と同じ配置であり、外殻を抜いた砲弾へは一部分が少々悪化する。
中甲板の外側は127mmとあまり強化されずに1.5km程減少、中央部は1.5kmから2km悪化するが、元の厚さがある為そこまで問題とはならないだろう。
砲塔天蓋は184mmとノースカロライナ級より若干強化。

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アイオワ級はそのスタイルと高速力から、巡洋戦艦的なイメージを持つ人もいるだろう。
確かに排水量1万トンと重要区画が30m程肥大化しておきながら、前級サウスダコタ級から防御面はほぼ据え置きであるが、それでも表を見ると対16インチ砲防御としてある程度の防御力を持っていると言えるだろう。
また自艦主砲に対して十分な安全距離を持っていない結果になったのも巡洋戦艦的と言えるかもしれないが、むしろそれは18インチ砲艦に匹敵するアイオワの攻撃力が異常なのだと言い換えることが出来る。
速力や電子設備といった要素を抜きにしても、大和を除いた中でアイオワ級が非常に優れた戦艦である事は疑いようがない

最後に定番の対大和について私見を述べようかと思ったが、
「昼間の殴り合いでは大和有利だが、夜戦等それ以外の戦場においてはアイオワにも十分勝機がある」とか
「そもそもアイオワ級が戦場にいる頃には、エセックス級の大量就役で制空権が奪われ、戦艦による艦隊決戦どころじゃない」みたいな
ありきたりなことしか言えないので、何か電波を受信した時に書いてみよう。もちろんトマホークとか核砲弾はなしで

そういえば大和対アイオワと言えば、このページを公開したころに発売された世界の艦船の投書が面白かった。
「8ノットの速力差(アイオワのみ軽荷・過負荷状態扱いか)でアイオワは確実にT字がとれる」だとか、「アイオワの発射速度は一発60秒に対し大和は90秒で投射量ではアイオワ有利」とか。
あと砲弾重量と口径、初速のみで色々計算して、大和よりアイオワの方が貫通力が高いとか言っていた気もするが、どんな式だったか。
決してこの電波を本ページの内容のひどさの言い訳に使うつもりはないが、同じ趣味を持っている人でも様々な意見があるという事で晒して記録しておこう。

どこで見たかは忘れたが、別の意見では「零観がキングフィッシャーを叩き落して、航空観測が可能になった大和が勝つ」というのが印象に残っている。
一対一の昼戦と言う、最強議論の環境ならではの意見だと思う。
そういえば観測のための制空権争いというと「魚雷は~」を思い出して懐かしくなるなあ。もちろん管理人はリアルタイムで見たわけではないが。

:

ヴァンガード安全距離

 装甲部位\艦砲 45口径38cm
(リシュリュー)
50口径381mm
(リットリオ)
47口径38cm
(ビスマルク)
45口径14インチ
(KGV)
45口径16インチ
(NC)
45口径46cm
(大和)
50口径16インチ
(アイオワ)
42口径15インチ
(ヴァンガード)
 垂直装甲(弾薬庫) 24.5km以遠 25.5km以遠 21.5km以遠 17km以遠
22km以遠   27km以遠 26.5km以遠 20.5km以遠 
 垂直装甲(機関部) 29km以遠 30km以遠 25km以遠 20.5km以遠 26.5km以遠  32km以遠 32km以遠 24km以遠 
 砲塔前盾 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし  安全距離なし
安全距離なし 安全距離なし 安全距離なし
バーベット 27km以遠
(30.5km以遠)
27.5km以遠
(31.5km以遠)
23km以遠
(26.5km以遠
18.5km以遠
(21.5km以遠)
24km以遠
(27.5km以遠
30km以遠
(33.5km以遠
29.5km以遠
(33.5km以遠)
22km以遠
(25km以遠)

水平装甲(弾薬庫) 35.5kmまで 37.5kmまで 34kmまで 30kmまで 28kmまで  31kmまで 31kmまで 貫通不能
水平装甲(機関部) 33kmまで 35kmまで 32kmまで 28.5kmまで 26kmまで 29kmまで 29kmまで 28kmまで
砲塔天蓋 33.5km
~30kmまで
35.5km
~31.5kmまで
32.5km
~29.5kmまで
28.5km
~26.5kmまで
26.5km
~24kmまで
29km
~26.5kmまで
29.5km
~26kmまで
29km
~26.5kmまで

30度
垂直装甲(弾薬庫) 16km以遠 16km以遠 14.5km以遠 10.5km以遠 17km以遠 20.5km以遠 21km以遠 14km以遠
垂直装甲(機関部) 21km以遠 20.5km以遠 18km以遠 15km以遠 20km以遠 25km以遠
25km以遠 17km以遠

今更ながらヴァンガードの解説を追加したい。
まず本級の装甲配置はKGVより受け継いだ、広い範囲に傾斜を持たない装甲帯を巡らす物である。その中で垂直水平ともに厚さは微妙に変化している。
他にも至近弾による浸水を防ぐため、重要区画外の艦首へ装甲帯を新設するなどの変化も見られるが、いつも通り重要区画のみ扱う。

まず垂直装甲は船体の大型化もあり、弾薬庫349mm機関部324mmと、共にKGVより25mm減厚している。
バッキングは22mmで、フッド喪失の戦訓により弾薬庫の弾片防御が38mmに増強されている。装甲材質はKGV級と同等※
これは全体的に374mmの装甲を持つ予定だったライオン級と比べても、かなり劣るものとなっている。

使用されるC装甲に関しては、先述したようにネルソン級の物と大きな差はないとする試験結果が存在する。
ただ同資料では、平均よりも良い成績の物が同艦へ使用された云々と解釈できる記述もあり、その分で減厚分をカバーできた可能性もなくはないが、とにかく具体的な品質は不確かである。
今回は品質は変わらないものとして計算。その場合の防御力は当然KGV以下になり、特に機関部は(傾斜部を含めない場合のビスマルク級を除けば)新戦艦中最も弱体な部位となる。

次の砲塔前盾は元の229mmに代わり、324mmの装甲が設けられた。これはKGVと同等の厚さで、こちらも品質は優れるが正直薄い。
さらにこの砲塔前楯はKGVの物とは違い傾斜を持つため、遠距離ではむしろ撃角が深くなってしまうことも考えると、特に弱体な部分と部分といえる。
ただし砲塔の形状を見ると、平坦な部分は砲身の間の僅かな範囲のみで、大部分は丸みを帯びた形状をしている。
命中弾によっては横方向の角度が加わり、表よりも広い安全距離を持つ可能性も存在するだろう。
バーベットもKGVより変わらず324mmで、その防御力は命中個所によっては自艦主砲へも不足する。

水平装甲も基本的にKGVと変わらず、中甲板に弾薬庫149mm、機関部124mmの装甲を有している。
違う点はD鋼からなる上甲板の装甲で、合計厚41mmと10mm増厚。総合的な防御力や小型爆弾に対する非重要区画の防御力を上げている。
(上甲板ではなく外殻への命中弾に対する防御力ではKGV級と同等、上の表からは1.5km減少する)
この部位については元々KGVの時点で有効な物を持っており、本級でもそれは変わりない。
砲塔天蓋は厚さこそKGVと同等だが、旧式艦の砲塔流用の為、前部が下方向に傾斜する形状をとっている。
これにより前方から飛び込む砲弾の撃角が深くなり、安全距離が減少する結果となった。

---------------------
まとめると、重要区画への防御では一部KGVに劣る結果となる。特に機関部の垂直装甲は新戦艦の中でも弱体である。
しかし新型砲弾に対応した15インチ砲により、火力面のハンデが大きく軽減された点は重要である。
同じくエスカレータ条項内で建造されたアイオワ級や、ドイツやソ連が計画した戦艦案に比べれば劣るものであるが、第二次大戦を戦う戦艦としてはKGVよりも相応しい存在と言える。
(そうなると本級よりもやっぱりライオン級の方がとなるが、一応船として見ればライオン級よりも優れた点は幾つかある)
竣工が遅れたのは残念だが、当時の状況を考えると仕方がない。

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おわりにかえて
一応各艦の装甲について考えてきたが、特に最強の戦艦とは何かという結論を出すつもりはない。(タイトルに反するようだが、この文を書いているのが公開から半年以上たった今という時点で察してほしい)
もう戦艦なんてR級より強ければなんでもいんじゃない?(暴言)

冗談はともかく、艦砲と装甲の比較は「装甲では〇〇級が勝っているが、火力を見ると××級が・・・」と言う風に、最強議論の中では一文で済まされる事もある程度の事柄に過ぎない。
考察すべき要素は他にも数多くあり、それぞれがこのページで取り上げたものを同じか、それ以上に考えるべき部分を持っている。
そのため最強議論を名乗るには、無視している点はあまりにも多い。
しかしながらその一文へ至る裏側には、今回長々と駄文を書かせてもらったように、非常に奥が深い物があるというのも間違いないだろう。
一部分を切り取っただけとはいえ、その中を深く掘り下げるのも中々楽しい経験であったので、読んでくれた方も幼稚なタイトル詐欺を気にせずに、楽しんで頂けたのなら幸いである。   

という訳でこれにておしまい。今回も長々とお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
次回からは最強云々に囚われず、これらの艦にたどり着くまでに、各国の艦が辿った変遷なども含め、装甲配置の話を中心にまとめて行きたいと思います。
新戦艦についても今回扱わなかった範囲の補足など色々と紹介したいので、興味がある方はご覧いただければと思います。

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おまけ
今回計算した安全距離から、各艦の垂直(舷側)装甲を傾斜なし、同じ品質の装甲に換算してみる。換算する装甲材質はあえて1910年代の表面硬化装甲とする。

リシュリュー     442 442 445 424 440 452 448 438 平均441mm
リットリオ    532 509 535 524 533 523 552 533 平均530mm
ビスマルク(弾)506 460 535 589 480 
445 477 566 平均507mm
ビスマルク(機) 475 429 749  -   430 389 424 817 平均530mm
KGV(弾)    461 462 457 452 454 467 460 457 平均458mm
KGV(機)         404 406 409 406 416 406 411 409 平均408mm
NC(機)          413 412 408 397 411 416 424 421 平均413mm
大和       556 564 518 510 510 540 513 515 平均528mm
アイオワ(機)  447 442 437 432 434 444 447 457 平均442mm
ヴァンガード(弾) 428 422 423 422 429 434 437 422 平均427mm
ヴァンガード(機) 380 376 381 375 380 383 382 379 平均380mm


ビスマルクは参考記録にするとして、それ以外を順位付けすると

リットリオ・大和>>KGV(弾)>アイオワ・リシュリュー>ヴァンガード(弾)>NC(機)・KGV(機)>ヴァンガード(機)   
リシュリューと大和、あとヴァンガードは装甲の品質次第でこれより上になるかも、大和だと570mm位になるか
またリットリオの被帽脱落機能を除いた場合は400mm台中頃か後半に

30度の場合(面倒なので安全距離の合計が少ない順)
(ビスマルク)>>大和>リットリオ>KGV(弾)>リシュリュー・アイオワ・ヴァンガード(弾)>KGV(機)>NC(機)>ヴァンガード(機)

 

 

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